「最後の希望を摘み取ってやろうかクソジジイ」
グラスは何故連れて来られたのかも分からないが、とりあえず食事をいただく。窓の外を見れば東の空に太陽が。1日近く眠っていたようだ。
ボロボロになっていた法衣ではなく、上質な礼服を用意されて袖を通す。髪もセットすれば、どこからどう見ても貴族の子弟だった。
部屋から誰もいなくなったタイミングでラファエルに説明を求める。
「貴方が倒れた後、神殿に運ぼうと思ったのですが。グラト卿…ジスランの父君が礼もあるし皇宮に連れて行きたいと」
「全く…んなもん無視し」
「神殿に内緒で謝礼を用意したいと言っていましたし」
「よくやった!」
ビシ!と親指を立てる。個人に貰う分なら3割持っていかれる事はない、予定外の収入ゲット!と喜んだ。
扉がノックされ、返事をするとジスランの父、ブラジリエ伯爵が姿を現した。
「おはよう、よく休めただろうか?」
「おはようございます。お陰様で…」
「おおお!!!君かあ、久方振りではないかね!!?」
ただ彼は1人ではなかった。後方にもう1人…無差別鼓膜破壊兵器のテランスだ。
「お…お久しぶり…で…」
「総団長。彼と面識がおありで?」
グラトは慣れているのか、サラッと流してみせた。
「はっはっはっ!!!何を言うか、セレスタン君の従者のグラス君だ!!…グラト卿と名前が似ているな!!ぶははははは!!!」
何がそんなに面白いのか、彼の爆笑は止まらない。
「セレスタンの…?しかしあの家に若いのはバジルしかいないのでは?」
「ええと…話せば長い事ながら…」
「おおお!!こちらが天使殿かね!!?戦場では人間サイズだったと聞いているのだが!!!」
「「うるせええええっ!!!」」
ついにキレた2人であった。
※
「そうか…では君はセレスタンを慕っているだけで、ラサーニュに雇われている訳ではないと」
「はい。それも今は資金調達の為離れていますが…いずれあの方の元へ行きます」
「そうかあ…」
テランスの口を塞ぎ、ようやく座って会話が出来た。
グラトも「そういえば見かけた事あるような?」と思い出す。セレスタンが野菜を卸していた頃、彼も遠くから見物していた事があったのだ。
「ふうむ…こちらの総団長なんかは、君を魔術師団にスカウトする気満々だったのだがね」
「おれを…?」
バッテンマスクを付けたテランスは、目を輝かせて何度も頷いた。
「(魔術師ね…確かに皇室直属ともなれば給料もいいだろうけど)…申し訳ございません」
スッと頭を下げる。グラスはこの国に忠誠を誓う気は無いからだ。
「はは、仕方ないさ。それよりお客さんが来ているんだが…」
客?まさかセレスタンだろうか。目を輝かせて扉に目を向けると…
「……お前が活躍したっつー神官か…?」
憤怒の表情をしたエリゼが立っていた。
「すまんな!!こやつは儂の孫エリゼだ!!!これでもセレスタン君と同級生でな!!」
「あ?お前…ラサーニュの関係者か?」
「…訳あって今は離れていますが、セレスタン様に忠誠を誓っております」
「ふーん…そんな事よりボクと勝負しやがれ」
話の前後が繋がっておらず、グラスは内心呆れる。
「ええと…どのような勝負をお望みですか?」
「魔術に決まっているだろう!?アイクも他の奴らもお前を絶賛してばかり!魔術の申し子、天才として無視出来るか!!」
ビッシィ!!と指されて、どうしたもんかと思案する。
「その…おれの活躍との事ですが。おれは杖に頼っただけで…自分自身の実力とは言えません」
クロノスの杖は魔力を装填してくれるだけでなく、魔術の発動速度を早めたり精度を上げる働きもしていた。
何より、一度使った事のある術ならば魔法陣無しで展開可能だ。これを使っては勝った気もしないだろう。
「んなモン聞いてるわ!だがボクは天才として、どんなハンデがあろうと負けはしない!!遠慮なく使って挑んで来い!!」
「………」
グラスは少しだけ感心した。ただの喧しい我儘坊ちゃんかと思いきや…自分のプライドを賭けた真剣勝負を望んでいる。
これは…断る訳にはいかねえな…!と口角を上げる。
「では…受けて立」
「ミコトオォーーー!!起きたんだね、よかったああああ!!!」
「ぐっふぅ!!」
ソファーからおもむろに立ち上がった瞬間、部屋に飛び込んで来たセレスタンが弾丸スピードでタックルを喰らわせる。
※
「ミコ…グラスが魔物の討伐に向かったって精霊ネットワークで聞いたんだよお!!しかもバジリスクって…すっごい強い魔物じゃんかあ!
