表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇国の精霊姫  作者: 雨野
訣別編
83/102

セレスティーヌお姫様



 場所はテノーの王宮、王太子夫妻の部屋。


「…………」


「どうしたの?」


「いや…タオフィから…」


 リンバルに届けられた1枚の手紙。ルシファーも覗き込むとそこには…

 暫くグランツで世話になる。セレスタンとは話せないけど、放っておけない状況。等々書き連ねてある。

 リンバルは読了後、フムと唸った。ルシファーは何か変な所が?と訊ねる。


「タオフィは社交的だが…弟以外には絶対的に一線を引いている男なんだよ。そんな弟を他人に任せてまで、セレスタン君に何か…?」


 タオフィのグランツ訪問に関して、個人的興味と仕事と半々の理由があった。

 仕事はセレスタンの刺繍の事。タオフィが…スタンピードが起こる前に、戦闘員達に刺繍のお守りを作ってもらっては?とルシファーに相談したのが始まり。

 ルシファーが持っているような聖遺物レベルは量産出来ないだろうが、一撃でも攻撃を防いでくれたら儲け物。彼らはリンバルにも報告して、テノーからセレスタンに正式に依頼をしたかったのだ。


 リンバルは『皇国に迷惑を掛けるなよ、弟は任せなさい』という旨の返信をした。




 ※※※




 タオフィは再び伯爵邸を訪ねる。出迎えてくれたシャルロットだが…明らかにバジルと気まずそうにしている。

 ニヤニヤを抑えながらタオフィは、確かにシャルロットの願いが原因ではあると説明した。

 シャルロットは拳を握り、数分間俯き…ゆっくりと顔を上げた。


「…私がお兄様に戻って欲しいと強く願えばいいのでしょうか?」


「断言は出来ません。が…そう心掛けていただければ」


 シャルロットは胸の前で手を組み目を閉じる。どうかお兄様が…いつものお兄様に戻ってくれますように、と祈った。

 その様子を観察するも、糸にはなんの変化も無い。毎日祈ってくださいねー!と言い残し帰って行った。



「セレスタン様、大丈夫でしょうか…」


「信じるしかないわね…」


 シャルロットとナディアは切ない表情で窓の外を眺める。ナディアがため息をつきながら応接間を出ると…バジルと2人残された。


「「……………」」


 途端に彼らは無言になり、シャルロットは頬を染める。無意識に唇に指を当てて…バジルは鼓動が激しくなる。

 ()()は救護活動だ!と互いに認識してはいるものの。割り切れる程彼らは大人ではなかった。


「(……初めてだったのに。嫌ではなかったわ…どうしちゃったのよ、私ったら!?お兄様が大変な時に…!)」


「(う…やはりお嬢様はお美しい。とはいえ…僕には天上の人!グラスほどの覚悟も無い、分を弁えろ…!)」


 そろっと視線を向ければバッチリ目が合った。同時にぐるん!と顔を逸らし、バジルは「掃除してきます!!」と逃走。

 シャルロットはソファーに腰掛け高鳴る胸を押さえる。今まで全く意識していなかったが…バジルも男性なのよね、と息を吐く。




 帰り道、タオフィは空を飛びながら考える。

 セレスタンが戻るには…確かに、シャルロットが願えばいいのだろう。

 だが混じり気の無い、強い想いが必要だ。僅かでも「今のままのお兄様がいい」と思ってしまっては駄目だ。何より…



「…令嬢がもしも。セレスタンさんはこのままでいい…なんて願ってしまったら。糸は切れるだろうな…」



 それがもう1つの条件。タオフィはそう睨んでいる。

 だが言い触らしてしまったら、第三者がシャルロットを責めるかもしれない。下手をしたら…彼女本人が全てを諦めてしまうかもしれない。そう考えては口を噤む。


「令嬢とセレスタンさんを会わせていいものか。どう転ぶかまるで読めないな…」




 ※※※




 セシルという名を禁止にしてから数日。


「おにいちゃんこないね」


「ハーヴェイ卿か、確かに…」


 もっと入り浸ると思われていた彼が、全然姿を現さないのだ。


「いいじゃねえか、忙しいんだろ。

 ほーらセレス、あーん」


「んあー」


「オーバン顔きっしょ…」


 セレスタンはオーバンにアイスを食べさせてもらっていた。遊びに来たバティストはデレッデレな親友にドン引きである。


「けぷ…ぱぱ、あちょんで」


「はいよ〜」


 オーバンは背中からハートを撒き散らす。言われるがままにお馬さんになったり、ボールを投げたり…完全に親子である。

 遊び疲れたセレスタンを寝かせて、ここからは大人の会話だ。



「セレスタンちゃんの戸籍…新しくすんだろ?」


「そのつもりだ。今の『セレスタン・ラサーニュ』は表向きで、女性として俺が新たに用意する」


「…年齢は?」


「15歳に決まってんだろ」


 オーバンは呆れたように言う。その答えに、バティストとジェルマンは微笑んだ。


「で、名前を考えてるんだが…思い付かなくて…」


 バティストは生温い目をする。オーバンは子供の頃…拾った犬に『ワンチャン』と名付けようとした過去がある。それは兄に阻止されたが(結果ポチとなった)…ネーミングセンスはほぼ無いのだ。

