「ほら、私の愛情を受け取ってくださいな?」
「プハッ…!ロッティ!!この縄を解きなさい!」
「馴れ馴れしく呼ばないでいただけますか伯爵様」
とりあえず状況を把握する為、ランドールが口の拘束を解く。ただし床には転がしたまま、シャルロットはセレスタンの隣に躊躇いながらも腰掛けた。
さて、シャルロット曰く…
「セレスがいなくなった後、使用人はバジル以外暇を出しましたわ。
伯爵とお母様を部屋に閉じ込めて、弱味を探す為書斎とか色々調べたら、まあ不正の証拠がたんまりと。
こちらから通報しようかと思いましたが手間が省けました。どうせ家宅捜索なさるのでしょう?お早めにどうぞ」
シャルロットはなんでもないように語る。説明の手間が省けてしまった。
だがこの程度じゃ精々罰金、投獄は無理か…と舌打ちする。せめてど田舎に飛ばしてやる、二度とその面拝めないようにな…と忌々しげに眉間に皺を寄せる。
「私はお母様の面倒を見る気も無いので、実家の侯爵家へ帰します。お祖父様も伯父様も歓迎してくれるでしょう」
元々アニカの実家、タルナート侯爵家はボリス・ラサーニュを快く思っていなかった。それは侯爵家のお姫様を攫ってしまったから。そのせいか双子もあまり好かれてはいない。
「お祖父様はこの機に離縁でもさせるかも。どうでもいいけれど」
お茶で喉を潤して、父親だった人を見下ろす。伯爵の顔は赤く腫れ上がっており、引き摺られたので服はボロボロ、手足も傷だらけ。
誤解だ!違う!!と散々喚き、シャルロットが「黙りなさい」と言いながら頭を踏み付ける。
「ぐう…!どうしたんだいロッティ!?君は優しい女の子じゃないか!!」
「……ハッ」
「そ、その辺で…」
鼻で笑い、伯爵の頭部を蹴飛ばす。これ以上は…とオーバンが止めに入った。
シャルロットはオーバンを一瞥して、もう一度冷めた視線を伯爵に向ける。
「先生。この男にとって暴力はスキンシップなんですって」
「…………そう、なの?」
はい、と最高の笑顔を見せる。その姿はどこからどう見ても絶世の美少女、運悪く拝んでしまったら少年達の初恋を悉く奪うだろう。
ただ…持っている縄の先に中年男性が繋がれていなければ、だが。
「この男はセレスが幼い頃から暴力を振るっていたと聞きました。何故そんな事を?と訊ねたら…愛情表現だと言うのです。教育の為に、良かれと思ってだと。
ですから…ほら、私の愛情を受け取ってくださいな?」
「あぐ…っ!」
シャルロットは脇腹に強い蹴りを入れる。伯爵は衝撃に身体をくの字に曲げた。
「ね?」
「あー…ウン、ソウネ…」
オーバンもランドールも、セレスタンを虐げてきた伯爵に思うところはある。なので「家庭の事情に首を突っ込んじゃなんねえな!」と傍観を決めこむ。
「あら伯爵様、どうしてお顔を歪めていらっしゃるの?私は「良かれと思って」やっていますの。
素敵よね、魔法の言葉「良かれと思って」!!そう言えばなんでも正当化されるのでしょう?