僕も行こうかと思ったけど、セレネやおじいちゃんに止められて…「グラスは仕事として誇りを持って立ち向かっているのだから」って…!
でも心配で心配で…!倒れて皇宮に運ばれたってラファエルが言うから来ちゃったよおおい!!でも全然起きなくて…うわーーーん!!!」
「泣かないで…」
セレスタンはグラスの上に跨り号泣する。しゃくり上げながら自分の無事を喜んでくれる姿に、グラスは胸が温かくなる。
だがやはり愛しい彼女の泣き顔は見たくない。ゆっくりと体を起こして正面から抱き締めた。
「大丈夫、大丈夫だ。おれは生きてる」
「…うん。君を信じていても、仕事だって分かってても…怖かった…
ラファエルだって、もう二度と会えなくなっちゃったら嫌だよう…」
「…ありがとう」
「……あのー、もういいか?」
完全に2人の世界に入っていたのだが、ここで他者の存在を思い出した。大人達は空気を読んで退室しており、部屋にはエリゼのみ残っていた。
「ひっく…ぐすん…ラブレー、いたの?」
「…お前より先に来てたわ。それよりボクはソイツに…えーと、ミコト?」
「!その名前はダメ、僕だけの特権だよ!!彼はグラスだからね!」
「お、おう。じゃあグラス、ボクと魔術勝負を…」
「何言ってるの!?病み上がりなんだからダメっ!!」
「はあっ!?」
セレスタンは真っ赤な目でグラスの前に立ちエリゼを威嚇する。
全く怖くはないが、キッと睨み付けられたじろぐ。特に彼女に対してやや負い目を感じているので強く出られない。
「く…グラスの意見は?」
「おれは…セレスが駄目だと言うので今日はやめておきます」
自分の為に怒ってくれる事が嬉しくて、セレスタンの頭を撫でながら断る。エリゼはぐぬぬと唸り眉間に皺を寄せて……
「……勝負はお預けだ!!それまで精々腕を磨くんだなはっはっはっ!!!」
「(……笑い方祖父さん譲りなんだな…)」
エリゼは高らかに笑いながら去って行く。制服を着ているので今から登校するのだろう、完全に遅刻だが。
「っと、セレスも学園に行くんだろう?」
「…………」
彼女も制服姿なので登校を促すも、グラスの裾をきゅっとつまんで俯いてしまった。学園に行く前に顔を出したら、グラスが目覚めたと知らされたのだ。
「…どうせ遅刻だし。もうちょっと…」
「……仕方ないな」
額にキスをしながらそう言えば、満面の笑みで「うん!」と答えた。
※
数分後、テランスが騎士総団長のモーリスを連れて戻って来た。今回の報酬について話したいらしい。2人掛けのソファーにセレスタンとグラスが並び、向かい側にテランス。1人掛けにモーリスが座る。
「久しぶり…と挨拶は省略させてもらう。
今回の働き、見事だった。陛下もお喜びだ、会いたがっていたのだが予定が合わな…」
「来ちゃった」
「…………来ちゃったそうだ」
間髪入れずに皇帝登場。廊下で待機していたのだろう、「働けや」とテランス以外が思った。モーリスとテランスが立ち上がり、ここからは皇帝が仕切る。
「まさか噂の凄腕神官が以前会った青年とは。ラサーニュ家は解雇か?ウチ来る?」
「その話は終わってます陛下。彼はウチには来ません」
皇帝はセレスタンの前ではフランクにすると決めたようだ。普段はそれなりに威厳のあるおじさんなのだが。
グラスは皇帝の申し出ももう一度やんわりと拒否。
ラサーニュ家には最初から勤めていない。神殿もいずれ出る。いつまでこの国にいるか分からないので…魔術師団も無理。
「え。国を出るのか?」
「いずれ。この…セレスタン様と一緒に」
隣に座る彼女の手を取ってみせた。部屋の中には若いっていいねえ…な空気が流れる。しかし皇帝は表には出さないが複雑な心境だ。
「(…精霊に愛された少年と、女神の宝物を与えられた青年。逃したくない…が)ふむ…どうしてもか?何か理由を聞いても構わんか?」
その問いにグラスは一度目を伏せてから、真っ直ぐに前を向いて決意を語る。
