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皇国の精霊姫  作者: 雨野
訣別編
88/102

さようなら



 グラスはセレスタンの背中に移動、床に胡座をかいて足の間に彼女を座らせた。ようやく視界が開けたが、振り向かないでと懇願する。


「今のおれ、すげえ情け無い顔してるから…

 男ってのは、好きな女にはいつだって格好いい姿しか見せたくないんだ」


「何それ…

 女ってのはね、好きな男の弱い部分を見せて欲しいんだよ」


 背中と腹部に回された腕から温もりが伝わる。それはこの上ない幸福だった、今までは。



「…僕、ルシアンと婚約したよ」


「うん…」


「いいの?僕の事、もう好きじゃないの…?」


「いい訳あるか。絶対に認めない、けど…」


 グラスは口籠る。彼女の肩に額を押し付け、喉を鳴らしてから言葉を発した。


「殿下から…おれの事なんて聞いてる?」


「…今のグラスには僕を任せられない。とだけ」


 思わず目を丸くした。ルシアンはそれ以上は頑なに話そうとしなかったのだ。

 その時点でもう、おれは男として劣ってんな…と自嘲する。



「おれ…セレスがあのまんま、子供のままでいればいいと思ってた。ずっと…」


「…なん、で…?」


「言い訳はしたくない。重要なのはおれがそう感じたって事だけだ。

 15年待って、もう一度プロポーズするつもりだった」


「……君、そういう趣味が?幼女を自分好みに育てて…」


「違うわ!!…いや。ある意味正しいか…」


 セレスタンはショックを受けた。今ここにいる自分は消えてしまったほうがよかったのか…まるで奈落の底に突き落とされたかのような絶望。


 次いで憤激。彼に対する深い愛が、憎しみに変化する。

 同時に悲痛。様々な感情がセレスタンを支配する。



「……っ」


 両腕を強く握られグラスは顔を歪めた。それでも一切の声を上げず、ひたすらに耐える。

 ここはどう考えても言い訳をするべき場面なのだが、彼はそうしなかった。それがセレスタンの怒りを助長する。



「(なんで、何も言わない…!!)で…っ!?」



 セレスタンが我慢の限界を迎えて、「出て行け!!」と叫ぼうとした瞬間。


「あっ、あぐ…!?」


「セレス!?」


 激しい頭痛に襲われ、頭を抱えて横に倒れる。グラスが支えるも、顔は青白く大量の汗をかいている。


「どうした、おい!!」


「………!!?」


 グラスの声は届いていなかった。焦点の合っていない目は虚空を見つめ…




『今日も笑ってくれなかった…明日こそは!』

『お、猫だ。こいつ連れてったら喜んでくれるかな。あいたたたっ!?』

『くそっ、なんでおれは肝心な時に側にいない!?何かが起きてからじゃ遅いのに…!!』

『死にたい、なんて言うな…もう泣かないで…』

『お前が喜んでくれるなら…その為なら、なんだってする』



 それは…塞ぎ込んでいた自分を前にしたグラスの感情。努めて笑顔で接してくれたが…陰では苦しみ涙を流していた。



『セレスが、子供に?まだ虐げられる前の…つまり。

 おれ達が愛情を持って育てれば…もう、死にたいと涙することは無い?

