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皇国の精霊姫  作者: 雨野
訣別編
89/102

新学期



 ルシアンはセレスタンを部屋に招き入れ、ハーヴェイに目配せをした。彼は軽く頷き、セレスタンの頭を撫でてから外に出る。

 完全に扉が閉められ、セレスタンは緊張から目が泳ぐ。


「……僕、家に帰るね。お世話になりました」


「ああ。と言っても、明日学園ですぐ会うな」


 ルシアンはどこかよそよそしい。告白すらも無かったかのような態度に、セレスタンは戸惑う。


「えっと…僕、休暇の課題やってないや」


「それは叔父上が学園に話を通してある」


「よかった…」


 ソファーを勧められて、2人は向かい合わせに腰掛けた。暫くは当たり障りのない会話をするが、セレスタンが本題に入る。



「昨夜、グラスが僕に会いに来たの」


「!!?」


「ルシアンに伝言、「顔洗って待ってろ」だってさ」


「………?首じゃなくて?」


「…………」


 何故私は身支度をして奴を待たねばならない?と本気の疑問を口にした。


「……そう!だね!!あああーーー、もう!!

 と、とにかく!!僕達お別れしたから!!」


「え…」


 その発言に和やかなムードから一転、ルシアンは顔を険しくさせた。

 両膝に肘を突き目を閉じて、大きく息を吐く。


「ルシアン…?」


「(…全て私の所為だろう。ならば…責任は取る)」


 不安になってしまったセレスタン。ルシアンに近寄り、そっと肩に手を伸ばすと…


「わっ!?」


 腕を掴まれ、強い力で引き寄せられた。バランスを崩してルシアンに覆い被さる形になり、一瞬にして顔を沸騰させる。

 彼らの視線が交錯する。ルシアンの熱を帯びた目に少々怯んでしまうが、腰を捕まえられていて逃げられない。


「………!!?」


 ルシアンの顔が近付き、セレスタンはぎゅっと目を瞑る。だが覚悟していた温もりはなく、代わりに体勢が逆転してソファーに押し倒される。


「ちょ…!!」


「どこまでいった?」


「ふぁ?」


「グラスと。どこまで、進んだ?」


「ど……ひえっ!?」


 ルシアンはセレスタンの胸元に触れた。ここは触らせたのか?肌を見せたのか?褥を共にしたのか?質問しながらも手は動かす、セレスタンは内心半狂乱になっていた。


「(ぎいやあああっ!?ぬが、脱がされておる!?)あばばば…!」


「……答えられない、という事か?ならば…」


 ついにはベストのボタンを全て外され、シャツに手が伸ばされる。

 今日はサラシもしていない為、シャツを脱がされたらすぐ下着だ。この先を想像して…セレスタンは羞恥と恐怖から身体を震わせた。


「う……やめて、ルシアン…」


「………っ」


 ルシアンはごくりと喉を鳴らした。これ以上は、まずい。引き返せなくなる…と思い、精霊に自分を止めてもらおうと思ったら。




「あの〜…」


「「ぶわっっっ!!?」」


 完全に2人の世界に入っていたのだが、至近距離から申し訳なさそうな声が突然発せられて。揃って全身を跳ねさせた。


「その…続きはオレが出て行ってからにしてくれません?」


「ジェルマン、卿…!?」


「いたんか!!!」


「いたわ!!…こほん」


 ジェルマンはやや頬を染めて、気まずそうに頭を掻いた。


「オレもハーヴェイ卿と一緒に出ようとしたのに、直前で扉閉められるし…

 お2人はオレに全く気付かず始めようとするし…

 精霊が傍観してる以上、オレが止めるのも…とか考えたんですが。

 えっと…怖がっている女性を無理やり、というのはちょっと。せめて同意の上で」


「きゃーーー!!かかか帰ろうジェイル!!行くよ皆、ばいばいルシアン!!」


 セレスタンはチャンス!とジェルマンの背中を押して逃走を図った。


「…セレス!」


「!?」


 背を向けたところで肩を掴まれる。そのまま引き寄せられ…


「…愛してる。たとえ其方が私を見ていなくても」


 軽く、触れるだけのキスをして。ルシアンは2人を見送った。


 限界を迎えて魂の抜けたセレスタン。ジェルマンが呆れながらも抱っこして運び出す。

 ハーヴェイもジェルマンが出て来たもので「お前いたんか!?」とびっくり仰天。



 最後は慌ただしくなってしまったが…セレスタンは今度こそ皇宮を後にした。




 ※※※




「ありがとう、送ってくれて」


「ああ。なんかあったらいつでも騎士団に来いよ。総出で力になるからな、学園ではジスランを好きに使え」


「ふふ…うん!!」


 精霊屋敷の前でジェルマンと別れ、久しぶりの我が家に足を踏み入れる。セレスタンにとっては数日ぶりなのだが、実際には数ヶ月が経っていた。



「お姉様〜〜〜っ!!!」


「わっ、ナディアちゃん!?」


 門を開ければ、涙で顔をぐっちゃぐちゃにしたナディアが飛び付いてきた。


「会いたかったです〜〜〜!!もう伯爵家でも新たに使用人を雇ったので、ナディア帰還です!!」


「うん…今までありがとう、ナディアちゃん。これからもよろしくね!」



 ナディアはずっとずっと、セレスタンとの再会を心待ちにしていた。もう二度と会えなかったらどうしよう…と毎夜枕を濡らしていたが、与えられた仕事を放り出す事だけはしたくなかった。

