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皇国の精霊姫  作者: 雨野
訣別編
74/102

新しい家族は



「植物園…ですか?」


「そうだ。この後行かないか?」


「でも…」


 ルシアンが朝から訪ねて来て、神殿までの道すがらお誘いを受けた。

 友達とはいえ、男性と2人で外出は無理です。そう断るも、ハーヴェイ卿もいるので2人きりではない!とルシアンは食い下がる。


「その…そうだ!これは視察だ、皇室として!お忍びの公務だ!」


「公務…?」


 セレスタンは首をこてんと傾げた。必死なルシアンにハーヴェイは鉄仮面を装着。


「…僕、付き人的な?」


「あ…いや、違っ」


「お姉様みたいな…有能側近的な?ちょっと格好いいな僕…?」


「(そう解釈したかー…でも)そっそうだな。其方は私の友だが…学友、秘書、側近というと格好いいかもしれないな…?」


「むふー」


 ならばヨシ。彼女の脳内には、知的な眼鏡を掛けたスーツ姿のビシッとした自分が浮かび上がる。グラスに報告してから、お仕事として植物園に同行しましょう!と乗り気にする事に成功。

 ルシアンは複雑だが…ここから男女の関係に!と拳を握った。



「でも僕…もうじき貴族じゃ無くなるんですけど。そうしたら、学友は…」


「「詳しく」」


 今度はハーヴェイも一緒になってセレスタンの言葉に食い付いた。彼女はやや尻込みしながら説明する。


「ひえ…あの、僕ラサーニュ家の籍を外れるつもりで。ほら…」


 除籍証明書にサインを貰ったらすぐ提出するつもりで、ゴソゴソとカバンから持ち歩いていた封筒を取り出す。2人は書類に目を通して顔を顰めさせた。

 だがこれはチャンス!ハーヴェイが口を開く。


「この保証人どうすんの?」


「んー…名前だけ貸してくれる人に頼もうかと。絶対迷惑掛けない、成人したら後見人からも外れてもらうから。

 だから…ゲルシェ先生かジャンお兄さん辺りかなと…」


「じゃあ俺が、いやババアが!!そんでテーヌ家に養女に来い!!」


「へあっ!?」


「俺の妹になれよ!残りの兄も4人増えるけどいいだろ!?」


 ハーヴェイはセレスタンの手を両手で掴んだ。

 ババアには話しとくからそうしようぜ!!とグイグイ迫る。セレスタンは遠慮するも、どうにも引き下がらない。


「そんな、迷惑…」


「迷惑じゃねーよっ!?」


 彼女の性格上、とにかく強気に押せば勝てる可能性が高い。だが引き際を見失うと永遠に逃げられるのでここは一度止まる。


「ま、考えといて!」


「はあい…」


 セレスタンは断りながらも…

 憧れの女性とも言えるハリエットを母として。優しくて楽しい兄が5人もできたら。それは…とても幸せだろうな。思わず頬も緩んでしまう。



「(ふふ…)ん?ルシアン、それはカメラですか?」


「ああ。花(と其方)を撮ろうと思ってな」


 彼の首からぶら下がっているカメラに目が行った。

 カメラはルシアンの趣味とも言える。彼は面白いもの、美しいものが大好きだ。故にその一瞬を切り取り、何度も見返せる写真が好きなのだ。



 じゃあ沢山撮りましょうね!と話していたら神殿が見えてきた。


「面会中、2人はどうするのですか?」


「礼拝堂で本でも読んでるさ…?」


 その時、ルシアンが何かに気付いた。受付の所に…どこかで見たようなピンク頭がいるのだ。


「ラブレー?誰か面会したい人でも…」


「「「…………」」」


 3人は嫌な予感がして、顔を見合わせた後ダッシュした。





「えーと…面会希望だ。受付はここか?」


「はい…(うっわ美人…男か?)」


 エリゼは数年前まで美少女と身間違う容姿をしていた。それが現在は背も伸びて…一見すると線の細い中性的な美少年へと変貌を遂げた。


「(またグラス君か…彼の面会者は美男美女ばかりだな)ただ今神官を呼び出しました。こちらへお進みください」


「ああ」


 案内されるままに歩く。今日は創造の魔術と、あと操作系の…と考えながら礼拝堂に足を踏み入れようとした瞬間。




「セレスっ!!待ってた………硬っ」


「!!?」


 がばあっ!とグラスが飛び出して来て…エリゼに正面から抱きついたのである。



「「……………」」



 エリゼは直立で硬直し、グラスもまた固まった。互いを信じられないモノを見る目で凝視する。



 ドサ…

 カシャッ、カシャシャ!



