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皇国の精霊姫  作者: 雨野
訣別編
65/102

グラスの初仕事



 今年もまた魔術祭の季節がやって来た。セレスタンは不参加、「不良は学校行事なんて参加しないんだよ!」との持論。


「……ふーん、ロッティ参加するんだ。ふーん」


「今年は魔術の天才がいるからな。敵わないと参加者が少なくて、生徒会メンバーは強制らしい」


「ふうん…」


 別に僕には関係無いし?と言いながら。

 観客席の端っこにルシアンとこっそり座り。大きなモニターに映し出されたシャルロットを見守っているのだった。

 トラップに掛かったり、危なげな場面になる度胸の前で手を組み祈る。どうか怪我しませんように…!と。

 最終的に優勝はシャルロット&エリゼペアとなった。決まった時に両手でガッツポーズを決めている姿を、ルシアンだけが笑顔で見ていた。





「ま、パートナーがラブレーなら優勝くらいするよね〜。別に凄くもなんともないし〜?」


 寝る前にブツブツ言いながら机に向かい、何か手紙を書いている。

 綺麗な封筒に入れ丁寧に封をする。そして…一番上の引き出しに仕舞った。



 コンコン


「はーい?」


「おれ」


 短すぎる名乗りに、ふふっと笑ってから招き入れる。


「今日試験行って来た。合格だったぞ」 


「おお…!おめでとうミコト!」


 グラスはありがとうと微笑み、並んでベッドに座った。


「試験って言っても大した事はなかった。面接だけで…治癒が使える事が大前提だけど、魔力量と使える魔術。あと…人柄重視って感じ?」


「そっかあ。でも…これからは気軽に会えないんだね…」


 自立の為に仕方がないとはいえ。神殿に入ったら簡単には外に出られない。

 そこで働く者は男も女も神官と呼ばれる。その数は多くない。



「神官って大体が平民らしい。まあ貴族はあんなとこ入る必要無いしな。

 仕事の1つで怪我した来客を癒やす、これは貴族が殆どらしい」


 怪我というのも命に関わるものではない。令嬢ならば些細な傷でも「痕が残ってはいけない!」と駆け込んで来るから。

 他は感染症にも治癒は効く。その為虫歯でやって来る人もいるとか。


「おれは令嬢は触る気はないって言ったんだけど…客は大概女性だから無理って言われた…ごめん」


「いや、いいの。その…顔とか手足くらいなら、まあ」


「……他にどこを想像したんだ?」


「…………」


 グラスはニヤニヤと顔を覗き込む。顔を真っ赤にしたセレスタンは必死に逸らす。


「すっけべー」


「うるっさい!!浮気したら怒るからねっ!!?」


「きゃー、いやん。

 絶対にしない、神に誓って」


 おふざけから急に真面目モード。ベッドから降り跪き、セレスタンの手にキスをした。


「…!し、信じてるから…わっ!?」


 立ち上がったと思いきやセレスタンを押し倒し、横たわって顔を合わせた。



「それでな、治癒の代金は担当した神官が決められるんだって。そこから毎月3割は神殿に入れる。おれはまあ、程度とか経済状況で決めるよ」


「ふんふん」


「で、指名料ってのがあるんだって…一律金貨2枚。それは全部自分で貰える」


「ほ、う(そういうサービスみたいだな…)」


「……おれ、昔の事殆ど覚えてないけど。『民を慈しみなさい。助けを求める者を見捨てるな。己を見失わず、気高くありなさい』とか言われてた、ような。

 よく分からんが…金は欲しいが、亡者にはなりたくねえや」


