さようなら
グラスはセレスタンの背中に移動、床に胡座をかいて足の間に彼女を座らせた。ようやく視界が開けたが、振り向かないでと懇願する。
「今のおれ、すげえ情け無い顔してるから…
男ってのは、好きな女にはいつだって格好いい姿しか見せたくないんだ」
「何それ…
女ってのはね、好きな男の弱い部分を見せて欲しいんだよ」
背中と腹部に回された腕から温もりが伝わる。それはこの上ない幸福だった、今までは。
「…僕、ルシアンと婚約したよ」
「うん…」
「いいの?僕の事、もう好きじゃないの…?」
「いい訳あるか。絶対に認めない、けど…」
グラスは口籠る。彼女の肩に額を押し付け、喉を鳴らしてから言葉を発した。
「殿下から…おれの事なんて聞いてる?」
「…今のグラスには僕を任せられない。とだけ」
思わず目を丸くした。ルシアンはそれ以上は頑なに話そうとしなかったのだ。
その時点でもう、おれは男として劣ってんな…と自嘲する。
「おれ…セレスがあのまんま、子供のままでいればいいと思ってた。ずっと…」
「…なん、で…?」
「言い訳はしたくない。重要なのはおれがそう感じたって事だけだ。
15年待って、もう一度プロポーズするつもりだった」
「……君、そういう趣味が?幼女を自分好みに育てて…」
「違うわ!!…いや。ある意味正しいか…」
セレスタンはショックを受けた。今ここにいる自分は消えてしまったほうがよかったのか…まるで奈落の底に突き落とされたかのような絶望。
次いで憤激。彼に対する深い愛が、憎しみに変化する。
同時に悲痛。様々な感情がセレスタンを支配する。
「……っ」
両腕を強く握られグラスは顔を歪めた。それでも一切の声を上げず、ひたすらに耐える。
ここはどう考えても言い訳をするべき場面なのだが、彼はそうしなかった。それがセレスタンの怒りを助長する。
「(なんで、何も言わない…!!)で…っ!?」
セレスタンが我慢の限界を迎えて、「出て行け!!」と叫ぼうとした瞬間。
「あっ、あぐ…!?」
「セレス!?」
激しい頭痛に襲われ、頭を抱えて横に倒れる。グラスが支えるも、顔は青白く大量の汗をかいている。
「どうした、おい!!」
「………!!?」
グラスの声は届いていなかった。焦点の合っていない目は虚空を見つめ…
『今日も笑ってくれなかった…明日こそは!』
『お、猫だ。こいつ連れてったら喜んでくれるかな。あいたたたっ!?』
『くそっ、なんでおれは肝心な時に側にいない!?何かが起きてからじゃ遅いのに…!!』
『死にたい、なんて言うな…もう泣かないで…』
『お前が喜んでくれるなら…その為なら、なんだってする』
それは…塞ぎ込んでいた自分を前にしたグラスの感情。努めて笑顔で接してくれたが…陰では苦しみ涙を流していた。
『セレスが、子供に?まだ虐げられる前の…つまり。
おれ達が愛情を持って育てれば…もう、死にたいと涙することは無い?