 でも…それは、今までのセレスを殺すと同義。そんな…おれは…』

『今日も笑顔だったな。穢れも恐れも知らない無垢な子供…』

『セレス…お願いだ、戻って来て…ミコトって呼んでくれ…

 だけどお前は今のほうが幸せだよな…?』

『セレス、セレスタン。すまない…ごめん。おれは、もう二度と苦しむお前の姿を見たくない。

 だから…おれが、全部憶えてるから。お前は全部忘れて、今の暮らしを享受してくれ。

 愛してる。愛してる…だから。


 さようなら…』



 グラスは毎晩、眠るセレスタンを抱き締めて泣いていた。


 原因は定かではないが、彼の情感がセレスタンに流れ込んで来る。葛藤も焦燥も全てだ。

 一方的で暴力的な愛情…思わず苦笑した。



『セレスが元に戻った…。勝手だが、よかった…

 でも彼女は皇子の婚約者。今顔を合わせては、おれは自分を抑える自信が無い…』

『おれは間違ってたことくらい、分かってる。それでも…どっちのセレスタンも大切なんだ…』




「セレス…?」


「ふ、あはは…君…

 僕のこと、大好きじゃん…ばかぁ…」



 彼の全てを知ってしまった。その結果、セレスタンは何を思うのか。



「……お別れしよっか。僕達には考える時間が必要だ」


「……!!」


 確かに逃げたい、死にたいと願っていた時期があった。グラスはそれを叶えようとしてくれただけ…

 悲しいけれど彼を嫌ったり、恨む心が一切無く自分でも拍子抜けだった。すぐに許せる気にもなれなかったけれど。


「………分かり、ました」


 グラスは唇を噛み、窓に向かい歩き出す。

 セレスタンは一筋の涙を流して、その背中を見つめる。



「殿下に伝えてください。『首洗って待ってろこの野郎』と」


「!!……うん、必ず」


 グラスは大粒の涙を流しながら小さく笑った。最後にラファエルが振り返る。彼は困ったような笑顔で、グラスの肩に座っている。グラスがタン…と床を蹴り、彼らは闇夜に消えて行った。



「…ミコト」



 セレスタンはその場で膝を抱えて俯く。そんな彼女の肩にふわりとショールが掛けられた。


「我が君。もう夏も終わります、夜は冷えますよ」


「バラ…」


「さ、寝ようよ。ヘリオスがベッドを温めてるから!」


「私達はいつまでも、我が君と共に。もちろんラファエルもですわ」


 セラフィエルが窓を、ガブリエルがカーテンを閉めた。


「もおっ、我が君!また部屋の鍵が開けっぱなしです。やっぱり自分がしっかりしないとですね」


 ファイが苦笑しながらセレスタンの顔を覗き込む。慰められてるな〜…とすぐに気付き、不器用ながらに笑い返してみた。

 突然視界が高くなったと思ったら、ハンターに横抱きにされていた。


「睡眠不足はよくない。どうぞお眠りを」


「安眠効果のある薬草でも摘んで来ようかしら?」


「寒けりゃウチを抱き締めい。あったけえし」


「タビア…フーゴ」


 そっとベッドの上に座らされると、白い毛玉と黒い猟犬が頬を寄せて来る。


「シャーリィ、苦しいならセレネが国を滅ぼしてやるぞ。だから笑って欲しいんだぞ」


「うん絶対やめてね?亡国で笑うとか、どこの暴君よ?」


「わたしも手伝うにゃ」


「やめてってーの」


 盛り上がる精霊達。僕がしっかりしないと…この国が滅びないように!その為にも元気を出さなきゃね!

 そう無理矢理前向きになり、精霊に囲まれて横になる。



 グラスが迎えに来てくれるのか、まだ不安は残る。

 その時…僕はまだ君を愛しているだろうか?ルシアンに心変わりしているんじゃないか…

 そんな事を考えていたら、いつの間にか眠ってしまった。その寝顔は、とても穏やかなものだった。



 ※



「………セレスタンに何か用でも?」


「おっとストーキングじゃありませんよ〜?夜の空中散歩が趣味なだけですから!」



 グラスは部屋を飛び出した後、セレスタンが滞在する宮の屋根を目指した。そこに笑顔で座っていた青年に近寄り声を掛ける。


「…さっきの、あなたの仕業ですよね」


「なんの事ですかね〜?いやあ、修羅場は回避したみたいでよかったですね!」


「…………」


 青年…タオフィはよっこいせと立ち上がる。部屋に戻ろうとすれ違いざま、グラスに問い掛けた。


「この後どうするんです?リミットは1年ちょい、それだけで皇子に匹敵する地位を得られるんですか?」


「……………」


 グラスは拳を握る。

 普通に考えれば不可能。だが…彼の目は力強さを損ねていない。


「容易な道ではないけど。ひとつだけ、あります」


「ふーん……」


 タオフィはそれ以上は興味が無いようで、手を振りながらその場を離れようとした。

 だが肩を掴まれ叶わなかった。


「何か?」


「………あなたに、頼みがあります」


 思いがけない言葉に目を見開いた。



「…とにかく、場所を移動しましょうか」


 グラスは小さく頷き、タオフィの後を追った。




 ※※※




「お嬢様…昨夜何かございましたかな?」


「あ…ううん。なんでもないよ、おじいちゃん」


 セレスタンは控えめに笑う。目の下の隈が気になるも、カリエは言及しなかった。

 彼は皇宮は居心地が悪いので、皇帝に()()をしてから先に帰ると言う。


「精霊屋敷でお待ちしておりますよ」


「うん!」


 カリエと入れ違いにジェルマンが入室してきた。ただし1人ではなく、3人で。

 約束をしていたタオフィと、エリゼの兄アイザックだった。


「ん?アイク様に…()()()()()