「「……………」」


 何か物音がしたので…2人はその姿勢のまま顔だけ門のほうへ向ける。

 すると受付の所に…バッグを落として目を丸くするセレスタン。カメラを構えて連写するルシアン。地面に蹲り震えるハーヴェイの姿があったのだ。


 更に神官や他の面会者など…多くの目撃者がいる。グラスはゆっくりと離れて…



「……セレス、これには訳が」


「うわあああああんっ!!ばか、ばかああああ!!浮気するなんてサイテー!!!」


「ちがあああああう!!!」


 言い訳をする前に、セレスタンが堰を切ったように泣き出した。



「まさか男に負けるなんてえええ!!ぐやじい、もういい!!僕も女の子と浮気してやるんだからあああ!!!」


「待ってーーー!!おいエリゼ様なんか言え!!」


「……ハッ!?何すんだ気色悪い!!」


「誰のせいだと!?頼むセレス、話を…」


「ナディアちゃーん!!ルネさーん!!お姉様あああ!!」


「あー!!あ"ーーーっ!!!」


「ダメだよっ、グラスさん!」


 泣き叫びながら走り出すセレスタン。

 追い掛けようにも、神殿から出られないグラスは門を越える前にファース達神官に捕まった。


「うう…セレスぅ…!何してんですか、おれの代わりに追ってください!!誤解されたままでいいんですか!?」


「誤解…?ハッッッ!!待てこの馬鹿女が!!」


「誰が馬鹿だ!!純粋と言ってもらおうか!!」


 グラスの言葉に呆けていたエリゼも走り出す。勝負…も大事だが、今彼は「男と浮気した」というあらぬ疑いを掛けられている真っ最中なのだ。


 待て〜…誤解だあ〜…嘘つけ〜…浮気男があ〜…と、騒がしい声が2つ遠ざかって行く。

 セレネは「人間は話をややこしくするのが好きだなぁ…」と呟きながらぽてぽて走る。



「フ…彼女は私が幸せにする。お前はラブレーと幸せになれよ〜」


「ざけんな!!!大体なんで一緒に来てるんですか!?」


「この後デートでな〜」


「はあああああっ!!?」


 ぶちぶちブチ切れるグラスに向かって、ルシアンは爽やかな笑顔を見せた。

 だが声を落として顔を近付け…相手が男で良かったなと告げる。いいもんか!とグラスは憤るが…


「もしも間違えて女性に抱きついてしまったら…決定的瞬間を彼女が見たらどうなると思う?」


「………」




『…グラス…』



 きっとセレスタンは…静かに涙を流して、そっと背を向けるだろう。そして…どんな言い訳も聞いてくれないとグラスは直感する。



「だから、ああやってふざけられているだけマシだ。ま、今後は相手をちゃんと確認しなさい。

 あとデートと言ってもハーヴェイ卿もいるから安心しろ。さーて、良い画が撮れたな〜!!」


 あっははは〜と足取り軽く、セレスタンとエリゼの後を追う。ハーヴェイはセレスタンのカバンを拾い、「俺に任せとけ〜」と言い残しその場を去った。



「ほんとに…頼むぞハーヴェイ卿…!!どうしてこうなった!!!セレス〜〜〜!!」


 嵐が去った後、グラスは地面に膝と手の平を突いて項垂れた。普段クールな彼のこのような姿は珍しく、皆下手に声を掛けることも出来ない。

 トマスは鬼の首を取ったように「ザマーミロ!」等煽っているが、そちらを気にする余裕も無いグラスだった。




 ※※※




 セレスタンは勢いのまま…皇宮までやって来た。本日ナディアはルネと共に外出中、刺繍の作品を置いてくれる店に挨拶に行っているのだ。なので浮気相手になってくれそうなプリスカを訪ねた。


