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皇国の精霊姫  作者: 雨野
訣別編
67/102

対魔物戦



「皆食事中にすまない。皇室騎士団より出撃要請が届いた。カステルノレイクの森にバジリスク一体出現。毒を吐く強力な魔物故、高魔力で補佐と解毒が出来る者を遣わされたしとの事」


 神殿の朝食時。神殿長の言葉で、穏やかな空間に一瞬にして戦慄が走った。


 バジリスクとは巨大な蛇の魔物で、硬い鱗に守られて体内に強力な毒を持つ。その目で睨まれると呪われ、一定時間身動きが取れなくなってしまう難敵だ。

 いくら騎士や魔術師が守るとはいえ、命懸けの任務に変わりはない。



「(そんな戦場に行くくらいなら…)」

「(嫌だ、死にたくない!!)」

「(ここで令嬢に嫌味を言われるほうがマシ…)」



 誰かが行かなくてはいけない。だが誰も志願せず…静かに押し付け合いが始まろうとしていた、が。



「行きます」


 どこかの命知らずが手を挙げた。皆声の主を探すと…立ち上がるグラスの姿が。


「(新人が出しゃばるのはどうかと思ったが、志願者がいないんだからいいよな?)」


 隣に座るファースに片付けをお願いして、ローブを羽織りやる気満々。


「あ、あぶ、ないよ!」


「そうだな。でもおれは行く」



「…はっ、正義感のお強い事で」


 誰かの小さな呟きは、騒つく室内でもよく響いた。それは普段からグラスを快く思っていない男、トマス。一言で言えば…ガキ大将がそのまま大人になった男。

 思っていた以上に注目されてしまったのか、舌打ちしながら食事を再開した。


「…んだよ、とっとと行けよ。あーあー、顔が良くて熱血漢か、そりゃモテるわなあ」


 ヘラヘラ笑いながらグラスにスプーンを向ける。それを不快に思う事もなく…いや関心を示さず神殿長と共に食堂を出た。



「……あんの野郎…!スカしやがってえ…!!」


 憤るトマスを、皆が軽蔑の眼差しで見ていた。




「ラフ、いけるか?」


「魔物の呪いも毒も効きませんが…僕は補助に特化した天使ですので、戦闘は期待しないように」


「十分だ。お前に何かあればセレスが悲しむ、消滅だけは気を付けろ」


「…貴方こそ。我が君を悲しませぬよう願いますよ」


「もちろんだ、おれは死なん」


 ラファエルと拳を突き合わせながら廊下を走る。精霊と魔物は共通点の多い存在であり、互いが天敵だと言われている。

 精霊は外部の攻撃を受けても、精霊界に帰るだけで回復すればまた召喚出来る。だが魔物の攻撃で倒れてしまうと、存在そのものが消滅してしまう。

 魔物は非常に頑丈で回復力が高いが、精霊の攻撃は治らない。精霊と魔物をぶつけるのは諸刃の剣なのだ。



 カステルノレイクの森は首都より離れているので、馬を走らせても1時間は掛かってしまう。その為魔術師と騎士数名が転移で先行して足止めをしているはずだ。


「グラス。すぐに迎えが…」


「不要です。直接向かいます」


「何を言うか、無駄に魔力を使っては」


「ラファエル!」



 バサッ…とラファエルが真体を披露し、翼を大きく広げた。神殿長や追い掛けて来たファース達神官は、その神々しい姿に感嘆の声を漏らす。


「全速で頼むぞ!!」


「了解!!」


 ラファエルはグラスを肩に担いで飛び立つ。あっという間に彼らの姿は小さくなり、その後迎えの馬車がやって来た。



「もっとマシな持ち方は無いのか!?」


「なんですか横抱きにしろとでも!?」


「…それは嫌だな」


「じゃあ我慢なさい!!」


 上空で言い争いをしつつ、グラスは戦場へと向かった。森の大体の方角さえ分かれば、魔物と交戦中を知らせる狼煙が近くに上がっているはずだ。




 ※




 狼煙は森の入り口に設置されていた。そこには多くの負傷した兵士が見え、急ぎ交戦場所を探す。


「そこだ!!」


 鬱蒼とした森の中、上からぽっかりと空いている部分を発見した。恐らくバジリスクの毒で植物すら溶けてしまったのだろう、ラファエルはそこを目指す。



「神官だ!!状況を説明しろ!!」


「早いな!?見ての通り交戦中、毒で5人倒れた!」