「へ?」


「「「…………」」」


 硬直したセレスタンは真っ赤な顔で涙目になり…


「し、しつ…れい、を。どうぞお入りください、タオフィさん…」


「タオちゃんでオッケーですよ!!」


「やめてぇ…」


 タオフィはいい顔で親指を立て、アイザックとジェルマンは必死に笑いを堪えるのであった。


 気を取り直して招き入れる。アビーが人数分お茶の準備をして、内密な話をしたいので廊下で待機してもらう。


「それで、僕に何かご用が…?」


「ええ、まず…」



 タオフィはルシファーの持つハンカチから、スタンピードの事まで全て話した。

 突然のことで理解が追い付かないが、なんとか話を整理する。


「んと…スタンピードは置いといて。僕の縫ったハンカチがそんな凄いものなんて…何かの間違いでは?」


 自分に特別な能力は無い。ハンカチか、糸に術が掛かっていたのでは?と推測する。


「それに関してオレからも情報があるんだ。

 セレス、前にヘリオスの表札書いただろ?」


「ありましたね…」


「表札を括り付けた時、ヘリオスの小屋全体に結界が張られたんだ。確かにお前の書いた文字に魔力が込められていた」


 全く自覚していなかったので、セレスタンは驚きを隠せない。

 彼女が幼児化している間に、タオフィと皇室魔術師は情報を共有して様々な仮説を立てていた。

 刺繍だけでなく、字を書くだけでいいのか?効果に違いはあるのか?発動条件は?等々。


「でも実際見てみないとなんとも言えなくて。ちょっと今書いてもらえませんか?」


「は、はい。そのくらいなら…」


 タオフィが差し出したのは、なんの変哲も無い木の板とペン。セレスタンは『ヘリオス』と書いてみた。


「……うーん。ただの板ですね」


「だよなあ。オレにも何も感じられない」


 セレスタンは「ほらー!」と安堵するも、タオフィは納得していない。


「此方はカリエ医師や精霊達の許可を得て、精霊屋敷に招いてもらって実物も見たんです。アイザック様の解析通り、高性能な結界になってたんですよ。

 もしかして…何か祈りでも込めました?」


 祈り…と言われ思い出す。確か…


「このおうちが、ヘリオスを守ってくれますように…と願いましたが」


「それです!!ではその時を思い出してもう一度」


 新しい板を渡されるが、タオフィは条件を変更した。


「『この板を持っている人を守ってくれるように』と願いながら書いて欲しいんです」


「ふんむー…」


 それなら…『ヘリオス』は違う気がする。そう考えて…『幸運を』と書く。


「……!!(彼女の胸元…いや鎖骨?)わっかりましたー!!」


「わあっ!!?」


 タオフィは突然ハイテンションになり、セレスタンの手を握る。そして彼女と2人きりで話したい!と、抵抗するジェルマンとアイザックも追い出してしまった。



 不安になるセレスタン。眉を下げて、僕何かしてしまいましたか…?とタオフィを見上げた。


「いえいえ!貴女の能力はフェニックス様の刻印が関係してるんです!」


「え。これが?」


 俄には信じられなかったが…タオフィの解説によると。

 最上級の刻印はまだ謎が多い。だが単なるお気に入りの印、だけでなく…精霊の力が宿っていると言われている。

 今セレスタンが『幸運を』と書いた時、刻印が反応していたのがタオフィには視えたのだ。

 2人でセレネに視線を向けると、彼はくあっと欠伸をした。



「その通りだぞ。刻印ってのは力の一部を人間に譲渡したモノ、精霊の加護と言えば分かるか?