「セレスタンですが!!プリスカ・アラニウスさんお願いじまずっ!!!」


「お、おう…」


 門番は何度か言葉を交わしたことのある相手。顔と様子のおかしいセレスタンに困惑しつつも話を通す。


「今日はちょっと…一応声は掛けるが、出て来れないかもしれない」


「ぞれでもいいでず!!」


 待合室にて膝を抱えてちょこんと座る。段々と冷静になってきたが涙は止まらない。


「(……浮気…じゃないよね、アレ。でもでも、僕よりラブレーを優先したのは確かなんだから…!(※勘違い)ふん!!もう怒ったぞ、暫く許さん!!)」



 エリゼもセレスタンが教室で暴走した事を知っていれば、流石に気を利かせて大人しくしていただろう。彼らは完全に間が悪かった。

 そのエリゼは現在セレスタンを追跡中。彼女が途中からセレネに乗ってしまったので、追尾魔術を駆使してこちらに向かっている。

 ルシアンはハーヴェイに抱えられて、エリゼの後を追っている。もうじき全員揃うだろう。



「おーい、通っていいってよ。あっちの、ここから近い来客をもてなす用のエリアで…」


「ありがとう!!!」


「…今、皇太子殿下の見合いが…」


 門番の話を最後まで聞かず。セレスタンは指された方角へダッシュする。



 そうしてプリスカに泣きつき…エリゼが追いついて。ルシアンとハーヴェイが笑いながら合流して話は戻る。






「…話を総合すると。グラスがセレスタンと間違えてラブレーに抱きついた。それを勘違いした…だな?」


「総合する必要ありました?」


 騒ぎの割に、あまりにもお粗末すぎる理由。会議室に場所を移した一行は笑っていいのか戸惑っている。


 速攻で現像された写真(グラスとエリゼが目を点にして抱き合っている?姿)が関係者各位に配られた。

 ルシアンが経緯を語ると、セレスタンの事情を知る者は各々笑いを堪えて。

 知らない者は「セレスタンは男色だった?」と衝撃の事実に目を丸くした。



「……うむ!うむ!!!では儂はこれにて失礼!!後は若い者同士で!!!」


 言葉に困ったテランスは瞬時に逃走、エリゼはひとまず安心した。兄アイザックは先程から床をバンバン叩きながら転がっている。


「くっ、くっだらねーーー!!ぶははははは!!!ゲホッ、ゴハアッははははあはははは!!!」


 笑いすぎてチビるわー!!と涙を流す始末。そんな彼も、これから秘密の話をする為追い出す。



 で、騒ぎを起こした張本人は。


「その…申し訳ございませんでした…正気に戻りました…」


 羞恥心から顔を出せず、部屋の隅でハーヴェイのマントを被って丸くなっていた。


「ラブレーも、ごめん。本当に…」


「………いや、ボクが悪かった」


 エリゼも全て聞かされ、自分の考えが至らなかったと素直に謝罪。後で一緒に神殿に行き、グラスにも謝罪すると約束した。



「へー、セレスは女の子だったのか。どうりで可愛いと思った。じゃ妹だな」


「はい、ランディ兄にも話そうとは思っていたんですが…」


 ランドールは順応し過ぎて周囲が戸惑うレベルだった。だがセレスタンと「兄様って呼んでや」「ランディ兄様?」「いいねー!」と盛り上がっているので放っておいた。

 ひょっこりとマントから顔を覗かせると、エルミニアと目が合った。そちらの方は…?と訊ねればセレスタン、エリゼ、エルミニア以外の皆が固まる。



「(これは…)」


「(ああ。この状況は…まるで)」


 元カノと今カノの邂逅のようだ。女の戦いが今始まる!という空気。


「失礼致しました。私はリシャル王国のマルケス侯爵が娘、エルミニアと申します」


「ご丁寧にありがとうございます、僕はセレスタンと申します。一応ラサーニュ伯爵の娘…です(…リシャル?)」


 リシャルの令嬢で、今この場にいるという事は。ルキウスの見合い相手…!と即座に理解した。バッ!とルキウスに顔を向けると、彼は一度咳払いしてからエルミニアの隣に立つ。