でも…それは、今までのセレスを殺すと同義。そんな…おれは…』
『今日も笑顔だったな。穢れも恐れも知らない無垢な子供…』
『セレス…お願いだ、戻って来て…ミコトって呼んでくれ…
だけどお前は今のほうが幸せだよな…?』
『セレス、セレスタン。すまない…ごめん。おれは、もう二度と苦しむお前の姿を見たくない。
だから…おれが、全部憶えてるから。お前は全部忘れて、今の暮らしを享受してくれ。
愛してる。愛してる…だから。
さようなら…』
グラスは毎晩、眠るセレスタンを抱き締めて泣いていた。
原因は定かではないが、彼の情感がセレスタンに流れ込んで来る。葛藤も焦燥も全てだ。
一方的で暴力的な愛情…思わず苦笑した。
『セレスが元に戻った…。勝手だが、よかった…
でも彼女は皇子の婚約者。今顔を合わせては、おれは自分を抑える自信が無い…』
『おれは間違ってたことくらい、分かってる。それでも…どっちのセレスタンも大切なんだ…』
「セレス…?」
「ふ、あはは…君…
僕のこと、大好きじゃん…ばかぁ…」
彼の全てを知ってしまった。その結果、セレスタンは何を思うのか。
「……お別れしよっか。僕達には考える時間が必要だ」
「……!!」
確かに逃げたい、死にたいと願っていた時期があった。グラスはそれを叶えようとしてくれただけ…
悲しいけれど彼を嫌ったり、恨む心が一切無く自分でも拍子抜けだった。すぐに許せる気にもなれなかったけれど。
「………分かり、ました」
グラスは唇を噛み、窓に向かい歩き出す。
セレスタンは一筋の涙を流して、その背中を見つめる。
「殿下に伝えてください。『首洗って待ってろこの野郎』と」
「!!……うん、必ず」
グラスは大粒の涙を流しながら小さく笑った。最後にラファエルが振り返る。彼は困ったような笑顔で、グラスの肩に座っている。グラスがタン…と床を蹴り、彼らは闇夜に消えて行った。
「…ミコト」
セレスタンはその場で膝を抱えて俯く。そんな彼女の肩にふわりとショールが掛けられた。
「我が君。もう夏も終わります、夜は冷えますよ」
「バラ…」
「さ、寝ようよ。ヘリオスがベッドを温めてるから!」
「私達はいつまでも、我が君と共に。もちろんラファエルもですわ」
セラフィエルが窓を、ガブリエルがカーテンを閉めた。
「もおっ、我が君!また部屋の鍵が開けっぱなしです。やっぱり自分がしっかりしないとですね」
ファイが苦笑しながらセレスタンの顔を覗き込む。慰められてるな〜…とすぐに気付き、不器用ながらに笑い返してみた。
突然視界が高くなったと思ったら、ハンターに横抱きにされていた。
「睡眠不足はよくない。どうぞお眠りを」
「安眠効果のある薬草でも摘んで来ようかしら?」
「寒けりゃウチを抱き締めい。あったけえし」
「タビア…フーゴ」
そっとベッドの上に座らされると、白い毛玉と黒い猟犬が頬を寄せて来る。
「シャーリィ、苦しいならセレネが国を滅ぼしてやるぞ。だから笑って欲しいんだぞ」
「うん絶対やめてね?亡国で笑うとか、どこの暴君よ?」
「わたしも手伝うにゃ」
「やめてってーの」
盛り上がる精霊達。僕がしっかりしないと…この国が滅びないように!その為にも元気を出さなきゃね!
そう無理矢理前向きになり、精霊に囲まれて横になる。
グラスが迎えに来てくれるのか、まだ不安は残る。
その時…僕はまだ君を愛しているだろうか?ルシアンに心変わりしているんじゃないか…
そんな事を考えていたら、いつの間にか眠ってしまった。その寝顔は、とても穏やかなものだった。
※
「………セレスタンに何か用でも?」
「おっとストーキングじゃありませんよ〜?夜の空中散歩が趣味なだけですから!」
グラスは部屋を飛び出した後、セレスタンが滞在する宮の屋根を目指した。そこに笑顔で座っていた青年に近寄り声を掛ける。
「…さっきの、あなたの仕業ですよね」
「なんの事ですかね〜?いやあ、修羅場は回避したみたいでよかったですね!」
「…………」
青年…タオフィはよっこいせと立ち上がる。部屋に戻ろうとすれ違いざま、グラスに問い掛けた。
「この後どうするんです?リミットは1年ちょい、それだけで皇子に匹敵する地位を得られるんですか?」
「……………」
グラスは拳を握る。
普通に考えれば不可能。だが…彼の目は力強さを損ねていない。