 セレスタンもここまで感激されて頬が緩む。やっぱり…帰れてよかったと安堵した。



 玄関に視線を向ければカリエが出迎えて、メイド服の女性が2人と料理人の男性が続いた。


「あれ…アビーとクレア?それと…」


「はい!アビー・オルブライト、今日から正式にお嬢様のお屋敷で働かせていただきます!」


「同じくクレア・スラットリー。よろしくお願いします、セレスティーヌお嬢様」


「僕は料理人のスペンサー・シモンです。お嬢様と殿下に美味しいご飯を作ります」


 メイドは皇宮でもセレスタンの世話をしていた2人だった。更にまだ年若い男性が。セレスタンは首を傾げる。

 その後ろからオーバンも顔を出し、セレスタンは問い掛けた。


「パパ!どういうこと?」


「俺も今日からここで一緒に住む。んで、兄貴がな…この3人を連れてけって」


「おん…???」


 頭上に大量のハテナマークが浮かぶ。それでも…



「お帰り、セレス」


「お帰りなさいお姉様!」


「ほっほ…お帰りなさい、お嬢様」


「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」


「……………」


 皆が笑顔で出迎えてくれて。精霊達もお帰り!と口々に言ってくれる。

 疑問は多いけれど…セレスタンは唇を結び。


「…ただいま!」


 目頭が熱くなるのを必死に隠しながら、足取り軽く歩き出した。




 今後正式に屋敷で働くのは3人。ナディアは普段メイド服を着用しているが、元来雇われている立場ではない。

 これからは仕事の手伝いは片手間に、刺繍の仕事をメインでこなす。

 隠居したカリエはいつも通り、ガーデニングをしつつのんびり過ごす。

 オーバンは今後セレスタンの父として、社交界でどう振る舞うか迷っているようだ。


「俺は一応子爵位は持ってるんだがな。どうすっか…」


 伯爵以上になると領地を持たなくてはならないので、オーバンは拒絶していた。

 オーバンの正体は、如何しても隠したい訳ではない。そしてセレスタンを養子に迎えた事はすでに知れ渡っているので、それがどういう意味を持つか理解している者もいる。


「今後息子や娘を使って、お前に近付く奴もいるだろう。皇弟の息子に取り入りたくてな」


「そっかあ…」


 オーバンと2人、ソファーに並んでお茶にする。

 彼はセレスタンが望むのであれば、皇室に戻る事も視野に入れている。彼女の立場を明確にする為と、皇帝もそれを望んでいるから。


「……医務室に、先生がいなかったら寂しいよ…」


「…そっか」


 たったそれだけの会話で、彼らは通じ合っているのが見て取れる。

 オーバンが優しくセレスタンの頭を撫でる。その大きく温かい手が心地よくて、彼にもたれ掛かった。


「…パパ。ありがとう」


「ん?どうしたんだ、改まって?」


「僕を助けてくれて。『セレスティーヌ』っていう可愛い名前も嬉しい!」


「…おう。どういたしまして」


 名付け親はジェルマンだが、それは言わなくていいよな!と心の奥に押し込んだ。



 セレスタンは現在2つの籍がある状態(違法)。

 1つは『セレスティーヌ・ゲルシェ』という名の女性の籍。

 1つは『セレスタン・ゲルシェ』。同じくオーバンを養父にしているが男性籍。


「でも僕…もう少しだけ、『セレスタン・ラサーニュ』を名乗っていたい。だめ…?」


「いいぜ!」


 いい笑顔で即答した。愛娘に上目遣いでお願いされれば仕方ない、正式な場以外ではラサーニュとして振る舞う事に決まった。




 ※※※




「ぬおおおお!?キツい、なんでえ!?」


