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皇国の精霊姫  作者: 雨野
訣別編
76/102

「ほら、私の愛情を受け取ってくださいな?」



「プハッ…!ロッティ!!この縄を解きなさい!」


「馴れ馴れしく呼ばないでいただけますか伯爵様」


 とりあえず状況を把握する為、ランドールが口の拘束を解く。ただし床には転がしたまま、シャルロットはセレスタンの隣に躊躇いながらも腰掛けた。

 さて、シャルロット曰く…



「セレスがいなくなった後、使用人はバジル以外暇を出しましたわ。

 伯爵とお母様を部屋に閉じ込めて、弱味を探す為書斎とか色々調べたら、まあ不正の証拠がたんまりと。

 こちらから通報しようかと思いましたが手間が省けました。どうせ家宅捜索なさるのでしょう?お早めにどうぞ」


 シャルロットはなんでもないように語る。説明の手間が省けてしまった。

 だがこの程度じゃ精々罰金、投獄は無理か…と舌打ちする。せめてど田舎に飛ばしてやる、二度とその面拝めないようにな…と忌々しげに眉間に皺を寄せる。


「私はお母様の面倒を見る気も無いので、実家の侯爵家へ帰します。お祖父様も伯父様も歓迎してくれるでしょう」


 元々アニカの実家、タルナート侯爵家はボリス・ラサーニュを快く思っていなかった。それは侯爵家のお姫様を攫ってしまったから。そのせいか双子もあまり好かれてはいない。


「お祖父様はこの機に離縁でもさせるかも。どうでもいいけれど」


 お茶で喉を潤して、父親だった人を見下ろす。伯爵の顔は赤く腫れ上がっており、引き摺られたので服はボロボロ、手足も傷だらけ。

 誤解だ!違う!!と散々喚き、シャルロットが「黙りなさい」と言いながら頭を踏み付ける。


「ぐう…!どうしたんだいロッティ!?君は優しい女の子じゃないか!!」


「……ハッ」


「そ、その辺で…」


 鼻で笑い、伯爵の頭部を蹴飛ばす。これ以上は…とオーバンが止めに入った。

 シャルロットはオーバンを一瞥して、もう一度冷めた視線を伯爵に向ける。



「先生。この男にとって暴力はスキンシップなんですって」


「…………そう、なの?」


 はい、と最高の笑顔を見せる。その姿はどこからどう見ても絶世の美少女、運悪く拝んでしまったら少年達の初恋を悉く奪うだろう。

 ただ…持っている縄の先に中年男性が繋がれていなければ、だが。


「この男はセレスが幼い頃から暴力を振るっていたと聞きました。何故そんな事を?と訊ねたら…愛情表現だと言うのです。教育の為に、良かれと思ってだと。

 ですから…ほら、私の愛情を受け取ってくださいな?」


「あぐ…っ!」


 シャルロットは脇腹に強い蹴りを入れる。伯爵は衝撃に身体をくの字に曲げた。


「ね?」


「あー…ウン、ソウネ…」


 オーバンもランドールも、セレスタンを虐げてきた伯爵に思うところはある。なので「家庭の事情に首を突っ込んじゃなんねえな!」と傍観を決めこむ。


「あら伯爵様、どうしてお顔を歪めていらっしゃるの?私は「良かれと思って」やっていますの。

 素敵よね、魔法の言葉「良かれと思って」!!そう言えばなんでも正当化されるのでしょう?