セレスに知識や食事を与えないのも!服や装飾品を与えないのも!!暴力も!!!全て「良かれと思って」「お前の為に」!!」
バジルも絶対零度の視線を伯爵に刺す。散々セレスタンを苦しめ、仲間である浮浪児達が死んだ全ての元凶。そんな男の無様な姿に溜飲が下がる。
誰も止める者はおらず、シャルロットの靴は伯爵の身体にめり込んでいく。
流石に…とセレスタンが動こうとしたら。シャルロットが、涙を流している事に気付いた。
「……何よりも。ずっと側にいたのに…全く気付かなかった自分が腹立たしいわ」
「……………」
セレスタンは唇を噛む。
やめて…もう君を嫌いになりたいのに。嫌われたいのに。そんな…涙を流さないで。
言葉に出来るはずもなく、懐からハンカチを取り出して、シャルロットの膝の上に投げた。
「……ブッサイクだね。そんなもの見せないでくれる?」
「…ふふ、ごめんね」
シャルロットは悲しげに笑って、ハンカチで顔を拭いた。
そこへ様子を見に来たルシアンとハーヴェイが合流して…部屋の惨劇にドン引きする。
ハーヴェイが伯爵を肩に担ぎ、その辺の空き部屋に突っ込んどきます。と運び出した。
「…セレス」
「はへ」
セレスタンは伯爵の情けない姿に…「なんでアレに怯えてたんだろう?」と不思議な気分になっていた。そこへ声を掛けられて、気の抜けた返事をしてしまう。
シャルロットは可愛い…と思いながら、ゆっくりと立ち上がってセレスタンに頭を下げた。
「今まで、本当にごめんなさい。私は今まで何も理解していなかった…貴方の表面しか見ていなかった。
ずっとずっと苦しんでいた貴方に気付かなかった。大好きな…兄妹なのに。本当に…ごめんなさい」
「……………」
もういいよ、と己の意思に反して言葉が喉まで出かかった。それを必死に呑み込み…涙も堪えて、顔を背けるので精一杯だった。
許したい。今すぐ自分の全てを打ち明けて…姉妹として生きたい。
「(いいや…もう遅い!!)」
膝の上で拳を握る。爪が手のひらに食い込み血が流れても、首を縦に振る事は出来ない。
「……ランディ兄様。さっきの話…ラサーニュ令嬢……シャルロットにもしてあげて」
「…うん、分かった。じゃあ──」
セレスタンの言葉に、シャルロットは僅かに目を開く。すぐにその目を伏せて…次に開いた時は。
覚悟を決めたような力強い表情でランドールを見据え、説明を求めた。
「(お兄様…
今の私に出来るのは、伯爵の尻拭い。領地を立て直す事だけ。いつか落ち着いたら…もう一度謝罪します。私の…愛するお兄様…)」
※
一通り聞き終わると、シャルロットは口元を手で覆って唸った。
「……白金貨2000枚か…返せない額ではありませんね」
「うっそぉ!?……ごふっ、げふん…」
セレスタンにとってはとてつもない大金なのに、シャルロットはそう言ってみせた。
「もちろん簡単ではないけれど…学業と仕事の両立もしないと…」
シャルロットは、本当は自分が退学して…節約&伯爵の座を奪ってしまおうとも思ったが。
アカデミーを退学するというのはとても不名誉な事。今後も貴族として生きていくなら、それは避けるべきと言う。
バジルは退学すると主張するが、双子が同時に「駄目」と否定。
「どうせすぐに噂は広まるでしょうね。ほんっとに余計な事しかしない男だったわ…(まあ、お兄様と双子で産んでくれた事だけは両親に感謝ね)
目に見えて散財するのは悪手だけど、極貧生活なんて見せたら社交界では舐められるだけだわ。だからバジルも通うのよ。
私のドレスや装飾品は…必要な物を残して売ってしまいましょう。使用人は…バジル1人では負担が大きすぎるから、メイドを1人くらい雇うしか…」
「屋敷の使わない部屋は封鎖してしまえば、僕1人でも…」
「駄目だってば。信用できる…ナディアちゃんに頼んでみようかな…」
