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皇国の精霊姫  作者: 雨野
訣別編
66/102

グラスVSルシアン



「……あら?」


 ルネが登校すると、机の中に何か入っている。精霊…ガブリエルだった。

 驚きから全身を跳ねさせたが、小さく畳まれた紙を持っている事に気付いた。こっそり受け取ると、ガブリエルは会釈して飛んで行く。


 誰にも気付かれないよう開くと…


『ルネさんへ。

 お屋敷、よかったら遊びに来てくれると嬉しいです。誰にも…特にロッティには気付かれないようにお願いね。都合のいい日を教えてもらえれば迎えに行きます。

 セレスタン』


 と書かれていた。新居に遊びに行きたいが、同居人達の許可が必要との事で無理だったのだ。

 ルネはシャルロットもセレスタンも大切な友人だ。その返答に顔を綻ばせて喜んだ。




「…お。おかえりガブ」


「はい、きちんと本人にお渡ししましたわ」


「ありがと」


 セレスタンは相も変わらず階段の上。ルシアンと並んで雑談をしていた。


「…何故私は新居に行ってはいけない?友人なのに…」


「えっと…」


 もしもルシアンに教えたら。

 その度に男装をしなくてはいけない…それは正直面倒。アポ無しで来られたら、それも大変な事になる。


「ま、まあまあ。お休みの日とか、街で遊ぶ分には大丈夫ですし…」


 頬を膨らませるルシアン。もう、自分も秘密を知っていると言ってしまおうか?


 ただその場合、何故?いつから?となるだろう。まさか…意識の無い時に服を脱がせてサラシを見て。

 更に服の上からではあるが…下半身に()()が付いていない事を触って確認したなどと。


「(言える訳があるか…!どんな変態だ、私は!)」


 当時を思い出し、顔を真っ赤にして手で覆った。

 まあルキウスも初対面で同じような事をしているのだが。兄は変態的行動の自覚が薄いので、それよりはマシだろう。

 ルシファーも半裸の騎士を見ながら「うへへへ」と涎を垂らし、「ちょっと触らせて!ちょっとだけ!先っちょだけ!!」「「「イヤアアーーー!!」」」(野太い声)と筋肉を追い掛け回したりしていた。