「…うん」


「部外者の面会は週1回、1時間まで。認められるのは1人だけ…セレスに来て欲しい」


「うん、毎週行く。…怪我した時も行ってもいい?指名料も払うぞ」


「……いや、うーん?そりゃ指名料はいずれ2人の財産になるけど…

 でもやっぱ元気でいて欲しいな」



 神殿に入るのは3日後。それまで一緒に寝ていいか?と問われて戸惑いながらも頷く。

 正面から抱き合って眠気がくるまで会話は続く。


「…正直なところ。じいさんの金があればおれもお前も働く必要は無い。でも、それは嫌だろ?」


「うん…自分達で、頑張りたい。でも…おじいちゃんも、ずっと一緒に…」


 セレスタンは半分眠りにつきながら答える。


「おじいちゃんも…家族、だか……」


「…おやすみ」


 唇を重ねて、しっかりと布団を被って眠りにつく。




 ※※※




「…行ってらっしゃい、ミコト。ラフもね」


「はい、我が君。グラスは僕が守ります」


「心配性だな…行ってくる」


 魔物の討伐もある可能性が…と言っていたので、護衛としてラファエルも同行してもらう。

 首都の南西、都心から多少離れた自然の多い場所に建つ神殿。門の前で2人は熱い抱擁を交わし…グラスは背を向けた。

 彼が建物に消えたのを確認してから、セレスタンは目元を拭って学園へ向かう。




「新たな使徒よ、我々は君を歓迎します。私は神殿長のルーサー・メルニダです」


「グラスです。これからよろしくお願いします…猊下」


 装飾の多く裾の長い、立派な法衣に身を包んだ長い髭の男が手を差し出してきた。グラスも表面上にこやかに対応するが…


「(…なんか嫌な感じだ)」


 恐らく神殿長は悪人では無いのだろうが、自分とは相容れない。そう判断した。

 まずは白い法衣に着替え、キャロルと名乗る先輩神官に内部を案内される。



「礼拝堂は一般開放されているんだ。毎朝僕らもここで祈りを捧げる。

 で、その先。治癒や…相談事で来られる方もいてね。その為の小部屋が12ある。

 我々の居住区はこの奥。部屋は相部屋で…」


 起床時間から消灯時間まで、メモを取りながら真剣に聞く。

 大体の案内を終えたところで、男性神官は後ろを付いて歩くグラスに視線を向けた。


「…言いづらいんだが。君のような若者はすぐにいなくなるんだ…」


「おれはすぐに辞めるつもりはありませんが?」


 軟弱者と言われている気がして、グラスはムッとして言い返す。


「あー…いや。引き抜きというか…君のように若くて見目が良いと、ご令嬢が放っておかなくて…ね」



 グラスは身長もそれなりに高く、黙って微笑んでいれば爽やか系の好青年と言える。褐色の肌に太い眉、凛々しい目元。背筋は伸びて立ち振る舞いも美しい。手元に置きたがる令嬢がいてもおかしくはない。


「女性も同じ。愛妾とは言わないけど、自分付きの使用人…家専属の治癒師。そういう名目で引き抜いていくんだ」

 

 身売りと表現するほうが正しいか。とため息混じりに言うキャロルも、地味でありふれた容姿をしている。年は20代半ばか、決して悪くは無いが人混みに紛れてしまったら完全に溶け込んで消えるだろう。


「(彼もすぐに何処か行くんだろうなー。だから美形の案内は無駄だって言うのに…)」


 キャロルは何人もそういう神官を見送ってきた。このグラスも例に漏れず…と憂鬱になっているのだが…



「引き抜き?断ればいいのでしょう?」


「──は」


 彼は耳を疑った。貴族の提案を…断る?