 フェニックスは万物に命を与える。完全に死んだモノを蘇生させるのは不可能だが…

 例えば今タオフィが死んだとして、その肉体に新しい命を吹き込むことは出来るんだぞ。それはタオフィの姿をした完全なる別人だが。


 で、シャーリィが今やったのはその一端だぞ。要するに…刻印を魔法陣だと思えばいい。

 シャーリィの願いと魔力が魔法陣を通じて、力のある言霊として命を与えた。その言霊を文字に起こして、板に効果を付与したんだ」


「「ほー…?」」


 更にセレネは続ける。恐らく刺繍でも効果は変わらないが、耐久は変化するかもしれない…と。

 なので今度は刺繍を試すことになった。ルシファーの持つ物程強力でなくていいので、とにかく持ち主を守るように、と。



「(うーん…絵はどうしよう。やっぱり…)」


 セレスタンの頼もしい守護者、セレネ。デフォルメされた白い狼をチクチク…と縫う。決して簡単だからではない、と心の中で言い訳しつつ針を刺す。

 タオフィがガン見していて居心地が悪いが構わず続ける。


「(セレネ…君がいつも僕を守ってくれるように。このハンカチを持つ人が、どうか怪我をしませんように)」


 20分程で終了し、ふうっと息を吐いた。爛々と目を輝かせるタオフィに「どうでしょう…?」と差し出してみた。


「す、素晴らしいです…!!ではちょっと試してきます、お待ちをー!!」


「試す!?一体何を…!!」


 止める間もなくタオフィは部屋を飛び出した。アイザックも連れて行ったようで、ジェルマンとアビーが首を傾げながら入って来た。




 15分後。笑顔の魔術師2人が戻って来たのだが。


「いやー、これ凄いわ!!」


「ご覧くださいセレス君!」


 タオフィは板とハンカチをテーブルに置く。セレスタン、ジェルマン、アビー、セレネで覗き込んだ。

 そこには…完全に文字が消えた板と、刺繍糸が完全に解れたハンカチ。


「結論から言います!確かにどちらも同程度の結界でしたが…板は1回の攻撃しか耐えられませんでした!」


「でもハンカチはなんと7回も耐えたぜ!1回毎に少しずつ糸が切れちまったが、魔術も物理も対応したぞ」


 つまり、セレネの言う通り。耐久に大きく差が出たようだ。


「へえ、僕にそんな芸当が……

 いや誰が攻撃喰らったの!?」


「ああ、うちの祖父様」


「テランス様!?」


 ちょっと焦げたけどな!と笑うアイザック。セレスタンが青い顔で今にも泣きそうになってしまい、慌てて「怪我はしてないから!祖父さん実験とか大好きなの!」と弁解した。




 ここからはビジネスのお話となる。テノーは正式に、セレスタンに依頼をしたいと言う。

 だが当然テノーだけを優先する訳にもいかず、皇帝も交えて会議する。



 ※



「ふむ…持ち運ぶ結界のようなモノか」


「はい陛下」


 会議室には皇帝、魔術師と騎士の総団長2人。ルキウス、タオフィ、セレスタンと精霊のみ集められた。

 セレスタンは大物ばかりに萎縮するが、なんとか自分を奮い立たせて背筋を伸ばす。当事者なんだから、しっかりしないと!と深呼吸。

 もう一度2種類の結界を用意して、若干芳ばしいテランスにもお墨付きを貰った。今はそれを手にしながら皇帝が唸っている。



「もしも戦闘員全員がこのハンカチを持てれば…」


「いいえ、陛下。過信しすぎて引き際を見失う可能性もございます」


「そうですな!!ならばいっそ簡易結界(板)のほうがいいかもしれません!!!」


「その場合板よりも、紙のほうがよいか…」


 それぞれのトップが意見を出し合う。その傍ら、ルキウスとタオフィも声を上げた。


「確かに文字なら簡単ですけど、結局はセレス君の魔力を使うんです。あまり量産してもらっては、彼が魔力切れで倒れてしまいますよ」


「ふむ…それはいけない。だがスタンピードの戦闘員は万を超えるだろうから、全員に行き届かせるには…」


 セレスタンは彼らのやり取りを、どこか他人事のように感じていた。未だに自分がそんな…と現実味が無いのだろう。



「………ふむ。すまないが、ルキウスとタオフィ殿は席を外してもらえるか。あ、ラブレーも」


「「はい」」


「はい!!!」


 テランスの元気いっぱいな返事に、セレスタンは耳を押さえると同時に笑えてしまう。

 3人が出て行ったのを確認して、皇帝はセレスタンに向かった。


「セレスティーヌ」


「は、はい」


「今から私がする話は他言無用、で頼む。オーバンにもだ」


「はい…!」


 皇帝は咳払いしてから続ける。


「実はラサーニュ領の教会がある土地…あそこは霊脈なんだ」


 霊脈…ってなんだっけ?と内心首を傾げる。それを察してかモーリスが説明してくれた。