「容易な道ではないけど。ひとつだけ、あります」
「ふーん……」
タオフィはそれ以上は興味が無いようで、手を振りながらその場を離れようとした。
だが肩を掴まれ叶わなかった。
「何か?」
「………あなたに、頼みがあります」
思いがけない言葉に目を見開いた。
「…とにかく、場所を移動しましょうか」
グラスは小さく頷き、タオフィの後を追った。
※※※
「お嬢様…昨夜何かございましたかな?」
「あ…ううん。なんでもないよ、おじいちゃん」
セレスタンは控えめに笑う。目の下の隈が気になるも、カリエは言及しなかった。
彼は皇宮は居心地が悪いので、皇帝に挨拶をしてから先に帰ると言う。
「精霊屋敷でお待ちしておりますよ」
「うん!」
カリエと入れ違いにジェルマンが入室してきた。ただし1人ではなく、3人で。
約束をしていたタオフィと、エリゼの兄アイザックだった。
「ん?アイク様に…タオちゃん」
「へ?」
「「「…………」」」
硬直したセレスタンは真っ赤な顔で涙目になり…
「し、しつ…れい、を。どうぞお入りください、タオフィさん…」
「タオちゃんでオッケーですよ!!」
「やめてぇ…」
タオフィはいい顔で親指を立て、アイザックとジェルマンは必死に笑いを堪えるのであった。
気を取り直して招き入れる。アビーが人数分お茶の準備をして、内密な話をしたいので廊下で待機してもらう。
「それで、僕に何かご用が…?」
「ええ、まず…」
タオフィはルシファーの持つハンカチから、スタンピードの事まで全て話した。
突然のことで理解が追い付かないが、なんとか話を整理する。
「んと…スタンピードは置いといて。僕の縫ったハンカチがそんな凄いものなんて…何かの間違いでは?」
自分に特別な能力は無い。ハンカチか、糸に術が掛かっていたのでは?と推測する。
「それに関してオレからも情報があるんだ。
セレス、前にヘリオスの表札書いただろ?」
「ありましたね…」
「表札を括り付けた時、ヘリオスの小屋全体に結界が張られたんだ。確かにお前の書いた文字に魔力が込められていた」
全く自覚していなかったので、セレスタンは驚きを隠せない。
彼女が幼児化している間に、タオフィと皇室魔術師は情報を共有して様々な仮説を立てていた。
刺繍だけでなく、字を書くだけでいいのか?効果に違いはあるのか?発動条件は?等々。
「でも実際見てみないとなんとも言えなくて。ちょっと今書いてもらえませんか?」
「は、はい。そのくらいなら…」
タオフィが差し出したのは、なんの変哲も無い木の板とペン。セレスタンは『ヘリオス』と書いてみた。
「……うーん。ただの板ですね」
「だよなあ。オレにも何も感じられない」
セレスタンは「ほらー!」と安堵するも、タオフィは納得していない。
「此方はカリエ医師や精霊達の許可を得て、精霊屋敷に招いてもらって実物も見たんです。アイザック様の解析通り、高性能な結界になってたんですよ。
もしかして…何か祈りでも込めました?」
祈り…と言われ思い出す。確か…
「このおうちが、ヘリオスを守ってくれますように…と願いましたが」
「それです!!ではその時を思い出してもう一度」
新しい板を渡されるが、タオフィは条件を変更した。
「『この板を持っている人を守ってくれるように』と願いながら書いて欲しいんです」
「ふんむー…」
それなら…『ヘリオス』は違う気がする。そう考えて…『幸運を』と書く。
「……!!(彼女の胸元…いや鎖骨?)わっかりましたー!!」
「わあっ!!?」
タオフィは突然ハイテンションになり、セレスタンの手を握る。そして彼女と2人きりで話したい!と、抵抗するジェルマンとアイザックも追い出してしまった。
不安になるセレスタン。眉を下げて、僕何かしてしまいましたか…?とタオフィを見上げた。
「いえいえ!貴女の能力はフェニックス様の刻印が関係してるんです!」
「え。これが?」
俄には信じられなかったが…タオフィの解説によると。
最上級の刻印はまだ謎が多い。だが単なるお気に入りの印、だけでなく…精霊の力が宿っていると言われている。
今セレスタンが『幸運を』と書いた時、刻印が反応していたのがタオフィには視えたのだ。
2人でセレネに視線を向けると、彼はくあっと欠伸をした。
「その通りだぞ。刻印ってのは力の一部を人間に譲渡したモノ、精霊の加護と言えば分かるか?