セレスタンとシャルロットは互いに遠慮しつつも、意見を出し合っている。バジルはその光景に目頭が熱くなっている。それを悟られぬよう、平静を装い3人で会議を続ける。
「私がお金持ちの男性を捕まえて…現実的じゃないわね」
「……政略結婚って事?」
「そうなる…のかしら?援助してもらえる家とか…」
「やめなよみっともない。お金の為なら誰でもいいって吹聴する気?若い女性大好きな、変態貴族のオッサンが相手でもいいっての?」
「セレス…?」
セレスタンは眉を寄せて、テーブルに肘を突き顎を支える。
「(愛の無い結婚なんてさせてたまるか。絶対に、ロッティを愛して幸せにしてくれる男性じゃないと…!!)」
自分は政略結婚も視野に入れていたというのに、妹にさせる気は無いらしい。セレスタンの場合…相手がオーバンとルシアンだから、最悪彼らなら…という思いもあるが。
「(第一候補はジスラン。他は…ラブレーもなんやかんやいい奴だし。マクロン様も、弟さんがいるって言うし。大穴でバジル…いや身分差が…)」
セレスタンはラサーニュ家に婿入りしてくれそうな、頼れそうな男性をピックアップする。アリス君はどうかな…そういえばルシアンは…ちらりと逆隣に座るルシアンに目を向ける。
すると彼は何かを悟ったのか、高速で顔をブンブン横に振る。
「(駄目か…残念)とにかく結婚とか、アホな真似しないでよね。
何か事業でも…まず軍資金が必要か」
結婚の話題は強引に切り、話し合いは続く。
「伯爵の私物はパンツから靴下まで、全部売り飛ばしましょう」
「はしたないですよお嬢様…」
「僕だったら金貰っても要らないけどね」
「セレス様も…」
大真面目な顔でそんな会話をする姉妹に、バジルは呆れ半分笑い半分。
「はぁ…親の負債は子供に継がせない法律とか無いのかしら?無理だろうけど」
「ラサーニュ伯爵は追い出すんだろう?誰か頼れる親戚はいないのか?」
「…母方の親戚は頼れないでしょうね。父方も…これまで伯爵を蹴落とそうとしていた連中ばかり。今後借金まみれになる家など、向こうから縁切りを申し込んでくるでしょう」
「そうか…」
オーバンは「ちょい席外すわ」と退室する。
「今更だけど…なんで先生がここにいるのかしら?」
「…僕の後見人だからだよ」
「「え」」
シャルロットとバジルが揃って声を上げる。
「もう書類出したから。僕はラサーニュの人間じゃないから」
「…そっか」
それなら…お兄様に苦労させる事は無いわね、とシャルロットは安堵する。どうしてオーバンがそこまでセレスタンに肩入れしているのかは知らないが、お兄様をお願い…と心の中で祈った。
同時に、セレスタンが頼る相手は自分じゃないんだな…と心を痛める。今更都合の良い考えとは理解しているけれど。
「(…私を頼って欲しかった。信じて欲しかった。寄り掛かって欲しかった…!!)」
「教会売れないかな?でも人が住んでるから、まず孤児院を町中に作んないと」
「そうですね…確か国に申請すれば補助金が出るのでは?」
「私のほうから父上にも言っておこう」
いつの間にかルシアンも話し合いに参加し、気付けば夕暮れ。シャルロットは伯爵を再び引き摺り領地に帰って行く。
「いだだだだっ!!」
「お兄様はアンタとは比べ物にならない程苦しんだのよ」
「お嬢様、この後伯爵様はどうなさいますか?」
「…ひとまず私は学園を休むわ。屋敷にコイツ1人置いといて、証拠隠滅でもされたら厄介だし。
娘の最後の情けで、田舎に家を用意してあげる。そこから一生出て来れないように、ね」
「では僕も」
シャルロットとバジルは、最後にセレスタンに手を振った。セレスタンは控えめに返したが…2人の顔は夕日の逆光により見えない。
それがなんだか悲しげに見えて。今すぐ抱き締めたい衝動に駆られるが、ぐっと堪えて背を向ける。
「(…大丈夫、大丈夫だ…!脱税と横領程度では大した罪にならん。家宅捜索と言っても精々書斎だろう。寝室に隠したあれやそれは見つからん!
