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皇国の精霊姫  作者: 雨野
訣別編
77/102

女神の気まぐれ



「はあ〜…」


 神殿も丁度昼食時。グラスにとって、たった15分だけの癒しの時間。この後すぐに予定は入っているが。お代わりしてきたファースが向かいに座った。


「つかこの時間学園だろうよ…毎日サボって来やがって…」


「き、聞いた話じゃ…令嬢は、サボり多いらしいよ、本気で勉強しない人が。卒業後、すぐ嫁入りするからって」


「はーん…」


 すんげー学費の無駄遣い…グラスは呆れながらスプーンを置く。そろそろ行くかー、とローブを羽織り立ち上がる。最近は貢ぎ物でグラスの気を引こうとする令嬢が増えてきて、それを断るのも一苦労なのだ。


「でででも、お嬢様達の誘いを断って、よく何も言われない、ね?」


「だよな」


 それはグラスも考えていた。予想に反して、「ワタクシの誘いを断るなんて!?キー!!家族諸共処罰してあげるわ!!」という展開が全く無いのだ。



「神官の引き抜きって言ったら愛人か使用人として、なんだけど。皆アナタに本気で恋してるっぽいのよねー。それで嫌われたくなくて、いい子にしてんでしょ。

 なんかグラスさんって、貴族に負けず劣らずの気品と威厳があるのよねー」


「「?」」


 会話に入って来たのは、隣のテーブルに座る若い女性神官だ。三つ編みにした長い髪をいじりながら口を開く。


「なんてゆーか。アナタ怖いのよ、悪い意味じゃなくてね?イケメンだし…ま、迫力があるって感じ。神官だって、トマス以外突っかからないじゃん」


 3人は無意識にトマスに視線を送る。彼は乱暴者ではあるが、食事の所作はどこか洗練されている。


「そりゃ、あの人貴族だもん」


「「え?」」


 女性神官の言葉に2人は驚く。だからこそ、グラスに喧嘩を売る度胸があるんでしょ〜と言い放った。


「数年前、1つ上のお兄さんがアカデミーで退学食らったらしいわよ?なんでも命に関わるような悪戯を、同級生にしたとか。それで家の評判もガタ落ち、苦しくなって後継でも無いトマスはここに送り込まれたの。

 神官は皆平等だから、トマスなんて呼び捨てにしてるけど。本来は…雲の上の人なのよ」


 少々声を落として教えてくれた。トマスがギロリと睨んだ気がしたが、3人はプヒョロ〜と口笛を吹いて誤魔化す。



 どうでもいい情報ありがとよ、とグラスが背を向ける。その時…


「………っ!!?」


「ん?どうしたラフ?いてーって」


 肩に乗っていたラファエルが、必死の形相でグラスの髪を引っ張った。口をパクパクさせて、ジェスチャーで何かを伝えようとしている。



'なんで…我が君との魔力のパスが切れた!?言葉が出ない、このままでは…!!'


 ラファエルは段々と顔色が悪くなる。グラスも異常事態に、ラファエルを手に乗せて対話を試みた。


「おい!なんか喋れ!!」


'無理です!!おかしい、人間と精霊の双方の同意が無いと、契約は破棄されないのに!!'