「世界中には魔力源…マナが大気に混じって存在している。霊脈とはざっくり言うとマナの通り道、溜まり場だ。

 人間は魔術を使用する際体内の魔力を消費するが、霊脈内にいればすぐに使った分が回復出来るんだ」


「…つまり。魔術を使い放題って事ですか?」


「そうだ。だが多用しては人体に影響が出るだろう」


 霊脈は世界中で数ヵ所しか確認されていない。教会のように、公になっていない場所がまだあるだろうが。

 それほど貴重な土地であると知り、同時に納得もした。


「(そりゃラサーニュの負債くらい安いもんか…)では、僕は教会で仕事をすればいいのですか?」


「それがいいだろうが…無茶をしない程度で頼みたい。お前は私の可愛い姪っ子なのだからな」


 皇帝の言葉は本心から身内を案じてのものだった。慣れない感覚に胸が温かくなり、自然と笑顔で返事をする。


「はいっ、伯父様!」


 こんな自分にも、誰かを助ける事が出来る。フェニックスのお陰だとしても、誇らしくて胸を張った。



 追い出した2人も交えて話し合った結果、10cm×5cm大の紙に1万枚書く。報酬も支払うと契約を交わした。


「刺繍はよろしいのですか?」


「ああ。…お前1人に頼っては、国は腐ってしまう」


「?」


 皇帝は分かっていなさそうなセレスタンの頭を、ポンっと優しく叩いた。


「確かに魔物の攻撃を7回も耐える事が出来れば、戦闘員の生存率は大きく跳ね上がるだろう。

 だが。セレスティーヌの身に何かあって、用意できなかったら?それを頼りにして鍛錬を疎かにしたら?

 たった1人が欠けただけで崩壊する可能性もある。そのような国、スタンピードが無くとも滅びるだろうよ。

 人間は助け合う生き物だが、依存してはいけない」


「伯父様…はい、分かりました」



 依存、と言われグラスが浮かんだ。

 僕達は助け合っていたのか、それとも共依存だったのか。そもそも愛ってなんだろう…と哲学的な事まで考え始めてしまった。




「セレス君?…姫ー、ひーめー。もう皆さん退室なさいましたよ〜?」


「………んはっ!?え、タオちゃん!?」


 タオフィに肩を揺さぶられて戻って来た。彼も一旦国に帰るけど、またすぐ来ますね〜と会議室を出ようとする。

 自分も帰らなきゃ、と思い後を追う。だがタオフィが突然立ち止まるものだから、背中にぶつかってしまった。


「うぶっ。どうしたんですか?」


「……姫。貴女は…グラス君に迎えに来て欲しいですか?それとも殿下と添い遂げたいですか?」


「……!!」


 幼児化している間に、タオフィ含め数人に性別がバレたというのは聞いている。そしてルシアンと婚約した事も…セレスタンは目を伏せ「わかりません」と首を振った。


「ルシアンと結婚しても僕は…嫌じゃないんです。だけど…

 やっぱり……グラスと、一緒になりたい…とも思うんです…」


「…了解!きっと貴女のハッピーエンドを掴めますよ!」


 タオフィは背中を向けた状態で明るい声を出す。彼が何を言いたいのかさっぱりだったが、なんとなく元気を貰った。




 タオフィと別れ、ジェルマンを供にお世話になった人達へ挨拶をして回る。

 騎士団に行った時は、皆寂しくなるなぁとしんみりした。そんな中死んだ目をした騎士が目に留まる。


「彼は何をしているの?」


「さっきカタツムリ踏んだらしくて…

 デニス卿は感情の起伏が激しいんだ、放っとけ。まあ怒った姿は見た事ないけど」


「ふぅん…?」


 とことこ歩き、しょぼくれるデニスの横に立った。


「ん…?」


「元気出してくださいね、手下!」


「………!」パアァ…


 手下ってなんだ…?と自分の発言を訝しみながら、デニスの背中を叩く。すると彼は途端に目に輝きが灯り、セレスタンを抱き上げた。


「ひえっ!?」


「ドラゴン討伐したかったら俺にも声掛けろよ!」


 彼女の両脇を持ち上げた状態でクルクル回る。セレスタンはどことなく懐かしさを覚えながら目を回した。


 遊びに来るねー!と騎士の笑い声が響き渡る練武場を後にする。

 お世話になったメイド達やプリスカは、涙を流して別れを惜しむ。


「セレスさん、どうぞこれを!」


「多っ!?」


 ドサドサドッサァ!!とプリスカがテーブルに置いたのは、数十冊の写真アルバム。手に取ってみれば超笑顔の自分が…照れくさくて、帰ってからじっくり見ようと精霊に預けた。


 ルキウス、ランドール、皇帝…最後に挨拶するのはルシアン。

 気まずいけれど、意を決して部屋へ向かう。



「…どうぞ」


 ごくりと喉を鳴らして。扉を開けて彼と対面した。



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