「容姿でお分かりと存じますが…おれはこの国の人間ではありません。ですが過去を覚えておらず、セレスタン様は一緒に故郷を探そうと仰ってくださいました。
そして…ラサーニュ伯爵はセレスタン様を捨てました。ですからおれが連れて行きます」
「グラス!?」
「おれと精霊が守ります。その為ならば故郷を捨てる事も厭いません。セレスタン様の幸せがこの国にあるのならば良いのですが…そうではないようです」
セレスタンは慌ててグラスの腕を引っ張る。だが「大丈夫だ」と言わんばかりに微笑むだけ。
まるで皇国に不満があるみたいじゃん!と慄きながらも皇帝に目を向けると…
「……詳しい話をいいかな?」
「「ひえ…」」
皇帝と、その背後に立つ騎士と魔術師のトップが。口元だけは笑って問い掛けてくる。あまりの迫力に、グラスすらも声を漏らすレベルだ。
「あ…いや。父上が…ロッティに爵位を譲るから、僕には卒業後出て行くようにと仰って…」
「それで捨てると表現したのか?」
「セレスタン様に譲る物は何も無い、卒業後速やかに出て行くよう指示しました。身一つで放り出すつもりだったのでしょう」
グラスの密告に皇帝達はおろか、壁際に控えている使用人や騎士まで空気が変わった。セレスタンは1人青い顔でオロオロする。
「あ、や…ぼぼ僕はどうでもいいって言うか…もうあの家にはなんにも期待してませんし…
むしろロッティに全部押し付けて申し訳ないって言うか…貴族の義務も果たさずに逃げるつもりだし…」
「貴方は生まれた時から貴族の暮らしをしてきたのですか?敬われて充分な教育を受けて、不自由なく生きて来たのですか?」
「えっと…出来の悪い子供に教育しても時間と労力と金の無駄だし…」
「出来が悪いのではなく、教育が不十分だったから知識が足りないだけです。後継の勉強だって、重要な事は何も教わっていないのでしょう?」
「その…はい」
グラスの言葉に何も反論できず。
何故自分は大っ嫌いな伯爵を庇おうとしているのだろうか。疑問に思うも…今はカリエ達のお陰で充実した毎日を送っている。
その余裕から、今まさに断崖絶壁に追い込まれている伯爵を気遣う心もちょびっとあるのだろう。
「ふうむ…不自由な暮らしをしてきたのか?以前から身体が小さいと思っていたが…まさか食事も…?」
それは女だからでは…と言いかけて急いで呑み込む。だが確かに、セレスタンはシャルロットよりも僅かに小さい。特に幼い頃は、シャルロットが姉かと思われる程の差があった。
「いやあ…食事と言っても、バジルが来てからは不自由した事はありません」
「「「「は?」」」」
「あ…」
てへへと頭を掻きながら発言し、直後に墓穴を掘ったと気付いた。遅過ぎたが。
「どういう事ですかセレス様?バジルが、なんだって?」
「ひぃ…!!いや、言葉の綾で…ね?」
「バジルが、いなければ。満足に、食事も出来なかったので・す・か…?」
ソファーの端に追いやられる。セレスタンは不幸自慢みたいになりそうで…過去を語りたがらない。だが4人の無言の圧にやられて、涙目で口を開く。
「えっと…ね?アイシャがいなくなった後…お仕置きとか教育とかで、食事抜きとか多くて…大体2〜3日水だけ、とか。
ただ1週間くらい放置された事があって…そん時は死ぬかと思ったけど。おじいちゃんが怒ってくれて…3日に1回は必ず様子を見に来てくれるようになって。
バジルが自由に動けるようになってからは、僕がダイニングに姿を現さなかったら部屋に来てくれて。1日2回は食べれるようになって…」
「じいさんや屋敷の連中はともかく、シャルロット様は何をしていたのですか?」
「あの子は習い事とか勉強とか、ずっと忙しくて。部屋で食べてるって父上の言葉を信じてたらしいよ」
もう過ぎた事だし、どうでもいいと言うセレスタン。
グラスは歯軋りをして俯いた。怒りが激しく燃え上がるのを必死に抑え、小さく細い肩にそっと手を乗せる。