 セレスに知識や食事を与えないのも!服や装飾品を与えないのも!!暴力も!!!全て「良かれと思って」「お前の為に」!!」


 バジルも絶対零度の視線を伯爵に刺す。散々セレスタンを苦しめ、仲間である浮浪児達が死んだ全ての元凶。そんな男の無様な姿に溜飲が下がる。

 誰も止める者はおらず、シャルロットの靴は伯爵の身体にめり込んでいく。

 流石に…とセレスタンが動こうとしたら。シャルロットが、涙を流している事に気付いた。



「……何よりも。ずっと側にいたのに…全く気付かなかった自分が腹立たしいわ」


「……………」


 セレスタンは唇を噛む。


 やめて…もう君を嫌いになりたいのに。嫌われたいのに。そんな…涙を流さないで。

 言葉に出来るはずもなく、懐からハンカチを取り出して、シャルロットの膝の上に投げた。


「……ブッサイクだね。そんなもの見せないでくれる?」


「…ふふ、ごめんね」


 シャルロットは悲しげに笑って、ハンカチで顔を拭いた。



 そこへ様子を見に来たルシアンとハーヴェイが合流して…部屋の惨劇にドン引きする。

 ハーヴェイが伯爵を肩に担ぎ、その辺の空き部屋に突っ込んどきます。と運び出した。



「…セレス」


「はへ」


 セレスタンは伯爵の情けない姿に…「なんで()()に怯えてたんだろう?」と不思議な気分になっていた。そこへ声を掛けられて、気の抜けた返事をしてしまう。

 シャルロットは可愛い…と思いながら、ゆっくりと立ち上がってセレスタンに頭を下げた。


「今まで、本当にごめんなさい。私は今まで何も理解していなかった…貴方の表面しか見ていなかった。

 ずっとずっと苦しんでいた貴方に気付かなかった。大好きな…兄妹なのに。本当に…ごめんなさい」


「……………」



 もういいよ、と己の意思に反して言葉が喉まで出かかった。それを必死に呑み込み…涙も堪えて、顔を背けるので精一杯だった。


 許したい。今すぐ自分の全てを打ち明けて…姉妹として生きたい。


「(いいや…もう遅い!!)」


 膝の上で拳を握る。爪が手のひらに食い込み血が流れても、首を縦に振る事は出来ない。


「……ランディ兄様。さっきの話…ラサーニュ令嬢……シャルロットにもしてあげて」


「…うん、分かった。じゃあ──」



 セレスタンの言葉に、シャルロットは僅かに目を開く。すぐにその目を伏せて…次に開いた時は。

 覚悟を決めたような力強い表情でランドールを見据え、説明を求めた。


「(お兄様…

 今の私に出来るのは、伯爵の尻拭い。領地を立て直す事だけ。いつか落ち着いたら…もう一度謝罪します。私の…愛するお兄様…)」




 ※




 一通り聞き終わると、シャルロットは口元を手で覆って唸った。


「……白金貨2000枚か…返せない額ではありませんね」


「うっそぉ!?……ごふっ、げふん…」


 セレスタンにとってはとてつもない大金なのに、シャルロットはそう言ってみせた。


「もちろん簡単ではないけれど…学業と仕事の両立もしないと…」



 シャルロットは、本当は自分が退学して…節約&伯爵の座を奪ってしまおうとも思ったが。

 アカデミーを退学するというのはとても不名誉な事。今後も貴族として生きていくなら、それは避けるべきと言う。

 バジルは退学すると主張するが、双子が同時に「駄目」と否定。


「どうせすぐに噂は広まるでしょうね。ほんっとに余計な事しかしない男だったわ…(まあ、お兄様と双子で産んでくれた事だけは両親に感謝ね)

 目に見えて散財するのは悪手だけど、極貧生活なんて見せたら社交界では舐められるだけだわ。だからバジルも通うのよ。

 私のドレスや装飾品は…必要な物を残して売ってしまいましょう。使用人は…バジル1人では負担が大きすぎるから、メイドを1人くらい雇うしか…」


「屋敷の使わない部屋は封鎖してしまえば、僕1人でも…」


「駄目だってば。信用できる…ナディアちゃんに頼んでみようかな…」



 セレスタンとシャルロットは互いに遠慮しつつも、意見を出し合っている。バジルはその光景に目頭が熱くなっている。それを悟られぬよう、平静を装い3人で会議を続ける。


「私がお金持ちの男性を捕まえて…現実的じゃないわね」


「……政略結婚って事?」


「そうなる…のかしら?援助してもらえる家とか…」


「やめなよみっともない。お金の為なら誰でもいいって吹聴する気?若い女性大好きな、変態貴族のオッサンが相手でもいいっての?」


「セレス…?」


 セレスタンは眉を寄せて、テーブルに肘を突き顎を支える。


「(愛の無い結婚なんてさせてたまるか。絶対に、ロッティを愛して幸せにしてくれる男性じゃないと…!!)」


 自分は政略結婚も視野に入れていたというのに、妹にさせる気は無いらしい。セレスタンの場合…相手がオーバンとルシアンだから、最悪彼らなら…という思いもあるが。


「(第一候補はジスラン。他は…ラブレーもなんやかんやいい奴だし。マクロン様も、弟さんがいるって言うし。大穴でバジル…いや身分差が…)」


 セレスタンはラサーニュ家に婿入りしてくれそうな、頼れそうな男性をピックアップする。アリス君はどうかな…そういえばルシアンは…ちらりと逆隣に座るルシアンに目を向ける。