 平民にとって貴族は、雲の上の存在。断るとか、そういった概念すら無かった。

「わたくしの家に来てくださらない?」という言葉は一見すれば提案だが。その実命令と何も変わらない。

 拒絶するなんて…家族諸共処罰されてもおかしくない。


「出来るわけないだろうっ!?そうか君は世間知らずなんだ、貴族というのはね…」


「断ればいいのでしょう」


 グラスは静かに、はっきりとした口調で繰り返す。

 キャロルは苛立ち声を上げようとするも。



 窓から差す太陽光が反射して、宝石のように輝く黒い瞳に射抜かれ言葉が出ない。睨まれているでもなく、ただ見据えているだけ。

 だがその迫力、威圧感。それでいて清廉な気品に…無意識に後退った。

 恐怖心を誤魔化す為にコホンと咳払い、歩きを再開しながら会話を続ける。



「……ま、まあ…断れるものなら、な」


「はい」


 初対面であるグラスの家族がどうなろうと知った事ではないが。せめて僕達に迷惑掛けるなよ…とキャロルは先行きに不安を抱いた。




 ※※※




「ふー」


 明日から本格的に仕事が始まる。グラスは短時間の入浴を済ませて部屋に行った。


「…あ、えっと…」


「初めまして。おれはグラスだ」


「あ、あ…あと…自分、は…」


 同室となったのは、グラスよりいくつか若い少年。そして地味。

 今日顔を合わせた神官は男も女も皆、どこにでもいる平凡な者ばかり。この少年は小太りで、目玉をぎょろぎょろさせて言葉を詰まらせている。


「…ファース・ゼルニケ…です」


「そうか」


 自己紹介するまでにも5分掛かった。その間グラスは催促もせず、静かに待ち続けた。


「ゼルニケ。ここの暮らしは長いのか?」


「へっ!?あ……冬…か、ら」


「そうか。後輩として世話になる」


 会釈をして挨拶。ファースは短い単語を漏らすだけで会話にならなかった。

 それでもグラスは不機嫌にもならず、ただ「ファース・ゼルニケはこういう人」と受け止める。


「(まあ…この調子で仕事出来てんのか疑問ではあるが)」


 同室者がペラッペラと喧しい奴より全然いいな、と安堵している。

 少ない荷物の整理も終わり、ファースが何か言いたげにしていたので「なんか用か?」と聞いてみた。

 ファースはまたも目を泳がせ、指をいじって…15分経過。流石のグラスも首を傾げる。


「(怖がらせた…?普通に聞いたつもりだが、やっぱバジルとは違うな…)」


 バジルやナディアだったら遠慮も要らないが、これからはそうもいかないだろう。色んな対人関係を学べるチャンス!と1人頷く。



「(ひ、ひい…!また嫌われる、馬鹿にされる…!ダメだ、黙ったままじゃダメ…!)あ、そ、の。せ、せせ、精霊…グラスさっ…さん、の…?」


 言えた…!とファースは呼吸を荒げながら充足感を得る。

 グラスは肩に止まっているラファエルと目を合わせて答えた。


「名前はラファエル、天使だ。召喚したのも契約者もおれじゃない」


「……?なん、で。一緒に……の」


「おれの好きな人が、心配だからと付けてくれた」


「す…っ!?で、ででっも…!しんで、んは…恋愛、は……」


「ここを出てから結婚するんだ。おれはそれまで、なるべく稼ぐ必要がある」


 そう言い放つグラスに、ファースは輝きの眼差しを向けた。

 ここで暮らしていれば…指名が無くても衣食住には困らない。故に引き抜き以外で出て行く者は少ない。


 それ以上会話はなく、それぞれの布団に潜る。

 グラスはセレスタンの温もりが無く寂しく思うも、早く一緒になれるよう頑張るぞ!!と気合を入れた。




 ※※※




 翌日、朝食前に礼拝堂に集合。神官の数は27人、祭壇の前の広い空間に膝を突いて並んだ。新人のグラスは一番後ろ。頭を下げて手を組み、目を閉じて祈りを捧げる。


「(えーと…この国では祝詞は無い。各々の言葉を捧げる…

 皇国の守護神は…時空の女神クロノスだったよな。……クロノス?)」


 おれ会った事あんじゃねえか…と複雑な心境。ともかく祈りだ。


「(えーと。クロノス様、以前はありがとうございました。セレスもおれも元気です…違うか?