「…以前から思っていましたが。シャルロット様は伯爵を嫌っているのに…どうして彼の言葉を信じるのですか…?」
「……ははっ、決まってるじゃない」
グラスはゆっくりと顔を上げる。そこには…憎悪や嫉妬、醜悪な感情を押し込めた金色の瞳。
セレスタンはぐっと顔を近付け、グラスにだけ聞こえるよう耳元で囁いた。
「愛されて育ったからだよ。僕なんかと違ってね」
「セレス…」
にっこりと笑いグラスの頬を撫でる。僕の話はもうお終い、学園行ってくるね!また会いに行くから、身体に気を付けて頑張って!と言い皇帝達にも挨拶をして部屋を飛び出してしまった。
「あれっ、ルシアン!?」
「び…っくりしたぁ〜」
扉の向こう側にルシアンがいたもんで、ぶつかりそうになり互いに驚いた。彼女が来ていると聞き待っていたらしい。ルシアンはグラスに会釈をしてから、連れ立って歩き始めた。
セレスタンは皇室の馬車に乗せてもらい、「セレブになった気分〜」と笑った。ただルシアンは先程の会話を聞いてしまっていた為顔を曇らせる。
「(…彼女は私なんかが想像もつかない生活をしていたのだろうか…)」
「…?どうしました?」
「あ、いや…今日遊びに行ってもいいか?」
「はい。夕飯はどうします?」
「そうだな…食べたいかな」
「俺も俺も!俺の分も作っといてっ!!」
彼らの会話に、外から護衛のハーヴェイも割り込んできた。そうしている間に到着、また後で!と別れる。
「…スタン。本気で…うちに養女に来ねえかな…?」
彼は普段の朗らかな様子とは正反対に、唇を結んで背中を見送っていた。
※※※
セレスタンが飛び出した後。
「…ラサーニュ伯爵の処遇如何によって、今後は変わるのか?」
「断言は出来ません。ですが…セレスタン様は現在、シャルロット様とも亀裂が入ってしまっています。
…陛下のお考えはお察しします。ですが…おれにもどうにも出来る問題ではございません」
皇帝もそれ以上は何も言えず、この話はお終いに。伯爵いつかぶっ潰す、と大人達は闘志を燃やしているが。
「と、報酬だったな。今回の働きは見事であった。バジリスクは強大な敵、犠牲者が出てしまった事は心苦しいが…予想よりは遥かに少なかった」
「光栄に存じます。…如何程の犠牲を予想していらしたのでしょうか?」
「討伐隊は…控えの30人を含めて半数は犠牲になる恐れがあった」
その発言にグラスは目を丸くした。呪いや硬い鱗で守られた巨体もだが、とにかく素早く毒が厄介な敵なのだ。
「君が速やかに解毒をしてくれた事。高性能結界で安全を確保、天使殿の能力も目を見張るものがある」
「動き回る討伐隊に、正確に呪い軽減や毒耐性も付与してくれただろう!!それに忙しい合間に拘束魔術で動きを鈍らせていたのだろう?素晴らしい事だ!!」
確かに全力を尽くしたつもりだったが…そこまで褒められるとは思ってもいなかった。
討伐隊もカステルノレイクの森付近に住む住人達も、深く感謝していると言葉を重ねられる。
「そういえば…何故兵士は8名も犠牲になったのですか。バジリスクは結界も越えてしまう力を持っているのですか?」
町村や道路は守られているのに、何故それを越えて交戦していたのかという疑問をぶつける。
結界とはあくまでも魔物の侵入を防ぐが…バジリスクで言えば、毒は防げないのだ。森近くには畑や飲水もあるし、家畜だっている。人間は避難できても、放置した場合の被害は計り知れない。
故に森に足止めする為、兵士達が剣を取ったのだ。国からも彼らの遺族に、賞恤金が支給されるとの事。
「そしてこちらを君に」
皇帝がスッと手を挙げ、従者が桐の箱をグラスに差し出す。促されて開けると、金貨が多く入っていた。
「神殿には君への報酬として金貨100枚を振り込む。こちらは別で50枚を贈る」
「…?戴き過ぎではありませんか?」
「先程も言ったが、君の働きで優秀な騎士や魔術師も守られたのだ。