 すると彼は何かを悟ったのか、高速で顔をブンブン横に振る。


「(駄目か…残念)とにかく結婚とか、アホな真似しないでよね。

 何か事業でも…まず軍資金が必要か」


 結婚の話題は強引に切り、話し合いは続く。




「伯爵の私物はパンツから靴下まで、全部売り飛ばしましょう」


「はしたないですよお嬢様…」


「僕だったら金貰っても要らないけどね」


「セレス様も…」


 大真面目な顔でそんな会話をする姉妹に、バジルは呆れ半分笑い半分。


「はぁ…親の負債は子供に継がせない法律とか無いのかしら?無理だろうけど」


「ラサーニュ伯爵は追い出すんだろう?誰か頼れる親戚はいないのか?」


「…母方の親戚は頼れないでしょうね。父方も…これまで伯爵を蹴落とそうとしていた連中ばかり。今後借金まみれになる家など、向こうから縁切りを申し込んでくるでしょう」


「そうか…」


 オーバンは「ちょい席外すわ」と退室する。



「今更だけど…なんで先生がここにいるのかしら?」


「…僕の後見人だからだよ」


「「え」」


 シャルロットとバジルが揃って声を上げる。


「もう書類出したから。僕はラサーニュの人間じゃないから」


「…そっか」


 それなら…お兄様に苦労させる事は無いわね、とシャルロットは安堵する。どうしてオーバンがそこまでセレスタンに肩入れしているのかは知らないが、お兄様をお願い…と心の中で祈った。


 同時に、セレスタンが頼る相手は自分じゃないんだな…と心を痛める。今更都合の良い考えとは理解しているけれど。


「(…私を頼って欲しかった。信じて欲しかった。寄り掛かって欲しかった…!!)」


「教会売れないかな?でも人が住んでるから、まず孤児院を町中に作んないと」


「そうですね…確か国に申請すれば補助金が出るのでは?」


「私のほうから父上にも言っておこう」


 いつの間にかルシアンも話し合いに参加し、気付けば夕暮れ。シャルロットは伯爵を再び引き摺り領地に帰って行く。



「いだだだだっ!!」


「お兄様はアンタとは比べ物にならない程苦しんだのよ」


「お嬢様、この後伯爵様はどうなさいますか?」


「…ひとまず私は学園を休むわ。屋敷にコイツ1人置いといて、証拠隠滅でもされたら厄介だし。

 娘の最後の情けで、田舎に家を用意してあげる。そこから一生出て来れないように、ね」


「では僕も」


 シャルロットとバジルは、最後にセレスタンに手を振った。セレスタンは控えめに返したが…2人の顔は夕日の逆光により見えない。

 それがなんだか悲しげに見えて。今すぐ抱き締めたい衝動に駆られるが、ぐっと堪えて背を向ける。




「(…大丈夫、大丈夫だ…!脱税と横領程度では大した罪にならん。家宅捜索と言っても精々書斎だろう。寝室に隠したあれやそれは見つからん!