 このまま精霊界に帰っては、セレスタンと再契約がほぼ不可能になる。例え彼女が再度召喚しようとも…この『ラファエル』と名付けられた精霊を呼べるとは限らないのだ。

 更に人間との契約が無ければ、長時間姿を保てない。ラファエルは考えた末、人間サイズになってスプーンを手に取る。


 ギギギ、と木のテーブルに何か刻む。紙とペンが近くに無いので苦肉の策だった。

 精霊の文字は…見た事が無いはず形状なのに何故か読める。グラスは不思議な気分になりながら読み上げた。



「『名前を呼んで』…?ラフ、ラファエル?」


 グラスが呟いた瞬間、ラファエルが「ぷはあっ!!」と大きく息を吐いた。


「すみません、貴方と仮契約を結びました!!我が君との契約が破棄されたのです!!」


「は…!?セレスに何かあったのか!?」


「分かりません、先程からバラキエルに呼び掛けても反応がありません。僕は我が君の元へ帰ります、では!!」


 グラスの返事を待たず、ラファエルは神殿を飛び出した。


「くそ…っ!なんなんだよ一体!!セレス…!」




 ※※※




「この子がセレスタンだっつーのか!?んなワケあるか!!」


「事実だ!!」


 オーバンがルシアンの手から幼子…になってしまったセレスタンを奪う。そっとベッドに座らせると、彼女はオーバンの指を掴んだ。空気が少しほっこりした。


「どこから連れて来たか知らんが、早く…」


「いや、そいつはセレス先輩だ。状況的に」


 遅れて合流したアリスティド。彼は3人分の荷物を持っており、くっ付いていた精霊達がセレスタンに集合する。その姿に…オーバンも認めざるを得ない。


「(上級はともかく…最上級が契約者以外に懐くとは思えねえ…)あの、精霊殿」


「くるう!くるるっ」


「え、なんて?」


 セレネはセレスタンに頬擦りをしながら必死に呼び掛ける。しかし伝わらず…


「………!」


 直後、ハッと声を上げて開いていた窓から飛び出した。まさに光速、あっという間に姿が消えた。



'どうしよう、僕達このままじゃ消えちゃう!!'


'我が君の時間が戻されて、契約も交わす前の状態になっているんだ!早く再契約をしないと…!'


'それを伝える手段が無いわ!?'


'セレネ様もどっか行っちゃったですよ!?'