 そんな姉弟なので、ルクトルだけ普通なのが異常なのかもしれない。



「いや私も普通だよなっ!?」


「なんですかいきなり!?」




 ※※※




 そしてルシアンは考えた。

『偶然着替えを覗い…見てしまい、女の子だと知っちゃった☆』作戦である。



「「…………」」


 現在男子トイレの中。一番奥の個室でセレスタンが着替えをしているのだが。ドアの前に守護者(ジスラン)がいて覗けない。奴が初めて役に立った瞬間だった。



「……どいてもらおうか」ヒソヒソ


「お断りします」ヒソヒソ


 正面から覗くのは諦めよう。では隣の個室から…と隣に入ろうとしたら止められた。


「なんだ?私の排泄の邪魔をするのか?」


「いいえ別に?ただ隣でなくてもよろしいですよね?」


「お前になんの権利があって場所を指定する?」


「ただの進言ですが?」


 明らかによじ登る気満々のルシアン。例え成功したとして、どう言い訳をするつもりだったのだろうか。


「俺だって見たいのを我慢しているんですよ…!」


「私は着替えを見たいとは言っていないが?単に壁登りをしたい気分でな…!」


「俺はセレスが着替えてるなんて言っていませんが?」


「私はセレスとは言っていないが?」


 額に青筋を浮かべて、静かに言い合いをする2人。すると上に大きな影が落ちて来て…



「「ん…?ぎゃーーーっ!!!」」


 ずっしーーー…ん…と巨体のセレネが尻で潰した。直後に個室のドアが開かれて…



「何やってんの君らは!?ジスランはまだしも、ルシアンまで!!そこで反省してなさいっ!!」


 全部聞いていたセレスタンは大股でトイレを出て行った。その場にはセレネごと男2人が残され…解放されたのは、授業開始のチャイムが鳴ってからだった。




 ※




「その、すまない。機嫌を直してくれ…」


「ふんだ」


 お昼、屋上にて。セレスタン手作りの弁当を一緒に食べるも、顔を合わせてくれない。


「そもそも、なんで覗こうとしてたんですか!」


「…正直に言ったら…怒らないか?私は其方に嫌われたくない…」


「………」



 正直、ときめいた。

 他の人には高圧的で、見下したような態度を取るルシアンが。

 今は唇を噛んで…上目遣いでセレスタンを見上げている。


「(やばい、耳と尻尾の幻覚が…!)」


 怒られてしょぼくれる犬のような姿に、セレスタンの心はガッタガタに揺れる。


「……正直に、話してくれたら許します…」


 結局根負けしてそう言った。ルシアンはパアアと顔を輝かせて、急いで食べ切って居住まいを正した。セレスタンもつられて座り直し、正座する形で向かい合った。



 ルシアンは天を仰ぎ…ススッと2歩分下がり。



「申し訳ございませんでした」


「えーーーっ!!?」


 美しい土下座を披露した。


 当然セレスタンは大慌て。皇子がなんて事を!顔を上げるよう言っても上げない。

 ならばと後ろに回り込み、脇の下に腕を入れて「ふぎー!」と全力で持ち上げる。

 だがルシアンも負けじと踏ん張る。


「ぐううう…!」


「んぬううう…!」


 どちらも譲らず、最終的に…うつ伏せで倒れるルシアンの上に、力尽きたセレスタンが倒れ込んだ。



「ああもう!なんですか一体!?」


「……其方は女性なのに力が強いのだな。私もここ最近は鍛えているつもりだったのだが」


「ふっ。僕はもうずっと昔から鍛え……なん?」


 今、彼はなんと言った?自分の事を、女性と言わなかったか?いや聞き間違いだよね?と内心大混乱。



「…とりあえず降りてくれないか?この密着具合はどうかと思うのだが」


「え…わああっ!?」


 ルシアンが少し顔を横に向ければ、そこには目を丸くするセレスタンの顔が。このままキスしてやろうか、と思いながらも降ろした。



「いつから…?」


「……疑問に思ったのは、茶会の時」


 そこからルシアンは全て話した。切っ掛けから…発覚した手段まで。聞き終えたセレスタンは、一瞬で顔を染めた。



「へ、変態皇子ーーー!!!」


「…返す言葉も無い…」


 両腕で自分の身体を抱き締めて、涙目でそう叫んだ。やっぱり兄弟だ、ルキウス様とそっくりだ!!!と思ったが。


 今までルシアンは、さり気なく僕を助けてくれていた…?とも思い至った。

 合宿でもそうだし、もっと前…シャルロットと入れ替わっていたあの時。


 何度も廊下で顔を合わせては、危機を教えてくれていた。そして今…本当に馬鹿正直に応えてくれて。

 この人は…とても素直で誠実な人なのでは…?そう考えると、怒りの感情は見る間に萎んでいく。



「…もう、いいです。許します…」


「……本当に?私の事、嫌いになってないか…?」


 不安そうに自分を見つめる姿に…心はガックンガックン揺れまくる。


「恥ずかしいけど、怒ってませんし嫌ってません」


「よかった…!」


 へにゃりと笑う表情に…「可愛いじゃねえか…!」とときめきが止まらないセレスタン。今後も友人として…と話は纏まった。

 ルシアンが同じ気持ちかは、分からないけれど。




 ※※※




 その日の放課後、ルネは時間が空いているというので新居にご案内。医務室に集合、ルシアンが不満そうにベッドに転がっている。


「私も行きたい…」


「だーめ。僕と精霊は許可したけど、あと4人突破しないといけません!」


「くう…」


「(本当にルシアン様、変わりましたわね…)」


 ルシアンの態度にルネもびっくりだ。女子2人は挨拶をして退室、ルシアンはオーバンに愚痴を溢す。



「叔父上…私も連れて行ってくれえ…」


「駄目だ」


「自分は毎日行くくせに…!」


「ふふっふん」


 ものすごいドヤ顔のオーバン。ルシアンは頬を限界まで膨らませて飛び出して行った。


「ちくしょう!!叔父上が未成年の女性を家に連れ込んでたって父上にチクってやるーーー!!!」


「お前絶対やめろよ!?…知ってたのかオイィーーー!!?」


 どこまでも騒がしい叔父と甥である。

 