 ふ、ふふ…!屋敷を追い出されようと、いつかタイミングを見て回収すれば…!!)」


 伯爵は馬車の床に転がされほくそ笑む。頭をグリグリと踏まれながらも、その瞳は光を失っていなかった。



「「(縛られて踏まれてるのに、何笑ってんだろうこの人…)」」



 シャルロットとバジルは、伯爵にドM疑惑を持ち始めた。




 ※※※




 翌日、学園にて。


「せんせー、今日のお弁当」


「おう、悪いな」


 セレスタンは医務室に配達をしていた。昨日オーバンは会議室を出た後戻って来ず、何をしていたの?と訊ねてみる。


「ま、色々。それより伯爵家の使用人問題はどうなった?」


「ナディアちゃんにお願いした。精霊屋敷のほうは僕とおじいちゃんだけで大丈夫!って言ってね。

 渋々って感じだったけど、信頼出来る人を雇うまでの繋ぎで納得してくれた」


 もう今頃ラサーニュ邸じゃないかな、と窓の外を眺める。これから忙しくなるなあ…と呟き、眉を下げてため息をつく。



 医務室を後にして、パタパタと廊下を走り教室へ。


「(教室…直ってる〜。魔術かな?)」


 自分が破壊した教室を眺めて、席に座りカバンから教科書を出し準備をする。

 すると彼女を待っていたのか、2人の男子生徒がガタッと立ち上がる。ニヤニヤと笑いながら、机の前に立ち彼女を見下ろした。



「よ〜お、男女ちゃん?」


「………」


「これ、お前だろ?」


 背の低いほうの男子が、1枚の写真を机の上に落とす。それは…パーカーにショートパンツ姿のセレスタン。


「どっからどう見ても女じゃん、お前そういう趣味だったんだな〜」


 顔にソバカスのある男子が、セレスタンの顔をジロジロ見ながら言う。セレスタンは…フッと口角を上げる。


「それが何?似合うんだからしょうがないよね〜。てかさあ、モテないからって僕に欲情すんのやめてくれる?」


「「な…っ」」


「そうでしょ?君ら散々シャルロットにアピールして、見向きもされなかったじゃん?同じ顔の僕で我慢すっか…とか考えてんじゃない?」


 セレスタンは指で頬を撫で、男子達に流し目を送る。それだけで2人は顔を染めて喉を鳴らした。


「あは、図星?」


「ぐぅ…!じゃ、じゃあこっちはなんだよ!?」


 ソバカスがもう1枚を机に叩き付ける。そこには…髪を黒く染めた、ワンピース姿のセレスタンがいた。あまりにもお粗末な変装である。

 周囲の生徒達も覗き込み、写真とセレスタンを見比べる。そのざわつきは次第に大きくなる。

 女装趣味…キモ…でも似合う…可愛い…という声がちらほらと。否定もちらほら聞こえるが、肯定的な意見が多いようだ。


「あははっ、これでも言い逃れする気か!?」


 ただセレスタンも、一応の言い訳は考えてあった。使う日が来るとは思っていなかったが。



「ファイ」


 名を呼べば、胸元から煙が一瞬にして広がった。火事か!?と教室中が騒がしくなったが、すぐに収まる。

 収束した煙は…黒髪のセレスタンの姿をしていた。誰もが口を開けて呆ける中、セレスタンがファイを引き寄せ膝に横向きに乗せる。


「この子、風の上級精霊ジン。煙が本体で、どんな姿にもなれるの。そんでよく僕になって遊んでるんだ、可愛いでしょ?」


 ファイはニコニコと笑いながら、セレスタンの首に腕を回して頬擦りをする。セレスタンは目を細めて受け入れ、頭を撫でたり頬にキスをしたり。

 側から見ると…可愛い女の子がイチャついているようにしか映らず、教室に微笑ましげなムードが漂う。


 喧嘩を売ってきた2人は、分が悪いと判断したのかスゴスゴ去って行く。写真はこっそり手を伸ばしたジスランが回収していた。





「ごめんねファイ〜!」


「いいのですよ。我が君の力になれて嬉しいのです!」


 あの後ルシアンに連れられ、いつもの階段上。セレスタンとファイは抱き合ってきゃーきゃー戯れている。


「……其方、今後そのキャラでいくのか?」


「キャラ?なんの事です?」


「だから…小悪魔、ギャル?それかナルシスト的な」


「うぐ…!!」


 セレスタンは教室での振る舞いを思い出し、羞恥に唸り声を上げた。

 僕って可愛いから〜、女の子っぽい服も似合っちゃうんだよね〜。男にそういう目で見られちゃって困る〜…といった趣旨の発言をしてしまった。