ふ、ふふ…!屋敷を追い出されようと、いつかタイミングを見て回収すれば…!!)」
伯爵は馬車の床に転がされほくそ笑む。頭をグリグリと踏まれながらも、その瞳は光を失っていなかった。
「「(縛られて踏まれてるのに、何笑ってんだろうこの人…)」」
シャルロットとバジルは、伯爵にドM疑惑を持ち始めた。
※※※
翌日、学園にて。
「せんせー、今日のお弁当」
「おう、悪いな」
セレスタンは医務室に配達をしていた。昨日オーバンは会議室を出た後戻って来ず、何をしていたの?と訊ねてみる。
「ま、色々。それより伯爵家の使用人問題はどうなった?」
「ナディアちゃんにお願いした。精霊屋敷のほうは僕とおじいちゃんだけで大丈夫!って言ってね。
渋々って感じだったけど、信頼出来る人を雇うまでの繋ぎで納得してくれた」
もう今頃ラサーニュ邸じゃないかな、と窓の外を眺める。これから忙しくなるなあ…と呟き、眉を下げてため息をつく。
医務室を後にして、パタパタと廊下を走り教室へ。
「(教室…直ってる〜。魔術かな?)」
自分が破壊した教室を眺めて、席に座りカバンから教科書を出し準備をする。
すると彼女を待っていたのか、2人の男子生徒がガタッと立ち上がる。ニヤニヤと笑いながら、机の前に立ち彼女を見下ろした。
「よ〜お、男女ちゃん?」
「………」
「これ、お前だろ?」
背の低いほうの男子が、1枚の写真を机の上に落とす。それは…パーカーにショートパンツ姿のセレスタン。
「どっからどう見ても女じゃん、お前そういう趣味だったんだな〜」
顔にソバカスのある男子が、セレスタンの顔をジロジロ見ながら言う。セレスタンは…フッと口角を上げる。
「それが何?似合うんだからしょうがないよね〜。てかさあ、モテないからって僕に欲情すんのやめてくれる?」
「「な…っ」」
「そうでしょ?君ら散々シャルロットにアピールして、見向きもされなかったじゃん?同じ顔の僕で我慢すっか…とか考えてんじゃない?」
セレスタンは指で頬を撫で、男子達に流し目を送る。それだけで2人は顔を染めて喉を鳴らした。
「あは、図星?」
「ぐぅ…!じゃ、じゃあこっちはなんだよ!?」
ソバカスがもう1枚を机に叩き付ける。そこには…髪を黒く染めた、ワンピース姿のセレスタンがいた。あまりにもお粗末な変装である。
周囲の生徒達も覗き込み、写真とセレスタンを見比べる。そのざわつきは次第に大きくなる。
女装趣味…キモ…でも似合う…可愛い…という声がちらほらと。否定もちらほら聞こえるが、肯定的な意見が多いようだ。
「あははっ、これでも言い逃れする気か!?」
ただセレスタンも、一応の言い訳は考えてあった。使う日が来るとは思っていなかったが。
「ファイ」
名を呼べば、胸元から煙が一瞬にして広がった。火事か!?と教室中が騒がしくなったが、すぐに収まる。
収束した煙は…黒髪のセレスタンの姿をしていた。誰もが口を開けて呆ける中、セレスタンがファイを引き寄せ膝に横向きに乗せる。
「この子、風の上級精霊ジン。煙が本体で、どんな姿にもなれるの。そんでよく僕になって遊んでるんだ、可愛いでしょ?」
ファイはニコニコと笑いながら、セレスタンの首に腕を回して頬擦りをする。セレスタンは目を細めて受け入れ、頭を撫でたり頬にキスをしたり。
側から見ると…可愛い女の子がイチャついているようにしか映らず、教室に微笑ましげなムードが漂う。
喧嘩を売ってきた2人は、分が悪いと判断したのかスゴスゴ去って行く。写真はこっそり手を伸ばしたジスランが回収していた。
「ごめんねファイ〜!」
「いいのですよ。我が君の力になれて嬉しいのです!」
あの後ルシアンに連れられ、いつもの階段上。セレスタンとファイは抱き合ってきゃーきゃー戯れている。
「……其方、今後そのキャラでいくのか?」
「キャラ?なんの事です?」
「だから…小悪魔、ギャル?それかナルシスト的な」
「うぐ…!!」
セレスタンは教室での振る舞いを思い出し、羞恥に唸り声を上げた。
