表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇国の精霊姫  作者: 雨野
訣別編
75/102

「一生牢にぶち込んでおいてくださいますか?」



 少し前。セレスタンとエリゼはセレネに乗り神殿に向かっていた。


「なんだこの狼!?え、光の最上級精霊、様?…契約してるのか?凄いなお前…!」


「はは…」


 エリゼはセレネに興味津々。セレネがただならぬ者だとすぐに理解して、それを従えるセレスタンに尊敬の眼差しを向けた。




「僕が出す!」


「アホか。ボクのせいでこうなったんだろうが」


 神殿の門にて。面会時間を過ぎてしまった為、彼らはどちらが神官への相談料を支払うかで揉めていた。

 グラスに会いたいのは自分だから!と主張するセレスタン。

 自分が面会を妨げたんだから、と出す気満々のエリゼ。


 最終的に、セレスタンが押される事になった。肩を並べて礼拝堂に足を踏み入れるが…



「え、グラス今は相談中…?」


「あー…結構待たされるんだ。特に今日は休日だしな」


「そうなの…?」


 順番待ちの令嬢も数人おり、彼女らは互いにグラス目当てだと気付いているのか、笑顔で牽制し合っている。その様子に今日は会えないかなあ…と涙目だ。そして令嬢達は皆美しい。対して自分の現在の姿を思い出す。


 彼女は普段、中性的な服装を心掛けている。スカート等女性的な格好をする時は、必ず髪色を変えるという変装をしている。

 もう一度令嬢達に目を向けた。皆己を磨き上げていて、常に最高のコンディションを維持しているのだろう。自分と違って…

 こんな人達に迫られてしまったら。グラスが心変わりしたらどうしよう、と更に落ち込む。


「(ご令嬢が平民と会う為に『待つ』だなんて…あり得ないこと。

 グラス…どこかに、行っちゃわないよね…?)」


 会えないならせめて…と思い手紙を書く。そして近くにいた神官に声を掛けた。


「は…はははいっ!(わ、グラスさんの彼女さん!)」


「えっと…こちらの手紙、グラス神官に渡していただけますか?」


「かかしこ、まり、ましった」


 落ち着かないやや小太りの神官…ファースは顔を真っ赤にして受け取った。


「(ひー!!近くで見るとやっぱ可愛い…!しかもラブレー様と知り合いみたいだし、ご令嬢なのかなあ?)」


 こんなに可愛い彼女がいたら…そりゃグラスさんも他の令嬢なんかに目移りもしないよね。そう1人納得する。

 背中を丸めて両腕をだらんと振り、トボトボ神殿を後にするセレスタン。エリゼは「ふん!たかだか会えない程度で…」と言い掛けてやめた。彼女が涙を必死に堪える姿に…頭を掻いて「悪かった…」ともう一度謝罪した。





 グラスは1日中心ここに在らずだった。夜は追い討ちをかけるように神殿長に呼び出される。


「君を引き抜きたいという声が多くてね。現在4家から話が出ているよ」


「はあ…」


 誰もいない神殿長の部屋。神殿長は座り心地の悪そうな、外見重視の硬い高級椅子に腰掛け言う。

 グラスも令嬢から「ウチに来ない〜?」と言われるようになっている。その度に「自分には使命があります」とか適当に濁しているのだ。


「神殿としては、多額の()()()を提示されれば断る理由が存在しない。たかが平民に白金貨を差し出すなど異例なことなのだよ」


 グラスはその言葉に目を丸くした。

 この国に流通している貨幣は銅貨、銀貨、金貨が主流だ。それぞれ銅貨10枚=銀貨1枚、銀貨10枚=金貨1枚とされるが…白金貨はその上、1枚で金貨100枚分の価値がある。神殿としても、大金は逃したくないだろうが…


「……?いや、断っても問題ありませんよね?おれ別に仕事を辞めたっていいんだし」


「まあ、そうなる。だが相手は貴族だ」


 元々借金があって、という事情がある訳でもなし。グラスは本気で「だから?何故おれが受けると思っているのか」と首を傾げる。


「平民が歯向かうなど…」


「そうですね。平民と貴族は立場どころか…同じ人間ですらないのでしょう。おれ達を家畜と思っているのか、自分達を神だと思っているのかは知りませんが。

 これ以上引き抜きの話が来るようなら、おれは神官を辞めます。目的と手段を履き違えるつもりはありません」



 神殿は皇国から独立している…とまでは言わないが、それなりに権威ある機構である。神官1人の為に喧嘩を売る貴族はいないだろうし、神殿長は代々神に仕える地位ある貴族だ。彼なら他の神官に累が及ばぬよう守る事も出来るだろう。