「その…察している通り、彼女は私の婚約者候補だ」


「ほう…!」


 ルシアンから「今回は上手くいきそう」と聞いている為、セレスタンは目を輝かせた。彼女の目から見てエルミニアは、細く儚げで深窓の令嬢といった、俗世に染まっていない雰囲気を醸し出している。

 更にルキウスと並ぶ姿はお似合いで…ちくっと胸は痛んだが、それよりも喜びのほうが強かった。泣き腫らした顔を治して、すっくと立ち上がる。


「えーと!ルキウス様は顔は怖いけどお優しい方です!きっと、いえ必ずマルケス令嬢を幸せにしてくださいます!」


「(顔が怖い、はお約束なのかしら…?)ふふ、ありがとうございます」


 対してエルミニアは…「思ってたのと違う」という印象を抱いた。


「(小さくて…すっごく可愛い!こんな妹が欲しかったわ…)」


 ただしそれは悪いものではなく好印象。もっとお話ししたい!という欲が湧いてくる。だが忘れてはならない、まだ見合い中だ。


「ラサーニュ令嬢、よろしければ今度お時間くださらない?ルキウスのお話を色々お聞きしたいの」


「(ルキウス!呼び捨て、仲良し!)はい喜んで!」


 2人は手を取り合って微笑むが…ギャラリー(エリゼ以外)は気が気でない。特にルキウス。

 そんなルキウスはランドールに目配せをした。ランドールは小さく頷き、セレスタンに顔を近付けた。



「なあセレス、今時間いいか?」


「うーん…(神殿に改めて顔を出して、そんで植物園…)どのくらいですか?」


「…大事な話があってな。長くなるかもしれないから、用事を済ませてからでいいぞ」


「………」


 ランドールの笑顔が翳っているように見えて、これは本当に深刻な話題…?と不安になり手に汗を滲ませた。


「…はい。ごめんなさいルシアン、植物園はまた今度でいいですか?」


「ああ」


 感じ取ったのは彼女だけではないようで、ルシアンも素直に引いた。

 セレスタンはエリゼだけ連れて、また後で!と手を振りながら皇宮を出る。



 ルキウス達も会議室を出て、残ったルシアン、ハーヴェイ、ランドールはひとまず座る。


「で。セレスになんの話だ?」


 ルシアンの問い掛けに、ランドールは「他言無用で」と釘を刺してから語った。


「俺は訳あってラサーニュ伯爵について調べていました。すると…伯爵が横領、脱税している事が判明しました。かなりの長期に渡り、額も桁外れです」


「「…………」」


 ルシアンとハーヴェイは落っこちそうなほど目を大きく見開く。


「処罰は免れません。だから…明日、子供達もいない時を見計らって家宅捜査をする算段だったんです。漁れば余罪も出てきそうだし…

 ちなみに伯爵夫人も使用人も一切関わっていないのは調査済みです」


「……それを、セレスに言ってどうする…?

 まさか、彼女に責任を取らせるつもりじゃないだろうな…?」


 ルシアンの表情は冷たく、怒気を孕んだ声で静かに告げる。ランドールは息を呑み目を伏せて続けた。


「…ラサーニュ伯爵は地位を追われるでしょう。その後は双子のどちらかが継ぐ事になりましょうが、まだ学生で未成年。卒業まで夫人が代理を務めるか、後見人を置く…が妥当かと。