僕って可愛いから〜、女の子っぽい服も似合っちゃうんだよね〜。男にそういう目で見られちゃって困る〜…といった趣旨の発言をしてしまった。
咄嗟の対応だったとはいえ、今後教室でどんな顔をすりゃいいんだ…!と頭を抱える傍ら。ルシアンも顎に手を添えて唸っていた。
「(それなら私は…ウザ、いや…傲慢な、俺様系でいくか…?)」
彼らは一体どこを目指しているのやら。
※※※
「一通りは終了した。伯爵の財産を全て計算するとこのくらいで…裁判は…」
「ふむふむ」
昼時、ラサーニュ邸。家宅捜索も終了、応接間にてシャルロットはランドールと言葉を交わしている。
「それで、今後の統治なんだが。ラサーニュ嬢の在学中は第二皇子…ルクトルに任せてみないか?」
「え?なぜ…?」
ラサーニュの親族は予想以上に行動が早く、午前中には縁切りを言い渡してきた。夫人は「旦那様と離れないわ!!」と泣き喚くが、父親と弟に実家に連れて行かれた。
その為代理人をどうしよう、と頭を悩ませていたのだが。ここでまさかのルクトルである。
「まあ本人も…勉強になるし、力になりたいって言ってくれているし。推薦もあってな」
「推薦…?」
言葉を繰り返すも、ランドールはそれ以上教えてくれなかった。もちろん、負債を返すのはシャルロットの仕事だけれど。伯爵業をこなしてくれるだけで大助かりである。
それもきっと、確実にセレスタンの人徳のお陰だろう。シャルロットは涙を誤魔化す為、目頭を押さえて俯いた。
「(本当に…私はお兄様に助けられてばかり。お兄様を守ってきたつもりだったけれど、全て逆効果だった。
何も知らずに…お兄様を追い詰めていた。お兄様…)」
「……ラサーニュ嬢?」
向かいのソファーに座るランドールも、後ろに立つバジルとナディアも首を傾げる。
「(……戻りたい。仲良し兄妹だった頃に。いえ…
もっと…もっと幼い頃から、私が周囲の本性を見抜いていれば…!)」
シャルロット本人は気付いていないが…彼女の身体がほんのり光を帯びている。
「戻りたい…お兄様が、心に傷を負う前に…」
「お、お嬢様…?」
シャルロットは両手で顔を覆い、ギリギリと己を締め付ける。
私がしっかりしていれば、お兄様は頼ってくれたはず。でも今は…謝罪すら満足に出来ない。
加害者にはその権利すら無いのだ、とシャルロットは考えている。
許してもらえるまで何度でも…なんて相手を責めているようなもの。周囲の人間は「ここまで謝ってるんだから、許してあげれば?」と被害者を諭すかもしれない。
本人だって苦しむはずだ。現に昨日謝罪した時、セレスタンは身体を震わせながら顔を背けてしまった。
戻りたい。戻りたい…戻りたい…!!セレスタンがまだ、苦しみを知らなかった頃に!!シャルロットの届くはずの無い願いは…
「…………え?」
「ラサーニュ嬢!?」
「シャルロット様!?」
「お嬢様っ!?」
想いが強くなる程…シャルロットの輝きが増してきた。
それは一瞬、部屋を覆い尽くす強い光を放つ。
「……っ!………?」
バジルはシャルロットを抱き締めて、全員閃光に耐え切れず強く目を瞑る。
数秒後、恐る恐る目を開けると…いつものシャルロットに戻っていた。呆然と自分の両手を見下ろし、バジルと顔を合わせる。
「「「「???」」」」
一方、その頃。
「ぎゃーーーっ!!?何々ナニこれ、僕光ってるー!!?」
「落ち着けっ、セレスー!!」
「なんじゃこりゃ!?水ぶっ掛けるか!?」
「「「「我が君ー!!?」」」」
セレスタン、ルシアン、アリスティドは屋上にいた。
ただ…食事中セレスタンが発光した。本当に突然、暑くなってきたね〜と話していた時。
本人は大パニックで走り回り、それを男2人が追いかける。精霊も慌てて原因を探ろうとするも、何も掴めず。ただセレネのみ、狼狽しつつも何かを感知した。
「これは…クロノスの魔力…!?」
怖くなってきたセレスタンは泣き出した。うわーん、消してーーー!!と大騒ぎ。