 バラキエル、ガブリエル、セラフィエル、ファイ。最上級のセレネが魔力の安定していない幼子と契約するのは危険だが、上級の範囲内である彼らなら問題無い。

 故にセレスタンが名前さえ呼んでくれれば、再契約も可能なのだが…



「どういう状況だ、コリャ?」


「あん?」


 追い付いたエリゼが顔だけ覗かせる。扉付近に立っているアリスティドに説明を求めるも、「面倒くせえ」と相手にしようとしない。


「あの子は一体…?どこかセレスさんに似ているような」


「……!!」


 だが、ルネがひょこっと顔を出して固まった。手を伸ばせば触れる距離に美少女が…アリスティドの鼓動は一気に激しくなる。


「何かご存知ありませんの?」


「せ、説明出来る程、俺も理解してねえ…!」


 ルネに顔を覗き込まれて、アリスティドは必死に逸らして答える。

 エリゼは「なんだこの野郎…?ボクは無視しやがって」と静かにキレている。同時にアリスティドはルネ、延いては女性に弱い…と判断して。


「え、ちょっと、なんですの?」


「いいからいいから。おいお前、あの赤毛の子供は誰なんだ?」


 ルネの背中をぐいぐい押して、アリスティドに近付ける。目論見通り盛大に狼狽えて、顔から煙を撒き散らしながら答えた。


「セレス先輩だよ!!メシ食ってたらなんか光って、気付いたら縮んだんだよ!!それ以上はマジで知らねえ!!」


 だから離れろ!とルネの肩を押した。だが予想以上に華奢な肩に「だああああっ!!」と叫びながらバンザイする。その体勢のままズザザと後退、部屋の隅に避難した。


「は…?あれがセレス!?」


「縮むって、あり得るのか?」


 ジスランとパスカルも入室し、医務室の人口密度が増してきた。

 飛び回る精霊を捕まえようと、宙に手を伸ばすセレスタン。ルネが近付き膝を突き目を合わせて、手を取り微笑んでみる。


「はじめまして、私はルネ。貴女のお名前は?」


「うね、ちゃん?てーは、てえうたんだよ」


「(うねちゃん…!可愛いっ!!)」


 ルネは両手で口を押さえて悶える。他のメンバーも「可愛いなあ」とほっこり。


「えっと…てーちゃん?」


「てーやないよ、てーだよ!!」


「???」


 ぷんすこ怒るセレスタン。発音の違いが全く分からない。汗を流すルネに、ルシアンがこそっと耳打ちをした。


「多分…『セー』って言ってるつもりなんだろう」


「まあ…セーちゃんですか?」


「うん!」



 そんなやり取り眺めながら、オーバンはエリゼに「魔術の痕跡とかあるか?」と訊ねる。


「…薄っすらとあるな。だがどういった術式か、まるで読めない…

 肉体を若返らせる魔術はあるが、精神は変わらないはずだ」


 この子供をセレスタンだと断定して。どうすれば…とオーバンは頭を捻る。




「くるぅーーーっ!!(おらぁーーーっ!!)」


「ぬおおっ!?」


 その時、部屋にルキウスが投げ込まれた。背中からダイナミックに。ジスランが慌ててキャッチして、フラつきながら立ち上がる。


「兄上!?何故こちらに!!」


「私の台詞だ…!光の精霊殿が執務室の窓を突き破って侵入、私を咥えて飛び出したんだ…」


 つまり…皇太子拉致事件。今頃皇宮大騒ぎじゃ…と全員頭を抱えた。


「くるる!」


「え?この子が、セレスタン…!?」


「きゅるっくーるーるっ!」


「そんな事が…!俄には信じ難いのですが、真実なのですね…かしこまりました」


 セレネはルキウスの頭に乗り、前足で叩きながら何か言っている。言葉が通じるのですか!?と驚かれて首を傾げた。


「ん?いつも通り喋っているではないか」


「いいえ、私達には「くるる」と聞こえますの」


 皆深く頷き同意する。

 何故ルキウスにだけ通じるのか。それは…彼にはセレネの魔力が刻まれているからである。要は通訳として連れて来たのだ。



「くう、くきゅ、くるぁ!」


「えーと、まず上級精霊をどうにかしないと。セレスタンと契約をさせろ、名前を呼ばせろ、と言っている」


 ルキウスも戸惑いながら、セレスタンと視線を合わせた。怖がらせてしまったらどうしよう…と不安になるも。

 セレスタンがにぱっと笑顔を見せてくれるので。彼も穏やかに微笑み、隣に座る。


「こほん…セレスタン?」


「うん」


 精霊が順番に…1人ずつセレスタンの前に浮かぶ。まず…



「ばやきえゆ。がぶいえゆ。てあいえゆ」


「い、言えてない…!」


 ルキウスに言われた通り復唱するも、全然違う。


「ふぁい」


「……ぷあー!!やったー!我が君っ!!」


'''ずるい!!!'''