フェニックスは万物に命を与える。完全に死んだモノを蘇生させるのは不可能だが…
例えば今タオフィが死んだとして、その肉体に新しい命を吹き込むことは出来るんだぞ。それはタオフィの姿をした完全なる別人だが。
で、シャーリィが今やったのはその一端だぞ。要するに…刻印を魔法陣だと思えばいい。
シャーリィの願いと魔力が魔法陣を通じて、力のある言霊として命を与えた。その言霊を文字に起こして、板に効果を付与したんだ」
「「ほー…?」」
更にセレネは続ける。恐らく刺繍でも効果は変わらないが、耐久は変化するかもしれない…と。
なので今度は刺繍を試すことになった。ルシファーの持つ物程強力でなくていいので、とにかく持ち主を守るように、と。
「(うーん…絵はどうしよう。やっぱり…)」
セレスタンの頼もしい守護者、セレネ。デフォルメされた白い狼をチクチク…と縫う。決して簡単だからではない、と心の中で言い訳しつつ針を刺す。
タオフィがガン見していて居心地が悪いが構わず続ける。
「(セレネ…君がいつも僕を守ってくれるように。このハンカチを持つ人が、どうか怪我をしませんように)」
20分程で終了し、ふうっと息を吐いた。爛々と目を輝かせるタオフィに「どうでしょう…?」と差し出してみた。
「す、素晴らしいです…!!ではちょっと試してきます、お待ちをー!!」
「試す!?一体何を…!!」
止める間もなくタオフィは部屋を飛び出した。アイザックも連れて行ったようで、ジェルマンとアビーが首を傾げながら入って来た。
15分後。笑顔の魔術師2人が戻って来たのだが。
「いやー、これ凄いわ!!」
「ご覧くださいセレス君!」
タオフィは板とハンカチをテーブルに置く。セレスタン、ジェルマン、アビー、セレネで覗き込んだ。
そこには…完全に文字が消えた板と、刺繍糸が完全に解れたハンカチ。
「結論から言います!確かにどちらも同程度の結界でしたが…板は1回の攻撃しか耐えられませんでした!」
「でもハンカチはなんと7回も耐えたぜ!1回毎に少しずつ糸が切れちまったが、魔術も物理も対応したぞ」
つまり、セレネの言う通り。耐久に大きく差が出たようだ。
「へえ、僕にそんな芸当が……
いや誰が攻撃喰らったの!?」
「ああ、うちの祖父様」
「テランス様!?」
ちょっと焦げたけどな!と笑うアイザック。セレスタンが青い顔で今にも泣きそうになってしまい、慌てて「怪我はしてないから!祖父さん実験とか大好きなの!」と弁解した。
ここからはビジネスのお話となる。テノーは正式に、セレスタンに依頼をしたいと言う。
だが当然テノーだけを優先する訳にもいかず、皇帝も交えて会議する。
※
「ふむ…持ち運ぶ結界のようなモノか」
「はい陛下」
会議室には皇帝、魔術師と騎士の総団長2人。ルキウス、タオフィ、セレスタンと精霊のみ集められた。
セレスタンは大物ばかりに萎縮するが、なんとか自分を奮い立たせて背筋を伸ばす。当事者なんだから、しっかりしないと!と深呼吸。
もう一度2種類の結界を用意して、若干芳ばしいテランスにもお墨付きを貰った。今はそれを手にしながら皇帝が唸っている。
「もしも戦闘員全員がこのハンカチを持てれば…」
「いいえ、陛下。過信しすぎて引き際を見失う可能性もございます」
「そうですな!!ならばいっそ簡易結界(板)のほうがいいかもしれません!!!」
「その場合板よりも、紙のほうがよいか…」
それぞれのトップが意見を出し合う。その傍ら、ルキウスとタオフィも声を上げた。
「確かに文字なら簡単ですけど、結局はセレス君の魔力を使うんです。あまり量産してもらっては、彼が魔力切れで倒れてしまいますよ」
「ふむ…それはいけない。だがスタンピードの戦闘員は万を超えるだろうから、全員に行き届かせるには…」
セレスタンは彼らのやり取りを、どこか他人事のように感じていた。未だに自分がそんな…と現実味が無いのだろう。
「………ふむ。すまないが、ルキウスとタオフィ殿は席を外してもらえるか。あ、ラブレーも」
「「はい」」
「はい!!!」
テランスの元気いっぱいな返事に、セレスタンは耳を押さえると同時に笑えてしまう。
3人が出て行ったのを確認して、皇帝はセレスタンに向かった。
「セレスティーヌ」
「は、はい」
「今から私がする話は他言無用、で頼む。オーバンにもだ」
「はい…!」
皇帝は咳払いしてから続ける。
「実はラサーニュ領の教会がある土地…あそこは霊脈なんだ」
霊脈…ってなんだっけ?と内心首を傾げる。それを察してかモーリスが説明してくれた。
「世界中には魔力源…マナが大気に混じって存在している。霊脈とはざっくり言うとマナの通り道、溜まり場だ。
人間は魔術を使用する際体内の魔力を消費するが、霊脈内にいればすぐに使った分が回復出来るんだ」
「…つまり。魔術を使い放題って事ですか?」
「そうだ。だが多用しては人体に影響が出るだろう」
霊脈は世界中で数ヵ所しか確認されていない。教会のように、公になっていない場所がまだあるだろうが。
それほど貴重な土地であると知り、同時に納得もした。
「(そりゃラサーニュの負債くらい安いもんか…)では、僕は教会で仕事をすればいいのですか?」
「それがいいだろうが…無茶をしない程度で頼みたい。お前は私の可愛い姪っ子なのだからな」
皇帝の言葉は本心から身内を案じてのものだった。慣れない感覚に胸が温かくなり、自然と笑顔で返事をする。
「はいっ、伯父様!」
こんな自分にも、誰かを助ける事が出来る。フェニックスのお陰だとしても、誇らしくて胸を張った。
追い出した2人も交えて話し合った結果、10cm×5cm大の紙に1万枚書く。報酬も支払うと契約を交わした。
「刺繍はよろしいのですか?」
「ああ。…お前1人に頼っては、国は腐ってしまう」
「?」
皇帝は分かっていなさそうなセレスタンの頭を、ポンっと優しく叩いた。
「確かに魔物の攻撃を7回も耐える事が出来れば、戦闘員の生存率は大きく跳ね上がるだろう。
だが。セレスティーヌの身に何かあって、用意できなかったら?それを頼りにして鍛錬を疎かにしたら?