 ※



「ルネさん、お迎えは?」


「今日は要らないと伝えてありますわ」


「そっか、じゃあ行こう。

 この子は精霊フェンリル、セレネって言うの。僕の頼れる騎士だよ!」


「まあ、フェンリル様…!?」


「だぞ」



 ルネに精霊達をご紹介、セレネに跨り移動した。乗り心地の良さ、その疾さに感激して目を輝かせる。


「到着だぞ」


 門の前でセレネはルネの頭を軽く舐めた。これで術は解除出来たようで…


「(なんでハーヴ兄達は齧ったんだろう…)」


 ジスランに至っては頭から喰われていた。完全に対応が違う。


「ふふ…セレネってば紳士だなあ」


「(それでいいのですか我が君…)」


 バラキエルは何かを言いた気にしていたが、グッと堪えていた。



「まあ、素敵なお家ですわね!」


「でしょ!?おじいちゃんがね、僕の為にご用意してくれたのよー!」


「おじい様?ではご挨拶をなさいませんと!」


 ナディアとは教会で顔を合わせた事がある為、簡単に挨拶だけ交わす。カリエは「ごゆっくりなさいませ」と言い引っ込んでしまった。

 ナディアがお茶を淹れてくれて、女子3人でまったり過ごす。



「お姉様、今日のお買い物は終わってます」


「ありがとナディアちゃん。夕飯の支度は手伝うからね」


「はい。それで…えっと、ヴィヴィエ様」


「はい?」


「そのう…少々ご相談が…」


 セレスタンとルネは顔を見合わせる。ナディアは一旦談話室を出て行き…大きな箱を持って戻って来た。



「「わあ…!」」


 その中には刺繍が施されたハンカチが沢山入っていた。数年掛けてコツコツ溜めたようだ。


「以前お姉様がとっても褒めてくれたのが嬉しくて!それに売れそうと言ってくださったので…如何ですか?」


「ええ、この完成度なら売れますわ!」


「よかった〜。それで、どうやって売ればいいのでしょう…?」


「そうですわね…公爵家のツテで探してみますわ。これ程の物ならば、どこのお店でも置きたがりますわ」


 その返答にナディアは大喜び。彼女もずっと、金銭面でセレスタンの役に立ちたいと願っていた。

 ルネが貴族向けの洋裁店で探してみる、と約束してくれたので。もっといい作品を作るぞ!と気合を入れるのであった。



 ※



 ルネは帰りが遅くなってはいけないので、夕飯前には帰宅する。セレスタンの家とルネの家は同じ住宅地にあるので、セレネに送ってもらいあっという間に着いた。


「今日はありがとうございました」


「こちらこそ。また来てね」


「はい。……セレスさん」


 ヴィヴィエ邸を後にしようとしたら、ルネがやや声を落として問い掛けてきた。



「……いえ、学園ではあまり話し掛けないほうがよろしいですか?」


「…?うん、それでお願いね。君にはあの子の側にいて欲しいの」


「お任せください」


 ルネが会釈をして屋敷に入ろうとして…今度はセレスタンが訊ねた。


「あのさ。あの子は…僕が寮を出た事、何か言ってた…?」


「……心配だけれど…お父様が用意した家に住んでいるだろうから、カリエ先生も一緒だろうから大丈夫、と」


「…そっかあ」


 互いに背を向けた状態で会話は終了し、またねと別れた。

 セレスタンの表情は変わらないが…セレネの毛を強く強く握り締める。



「……今日はミコトに手紙書かなきゃね!ルシアンの相談もしなきゃー、駄目って言われたらどうしよう?」


「…あいつはシャーリィにベタ惚れだからな、多分オッケー出すと思うぞ」


「そうかな?ならいいんだけどね!」


 セレネには彼女が空元気を出しているようにしか見えなくて…だからこそ。何も気付かないフリしか出来ないのであった。





『ミコトへ。

 今日ルネさんが家に遊びに来てくれました。それでね、精霊の皆が飛び回っている姿を見て…「精霊屋敷ですわね」って言ったんだ。僕なんか気に入っちゃったので、それを通称にします。もっと召喚して、全属性コンプリートを目指そうか考え中です。

 ナディアちゃんが今まで頑張ってきた刺繍のハンカチも、ルネさんのツテで売れるかもしれません。とっても上手なので絶対人気出るよね!