 新学期初日。セレスタンは…自室でサラシと格闘していた。ぎゅうぎゅうに締めるも、いつもより膨らんでいるような。


「お姉様…胸おっきくなりました?」


「僕太った!?」


 ナディアは慌てて違いますー!と拒否。そこにアビーとクレアも援護する。


「いえいえ、お嬢様はちょっと痩せすぎでしたよ!」


「そうですわ。鍛えていらっしゃるから筋肉が付いているはずなのに、華奢な女性と変わりませんでした。それが健康的になられたのですよ」


 つまり太ったんだね?と唇を尖らせる。限界まで締めて幾重にも重ね着をして、ダイエットしなきゃ…と憂鬱になりながら屋敷を出た。




「久々の学園…怖いなあ…」


「何かあったら医務室に来い」


「うん…」


 とうにラサーニュの噂は広まっているだろう。それが事実とかけ離れていたとしても、観衆にとってはどうでもいい事。


「…おはよう、セレス」


「ルシアン…おはよう」


 オーバンとは校門で別れる。するとルシアンが待っていたのか、スッと姿を現した。互いに意識してしまってぎこちないが、そっと肩を寄せて歩く。

 彼らが連れ立つ姿は目立つ。だが、セレスタンが予想していたより嘲笑は少なかった。


「はよっス」


「アリス君、おはよう。

 そだ、プリン美味しかった!まるで昔食べた思い出の味そのものだったよ、ありがとう!」


「そうか…今度帰ったら、食堂に言っとく」


 ユルフェ領は首都から馬車で2日は掛かる場所。彼は長期休暇しか帰省しないので、伝わるのは冬になるだろう。


 大柄で強面のアリスティドが合流し、益々目立つ一行。アリスティドは途中で離脱、2人は教室を目指す。

 ドアを開ければクラスメイトが皆注目し、一瞬静まり返る。ルシアンは意に介さず、セレスタンも倣って自分の席を目指す。



「おはよう、セレス」


「おは…!!」ぷいっ


 セレスタンが座れば、シャルロットが挨拶をしてきた。反射で返事をしかけるが慌てて口を閉じた。


「(あう…お兄様、ぷいって!)」


「(お嬢様がヤバい…)おはようございます、セレスタン様」


「………」こくん


 バジルにも挨拶を返す事はせず、さっさと荷物を整理する。

 ホームルームが始まる前にルシアンの席へ向かった。ジスランがいないので彼の椅子を奪い、はあぁ〜…とため息。


「大丈夫か?」


「うん…そういえば僕、変なキャラ作っちゃったんだっけ…!」


「あー…」



 それは幼児化した日の朝。絡んできた男子を撃退する為、「可愛い服を着るのは僕が可愛いから」といった発言をしてしまった。今後どうしよう…と大きく息を吐く。

 だがルシアンはニヒルな笑みを浮かべた。その顔ルキウス様に似てる…なんて感心してしまう。



「セレス…久しぶりだな」


「ジスラン…ああ、そうだね」


 そこへジスランが登校して来て、セレスタン達の前に立つ。よく見ると後ろからはルネ、エリゼ、パスカルも様子を窺っているようだ。

 気にはなるが無視して席を立つ。するとルシアンも一緒に動いた。



 何か言いたげなジスランの横を通り過ぎて廊下に出る。そこでは数人の生徒が雑談をして、道を塞いでいた。


「(邪魔だなあ…挨拶なら別のとこでやってくんないかなあ。って、えええ!?)」


 セレスタンが戸惑っていると、ルシアンは構わず突き進む。


「おい邪魔だ。貴様ら如きが私の前を塞いでいいと思っているのか」


「で、殿下…!申し訳ございません!」


「誰が発言の許可をした」


「……!!」


 男子生徒の1人が高速で頭を下げて一歩退がる。他数人も蒼白で後退った。

 セレスタンは目を丸くして、ルシアンの背中を追い掛ける。いつもの階段上に腰を下ろして、さっきの何?と訊ねた。



