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皇国の精霊姫  作者: 雨野
訣別編
69/102

「み、見知らぬひとオォォーーー!!!」



 遅刻して学園に着けばすでに昼近く。休めばよかった…と思いつつもアジトを目指す。


「おはよー先生」


「おはようじゃねえよ…」


「こんにちは!」


「……こんにちは」


 オーバンは諦めた。医務室にカバンを置き、昼食を求めて売店へ向かう。



「今日はお弁当作れなくてごめんなさい」


「いや、いいんだ。それより…其方が少食なのは…」


「…聞いてましたか。でも今は朝昼晩食べないとお腹空いちゃいますし、昔なんて関係ありませんよ。

 それに少食ではありません、多く食べられないだけです。令嬢だったら体型維持の為に食事制限とか普通ですよ?」


 そう言いながらパンを1つとデザートにプリン、飲み物を買う。ルシアンからすれば全然少ないのだが…これでいっぱいらしい。

 私と一緒にいてくれるなら…いつでも好きな物を沢山食べさせてあげるのに、と唇を噛んだ。




 午後の授業も終わり、教室で少々雑談を。ルシアンの後ろの席がジスランの為、こういう時はセレスタンが占拠している。

 彼女はこの後図書館塔へ行くと言う。自分もグラスも働き始め…いよいよ国を出るという計画が現実味を帯びてきたからだ。


「箏についてとか、それ以外の国の本も読みたくて。折角旅するんですし、色々観光地を回りたいですもん!」


 キラキラした目でそう語る。それを聞いたルシアンは…唇を尖らせた。


「…それ、私も行きたいと言ったら…?」


「へ……

 や、何言ってるんですか。君は皇子なんですから…」


「……だよな」


 彼はそれ以上何も言わなかった。冗談だよね…と無理矢理納得し、塔へ行く為立ち上がろうとした。



「セレス。これ…よかったら食べて欲しいの」


 そこへシャルロットが緊張したような笑顔で、ラッピングされた小さな包みを差し出してきた。本日女子は調理実習があり、お菓子を作ったのだ。

 それを知ったルシアンは…一気に顔を青褪めさせた。


「?」


 受け取る気は無かったが、ルシアンが震える手で袖を掴んできたので不思議に思い首を傾げる。


「………いらない」


「そんな事言わないで?すっごく上手く出来た()()()の!」


 シャルロットは諦めずジスランの机の上に置く。


「いらないっての!」


「…!」


 その包みを払い除け、床に落ちてしまった。シャルロットが傷付いた表情をし、セレスタンは罪悪感から顔を背ける。

 教室に残っていたクラスメイトからも、非難の声が…上がらなかった。


「(あっれ、予想と違う。ここは「シャルロット様の手作りお菓子になんて事を!!」って騒がれるかと思ったのに?)」


 それどころか、どこか同情の色を帯びた視線を感じる。そんな疑問をよそに、シャルロットが「ごめんね…」と拾おうとしたので「僕が捨てとくからどっか行って」と追いやった。彼女は何度も振り返りながら教室を出て行く。



「…………」


 10分後…教室に生徒が少なくなったのを見計らい、セレスタンは包みを拾った。


「やめろセレス!!」


「わっ!?別に…捨てるのは勿体ないだけです。それ以上の感情はありません」


 ルシアンは必死に止めようとするが、食材に罪は無い!と言い張ってリボンを解く。


「マカロンだ。全部チョコ味かな…?」


 そこには歪な形の、こげ茶色のマカロンが4つ。ちなみに苺、オレンジ、キャラメル、ピスタチオである。


 セレスタンは毎回ジスランが身を挺して劇物(シャルロット、時々ルネの作品)から守ってきた為、妹の料理の腕を知らないのだ。

 が。セレスタン以外は全てのクラスメイトがご存知である。完璧なシャルロットにも苦手なものがあるんだネ…へへっ。という認識である。それはそれとして。


「やめろおおおおっ!!」


「何本当に!?」


 ルシアンの必死の形相に驚くセレスタン。死にたくなければ捨てろ!!とまで言う始末。マカロンを持って教室中を逃げ回る羽目になってしまった。残っていた生徒達もその惨状に逃げ出した。