 故に心配なのはグラスの親しい者のみ。それも…


「(セレスには精霊もいるし、皇室とも親しいから問題無し。バジルは多分余裕で逃げる。じいさんは…うん!ナディアはなあ…「わあい!人間用の罠を試してみたかったんですう!」くらい言いそう…)」


 彼が思い浮かべるのはこのくらい。心配する相手がいなかった。

 お話が以上でしたら失礼します、とグラスは背を向け退室した。彼がいなくなった後…神殿長は髭を撫でながら窓の外に目を向けて、不敵な笑みを浮かべる。



「ふうん…まあ確かに、彼はここにいたほうが…金は集まるだろうな…」



 神殿長は机の引き出しから宝石箱を取り出した。そこには煌びやかな宝石が詰まっており…うっとりと目を蕩かせながら撫でる。


「皇室から討伐の救援も、完全にグラスを指定するようになっているし。ご令嬢は順番を優先してもらう為に倍以上の金貨を出すし。

 端金の為に、すぐに出ていかれては困る。もっともっと稼がせてから…どこぞのお嬢様に売ってやろうか。

 あの容姿だ、もっと世間にアピールしてもいい。女神の宝物も…そうすれば寄付金も増えるかも…くくっ…」



 薄暗い部屋の中。神殿長は大切に宝石を仕舞い、喉を鳴らして笑い続ける。

 

 



 部屋に戻ったグラスは今日の手紙を書いた。自分で思いつく限りの弁解の言葉を書き連ねて送る。

 はあ…とため息をつきながら布団に潜るが、ファースから手紙を渡され一気に元気になった。



『朝はごめんなさい。本気で君とラブレーが浮気したとか思ってないから!

 僕の為に頑張ってくれている事、ちゃんと分かっています。来週こそ会いに行きます。

 いつか大好きな君と、一緒になれる日を夢見ています』



「セ…セレス…!!」


 グラスは目を輝かせて、手紙を胸に抱き眠りにつく。




 だがこの日以降…彼らが神殿で顔を合わせる事は無かった。




 ※※※




 エリゼとは途中で別れ、皇宮に戻ったセレスタン。約束通りランドールと話を…なのだが。


「なんで先生もいるの…?」


「まあまあまあ」


 先程と同じ会議室に通される。そこには何故かオーバンもいた。

 ちなみにセレスタンの親権については保留。親組に「本人の意思を尊重するように」と言われてしまったので。


「じゃあセレス…お前には酷な話だろうが、知っておくべきだと思ってな」


 セレスタンとオーバンが並んで座り、対面にランドールが腰掛ける。ランドールが重い口を切って、ラサーニュ伯爵の不正について語った。脱税、横領… 余罪もあるかもしれないという事。

 セレスタンは話が進むにつれて顔を強張らせる。碌でもない領主だとは思っていたが…そこまで酷いとは考えてもいなかったのだ。膝をぎゅっと握り締めて顔を青くさせる。


「(……ロッティ…)」


 そんな彼女の心は妹に向かっていた。自分は逃げ出してしまった以上…シャルロットが今後苦労するのは必至。その時、自分が持っていたカバンが無いのを思い出す。


「あれ、どこやったっけ!?大事な書類が入ってるのに!」


「おう、提出しといたぞ。俺がお前の後見人だ」


「なんでえええ!?」


 オーバンが親指を立てながらいい顔で言うもんだから、セレスタンは絶叫した。


「逃げたいんだろう?」


「逃…!そう、ですけど…っ」


 今は状況が違う。今後莫大な負の遺産を継がされる妹を思い浮かべて、下唇を噛み強く拳を握った。他人になってしまった自分に…ラサーニュ家に関与する資格は無い。

 だがこれも自分で選んだ道。誰も悪くない…全ては自分が。それでも…



「……ここにラサーニュ令嬢も呼んでください。彼女も知る権利くらいあるでしょう…」


「…ああ」


 セレスタンは机に肘を突き、ため息混じりに願った。ランドールも思うところがあったのだろう、すぐに人を呼びラサーニュ家に遣いを送る。これで数時間もすれば到着するだろう。



 その間セレスタンは思考する。とにかく金だ、金さえあればどうとでもなる。だが自分に用意など…

 売れるモノは無いか?領地には…教会しか思い浮かばない。確かに美しい建造物で十分価値はあろうが、とても足りないだろう。

 ランドールが「罰金やらこれまでの負債を合計したら…白金貨2000枚は覚悟しないと」という言葉に目眩を覚える。



 うんうん唸る姿に、オーバンは眉を下げた。そして懸念材料があり、セレスタンに耳打ちする。


「…お前、まだ性別はバラすな」


「………ん?え、なんで?」


 自分の世界に入っていたセレスタンは、その言葉に引っ張り上げられる。自分の性別が何か問題が?