「…嫌われ者になろうと決めて。色々調べて…俺様系でいこうとして。そしたらああなった」


「ああ〜…」


 納得してポンと手を叩く。どうやら彼もキャラ付けをするようで、セレスタンは何故か安堵した。


「でも俺様って結構人気ありません?」


「そういうのは何か取り柄のある人間がやるからウケるんだろう。有無を言わさぬ才能とか、求心力とか。私のような顔と地位しかない人間じゃ、ただウザったいだけだろう」


「(充分では…?ルシアンレベルの美形に蔑まれると悦ぶ人いそう…)」


 セレスタンはちょっと可哀想なものを見る目だ。今後の学園生活に不安を覚えながら、キャラについて語り合う。




 教室に戻ると生徒達が出て行くところだった。これから始業式の為、講堂に移動するのだろう。


「どうする?」


「面倒だ、サボろう」


 彼らがそう決めて席に座ると…


「殿下、セレス。行かないのですか?」


 ジスランがまた立った。ルシアンは鼻で笑ってみせ、セレスタンはそっぽ向く。


「なんだお前、私に声を掛ける許可を与えた覚えはない」


「…俺はセレスの幼馴染で友人です。かの…彼にも話し掛けてはいけないのですか?」


「私が側にいるというのに無視をする気か?」


 ジスランはルシアンのこの姿が演技だと知っているけれど。どうしたものか…と思案する。


「では俺に、殿下と会話する許可をいただけませんか?」


 数人残っていた生徒はハラハラしながら見守っている。ルシアンは益々黒い笑みを深めて、セレスタンの頬を指で撫でる。

 机越しに顔を近付け、頬にリップ音を立ててキスをした。顔を赤らめて慌てるセレスタン、ジスランは拳を握り締めて耐える。


「な、何するの!?」


「私と親密になりたければ。

 私に匹敵する地位か。

 セレスに劣らぬ美貌か。

 アリスを超える武力を示すことだな」


「…………」


 ジスランは少し考えて…無言で頭を下げた。そして教室を出て。十数分後…



「「…………」」


「いてぇ…なんなんだ一体…」


「アリスティド・ユルフェに勝利しました。これで俺には殿下へ進言する資格が与えられましたね?」


 ジスランは顔面を腫れ上がらせて戻って来た。その後ろには同様にボロボロのアリスティドが。どちらも皮膚に血を滲ませ、衣服も乱れていた。


「こいついきなり喧嘩吹っ掛けてきたんスけど…」


「…すまん、私の所為だ」



 アリスティドの話によれば。いきなり「俺はブラジリエ伯爵家三男、ジスランだ。アリスティド・ユルフェ伯爵令息に勝負を挑む」と教室に乗り込んで来たとか。そして深く考えず了承。

 武力と言っても一概には言えない。彼らはまず剣術勝負をして、ジスラン圧勝。

 次に殴り合いをして、アリスティド辛勝。そこでアリスティドが負けを認めて今に至る。


 とはいえ、もう今から始業式には間に合わないだろう。ジスランも諦めてため息をつく。

 ルシアンとセレスタンが椅子に座り、ジスランとアリスティドが側に立っている状況。

 セレスタンはジスランの手を無言で取り、そっと撫でた。ジスランは一気に鼓動が激しくなる。


「……!!」


「………しゃがんで」


 腕の傷を癒してからそう告げる。彼は素直に従い、その場に膝を突く。頭や顔を優しく撫でて、服の下は?と問い掛ける。

 大人しく服を捲ると、腹部にも打ち身の跡がある。そこに手を当てられて、喜びと興奮が極まったジスランは無になった。


「…………」


「こんなとこかな…アリス君、こっちおいで」


「お…おう…」


 石像と化したジスランを押し退け、アリスティドも同様に座った。セレスタンの小さな手で全身を撫でられ、なんとも言えぬ心地良さに硬直する。

 