 辛うじて『ファイ』だけ言えたので、彼とは正式に契約出来た。ルキウスが名前を変えては駄目なのか?とセレネに訊ねる。

 だが精霊自身が既にその名で認識しているから不可能、との事。これがセレスタンでなく、別人と契約するなら話は別らしい。


「我が君っ!やっと見つけ…あれ、縮みました…?」


「ラファエル!」


「なふぁえゆ?」


 天使達が「消えるー!!」と大騒ぎしていたら、ラファエルが姿を現した。セレスタンの魔力を辿れなかった為、捜索に時間が掛かったらしく息を切らせている。


「あれ、ラファエルは喋れるんです?存在も安定してるですね」


「グラスと仮契約を結びました。ファイ、説明を」


「あ!その手が!!」


「?」


 天使ズはポンと手を叩き、仮契約の相手を探す。バラキエルはルシアン。ガブリエルはルネ。セラフィエルはオーバンに助けを求めた。

 すぐに契約は完了して、よかったー!!と喜びを分かち合う。


 セレネは誇り高きフェンリルが、仮とは言え人間と契約など!と拒否する。言葉が通じなくても、セレスタンの側にはいられるからである。だが…


「…………」


「……ん、なんだ…?」


 セレネはある人物を見つめる。それは…セレスタンのほっぺを突ついて遊んでいるパスカル。

 契約者は誰でもいい訳ではない、が。


「あだだだだだっ!!?なんだ、何するんだ()()()っ!?」


「……ふん!お前で我慢してやるぞ」


 セレネはパスカルの頭に移動して齧った。パスカルが名前を呼ぶと…なんと仮契約をしてしまったらしい。

 ただ本人はまだセレネの正体を知らない為、事の重大さに気付いていない。ルキウス始め、数人は口をぽかんと開けている。



「セレネは犯人に心当たりがある、ちょっとそいつに話を聞いてくるぞ!お前達、シャーリィを守れ!」


 はい!と精霊達は返事をする。セレネは姿を消して、皆の注目がオレンジジュースを飲むセレスタンに集まった。


「ぷあー、おいちいねぇ」


「あー…ひとまず、皇室で預かろうか」


 伯爵家は頼れない。精霊屋敷には老人と少女しかいないだろうから、世話は難しいかもしれない。なのでルキウスはそう提案し、精霊達も渋々といった風に納得する。彼らは食事等の世話が出来ない…と自覚しているのだ。

 もうじき午後のチャイムが鳴る。生徒は授業に向かわせ、医務室にはオーバンとルキウス、精霊のみ残った。



「……叔父上、この件どう見る」


「光の精霊殿の話を聞かんと…なんとも、ん?」


「ねえねえ」


 医務室を探検していたセレスタンが、くいっとオーバンの手を引っ張った。よっこいせと持ち上げ視線を合わすと、彼女は控えめに口を開く。


「あいちゃ、どこ?」


「あいちゃ…?」


 人か、物か。2人には分からない。それが伝わったのか、セレスタンは眉を下げる。


「……おってぃは?」


「おってぃ…(あ、まさか)ロッティ、かな?」


「っちょう!おってぃは?」


「「…………」」


 彼らは顔を見合わせる。今のシャルロットに会わせても、セレスタンにとっては知らないお姉さんだろう。

 セレスタンはこの小さな身体で、1人知らない世界に放り出されたようなもの。頼れる大人もいない…いない?


「あっ!カリエの爺さん!!あの人なら十数年前もジジイだろ、俺は精霊屋敷に行ってくる!お前も早く皇宮に戻れ!!」


「ああ、こちらも父上に報告して体制を整えておこう」


 オーバンはセレスタンを抱えて『本日の営業は終了致しました』とメモを扉に貼り、鍵を閉めて廊下を走った。




 ※※※




「という訳だ!この子はセレスタンで間違いないか?」


「……ほっほ、長生きしていると…驚きも多いですなあ…」


 ラファエルはグラスに報告をする、と言って離脱。他の精霊はオーバンと共に家に帰った。カリエは珍しく目を見開き、感情を露わにした。


「でーで!(※じーじ)」


「ほっほ…確かにセレスタンお嬢様ですな。お嬢様、今おいくつですか?」


「にたい!もうちゅぐたんたい」


「2歳ですか。ふむ…」


「(もうすぐ単体???)」


 庭で腹を出して転がっていたヘリオスも、主人の早い帰宅に尻尾を振り近寄る。


「セレス?どうしたんにゃ、よわくなってにゃいか?」


「おお…!おっきいわんちゃん!かっこいい!!」


 セレスタンはこの時から動物が好きなようで、大きなヘリオスにも怯まない。長い舌で顔を舐められ、きゃー!と楽しそうに笑う。



 談話室にて。オーバンはセレスタンを膝に乗せ、かいつまんで説明する。終わったタイミングでセレネが転移してきた。


「はあ…これはクロノスの仕業だぞ」


「クロノス…!女神の?」


「そうだぞ。クロノスは半神で、無属性の最上級精霊。時を操るからな、シャーリィの時間を戻すくらい造作もない。

 だが…動機を言わないんだぞ。気まぐれ、としか!その代わり…」


「「?」」


 セレネがふいっと顎を振ると、空間から何かが姿を現した。それは…下半身が馬で、上半身が棍棒を持った男性の姿。無属性の上級精霊、ケンタウロスだった。ケンタウロスはセレスタンの膝に乗り、手の甲にキスをする。