 木々の穴から突入したグラスに答えたのは、エリゼの兄アイザックだった。

 彼の視線の先は…鱗は鉄色に輝き、全長は計り知れない蛇の王。金の双眸を見てしまい一瞬身体を硬直させるが、すぐに解けて地面に降り立つ。


 バジリスクの呪いは魔力が高ければ無効化出来る。検査で言えば紫以上は必須、現在この場にいる魔術師の14人はクリアしているのだろう。

 騎士も同じ数だけいるが、皆同じ首飾りを付けている。呪い軽減アイテムだ。


「まだいけるか!?」


「なんとか!治療頼む!!」


「了解!おれの保護はいらん、好きに暴れろ!!」


 負傷した5人はそこだ!と指された所を見ると…辛うじて緑が残っている簡易結界の中に、半身を変色させた魔術師と騎士が横たわっていた。


「…あー、すまん…ドジった…ごぼっ」


「黙ってろ」


 1人は意識もあり、大量の血を吐いた。グラスは患部に手を触れる。手が爛れ顔を歪めるが、速やかに治療を開始した。



「く…っ!ラフ、あの毒の沼浄化出来るか?」


「お任せを!」


 バジリスクは現在、自身の周囲に直径30m程毒を撒き散らしている。それが沼のようになり、討伐隊は上空からしか近付けずにいた。


 ラファエルは毒を物ともせず真っ直ぐに沼に飛び込む。数秒後、沼全体が山吹色に輝き…毒は霧散して荒涼たる地面が姿を現す。



「-------------!!!!」


 バジリスクが高音波の奇声を発し、ラファエルに狙いを定める。


「そう来ますよね。僕が引き寄せます、攻撃を続けなさい!!」


「感謝する!!ところでお前人間!?」


「精霊です!!」


「マジか後でサインくれ!!」


「ええいくらでも!!」



 グラスは治療と結界の強化を並行して進める。更に動き回る討伐隊1人1人に術を掛けていく。


「あ"ーやる事が多い!!ええと、騎士に呪い軽減を追加すれば無効化出来んだろ。それと全員に毒耐性…ああもう、対策出来てりゃ無効化付与もいけたのに!」


 ブツブツと言いながら術を飛ばしまくる。結界は完成し、魔物の攻撃は一切届かない避難場所を確保。

 治療も残り2人。回復した者は礼を言い、張り切って飛び出して行った。



「魔術師連携しろや!?なんで全員で攻撃してんだアホか!!?」


「すまん諦めろ!!」


 拘束とか補助出来んだろ!!とグラスはキレまくる。アイザックが本当に申し訳なさそうに謝罪するが、魔術師は基本的にとにかく突攻突撃!だ。

 事前に聞いてはいたが…騎士とは連携が取れるが、魔術師同士では無理な事が多い。その為に神官を派遣していると言っても過言ではない…かもしれない。



「バジリスクの鱗は物理攻撃のほうが通る!騎士を援護してくれ!!」


 騎士の中でも年長と思われる男が指示を下す。その時、バジリスクが一瞬目を閉じた。


「毒息を吐くぞ!!」


 直後に大きく口を開けて、一帯に毒が広がった。全員後方に飛んだり障壁を張って対処するも、逃げ切れず直撃した者は叫び声を上げて倒れる。


「ラフ!!回収!!」


 次々と運ばれて来て、グラスも手がいっぱいだ。ラファエルに治癒の天使なら手伝えないか!?と訊ねる。


「出来ますが…僕の能力は人間にはやや刺激が強くて」


「逆に悪化するとか、人間辞めるとか?」


「いえ。まあやってみます」


 ラファエルはそう言って、重傷者を治癒してみせたが…


「うわ眩しっ!!?」


「こうなります」


 治された騎士は全身から発光した。まるで小さな太陽、バジリスクすらも眩しさに背を向けた。更に…


「ひいやひゃああはっはああー!!オレの獲物だあっはあぁ〜い!!」


「少々ハイテンションになります」


「誰かそいつふん縛れ!!!」


 その騎士はヒャッハーしながら丸腰で突っ込んで行った。急いで回収&拘束、眩しいので呼吸だけ確保して土に埋めた。




 バジリスクの瞬きは毒息の前触れ。更に毒液はいつ飛んで来るか分からない。

 戦っている討伐隊も勿論、グラスも額に汗を滲ませながらサポートに専念する。とにかく治療第一、犠牲者を出してたまるか!!と集中を切らさない。


 キンッ!ゴオオオッッ!!ガキィン!