たった1人が欠けただけで崩壊する可能性もある。そのような国、スタンピードが無くとも滅びるだろうよ。
人間は助け合う生き物だが、依存してはいけない」
「伯父様…はい、分かりました」
依存、と言われグラスが浮かんだ。
僕達は助け合っていたのか、それとも共依存だったのか。そもそも愛ってなんだろう…と哲学的な事まで考え始めてしまった。
「セレス君?…姫ー、ひーめー。もう皆さん退室なさいましたよ〜?」
「………んはっ!?え、タオちゃん!?」
タオフィに肩を揺さぶられて戻って来た。彼も一旦国に帰るけど、またすぐ来ますね〜と会議室を出ようとする。
自分も帰らなきゃ、と思い後を追う。だがタオフィが突然立ち止まるものだから、背中にぶつかってしまった。
「うぶっ。どうしたんですか?」
「……姫。貴女は…グラス君に迎えに来て欲しいですか?それとも殿下と添い遂げたいですか?」
「……!!」
幼児化している間に、タオフィ含め数人に性別がバレたというのは聞いている。そしてルシアンと婚約した事も…セレスタンは目を伏せ「わかりません」と首を振った。
「ルシアンと結婚しても僕は…嫌じゃないんです。だけど…
やっぱり……グラスと、一緒になりたい…とも思うんです…」
「…了解!きっと貴女のハッピーエンドを掴めますよ!」
タオフィは背中を向けた状態で明るい声を出す。彼が何を言いたいのかさっぱりだったが、なんとなく元気を貰った。
タオフィと別れ、ジェルマンを供にお世話になった人達へ挨拶をして回る。
騎士団に行った時は、皆寂しくなるなぁとしんみりした。そんな中死んだ目をした騎士が目に留まる。
「彼は何をしているの?」
「さっきカタツムリ踏んだらしくて…
デニス卿は感情の起伏が激しいんだ、放っとけ。まあ怒った姿は見た事ないけど」
「ふぅん…?」
とことこ歩き、しょぼくれるデニスの横に立った。
「ん…?」
「元気出してくださいね、手下!」
「………!」パアァ…
手下ってなんだ…?と自分の発言を訝しみながら、デニスの背中を叩く。すると彼は途端に目に輝きが灯り、セレスタンを抱き上げた。
「ひえっ!?」
「ドラゴン討伐したかったら俺にも声掛けろよ!」
彼女の両脇を持ち上げた状態でクルクル回る。セレスタンはどことなく懐かしさを覚えながら目を回した。
遊びに来るねー!と騎士の笑い声が響き渡る練武場を後にする。
お世話になったメイド達やプリスカは、涙を流して別れを惜しむ。
「セレスさん、どうぞこれを!」
「多っ!?」
ドサドサドッサァ!!とプリスカがテーブルに置いたのは、数十冊の写真アルバム。手に取ってみれば超笑顔の自分が…照れくさくて、帰ってからじっくり見ようと精霊に預けた。
ルキウス、ランドール、皇帝…最後に挨拶するのはルシアン。
気まずいけれど、意を決して部屋へ向かう。
「…どうぞ」
ごくりと喉を鳴らして。扉を開けて彼と対面した。