「ぎゃあ!ぎゃああ!!」


「落ち着け!!精霊もボサッとするな、主の命の危機だぞ!?」


「このマカロン爆弾か何かなの!?」


 精霊もどうしたらいいか分からず…傍観を決め込む。沢山の机や椅子を薙ぎ倒しながら、2人は追いかけっこをする。

 更にドアが勢いよく開き、肩で息をしたジスランが飛び込んで来た。


「セレス!今すぐその手に持っている凶器を捨てるんだ!!そして両手を上げてこっちに来い!!」


 まるで犯罪者の扱い。ジスランとルシアンはじりじりじりとにじり寄り…セレスタンはここまで来ると、意地でも食ってやる!!と燃えていた。


「セレス様、失礼します!!」


「へ」


 が、バジルが後ろを取りマカロンを奪った!うおおおおおっ!!という歓声が上がり、逃げたはずの生徒達が廊下で見物していた事に気付く。


「ふう…申し訳ございませんが、こちらは僕のほうで処分して…え」


「………うぅ…!」


 奪われたセレスタンは…必死に涙を堪えている。僕はただ…ロッティのお菓子を食べたいだけなのに…!と言葉には出来ないがバジルには伝わった。

 そして…その一瞬の隙が命取りである。


「隙ありっ!!!」


「なっ!?」


 セレスタンは奪い返し、取られぬよう抱え込んだ。バジルも流石に胸には手を突っ込めず、早まらないで!!と肩を揺らす。


「もう、訳わかんない…!」


 完全に意地になっているセレスタン。絶叫する周囲を無視して袋から1つ取り出し、パクっと咥えた。


「…?(なんか、変なニオイが…?)」


 半分口から出ているのだが…これを咀嚼してはいけない、と本能が働いた。

 どうしよう、吐き出すべき?でも勿体ない…意を決して噛もうとした、が。


「くそっ!!!」


「あっ!?」


 ルシアンが素早く口から奪い取り、一口で食べてしまった。間接キスじゃん!?と真っ赤になるも…彼は対照的にみるみる青くなる。



「………が、ふ…」


「ルシアン…?」


 マカロンを飲み込んだルシアンは…とても満ち足りた表情をしていた。


「(好き…かもしれない子を守れたんだ…)悔いはない…」


「ルシアーーーン!!?」


 ぐらりと身体が崩れ…セレスタンに向かって倒れ込む。愛しい?彼女の腕の中で眠るルシアンは、ギャラリーの感動を誘った。



「………?これ、マカロンじゃないの…?」


 他のを袋から出せば…今度はジスランが飛んで来た。


「させるかああっ!!!」


「あっ」


 ヒュンっ!と早業で奪い、口に放り込む。「ぐ…ぐあああああっ!!」と叫びながら、彼も床に沈んだ。


「死ん、でる…なんつって…。何これ…?」


「いけませんっ!!」


「あっ!」


 屍2つを前にして、最早食べる気は起きなかったが。マカロンを手に取ると何を勘違いしたのか、バジルが高速で奪い以下略。彼は激しく咳き込み…


「ゴフォアッ!!ゲホっ、あばああ!……っせい!!」


「あー…?」


 最期の力を振り絞り、あと1つマカロンが残っている袋を彼女の手から弾いた。それは偶然開いていた窓から外に落ちてしまった。

 意識の無いルシアンをそっと床に置き、急いで窓の下を覗き込む。



「……んだこりゃ」


 マカロンが落ちた先には1人の男子生徒がいた。見覚えのない容姿…青の腕章から3年生だと分かる。

 彼は袋を開けて、マカロンが1つだけ入っているので首を傾げる。そして上を向き…セレスタンとばっちり目が合った。


 その3年生は…

 銀のメッシュが所々入った栗色の髪を逆立てて。鋭い三白眼で耳や口にはピアス、アクセサリーをジャラジャラつけ。ジャケットのボタンは全て外れて胸元は大きく開き、裾はスラックスからかなりはみ出ており…その姿はまるで。