 んーと。これからも皇国をお守りください…)」



 …ガランっ



「…ん?」


 何かが落ちる音がして、神官達は目を開けた。

 グラスの前に、先程までは無かった杖が転がっているのだ。それは身の丈程もあり、先端に宝玉が埋め込まれた杖。


「(これ…クロノスの杖…?)」


 一度だけ見た事のある物だった。グラスは周囲を見渡し…明らかに自分めがけて落とされた杖を手に取った。

 触れた瞬間…脳が全てを理解した。使い方は勿論、これはレプリカだが力が込められているという事まで。

 グラスが念じると杖は姿を消し、礼拝堂にどよめきが広がった。取り出したいと念じれば…バチバチと空間を裂いて杖が現れる。こうやって仕舞えるんだな、と1人納得。



「ほう…?グラス君、その杖は一体?」


「女神クロノスより賜りました」


 サラッと言い放つもので、戸惑いの声と驚きの声、はしゃぐ声が混じって大きくなる。

 それも神殿長がパアン!と手を叩けば一瞬で静まった。


「ふむ…見せてはもらえぬか?」


「どうぞ…あ」


 神殿長に手渡すも…杖は姿を消した。グラスは自分の手元に戻って来ているのを感覚で理解して、再び空間から取り出す。

 検証の結果、他の者が触れると自動的に戻ってくるようだ。その場にいた多くの神官が、「グラスが女神に認められた!」と沸いた。



「…ふむ。グラスよ、その杖を大事になさい」


「……はい」


 白い法衣に身を包み、女神の杖を携えて。肩には天使が…そんなグラスの横顔は、数多の神官が魅了される程だった。


 神殿長はその様子を眺めて。誰にも見えないよう、弧を描く口元を袖で覆い隠していた。




 ※※※




 祈り、朝食、朝の掃除を終えて。10時には神殿の門が開かれる。

 グラスにはキャロルが付き色々と教えてくれる。


「新人はこうやって礼拝堂の扉近くに立つ。そして礼拝者に一礼。祈りを終えて帰って行く方には一言。「女神クロノスのご加護がありますように…」と言ってお送りする。

 他にも日替わりで交代して行うんだ」


「はい」


 ついでに新人神官をお披露目、という目的もある。



「…あら?貴方、新人?」


「(うわ早速…)」


 グラスの目の前に、ドレス姿の女性が立っている。メイドに日傘を差され、扇で口元を隠している令嬢。

 グラスの顔から身体、全身を舐め回すよう見た後…


「ふふ、決めたわ。貴方にお願いします」


「……喜んで」


 令嬢がスッと手を差し出す。


「…ぼくに貴女様をエスコートする栄誉を授けていただけますか?」


「よくてよ」


 失礼します、とグラスはその手を取った。そっと自分の腕に添えさせて、ゆっくりとした足取りで奥の部屋を目指す。

 その優雅な動きに…礼拝堂の中にいた人物、令嬢やメイドすらも感嘆の声を漏らす程だった。


「(あー…指名料って、2回目からしか貰えないんだよなあ…!)」


 張本人はお金の事しか考えていなかったが。



 ※



 令嬢は肘まである手袋を外し、細長い線のような傷を見せた。


「見てちょうだい、猫に引っ掻かれてしまったの。酷いわ、痕が残っちゃう!」


 んな事で来るんじゃねえ…という言葉をぐっと呑み込む。

 グラスは令嬢に許可を得てから、その腕に手を当てて傷を消した。


「まあ…すごい、あっという間ね?以前の神官は1分は掛かったのに、たったひと撫でで…」


 それはソイツが下手なでは?とまた呑み込む。

 治療は終わりましたので…とさり気なく帰宅を促すも、令嬢は動こうとしない。聞いてもいないのに自己紹介を始めてしまいグラスは困惑する。


「…レディ。申し訳ございませんが…治療が終わってしまったので、貴女とのお時間はここまでのようです」


「まあ、もう少しお話しましょう?」


「残念ですが、神殿の規定でして。ぼくも大変心苦しいのですが…」


 令嬢の手を両手で握り、あたかも悲しげに表情を歪ませる。それを見た令嬢とメイドは胸を高鳴らせ、「今度は相談に来るわ!」と頬を染めた。


「あ、今回の治療費は…」


「銀貨2枚」


「「え?」」


 グラスの提案に彼女達目を丸くした。どのような怪我でも最低金貨は請求されるものだからだ。


「?ぼくは殆ど魔力も使っていませんし、令嬢にとっては一大事でも怪我としては軽い部類に入ります」


 本当は銅貨でもいいくらいだし、とは言わないが。もっと払うと言うのも押し退けて、メイドから銀貨だけ貰って帰らせる。




「えーと…確か相談は30分までで、1回金貨5枚だったな。指名料の金貨は別…なんか思ってたのと違うけど…」


 相手は金持ちの貴族だし、遠慮なく搾り取ってやるぜ!とラファエルと共に拳を天に掲げる。

 結果…その令嬢は毎日「相談」に来るようになりましたとさ。




 ※※※




「疲れた…」


「おつかれ、さま」


 神殿に入って数日、グラスは今日も布団にバタンと倒れ込む。この間にファースとは大分打ち解け、普通に会話出来るレベルにまでなっていた。


「人気だね、グラスさん」


「嬉しくねえ…いや金の為…!」


 初日の令嬢だけでなく、多くの令嬢から相談されるようになった。治癒は擦り傷が多く、そっちは楽なのだが…とにかく相談が疲れる。


「最初は相談って、懺悔みたいなもんだと思ってた」


 だが全て雑談というか…「聞いて〜お父様がね?」「学園に変な人がいてえ」「ああ、婚約者がグラス君みたいに優しい人だったらよかったのに…」(上目遣い)という、女性が一方的に話すだけだった。