それにバジリスクの素材が無傷で手に入った事も大きい。奴は目玉が弱点だからな、本来は泣く泣くそこを狙うのだが…君のお陰で回避出来た」
「(……つまり、素材を諦めてればもっと楽に終わってた?なんか複雑だな…)」
仕方ないか、と箱を閉じる。最後に…遺族への賞恤金はいくらなのか訊ねた。
「1世帯金貨100枚だが…」
「……分かりました、ありがとうございました。魔物討伐時にはまたご用命ください」
丁寧に礼をして退室、皇宮を後にする。その足で神殿に向かうかと思いきや、グラスは杖に跨り別の方角に飛んで行ってしまった。
※※※
「村長、いるか?」
「私ですが…神官様?」
グラスが降りたのはカステルノレイクの村。
服装から貴族かと思われたが、昨日の神官だと知られると村人は寄って来た。
「時間が無いから単刀直入に聞く。犠牲になった村人の家はどこだ」
「!!その…あちらに…」
それは森に山菜採りに入っていった親子だと聞いていた。示された家を訪ねると顔を泣き腫らして憔悴しきった女性が姿を現した。
身なりのいいグラスに恐れ、いきなり膝を突いて頭を下げる。
「お、お貴族様が、どのような用ですか…?」
「おれは貴族じゃない。立て」
手を引き立たせると、奥から5歳前後の男の子が飛び出して来た。
「ママをいじめるな!このー!!」
「やめなさい!」
泣きながらグラスの腹をポカポカ殴る。全く痛くないが…
「ぐはあっ!!」
「えーーー!?」
「かったー!!ママ、やっつけた!!」
グラスは腹を押さえて後ろに倒れる。男の子はガッツポーズのまま母親に飛び付き、母は困惑気味に息子とグラスを見比べる。
「そんだけ勇ましければ母親を守れるな?」
「うん!!」
満面の笑みを浮かべる子供の頭を撫でる。次いで母親に目を向けて、じゃらっと音を立てる布袋を投げた。
「わっ!これは…えええっ!?」
「少ないがとっとけ。じゃあな」
「わー、おかねざくざく!」
「お待ちください!?」
飛ぼうとしたグラスの杖を掴み引き留める。その金貨は、グラスが報酬で貰った50枚だった。
これは貰えないと言う母親。次第に村人も集まってきて、村長が一歩前に出る。
「何が…?」
「村長!こちらの方が…」
事情を聞いて戸惑う村長。グラスは無言で置いて逃げるべきだった…とやや後悔。
「兵士や騎士は国から賞恤金が出る。だが一般の家は端金程度の保険金しか出ねえだろうが。あんたんとこは旦那と息子と娘を失ったんだろう?
金で心の傷は癒えねえけど、生活に欠かせないモンだ。残った息子を思うなら、その金が尽きる前に仕事探せ」
「ですが…!」
尚も遠慮する母親と村長。グラスは村長の頭部…荒れ果てた大地に残る僅かな緑(毛)を鷲掴みにして低い声を出した。
「これ以上ガタガタ吐かすんなら、最後の希望を摘み取ってやろうかクソジジイ」
「……受け取っておきなさい」
「村長ーーー!!」
グラスは満足気に息を吐き、今度こそ飛び立った。
「ラフ。今日の事誰にも言うんじゃねえぞ」
「ふふ…はーい」
今度こそ神殿を目指して飛ぶ。
「(あーあ、折角の金が。まあ…また稼げばいいか)」
しかし魔物討伐は金になるが犠牲者が出るのはごめんだ。どうしたもんか…と悠々たる大地を眺める。
「…口は悪いが、なんとも高潔な青年か。この村の子供達も…彼のようになってもらいたいものだ」
村長は髭を撫でながら、呆然とする村人を見渡し微笑んでいた。
その頃、皇宮。
「総団長ー!!テルーダ卿の発光を止める方法を聞いてくださいと言ったではありませんかー!!」
「…忘れてた」
昨日より落ち着いているとはいえ。輪郭が判別出来る程度に輝きを放つ騎士をどうするか…モーリスは神殿に便りを送った。
『総団長殿。天使の話によると…あと2週間くらいで治まるそうです』
という返事が届き、テルーダという名の騎士は人間イルミネーションとして暫く名物扱いされるのであった。