「あんまり…怪我しないで」


「わか…った…」


 また怪我しよう…そう決意しながら昇天する不良。

 それらを面白くなさそうに見守る皇子。自分もなんとか怪我して癒してもらおう…と対抗意識を燃やしていた。



 それから数分後、ジスラン復活。なのだが…どうにもソワソワと落ち着かない様子。


「……セレス」


「何さ…」


 彼は控えめに…セレスタン向かって両腕を広げた。すると…



「………」


 スッと席を立ち、ジスランの腕の中に。彼は顔を輝かせて横抱きにした。

 それに慌てたのがルシアン。奪い返そうと腕を伸ばした。


「何をしている!!この…!」


「…はっ!?ちょっとジスラン、誰に聞いたの!?」


「秘密だ」


 セレスタンもすぐ正気に戻って、急ぎ距離を取った。ルシアンは彼女の腰や胸に腕を回して引っ張る。ジスランは危ない!と決して離そうとしない。それどころか強く抱き締める。

 身体が密着している状況に、セレスタンは必死に抵抗をする。


「ぎえ…!ジスラン、下ろして!!」


「危ないから暴れるな」


「お前が下ろせばいいのだが!?この…!!」


 ぎゃあぎゃあ騒ぐ先輩達を尻目に、アリスティドはなが〜いため息。最終的にハンターが奪い返し収束した。

 ようやく解放されたセレスタン、額の冷や汗を袖で拭う。ヨロヨロと椅子に座ろうとしたが…



「……森のお友達が呼んでるよ♪ 風さん一緒にお出掛けしましょう♫」


「……!!」


 ジスランが童謡を口ずさみ、セレスタンは思わず反応してしまう。


「お腹がぐうぐう鳴っちゃって♪ 木の実を食べてるお猿さん♫」


「ぱくぱく。………うがーーー!!!」


 踊り出してしまったセレスタン。噴火しながらジスランに飛び掛かる!!


「ばかばかばか!!!もう、ばかあ!!!無駄に上手いな君は!!」


「あっはははは!!」


 彼は珍しく大笑いしながら逃げ回る。ルシアン達はその様子を見て、腹を抱えて笑っていた。

 そうこうしているうちに生徒達が帰って来てしまい、諦めて自分の席に戻った。

 精霊達は「我が君が楽しそうで何より」と生温かい笑顔。

 楽しくないやい!!と言いたいけれど。下手に否定して、精霊がジスランに攻撃したら…と考えると何も言えず。



 その後も生徒達には遠巻きにされるが、絡まれる事はなく1日が終わった。


 こうして彼女の新生活は始まった。

 朝起きればオーバンに剣の相手をしてもらって。

 朝食にして、身支度は基本1人で。オーバンと一緒に学園に向かう。

 帰って来たら自由時間。そして夕食。夜は使用人の3人も一緒に、7人で食卓を囲む(彼らは断固拒否してたが、セレスタンが悲しげに俯くので折れた)。

 時にはバティストが、ルシアンやジスラン、騎士達が手土産を持って遊びに来る。というか、ほぼ毎日誰かしら来る。



 これまでセレスタンにとって家とは、気の抜けない居心地の悪い場所だった。それが今は…帰るのが楽しみ、なんて。

 少し前なら考えられない暮らし。それを作ってくれたオーバンに、彼女は表しきれない感謝の念を抱いている。




「ミコト…」



 寝る前に窓の外を眺める。鍵を開けておけば、彼が入ってくる気がして。カーテンも閉めずに眠り…寝息が聞こえる頃にファイが閉める。そんな日々。




 ※




「………?今、呼ばれたような…」


「何をしている?」


「いえ…よろしくお願いします、師匠(せんせい)


 同時刻。とある山中にグラスはいた。いつか堂々とセレスタンを迎えに行くため…彼は邁進し続ける。


ジスランが兄達から教わったセレスタン情報。

『抱っこの構えをすると応えてくれる』

『童謡を歌うと踊り出す』

『胡座をかくと足の間に座る』

『食べ物を口元に運ぶと咀嚼する』

『青い薔薇を見ると一瞬固まって手を繋いでくる』等々


「全部試そう」

「やめろや!!!」

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