「ふ…不良だああ…!この学園にあんな人が…!」


「なんだ…?」


 頬を紅潮させ目をキラッキラに輝かせ。はわわと感動するセレスタン。不良はドン引きしながら…何故かマカロンを食べた。


「ブーーーッッッ!!!」


「み、見知らぬひとオォォーーー!!!」


 口に含んだ瞬間噴き出し意識を失った。あっちでもこっちでも屍が…精霊達が急いで回収するのであった。




 ※※※




 医務室に全員運ぶと、オーバンは顔を引き攣らせた。ベッドは4つ…全部埋まったの初めてだわ、と遠くを見る。

 バジルはすぐに回復し、ジスランを寮に運ぶと言って帰ろうとする。


「あ…バジル」


「はい、なんでしょう?」


「その…今後グラスが何か言ってくるかもしれないけど、気にしないでね」


「………はい」


 グラスの事だ、バジルに手紙でも出す可能性がある。セレスタンとしては、終わった事を蒸し返したくない。

 幼い頃苦しかったのは事実だけれど。今が幸せなんだからいいじゃない…と拳を握った。



「さーて、こいつらどうすっか」


 バジルがジスランを肩に担いで帰った後、オーバンと共にベッドを見下ろす。未だルシアンと不良は意識不明で魘されており…特に不良をどうするか悩んだ。


「この人誰?先生知ってる?」


「んー…特徴からして3年のアリスティド・ユルフェ伯爵令息だな」


「ほう…!!」


 セレスタンはアリスティドのベッドの横に移動して…尖った髪を突つく。


「ひえ〜〜〜!ガチガチの不良だあ〜!!」


「遊んでやるなよ…」


 相手の意識が無いのをいい事にやりたい放題。

 この不良はパスカル並みに背も高く、ジスランのようにガッシリとした身体をしている。恐らくルシファーだったら涎を垂らしながら服を脱がせただろう。


「手えでっかいな〜!」


 自分のと合わせてこれで15歳か〜、将来有望だなあ!と大はしゃぎ。


「お前…他人が怖くねえのか?」


「…僕が怖いのは『貴族』だもの。その中では不良だろうと聖人だろうと大した差は無いよ。

 むしろ…笑顔の人のほうが怖いよ…」


 それも数年前に比べれば大分良くなったけれど。

 とにかく今は、このお手本のような不良に興味津々である。

 散々見物した後ピアスが4個ついた耳を撫でると…アリスティドが目を覚ました。


「………?」


「あ…」


 間近で見ると、彼の開かれた目は自分と同じ金色だった。力強く輝く瞳から目が離せず…しばし見つめ合う。



「……っ!!?」


 数秒後我に帰ったアリスティドは、急激に顔を染めてベッドから転がり落ちる。


「なんだテメーは!?ぶっ殺されてえのかっ!?」


「(で、出たあ〜〜〜!!不良の鳴き声「ぶっ殺す」「死ね」「あ"あ?」「うるせえ」ですね〜〜〜!?)」


 セレスタンは動じるどころかテンションが上がってきております。


「あの…」


「!!!触んじゃねえっ!!」


 とにかく立ってもらおうと手を伸ばしたら、アリスティドは無視して立ち上がり医務室を飛び出した。



「か…かあっこい〜…!!」


「え、マジ?」


 まるで恋する乙女のように蕩ける表情のセレスタン。面倒な事になったな…とオーバンは再び遠くを見る。



 ※



 ルシアンはセレネに乗っけてもらい、ハーヴェイと共に精霊屋敷へ向かう。図書館には行けなかったが、別の収穫はあった。


「それでね!ド不良の後輩と今日知り合っちゃって〜!!」


「ほうほう」


「明日突撃してみようと思うんだ!不良のなんたるかを教わるの!」


「そかそか」


 内容はともかく、楽しげなセレスタンにハーヴェイも嬉しくなる。

 ルシアンは家で寝かせてカリエに見ていてもらい、着替えてハーヴェイと買い物に行く。


「なあスタン、変装しなくていいのか?」


「んー…最近は何もしてなくて…」


 知り合いに見られたら大変じゃないか?とハーヴェイは危惧している。


「一応言い訳は考えてあるよ。ありがとハーヴ兄、心配してくれて。でも僕、もう隠れるのやめたの」



 その笑顔が眩しくて…ハーヴェイはそれ以上口を開かなかった。


 夕食の席でもルシアンは青い顔。シャルロットの料理は殺人兵器なんだよ…!と訴える。

 俄には信じ難いが…今日だけで4人が犠牲になった。