「わーーーん!!………へ、ぁ…?」
徐々に輝きが増して、一際強い光を放つ。皆眩しさから顔を覆い、数秒後恐る恐る目を開けると……
「………う?」
「「…………」」
パサ…という音と共に、セレスタンの制服が床に落ちた。何を勘違いしたのか、アリスティドは真っ赤になり背を向けた。
だが…彼女は服を脱いだ訳でも、消えた訳でもない。
「…だえ?」
「へ……」
今ルシアンの前方に。セレスタンの服を纏った…幼い子供が座っている。緋色の髪に金の瞳、その子はキョロキョロと頭を動かした後、立ち尽くすルシアンに焦点を合わせた。
林檎のように赤いほっぺを揺らし、小さな口から細い声を出す。
「おにーたん、だえ?」
「………ルシアン。こっちはアリスティド」
「うちあん、あちゅてど?」
その声に反応したアリスティドも、ゆっくりと子供に目を向けた。
子供はよっこいて、と立ち上がろうとする。だが…ダボダボの制服を踏んづけてしまい、ビタン!と床に顔面を叩き付けた。
「あいてー、ちっぱいちた」
子供は鼻を押さえながら立ち上がり、服を引き摺って歩く。小さな手でルシアンの裾を掴み見上げる。
「うちあん、ここどこ?てーのおうちは?」
「……てーってなんだ?」
「てーだよ。てえうたん」
子供は自分を指しながら言う。見たところ3歳程だろうが、かなりの舌足らずで聞き取りづらい。
「てえうたん…セレスタン?」
こくり…と頷いた。ルシアンは半ば放心しながら、セレスタンと名乗る子供を抱き上げる。
脇の下に手を入れれば、スラックスと男物の下着がずり落ちた。冷静に…パンツは穿かせて紐をぎゅーっと縛る。
ジャケットが重そうなので脱がせる。ネクタイも外すと、シャツとベストがワンピースのようになった。はみ出ているサラシも邪魔そうなので引っ張り、ファイのペンダントも危ないので回収。
「くるう!?くーく、くるるぅ!!?」
「あー、わんちゃん。まっちよ、かわいい!」
セレネは何故か人語を発しない。天使達とファイも…口をパクパクさせているが言葉になっていない。
パニックで暴れるセレネ。飛び回る精霊達。立ち尽くすルシアンとアリスティド。きゃっきゃと笑うセレスタン(仮)。初夏の爽やかな風が彼らを包む、昼下がり。
「……助けて叔父上ーーーっ!!!」
「うきゃー」
「おい殿下!?」
すううっと深呼吸をしたルシアンが、絶叫しながら屋上を飛び出した。子供を大事に抱き、一心不乱に医務室を目指す。
だだだだだだだっ!!
「…ん?今の殿下じゃねえか?」
「何か抱えていましたわね」
「赤い…髪のような物が見えたが」
「でも、あの大きさでは…」
廊下には多くの生徒がいたが、皆ルシアンの形相に道を譲る。途中エリゼ、ルネ、ジスラン、パスカルの横も通り過ぎた。
「おいいいい!!どこいくんスか!!!」
次いでアリスティドがヒュンッ!と走り去る。そんな彼の頭上や肩に、精霊がくっ付いていたのを見逃さなかった。
「今の犬と天使…セレスの?」
「アイツが持ってたカバン、朝ラサーニュが持ってたやつじゃねえ?(弁当用)」
4人の間に沈黙が落ちて…後を追う事にした。
「叔父上!!叔父上ええええっ!!!」
「うおっ?学園でその呼び方すんなよ…………は?」
大きな音を立てながら扉を開けると、オーバンは肩を跳ねさせた。若干苛立ちつつそちらを見ると、持っていたペンを床に落とす。
カツー…ン…カラカラ…と、転がる音がやけに大きく響く。
「…………」
甥っ子の腕の中に…見覚えしかない特徴の幼子が。子供はオーバンをじっと見つめ、へにゃりと笑う。その笑顔も、どこからどう見てもあの子だ。つまり母親は…そして父親は…
オーバンは子供とルシアンの顔を交互に見て。天を仰ぎ…深呼吸をして。
「………認知しるろらrrrrれやテメエエエエエッ!!!」
「私の子じゃなあああーーーい!!!」
火に油を注いでしまったようである。
実はバジルも伯爵に蹴りを入れている