 バジリスクも牙と毒、全身を使い抵抗する。ラファエルも毒を片っ端から浄化していくがとても追い付かない。

 戦闘を開始してから何時間経ったかも定かではなく、援軍にもグラスは術を掛けていく。治癒で疲労は治せないので、疲弊した人を自分の背中、結界にて休ませる。



 怪我人がいなくなった瞬間を見計らい、グラスは杖を構えて最後の仕上げに取り掛かる。



「!?これは…」


「騎士全員に祝福を掛けた!剣の威力3倍、物理攻撃半減!!効果は15分、身体強化は自分でやれ!!」


 バジリスクも見るからに限界を迎えており、動きは鈍く毒は底を突いたようだ。魔術師が動きを止めている隙に、騎士の総攻撃が始まった。

 魔物は回復する間もなく無数の太刀を浴び…



「はああああっ!!!」



 年長の騎士が一閃、首を落とした。

 バジリスクは断末魔の叫びを上げる事なく絶命し、ドオオォォ…ン と大地を揺らして倒れる。


 全員剣や杖を構えたまま蛇を囲う。

 だが…身体がサラサラと塵になって消えて行く。その場に残されたのは、魔物の核となる魔石。バジリスクは強大な力を持っていた為、人間の頭部サイズの物が転がった。

 そして力の宿っているバジリスクの眼が2つ。これは魔道具や武具の素材となる。



「………終わったあああーーー!!」


 誰かがそう叫び、地面に仰向けに転がった。それを皮切りに、次々倒れたり座り込んだりする。気付けば太陽は真上、5時間は経っているようだ。

 グラスも汗で髪が額に張り付いているが、負傷者がいないか見て回る。そこに年長の騎士が声を掛けてきた。


「そこの君、お疲れ様。すごく助かったよ」


「そうそう、今までの誰よりもやりやすかったぜ」


「前回来てくれた奴、腰引けまくって治療しか出来なかったし…それでも充分だけども…」


「あんだけ魔力使ってまだ動けるのか!?」


「お前んとこの弟といい勝負じゃねえ?」


「エリゼか?いや…多分それ以上じゃ…」


 一気に話し掛けられて、グラスは戸惑い逃げ道を探す。



「あー…ゲホッ。この杖のお陰…です」


 クロノスの杖を持ち上げながら言った。散々叫んだ後なので、若干声が掠れている。

 人間は本来体内の魔力で術を行使するのだが…この杖は大気中のマナを集めてグラスの魔力に変換、使い放題となる。いわば霊脈と同じ効果を得る。

 ただ身体に負担が無い訳じゃないのだ。魔力切れではないが、肩で息をして足元がおぼつかない。


「っと。流石に辛かろう、君も休みなさい」


「いえ、まだ仕事が残っていますので」


「…?後始末ならこちらでするが」


 年長の騎士の腕を振り解き、グラスは杖を浮かせて横向きに座った。この杖万能だな…と思いながら浮かび上がる。



「いいえ。ここに来る途中、負傷した兵士を見かけました。

 おれは神官です。怪我人を治しに来たんです。では、失礼」


「あ…」


 魔術師に囲まれているラファエルも回収、飛び去ってしまった。



「……そういえば、名前を聞いていなかったな…誰か知ってるか?」


「「「さあ…?」」」


 ろくに礼も言えなかった…と戦闘の跡地を眺める。


「…若い者にばかり頼っていられないな。動ける者は周辺の探索!ただし無理はするな!!」


「「「はいっ!!!」」」


 騎士も魔術師も、皆で後始末を始める。年長の騎士はグラスが消えた青空を眺めた。


「…息子達といくつも違わないだろうに。神官という事は平民だろうが…気高い青年だったな…」


「団長ー!こちら来ていただけますかー」



 口角を上げてフッと息を吐き。第五騎士団団長、グラト・ブラジリエは部下の元へ向かった。




「……なんか光ってると思ったら…」


「ふえええう。へへへあい…」


「…この声、テルーダ卿か…?」


「恐らく…」


 掘り起こしたこの発光体をどうするべきか…頭を悩ませるのであった。




 ※※※




「負傷者はこれだけか?近くの村人とか平気なのか?」


「はい、十分です。ありがとうございます、神官様」


「おれは様付けされるような身分じゃない。さて…」


 これで27人目…最後の治療を終えて立ち上がる。

 今回…兵士が8名、村人が3名。騎士が1名犠牲となってしまった。その結果にグラスは顔を歪ませ、拳を強く握り締める。


「神官様…貴方がいらっしゃる前の出来事なのです。どうか心を痛めないでください…」


 村長を名乗った老人が、グラスの前に跪きながら言う。立つようにと手を貸しながらグラスは首を振った。


「分かってる。それに、全ての人間を救えると夢見る程愚かでもないつもりだ。

 それでも…感情が追い付かないだけ」



 犠牲者が並べられている場所に案内され、膝を突いて手を組んだ。


「…安らかに眠れ。このおれ、ミコトはお前達の事を決して忘れない」


 彼の後ろで、多くの村人と兵士が倣って祈りを捧げる。

 神殿に戻らないとな…腹減った。そう思いながら立ち上がるが…


「あ……?」


「神官様!!」


 グラスは足に力が入らず、前のめりに倒れる。ラファエルが受け止めるも、こりゃ駄目だな…と苦笑しながら意識を手放した。




 ※※※




 目を覚ますと、柔らかい布団に包まれていた。神殿のベッドはもっと硬いし…どこだここ?とゆっくり身体を起こす。どこかのお屋敷だろうか、豪奢な部屋だ。

 ラファエルも枕元にいたが、ぐっすり眠っている。サイドテーブルにベルがあったので鳴らすと、メイドが扉を開けて入室してきた。



「おはようございます。お食事の用意をしてもよろしいでしょうか?」


「お願いします…ここはどこでしょうか?」


「皇宮でございます」


「はあ…」



 皇宮。皇宮とな。



「………なんで?」



 それしか言葉が出なかった。



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