「わー、ちっちゃいおうまたん!…なんかちがう?」


「コイツを置いていきやがったぞ!まあ眷属みたいだし…役には立つだろう。

 さ、シャーリィ。コイツに名前を付けるんだぞ」


「ちゃーにぃ?てーのこと?」


「あ…そっか。まだシャーリィじゃないのか…」


 彼らが出会うのは、これより数年後の事。現時点では関わりは無く…セレネは耳をペタッと寝かせて悲しんだ。

 そんな彼を優しく包むのは、小さくて温かい腕。


「どちたの、けだまちゃん?いいこ、げんきだちて」


「けだま、ちゃん……」



『あはは、くすぐったいよう、けだまちゃん!』『ね!けだまちゃん、かわいいよね!』『えー…けだまちゃんかわいいのに…』『ぽんた!わんた!わたげ!』



 それは…初めて会ったあの時、呼んでくれた…



「……そうか。君は…確かにシャーリィだ。わたしの愛し子、シャーリィ。どのような姿であろうと…決して変わらない」


「うへへぇ、くちゅぐったいよう、けだまちゃん」


 セレネは全身を使って甘える。だが…やはりいつものセレスタンに会いたい。

 絶対にクロノスを捕まえて、元に戻る方法を聞き出す…!と息を巻く。


「っと、契約が先だぞ。シャーリィ、名前どうする?」


「うまたんのおなまえ?……うまうま」


「「「………」」」


「ひひん。ぱかぱか」


 心なしかケンタウロスも、切ない目をしている。本人を除いた話し合いの結果…



「はんたー?」


「はい、我が君。俺はケンタウロス、名をハンター。これより命を賭して、姫を守護致します」


「ひめ?……やぁ〜ん」


 正式に契約したハンターは、身長2mを超す長髪の美丈夫と変貌を遂げた。ムキムキイケメンな彼に跪かれて、セレスタンは身をくねらせて喜ぶ。



「セレネは少しいなくなる。時空の狭間に逃げたクロノスをとっ捕まえるぞ…!」


 そう言ってセレネは姿を消した。精霊達は新たな仲間を歓迎して、今後の話に戻る。



「でだ、カリエ医師。セレスタンは皇宮で面倒を見ようと思うんだが、どうだ?この子の秘密を知る者しか、世話係にしねえから」


「………ふむ。儂1人では…手が届きませぬしな…」


 カリエは熟考の末…オーバンに託す事にした。お嬢様をお願い致します…こっそり様子を見に伺います、と頭を下げる。


「それなんだが…カリエ医師も一緒にどうだ?今この子が頼れるのは、きっとお前だけなんだ。部屋も用意させるし、側にいてあげてくれ」


「……儂は諸事情あり、気軽に皇宮に立ち寄っていい人間ではございません。

 ですが…お嬢様の為ならば」


 偽名を使う、常にローブ等で顔を隠す。それを認めていただきたい、とカリエは言う。

 オーバンは緊急事態だし、俺が許可すると言ってくれた。


「ほっほ、ありがとうございます。

 早速ですが、殿下。お耳に入れておくべきお話がございます」


 なんだ?と、セレスタンの頭を撫でながら続きを促すが。何やら…膝の上に温かいものが広がる感覚が。精霊達が距離を取るのは何故だろう。



「2歳でしたら…オムツをしてあげたほうがよろしいですなあ」


「…………早く……言って……」


「……ふへぇ」




 ※※※




 オーバンがシャワーを浴びている間に、カリエはセレスタンにオムツを穿かせて着替えさせる。荷造り…と思ったが持って行く物は殆ど無い。


 ふとセレスタンの部屋で、彼女愛用の武器が目に入った。お久しぶりの登場、ミカ様こと魅禍槌丸だ。学園や皇宮では、許可無く武器を所持する事は出来ない。それ以外の外出では平民に紛れる為、殆ど屋敷の外に持ち出せないのだ。