「兄貴…皇帝に知られたら、十中八九ルシアンか俺と婚約させられるぞ。兄貴の意思でなくとも、重鎮達がそうするだろう」


「……なんで?」


 思わぬ言葉に目を丸くする。オーバンが言うには…

 セレスタンにはそれだけの価値がある。皇室に縛り付ける事が出来るのならば、伯爵の背負う借金など取るに足らない小金。


「ルキウスの見合いが纏まりかけてなければ、確実に皇太子妃だったろうよ。いや、今からでもマルケス令嬢を蹴る可能性だってある」


「そんな…」


 ランドールも悲しげに目を伏せる。どうにも信じ難いが、その態度が事実だと言っているようなもの。

 婚約…結婚。でも自分にはグラスが…



 シャルロットに全て背負わせて、自分はグラスの手を取り国外へ逃げるか。

 グラスと別れて…ルシアンかオーバンの嫁となり、シャルロットを救うか。


 どちらも選ぶ事は出来ないのか…?金があれば、いいや…



 セレスタンの脳内に、満面の笑みのシャルロットと、微笑むグラスが浮かんだ。


『お兄様!こっちこっち!』


『セレス。こっちだ』


 どちらもセレスタンに手を差し出している。その手を…どちらかは払わなければならない。



「(……僕は…どうすれば…?)」



 目に涙が滲んでしまう。泣いても何も解決しないのに…頬を伝うのを止められない。


「シャーリィ、何故泣く?人間共のせいか…?」


「あっ。違うの待って!!」


 セレネが涙を舐めて、牙を剥き出しにして憤る。オーバンとランドールは即座に部屋の隅に避難した。

 ふと精霊に頼れば…という方法が脳裏を掠めた。シャーリィを悲しませるなら国を滅ぼすぞ!!と言ってもらえば…

 その考えはすぐに消した。大いなる力に頼って借金帳消しなど…踏み倒しどころの話じゃない。自分まで父親のような外道に堕ちてたまるか…!と力強く涙を拭った。


「セレネ、僕は大丈夫。でも不安だから…ずっと側にいて」


「シャーリィ…」


 セレネをぎゅっと抱き締めると、モフモフが擽ったくて温かくて。太陽のいい香りがして…少しだけ心が落ち着く。

 天使達も大きくなり腕と翼でセレスタンを包み、ファイは煙のままで周囲に漂う。その様子を、オーバンとランドールは複雑そうな表情で眺める。



「(僕は…1人じゃない…!とにかく金策だ!!)」


 俯いていた顔を上げて、シャルロットとグラス、どちらの手も振り払わない!!と決意した。

 シャルロットには、表立って味方は出来ないけれど。影でなんとか…と考える。


 オーバンは「父親になったら…俺の資産と、親父の遺産を生前贈与させてもらえば殆ど返せるな。残りは借金になるだろうが、数年で返せるし…」と計算している。


 ランドールは「精霊が協力してくれればな。精霊研究家達にとっちゃ値千金の情報でもくれれば、かなりの…」とセレネに期待に満ちた視線を送る。



 その後も3人で話し合ったりしているうちに、シャルロットが到着したと扉越しに声がする。



「その…シャルロット・ラサーニュ伯爵令嬢がお見えです、が…」


「「「?」」」


 3人は顔を見合わせる。何故か案内してきた騎士の声に、戸惑いが混じっているのだ。不思議そうに入室を促すと…



「「「………」」」


「うー、うぅぅ…!」


「お呼びと聞きました。このタイミングで…ラサーニュ伯爵についてですね?」


 シャルロットは優雅に一礼をする。それはいい。

 後ろに立つバジルは無の表情。問題は、その下。


「むぐ…!!」


「ああ…()()ですか?ちょっと屋敷に置いておくと何をするか分からなくて…

 お話の間、いえもう一生牢にぶち込んでおいてくださいますか?」



 シャルロットとバジルの間に。縄でギッチギチに縛られた…ラサーニュ伯爵が転がっているのだった。




白金貨2000枚=大体20億くらい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あぁ〜!!! ロッティ〜~!流石だよ!流石、お兄様至上主義者!伯爵をコレ扱い!こちらでも、相変わらずの通常運転ですね!w いや、あっちよりもレベルアップしてるな! 最高、最高すぎるぜ、ロッテ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