「ロッティ…僕を殺したい程嫌いなのか…」


 望んだ展開のはずなのに、心が苦しい。しかも笑顔で殺りに来るとは…セレスタンは涙をぐっと堪える。

 もちろん勘違いだが。ルシアンの「彼女に悪気は無い、本気で自覚してないだけだ!!」という言葉になんとか持ち直した。




 翌日。シャルロットが登校すると…机の上に小さな箱があった。


「あら…?」


 開けてみると、手作りと思われる苺のタルトが2つ。



『マカロンめっちゃ不味かった』



「まあ…ふふっ」


 メッセージの文字だけで差出人は分かったようだ。ただし不味かったというのは本気にしていない。お兄様ったら、照れちゃって!くらいに受け取っているのである。


「ねえバジル、これ…バジル?」


「……あっ、申し訳ございません。なんでしょう?」


「…?珍しいわね、何か悩み?」


「い、え…」


 バジルは朝一からずっと心ここに有らずで、シャルロットの言葉すら聞いていなかった。


「(疲れてるのかしら…?)これ、お兄様がくれたの。お昼に1個ずつ食べましょ!」


「セレス様、が…

 はい。いただきます」


 バジルは微笑みを浮かべているが…血が滲むまで拳を握り締めていた。




 ※※※




「あ、いた!!」


「どれ…あー…」


 放課後になり、セレスタンとルシアンは3年生の教室を廊下の角から見ていた。とある教室から昨日の不良、アリスティド登場。こそこそ後を追う。思いっきり注目されているが気にしない。



「ん?そこのー、服装乱れすぎぃ」


「せめて裾くらい仕舞っとけよ」


「あ"?」


 廊下の向こうから生徒会長のチェスター&副会長のジェフが歩いて来る。アリスティドは服装を注意されるも、ひと睨みしてガン無視。



「………」


 その様子を見ていたセレスタン。なんかアホな事考えてんだろうな…とルシアンは遠い目。



「「………」」


「………」


 生徒会コンビは…若干ポーズを決めて立っているセレスタンに困惑した。

 彼女の人間不信を考慮して、すすすと距離を取って廊下の端を歩いてすれ違う。


 が。セレスタンは走って追い抜き、もう一度立ちはだかる。


「……えっと、何か用かな…?」


「………見て分かりませんか?」


「「(分かんねえよ…)」」


「髪切った?」「ええ」「えーと…ヘリオス元気?」「元気です」と会話をするも、セレスタンはどんどん頬を膨らませるばかり。

 次第に話題が無くなってきたコンビ。シャルロットの事は駄目だよな…と考えて「分かりません」と降参した。



「ぐぬう…!見てくださいよ、ボタン2つ外してんですよ!?服装の乱れで注意すべきでしょうが!」


「「えええーーーっ!!?」」


 確かに首元のボタンが外れているが。上まで留めているのは女子とセレスタンくらいなものである。

 だがどうにも叱責をご所望のようなので、チェスターが「きちんと留めなさいね」と注意。


「ふっふ…やなこった!」


「「えええ〜…?」」


 ご満悦で断る。舌をべっと出してから、腹を抱えるルシアンの下へスキップで帰る。



「なんだったんだ…?」


「さあ…?でも」


「「可愛かったな…」」


 セレスタンの渾身のドヤ顔を思い出し、コンビは同時に吹き出した。




「あーーー!!見失った!!」


「アホな事やってるから…」


「んもー。さて、僕今日はお姉様と用事あるから帰る!」


「はいはい」


 夕飯の支度があるので長くは遊べないが、今でも兄姉と交流は続いているのだ。

 今日はどこに連れて行ってもらえるのかなー?とにっこにこで廊下を走る。



「あ。廊下を走っちゃ駄目だ」


「それだよ!!!」


「どれだよ!?」


 途中でパスカルに注意され、思わずビシッ!と指を差す。


「ナイス注意!!その調子で頑張ってくださいね!」


「おう…?」


 彼の背中をバシバシ叩き、超笑顔で歩いて帰った。


「なんだったんだ…?」


 全く状況が掴めないけれど。セレスタンと少し会話出来たので、やや上機嫌になりながら生徒会室を目指す。





生徒会、ロックオン!

腕章の色:

1年 紫

2年 黒

3年 青

4年 灰

5年 赤

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