 カリエですら魅禍槌丸は扱えない。試しにセレスタンに持たせてみると…きゃっきゃと言いながら片手で振り回す。


「ふむ…護身用に持たせましょうか」


【むう…これはいささか幼すぎる。だが…今からなら好みの女子(おなご)に育てる事も可能…ふむ!】


 魅禍槌丸がそんな事を考えているとは露知らず。

 この刀に自我がある事は理解しているので、緊急時以外は決して鞘から抜かせないように、と念入りに教え込む。

 更に自分と精霊が手にした時のみ、持ち運べる重さに変化する事。魅禍槌丸は了承したようで、試しに持ってみると羽根のように軽かった。



「……ねえ、でーで」


「はい、なんですかな?」


「…あいちゃは?おってぃは?ちちうえ、ははうえは…どこ?おうちにかえいたい…」


「…………」


 カリエはセレスタンを抱き上げて…優しく背中を叩く。

 セレスタンは彼の服を掴み、顔をぐりぐり押し付ける。


「おってぃ…あいちゃ…どこぉ…?」


「アイシャ殿も、シャルロットお嬢様も。いつかお会い出来ます…お家にも帰れますよ」


「ほんと…?」


「はい。ですがすぐには無理でしてな…このじーじと一緒に、新しいお家で待ちましょう」


「……うん。てーがいいこにちてたら、ちちうえもあいにきてくえゆ?」


「…勿論です」


 ですからお休みなさい…と優しい嘘をついた。暫くすると腕の中から寝息が聞こえてきた。



「さて…忙しくなりますなあ、殿下」


「…気付いてたんかい」


 オーバンがバツの悪そうな顔で、扉を開けて入ってきた。

 セレスタンの柔らかい髪をそっと撫でると、擽ったそうに笑う。


「…安心しろ、カリエ医師。この子は俺が絶対に守る」


「ほっほ…信頼しておりますよ、殿下」



 ヘリオスも連れて精霊屋敷を後にする。次に戻る時は…元気なセレスタンと一緒に、という誓いを胸に抱いて。




 ガサ…


「「ん?」」


 何か物音が。2人はそちらに意識を奪われると同時に、警戒態勢に入る。

 視線の先、庭の花壇から姿を現したのは…精霊だろうか。緑色の服を着た小人と、角の生えた赤い蛇だ。


「あれは木の上級精霊エルフと、火の上級精霊ファイアー・ドレイクだ。

 ふむ…我が君の刻印が消えてしまった為、疑問に思ったドライアド様とフェニックス様が使いに出したと言っている」


 ハンターの言葉に、オーバン達はとりあえずの警戒を解いた。


「え、折角だから契約したい?ふむ…どうしましょうか、翁(※カリエを指している)」


 バラキエルがそんな事を言うもんだから、2人は顔を見合わせる。そりゃ姫君の守護者は多いに越した事はないけれど。自分達が決めていいものか…と答えに詰まってしまった。


「ふふん。我が君と契約したければ、王の眷属くらいじゃないとねっ!」


 セラフィエルが胸を張って言明する。勝手な事言うな!と怒られるも…手遅れだった。




'王に力を貰ってきたで'


'契約契約、さあ名をくださいな!'


「……と言っているです」


「「…………」」


 帰ったと思った2体が…屋敷の戸締りをしている間に戻ってきてしまった。

 このまま帰しては、ドライアドとフェニックスの好意を否定するようなもの…


 また名前考えなきゃなあ…と、オーバンは遠くを見るのであった。



「え、名前?ケンタウロス…半人半馬…えーと…ケンタロウ…」

「ほっほ……これは儂が考えるしかありませんなあ…」

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