 なので今回はバティストに相談する。ついでにジェルマンとカリエにも。



「セレスっつー愛称が馴染んでるから、そこは変えたくねえな」


 というオーバンの発言に皆唸る。


「それこそ…セレスティアは?」


 バティストが提案するも、カリエが難色を示した。



 マイニオ・カリエは昔、セレスティア・ラサーニュと面識がある。

 戦場で赤い髪を靡かせて剣を振るう姿を、当時幼かった彼は目に焼き付けた。次々と敵を屠る残酷さ、その美しさに見惚れ…彼女亡き後は遺志を継ぎ、国の為に尽くした。

 そして引退後は縁あるラサーニュ領で医師となり、セレスタンと出会ったのだが…


「儂は以前愚かにも、あの子にセレスティア様を重ねておりました。可能であれば、別の名を願います」


 それを聞きオーバンは思考する。

 確かに…大昔とかならともかく、近代の偉人の名は重いかも、と納得した。


「じゃあセレスティーヌは?ほぼ変わりませんけど…」


 そこへジェルマンが提案する。全員で顔を見合わせて…


「…いいんじゃね?」


 と、セレスタンの新しい名が決まったのでした。


「(オレ、名付け親になっちまった…)」



 こうして書類上正式にセレスタンはオーバンの養女になり…『セレスティーヌ・ゲルシェ』という名が与えられた。が、本人はまだ知らない。知らせない。




 ※




「おや?中に入らないんですか、ハーヴェイ卿」


「へ。あぁ…タオフィさんか。俺は…おおおい!?」


「失礼しまーす!」


 オーバンがセレスタンの頬を突つきながら「セレスティーヌ〜、セーレスー」と呼んでいる頃。

 廊下から…ハーヴェイが覗いていた。そこへタオフィがやって来て、強引に彼の腕を掴み引き入れる。


「姫〜、ってお昼寝中でした?」


「くあぁ…たおちゃん、おにいちゃん!」


 セレスタンは丁度目を覚まし大きな欠伸をして、手を挙げて彼らを迎え入れた。

 ハーヴェイはいつも通り笑顔を浮かべるも、どこかぎこちない。


「よ、よお…セレスタン」


「…うん」


 セレスタンは一瞬止まるも笑顔を見せた。ハーヴェイは苦しげに眉を顰める。

 見かねたジェルマンが散歩行こうぜ!とセレスタンを外に連れ出した。アビーも慌てて後を追う。



「お前何やってんだ!!」


「2歳児に気を遣わせて!!」


「わーーー!!ちょ、ストーップっ!!」


 バタンと扉が閉まった直後、態度が悪い!!とオーバンとバティストに袋叩きにされる。

 ハーヴェイは転がり頭を抱えながら、思いの丈を打ち明けた。

 

「だって…!今のスタンが可愛すぎて!!15歳に戻った時…!俺、寂しくなっちまうかもしれねえんですよ!!

 だけどいつものスタンに会いたい!!なのに2歳のスタンがくっそ愛おしくて、同時にあの子は異質だとも思っちまう…!」


 彼は半泣き状態でぶち撒ける。支離滅裂な発言にオーバン達は…呆れたように「はあっ?」と声を出した。

 彼にとっては深刻な悩みだったようで、もうどうしていいか分かんねえ!!と叫んだ。



「あっはっは!!ハーヴェイ卿、貴方さては末っ子ですね〜?」


 部屋にいる皆が言葉に迷っている中、タオフィは堂々と笑い飛ばした。


「それがどうした!?笑いごとじゃ…」


「子供の成長を寂しく思うのは、正常な感性ですよ?」


「……っ」


 咄嗟に反論出来ず、タオフィは言葉を続ける。


「異質だと思うのも当然、自然の摂理に逆らってるんですから。

 今は深く考えず、ただ可愛がればいいんですよ!いやー、此方も10歳離れた弟がいるんですけどね〜。

 此方が親代わりで育児しましたけど。年々手が掛からなくなってきて、それが嬉しくて寂しくて。ふと赤ん坊を見ると、「あの子もあんな時があったな〜」って懐かしく思います」