 ですが巨額の負債を抱える事になるでしょうから…苦労も多いでしょう」


 ランドールはテーブルに右肘を突いてこめかみを押さえる。


「出来れば…セレスには逃げて欲しい。これまでラサーニュ家の一員扱いされていないあの子に…責任だけ追及するなんてしたくありません。これはルキウス殿下も同じです。

 それでも…ラサーニュの子供である以上。俺達は…

 何よりあの子が。妹に全て押し付けて逃げるなんて…出来ないでしょうに」


 彼は苦しげに息を吐きながら語った。それから数分間誰も口を開かず。

 沈黙を破ったのはハーヴェイで、持っていたセレスタンのカバンから書類を取り出しランドールの前に並べた。


「これは…」


「シャルロット嬢が苦労しようと知ったことか…と言いたいところだが。

 スタンは妹を嫌悪しているが…恐らく根っこではまだ愛している。このまま俺達がラサーニュ家を見捨てても、あの子は笑顔にならない。だけどまず逃すのが先決だ」


 ハーヴェイは言いながら、除籍証明書の保証人欄を指差す。


「家は爺ちゃんが買ってくれたから安心だ。生活費と学費は俺が出す。ただ保証人は…地位がある奴のがいい。俺は近衛だけど所詮騎士爵位しか持ってないし…」


 出来るだけ地位の高いほうがセレスタンを守れる。そう結論付けた3人は…


「「「あの人しかいない…!!」」」


 力強く頷き合った。




 ※※※




「叔父上!!」


「なんだ一体…」


 それは皇弟であるオーバン。この国において彼より身分が高いのは、皇帝と皇太子くらいだろう。

 ルシアンが『今から行く』とだけ手紙を送り、ハーヴェイと共に馬を飛ばして家に突撃した。


 呆れたように半目で2人を一瞥し招き入れる。なんか用か?と言いながらお茶を淹れ、ダイニングセットに腰を下ろした。

 ルシアンがこれまでの流れを説明すると、面倒くさそうに頬杖を突いていたオーバンも次第に真剣な面持ちに。



「……だから!叔父上のサインをくれ。後は私達がどうにでもする」


「はあ…いいかルシアン」


 彼は大きくため息をついた後…キリッと甥を見据えた。


「こんな人生の岐路とも言える重大な決断を、本人抜きで決めるんじゃねえ。確かにお前らの主張は理に適っているが…」


「「………」」


 お説教を始めるオーバン。だが…

 その手はちゃっかり書類にサインをしていた。


「…ん?おっとうっかりサインしちまった。よし、行くか!」


 オーバンは一旦自室に引っ込み、部屋着から小綺麗な格好に着替えて再登場。

 ルシアンとハーヴェイはこっそり笑い、素直じゃないなあと感謝の念を抱いた。



 一応本人に最終確認をするべきか…と躊躇いもしたが。彼女は本気だからここまで用意したんだ、と思い司法省に提出した。


「ええっと…殿下。代理人…という事で受理してよろしいのですか…?」


「おう。なんかあったら全責任は俺が負う。それより…」


 オーバンは窓口でやや姿勢と声を低くする。


「ついでに養子縁組の書類を…」


「待ったーーーっ!!!」


 身体ごと割って入ったのはハーヴェイ。彼は慌てたように捲し立てた。


「養子は駄目です!!あの子は俺のいも、弟になるんですから!!」


「はー?お前ハリエット卿に話通ってんのかー?」


「いや…今からですが!テーヌ家の末っ子として迎える予定なんです!!」


「いいや俺が父親になる!!グラスも養子に迎えるわ!!」


 彼らはどっちがセレスタンの親権を確保するかで揉め始めてしまった。職員や他の利用者がいようとお構いなし、大声で互いの主張を譲らない。



 段々とヒートアップする2人。誰かが上に報告したのか、そこへ駆け付けてくる複数の足音。


「待て待て!俺がお兄ちゃんだ!!!いいよな父上!?」


「ご無沙汰しております、殿下。まず状況をお聞ききしたいのですが」


 それは宰相である父親を引っ張ってきたランドール。



「こっちだって!!父上、構いませんよね!?」


「兄弟が増えんのかー。賑やかでいいんじゃね?ジスランは複雑そうだけど、姉上は喜ぶだろ」


「何が?」


 同じく第五騎士団長の父親を連れたギュスターヴとジェルマン。



「いいえ!!私がお姉様になるんです!!そしたらあんな事やこんな事まで…んふふふふ」


 眼鏡を曇らせ、興奮に頬を紅潮させるプリスカ。こいつだけはイカン…と誰もが思った。



 言い争いは収まるどころか、新たに投下された燃料のお陰でますます燃え上がる。

 巻き込まれた父親達は軽く挨拶を交わし。ルシアンと共に壁際で傍観をする。



「(…まずセレスに新しく女性としての戸籍を作らないとでは…?)」



 そう言いたいけれど…セレスタンを想う者がこんなにもいる。

 ルシアンはその事実が嬉しくて…笑顔で口論を眺めるのであった。


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