 咄嗟の対応だったとはいえ、今後教室でどんな顔をすりゃいいんだ…!と頭を抱える傍ら。ルシアンも顎に手を添えて唸っていた。


「(それなら私は…ウザ、いや…傲慢な、俺様系でいくか…?)」


 彼らは一体どこを目指しているのやら。




 ※※※




「一通りは終了した。伯爵の財産を全て計算するとこのくらいで…裁判は…」


「ふむふむ」


 昼時、ラサーニュ邸。家宅捜索も終了、応接間にてシャルロットはランドールと言葉を交わしている。


「それで、今後の統治なんだが。ラサーニュ嬢の在学中は第二皇子…ルクトルに任せてみないか?」


「え?なぜ…?」


 ラサーニュの親族は予想以上に行動が早く、午前中には縁切りを言い渡してきた。夫人は「旦那様と離れないわ!!」と泣き喚くが、父親と弟に実家に連れて行かれた。

 その為代理人をどうしよう、と頭を悩ませていたのだが。ここでまさかのルクトルである。


「まあ本人も…勉強になるし、力になりたいって言ってくれているし。推薦もあってな」


「推薦…?」


 言葉を繰り返すも、ランドールはそれ以上教えてくれなかった。もちろん、負債を返すのはシャルロットの仕事だけれど。伯爵業をこなしてくれるだけで大助かりである。

 それもきっと、確実にセレスタンの人徳のお陰だろう。シャルロットは涙を誤魔化す為、目頭を押さえて俯いた。



「(本当に…私はお兄様に助けられてばかり。お兄様を守ってきたつもりだったけれど、全て逆効果だった。

 何も知らずに…お兄様を追い詰めていた。お兄様…)」


「……ラサーニュ嬢?」


 向かいのソファーに座るランドールも、後ろに立つバジルとナディアも首を傾げる。


「(……戻りたい。仲良し兄妹だった頃に。いえ…

 もっと…もっと幼い頃から、私が周囲の本性を見抜いていれば…!)」


 シャルロット本人は気付いていないが…彼女の身体がほんのり光を帯びている。



「戻りたい…お兄様が、心に傷を負う前に…」


「お、お嬢様…?」


 シャルロットは両手で顔を覆い、ギリギリと己を締め付ける。

 私がしっかりしていれば、お兄様は頼ってくれたはず。でも今は…謝罪すら満足に出来ない。

 加害者にはその権利すら無いのだ、とシャルロットは考えている。


 許してもらえるまで何度でも…なんて相手を責めているようなもの。周囲の人間は「ここまで謝ってるんだから、許してあげれば?」と被害者を諭すかもしれない。

 本人だって苦しむはずだ。現に昨日謝罪した時、セレスタンは身体を震わせながら顔を背けてしまった。



 戻りたい。戻りたい…戻りたい…!!セレスタンがまだ、苦しみを知らなかった頃に!!シャルロットの届くはずの無い願いは…



「…………え?」


「ラサーニュ嬢!?」


「シャルロット様!?」


「お嬢様っ!?」


 想いが強くなる程…シャルロットの輝きが増してきた。

 それは一瞬、部屋を覆い尽くす強い光を放つ。


「……っ!………?」


 バジルはシャルロットを抱き締めて、全員閃光に耐え切れず強く目を瞑る。

 数秒後、恐る恐る目を開けると…いつものシャルロットに戻っていた。呆然と自分の両手を見下ろし、バジルと顔を合わせる。



「「「「???」」」」




 一方、その頃。



「ぎゃーーーっ!!?何々ナニこれ、僕光ってるー!!?」


「落ち着けっ、セレスー!!」


「なんじゃこりゃ!?水ぶっ掛けるか!?」


「「「「我が君ー!!?」」」」


 セレスタン、ルシアン、アリスティドは屋上にいた。

 ただ…食事中セレスタンが発光した。本当に突然、暑くなってきたね〜と話していた時。

 本人は大パニックで走り回り、それを男2人が追いかける。精霊も慌てて原因を探ろうとするも、何も掴めず。ただセレネのみ、狼狽しつつも何かを感知した。


「これは…クロノスの魔力…!?」


 怖くなってきたセレスタンは泣き出した。うわーん、消してーーー!!と大騒ぎ。



「わーーーん!!………へ、ぁ…?」



 徐々に輝きが増して、一際強い光を放つ。皆眩しさから顔を覆い、数秒後恐る恐る目を開けると……



「………う?」



「「…………」」


 パサ…という音と共に、セレスタンの制服が床に落ちた。何を勘違いしたのか、アリスティドは真っ赤になり背を向けた。