 その横顔にはどこか影があり…ハーヴェイは己の幼稚さを恥じるように俯いた。

 こんな中途半端な気持ちじゃ、セレスタンに悪影響だ。そう考え距離を置いていたが…


「…スタンの事、可愛い妹だと思っていいかな…」


「当ったり前じゃないですかー!んじゃ行きますよ!!」


「ちょおぉーいっ!!」


「姫を守るのは騎士の務め!!ゴーゴー!!」


「さっきから思ってたけど、姫って何!?」


「精霊界のお姫様ですから!」


 タオフィはハーヴェイの首根っこを掴み、元気よく窓から飛び出した。




 その頃セレスタンは…何故か厩舎にいた。


「うぴ〜!うへへぇ、にょほほっ」


「変な笑い方だなお前…」


「あああ、お髪がべとべとですぅ…!」


 彼女はジェルマンに抱かれた状態で、馬達によって頭を食われていた。どうやら動物にモテるのは変わらないらしい。


「うへへ、くちゃーい!」


 きゃー!と笑いながら馬の顔を撫でる。ハーヴェイはタオフィと共に物陰から観察し…初めて会った時の事を思い出す。


「おてわちたい」


 と主張するので、ジェルマンが彼女の脇の下を持ち掲げる。


「ごちごち、いたくない?」


「ブルルンっ」


「よち!」


 セレスタンは両手でブラシを持ち、一生懸命に馬の背中を撫でる。ハーヴェイは懐かしい光景に、目頭が熱くなる。



 小さな身体でちょこちょこ働く姿が…愛おしいと思った。

 そして今、あの日と全く同じ感情が胸を温かくしてくれる…


「……!」


「え、ハーヴェイ卿?」


 たまらず飛び出して、自分もブラシを手に取ってセレスタンの横に並んだ。


「おにいちゃん…」


「…スタン。俺も一緒にしていーか?」


「…!うん!」


 2人は今度こそ本当の笑顔になり…笑い声を響かせながらブラッシングをする。


「ヒヒン!」


「んだこの馬!!俺よりスタンがいいってかコラァ!!」


「おにいちゃん、めっっっ!!!」


「ごめんなさい…」


「ブルルッ(笑)」


 馬の態度が明らかに違いすぎて、通りがかった馬丁達も笑顔になる。

 ハンターが大きくなって「我が君、俺にもお願いします」とブラシをねだる。するとヘリオスも、セレネも、フーゴまでもおねだりを始めた。


「もう、でんばんね!!」


「…あ、順番か!」


 セレスタンは満面の笑みで、順にブラッシングをしていくのであった。




 それから吹っ切れたであろうハーヴェイは、暇さえあればセレスタンを訪ねる。


「スターン!見てみて、可愛いだろっ!」


「わあ、おにんぎょうたん!」


 ある日にはビスクドールを持って来たり。ぬいぐるみだったり、おままごとセットだったり。大喜びするセレスタン。

 それに対抗意識を燃やしたパパが更におもちゃを持って来て…皇帝に怒られるまで、あと数日。

 



 ※※※




「きょおはね、おうまたんといっぱいあちょんだ」


「そっか」


 セレスタンは就寝前、グラスに1日の出来事を報告するのが日課になっていた。瞼が落ちてきたところで…グラスはセレスタンを強く抱き締める。


「…セレス」


「んー?」


「おれな、本当はミコトって言うんだ。お前には…そう呼んで欲しい」


 セレスタンはグラスの目を真っ直ぐに見た。

 数分後、彼の胸に額をぐりぐり擦り付け…「いや」と拒絶した。

 グラスは僅かに目を開き、優しく「どうして?」と問う。



「…ぐやちゅがもとめてうのは、てーやない。ぼくでちょ?」


「…!!」


 その発言に精霊達も動揺を隠せない。記憶が…?という言葉は無視して、目を閉じて続けた。



「ごめんね…ぐやちゅ。

 てーは、あなたのいちばんになえない」


「セ…セレスティーヌ…」


「ちがう。ちょえはぼくのことでちょ?」


 くあぁ…と大きく欠伸をする。グラスの背中に嫌な汗が流れる。どうして…という呟きは声にならなかった。



 呆けているうちに、小さな寝息が聞こえてくる。

 グラスは…気付かないうちに涙を流していた。


「なんで…どうしておれを拒絶する?セレス…」



 おれはただ…お前にはいつだって笑顔でいて欲しいだけなのに。

 だがそれこそがエゴなのだと、本人は知りもしなかったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