「まあ…自分の場合は、弱そうな相手を、いびりたいだけの人、が、たまに来る、くらいだけど…」


「……そうか」



 とにかく明日は日曜日。週に1回の…外との面会日。

 明日はセレスに会える!手紙だけではセレスタン成分が足りない、早く会いたい…そう想いを馳せながら、眠りについた。




 ※※※




 日曜日は9時に門が開かれ、面会者のみ通れる。


「えっと…面会希望です」


「はい…(うわ、美人!)」


 その日門ではちょっとした騒ぎになっていた。

 黒髪ショートカットの美少女がやって来たのだ。面会は神官の親が多いので、セレスタンは目立っていた。



 門で手続きをして礼拝堂に通される。一歩足を踏み入れると…


「セレスっ!!」


「おわっ!?」


 グラスが勢いよく抱き付いてきて、セレスタンは体勢を崩した。

 彼は神殿でも仕事中以外無表情を崩さないので、笑顔で甘える姿に皆驚きを隠せない。


「よしよし、頑張ってるね。辛くない?虐められたりしてない?」


「辛い。虐めは無い」


 セレスタンの肩に額をぐりぐり擦り付け、頭を撫でられて浄化されるグラス。

 礼拝堂奥の小部屋に移動、ぴったりくっ付き1週間分の疲れを癒す。

 ラファエルとも言葉を交わし、精霊達は好きに過ごす。



「なんかな、思ってた仕事と違う…

 治癒なんてついでで、殆ど令嬢のご機嫌取りばっかり。あ、浮気は断じてしてないぞ!?」


「そっか…大丈夫、疑ってないよ」


「まあ…金貨50枚くらい稼いだけど…」


「すっっっご!?」


 その中から指名料は別として、月末に神殿に3割上納する訳だが。

 グラスはそれ以上愚痴をこぼす事なく、セレスタンの話を聞きたがった。



「今日のワンピース可愛らしいな」


「えへへ…手紙にも書いたけどね、今ゲルシェ先生のうちに行ってるの。2人きりじゃなくてナディアちゃんも一緒だよ。

 少しずつ、イェシカさんとの思い出を整理したいから手伝って欲しいって。それで洋服とか、気に入ったのがあれば持って行っていいって。

 このワンピースもそうだけど、僕好みのが多くてね。最初は断ったけど、このまま腐らせておきたくないって。だからお言葉に甘えたの」


 グラスはオーバンに関しては完全に信頼しているので、特に不快感もなく話を聞く。



「それでね。ジスランには家に入る許可したじゃない?そしたらルネさんと…ルシアンも来たいって」


「………ヴィヴィエ様はいいよ。でも殿下は…セレスの秘密を知らないんだろう?あの家では、お前には自由に過ごして欲しい…」


「…うん、ありがと。ルシアンは断っておくね」


 横からグラスが抱き付いてきたのだが…胸の辺りに腕が当たっている。

 ものすごく恥ずかしい。だがしょぼくれているグラスにそんな事言えず、よしよしと頭を撫で続ける。

 すると…次第にグラスの耳が赤くなっていく事に気付いた。更に、胸を…揉まれている気がする。


「……セレス、意外とあるな…」


「………変態っ!!」


 撫でる手を止めべしん!!と叩き、グラスは愉快そうに声を上げて笑った。

 クロノスの杖を見せれば、セレスタンは遠慮がちに手に取った。そして…グラスの手を離れても、杖は消えなかったのだ。

 これはクロノスが彼女も認めているという事だ。グラスは嬉しくなり、はしゃぐセレスタンの横顔を眺め続けた。



 すぐに面会時間は終了となる。最後に、セレスタンの頬を撫でて熱い視線を送る。それを受け…目を伏せながら顔を近付けた。




 笑顔で帰って行くセレスタン。グラスも手を振り…これでまた1週間頑張れるな!と身体を伸ばした。


「い、今の子が…恋人?」


「ああ。おれの愛する人」


 グラスが躊躇なく言うもので、ファースのほうが照れてしまった。

 その会話に他の男性神官も混じってきて…


「妹さん?超可愛かったじゃん!」

「うそ、彼女?羨ましい〜」

「今度紹介してくれよ」


 という男子の軽いノリになる、が。



「ははは。同僚としてなら紹介するが…


 もしも彼女に手ェ出そうとしたら。分かってんだろうな…?」



 グラスの威圧感満載な鋭い睨みに。神官達は無言で何度も首を縦に振った。


 こうして彼は神殿において、無自覚にではあるが着実に。他者を圧倒して…立場を固めていくのであった。



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