 だが…彼女は服を脱いだ訳でも、消えた訳でもない。


「…だえ?」


「へ……」


 今ルシアンの前方に。セレスタンの服を纏った…幼い子供が座っている。緋色の髪に金の瞳、その子はキョロキョロと頭を動かした後、立ち尽くすルシアンに焦点を合わせた。

 林檎のように赤いほっぺを揺らし、小さな口から細い声を出す。


「おにーたん、だえ?」


「………ルシアン。こっちはアリスティド」


「うちあん、あちゅてど?」


 その声に反応したアリスティドも、ゆっくりと子供に目を向けた。

 子供はよっこいて、と立ち上がろうとする。だが…ダボダボの制服を踏んづけてしまい、ビタン!と床に顔面を叩き付けた。


「あいてー、ちっぱいちた」


 子供は鼻を押さえながら立ち上がり、服を引き摺って歩く。小さな手でルシアンの裾を掴み見上げる。


「うちあん、ここどこ?てーのおうちは?」


「……てーってなんだ?」


「てーだよ。てえうたん」


 子供は自分を指しながら言う。見たところ3歳程だろうが、かなりの舌足らずで聞き取りづらい。


「てえうたん…セレスタン?」


 こくり…と頷いた。ルシアンは半ば放心しながら、セレスタンと名乗る子供を抱き上げる。

 脇の下に手を入れれば、スラックスと男物の下着がずり落ちた。冷静に…パンツは穿かせて紐をぎゅーっと縛る。

 ジャケットが重そうなので脱がせる。ネクタイも外すと、シャツとベストがワンピースのようになった。はみ出ているサラシも邪魔そうなので引っ張り、ファイのペンダントも危ないので回収。



「くるう!?くーく、くるるぅ!!?」


「あー、わんちゃん。まっちよ、かわいい!」


 セレネは何故か人語を発しない。天使達とファイも…口をパクパクさせているが言葉になっていない。



 パニックで暴れるセレネ。飛び回る精霊達。立ち尽くすルシアンとアリスティド。きゃっきゃと笑うセレスタン(仮)。初夏の爽やかな風が彼らを包む、昼下がり。




「……助けて叔父上ーーーっ!!!」


「うきゃー」


「おい殿下!?」


 すううっと深呼吸をしたルシアンが、絶叫しながら屋上を飛び出した。子供を大事に抱き、一心不乱に医務室を目指す。



 だだだだだだだっ!!


「…ん?今の殿下じゃねえか?」


「何か抱えていましたわね」


「赤い…髪のような物が見えたが」


「でも、あの大きさでは…」


 廊下には多くの生徒がいたが、皆ルシアンの形相に道を譲る。途中エリゼ、ルネ、ジスラン、パスカルの横も通り過ぎた。



「おいいいい!!どこいくんスか!!!」


 次いでアリスティドがヒュンッ!と走り去る。そんな彼の頭上や肩に、精霊がくっ付いていたのを見逃さなかった。


「今の犬と天使…セレスの?」


「アイツが持ってたカバン、朝ラサーニュが持ってたやつじゃねえ?(弁当用)」


 4人の間に沈黙が落ちて…後を追う事にした。



「叔父上!!叔父上ええええっ!!!」


「うおっ?学園でその呼び方すんなよ…………は?」


 大きな音を立てながら扉を開けると、オーバンは肩を跳ねさせた。若干苛立ちつつそちらを見ると、持っていたペンを床に落とす。


 カツー…ン…カラカラ…と、転がる音がやけに大きく響く。


「…………」


 甥っ子の腕の中に…見覚えしかない特徴の幼子が。子供はオーバンをじっと見つめ、へにゃりと笑う。その笑顔も、どこからどう見ても()()()だ。つまり母親は…そして父親は…


 オーバンは子供とルシアンの顔を交互に見て。天を仰ぎ…深呼吸をして。



「………認知しるろらrrrrれやテメエエエエエッ!!!」


「私の子じゃなあああーーーい!!!」



 火に油を注いでしまったようである。



実はバジルも伯爵に蹴りを入れている

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― 新着の感想 ―
[一言] 赤ん坊になってしまったセレスタン、願ってしまったシャルロットはどうなってしまったのかな。家宅捜索って屋敷全体調べるはずだから寝室も対象になりますよね。更なる罪状も出てくるかな。
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