 それと…ルシアンに性別がバレました。というか3年前からバレてました。君の言った通り、隠せてなかったね…

 で、精霊屋敷に入る許可が欲しいとの事です。後は君の判断だけなので考えておいてね。

 また会いに行きます。セレスタン』



「……ふむ、ルシアン…第三皇子殿下」


 手紙を受け取ったグラスは、窓の外の星空を眺めていた。


「(…3年前から気付いていたなら、何故今まで言わなかった。なんか気になるな…)よし」



 翌日の夜、セレスタンが受け取った手紙に…ルシアンに会いたいと書かれていた。そうしないと許可を出せない、日曜日の面会権を使って来て欲しいと。


「むう…僕が会えないのは残念だけど…仕方ないかあ…」


 グラスもセレスタンに会えないのは心苦しいが、と書いている。

 ルシアンにもそう告げると…受けて立つ!と燃えていた。




 ※※※




「ここか…面会希望なのだが」


「はい…(うわ美形!?)」


 この日門では軽く騒ぎになっていた。ルシアンはいつもの黒髪を銀に染めて神殿に乗り込み、グラスと対峙する。


「お久しぶりです。お待ちしてました、どうぞこちらへ」


「ああ」


 グラスは若干黒い笑顔で出迎え、ルシアンは目が笑っていない。小部屋で向かい合ってソファーに座り…口火を切ったのはルシアンだった。



「今回は逢瀬の邪魔をしてすまない。どうか畏まらずに好きに発言してくれ」


「…では遠慮なく。貴方は何故セレスに近付くのですか?おれは彼女と将来を約束しています」


「…………」


 ルシアンは足を組み、背もたれに頬杖を突いて口を開いた。


「将来…ね。口約束なのだろう?」


「ふうん…?やはり、そういう感情を抱いているんですね?」


「否定はしない。ただ…これが愛と呼ぶものなのかは、自分でも分からないが」


「「…………」」


 互いに笑顔を絶やさない。グラスは相手が皇子であろうと一切恐れず、むしろ迫力では圧倒している。


「(肌がピリピリする…ルキウス兄上を彷彿とさせるな…)それで、私はセレスの家に入れてもらえるのか?」


「愛する人を狙う男を近付けさせるとお思いですか?」


「自分に自信が無いのか?」


「そんな安っぽい挑発に乗るとでも?」


「「ははははは」」



 にこにこにこ。セレスタンがこの場にいたら「仲良しだな〜」と言うに違いない。



「セレスにはおれという恋人がいるんです」


「それでも…私が想うだけなら構わないだろう?」


「……だけ、で済むのですか?」


「ああ。これでも自分を抑えるのは得意でね」


「…………」


 グラスは表情を消して、ルシアンを睨みつける。


「おれ達はいずれこの国を出ます。その時貴方はどうするのですか?

 今その感情を捨てないと苦しいだけですよ。おれからセレスを奪う自信と、行動力があるのなら別ですが」


「国…か。どこに行くんだ?」


「オオマキラ大陸。箏…の辺り。ただそれまでにも、色んな国に行ってみたいと話しています」


「そうか…旅をするのか」


「はい」


 ルシアンが遠くを見て微笑むもので、グラスは少し気が抜ける。


「私も…行ってみたいな」


「え…」


 聞き間違いかと思った。だがルシアンの目は冗談を言っているようには見えない。


「(…温室育ちの坊ちゃんが、旅なんて出来る訳がない。護衛や使用人を何十人も連れた快適なものじゃないんだぞ…?)」


「いつ行くんだ?」


「あ…早くても、セレスが成人してから…」


「分かった」


 ルシアンは「邪魔したな」と立ち上がる。グラスは思わず待ったをかけた。



「…どうして何も言わないんですか」


「色々言ったと思うけど…」


「自分は皇子で、おれは平民の孤児で。身の程知らずだとか、自分のほうがあらゆる困難から彼女を守れるとは言わないんですか?」


「そう思っているのか?」


「………」


「お前は、自分じゃ彼女を幸せに出来ないと思っているのか?」


「…いいえ。どのような立場であろうとも、彼女に対する想いは変わりません」


「なんだ答えは出てるんじゃないか。変な奴だな、お前は」


 ははっと笑う姿からは、さっきまでの敵意は感じなかった。グラスはなんだか負けた気分になり…大きく長くため息をつく。



「屋敷、入ってもいいです」


「…え?」


「ただしセレスに必要以上に近付かないように。あくまでも友人、という事を忘れないでください」


 グラスはさっさと帰れと言わんばかりに扉を開けた。ルシアンはふっと笑い、横を通り過ぎる。



「ではまたな、グラス」


「ふん…」



 愛する人の周りを彷徨かれるのは腹立たしいが。今回は挑発に乗ってやろうじゃないかと鼻を鳴らす。



「…奪えるもんなら奪ってみろ。絶対にさせないけどな!」


 そう決意を新たに、今日も仕事に励むのだ。



皇族四姉弟、好きなタイプの話

ルシファー「全ての男性にそれぞれ魅力があるのよ!」

ルキウス「小動物系で自分を怖がらない人」

ルクトル「うーん…思いやりがある優しい人。あと気が強いほうが好みですね」

ルシアン「頑張り屋さん。それと…放っておけない、見ていて飽きない人?」

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