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皇国の精霊姫  作者: 雨野
訣別編
64/102

ラサーニュからの脱出



 セレスタンが翌朝目覚めると…知らない天井。ではなく天蓋。


「むぅ…ここはどこ…僕は誰……ん?」


 寝巻きもいつものシンプルな物でなく、フリルの付いたネグリジェ。


「何これ可愛い!ベッドも素敵…!ひゃー!何ここ〜!?」


 ベッドから飛び降りると、調度品も彼女好みのアンティーク品だった。まるで…ずっと憧れていた…シャルロットの部屋のような…

 感極まりきゃーきゃー騒ぎながら部屋を探索。そこでようやくカリエの用意した家だと気付いた。



 コンコン


「はーい?」


「私ですお姉様!」


「ナディアちゃん?」


 扉を開ければ…メイド服のナディアが立っていた。

 まずお茶の準備をし、順を追って説明し始める。




 ※※※※※




 昨夜、セレスタンが眠った後。


「リオ、今日からもう住めるのか?」


「予定外ではありますが可能です。僕は連絡する場所がありますので、そのままお嬢様をお願いしてよろしいですか?」


「おう任せい」


 バジルは手紙を書き始め、バティストはテーブルを片付け、オーバンはセレスタンの荷物を纏めて、セレネは外に飛び出して。

 ハーヴェイはセレスタンを腕に抱きながら…


「(…なんで誰も俺に突っ込まねえの?)」


 やや混乱していた。



 少なくともバジルは「いえ…そのっ、お嬢様と言うのは…言葉の綾で…!」とか言うはずだった。


 そのバジルは「ハーヴェイ卿何も言ってこなくて楽だな。やっぱ気付いてたんだな」と考えている。


 オーバンとバティストは「全部知ってそうなバジルと一緒に飛び込んで来たんだから、こいつも味方のはず」と納得している。


 ハーヴェイは…「俺が知ってた事驚かねえの…?」と言いたいけど雰囲気ではない。



 結局1人だけモヤモヤしたまま、セレスタンはお引越しである。



 ※



「ここか?なんもねえじゃん」


「いや待てオーバン。なんか…変じゃねえ…?」


 新居は高級住宅街の中。だがバジルに案内されたその場所には…柵と門はある広い土地しか無かった。


「おかしいだろ。首都の一等地で…真新しい柵に囲まれただけの不自然に空いた空間。

 なのに…違和感を感じない。売りに出てんのかな?とすら思えねえ、それが気持ち悪い」


「やはり貴方は凄いですね…自力で辿り着くとは。先生、ちょっと門を開けてみてくれません?」


 バジルに促され、オーバンが門に向かって歩くと…



「…ん?」


 あと3歩という所で曲がった。


「あれ?ん?あれれ???」


 何度門を目指そうとしても直前で切り返してしまう。それは無意識に、目を瞑っても辿り着けない。

 バティストが柵をよじ登ろうとしても、目前にすると「あらら?」と踵を返す。



「この土地にはセレネの認識阻害の術が掛かっています。端的に言えば『この地に関心を持たせない』もの。

 今後この術を解くのはセレスタンお嬢様が認めた者だけとします。そして…ああ来た」


 話の途中だが、狼のセレネが降って来た。背中にはカリエ、グラス、ナディアが乗っている。

 カリエはオーバン達に軽く挨拶をして、バジルに説明を求めた。



「その前にナディア。お嬢様を部屋にお連れしなさい」


「はいっ!」


 ナディアはハーヴェイからひょいっと受け取り、カリエが門を開けた向こう側に消えた。


「…門を過ぎた所で、2人の姿が消えた」


「でもそれすら違和感が無え」


「まるで…変に感じる自分が気持ち悪いっすね」


 それも術のうち。カリエが杖をカツンと突けば、大人3人は竦み上がった。



「さて…と」


「「「(なんだこの爺さん…!?)」」」


 相手は腰の曲がった小さな老人。だというのに…首に剣を突き付けられ、一歩間違えれば胴体と別れを告げる。そう錯覚する。


「ふむ…儂はカリエと申します。ラサーニュ家専属医師でしたが、先程辞職したので今はただの爺です」


「カリエ…?」


 その名乗りにバティストのみ反応した。


「(この気配、殺気…年齢…カリエ。まさ、か)マイニオ・カリエルバッハ……っ!!?」


 ぽつりと呟けば、カリエに視線で射抜かれた。

 一瞬にして全身が冷え、滝のような汗を流し。まるで心臓を鷲掴みにされているかのような不快感。

 それを悟られないよう青い顔で微笑みを絶やさずにいたら…ふっと殺気が消えた。



「ふむ。こちらの御三方もよろしかろう。精霊殿、頼みます」


「おう」


 セレネが順番に頭を齧る。術が解け、彼らにも真実の姿が見えるようになったのだ。


「…うわっ!すっげえ、家がある!!」


 ハーヴェイがはしゃぎながら敷地内に入る。

 そこには童話に出てきそうな可愛らしい家が建っていた。カリエはセレスタンが幼い頃、絵本を読みながら「すてきなおうち…」と呟いていたのをずっと覚えていたのだ。



「詳しくは明日ご説明致します。お嬢様がこちらにお引っ越しなさった事、他言無用に願います」


 カリエにそう追い出される。ハーヴェイはルキウスには報告しなくてはならない、と訴えた。

 引っ越したという事実は構わないが、場所や術に関する情報は駄目だと念を押して(殺気込み)、ハーヴェイは逃げ帰った。


「んじゃ俺らも。明日また来る」


「ええ。お待ちしております、皇弟殿下」

 

 オーバンは顔を引き攣らせながら家を出る。



 バティストが途中からずっと無言だった為…ゲルシェ邸に着いてから訊ねてみた。


「…オメーよ、大戦後に活動してた…『亡霊』っつー通り名の暗殺者知ってるか?」


「あー…?確か…」



 本名は極一部しか知らない、伝説の暗殺者。男か女か、子供か年寄りかも知れず。

 暗殺とは…基本的に目撃者を残してはいけない。だがその『亡霊』は、標的以外は殺さないという信条を持っていた。

 だが確実に標的が1人になる保証は無い。特に狙われるような輩は必ず護衛が隣にいる…剥がれるのを待つ?眠らせる?どうする?


 そこで『亡霊』は考えた。

 その仕事は神業で。考えうる限り厳重なセキュリティも掻い潜り。護衛に四方を囲まれた状況でも、ターゲットを音も風も無く仕留める。

 しかも一切の痕跡も残さず。死んだ人間の表情は穏やかで、自分が死んだ事にも気付いていないのかもしれず。

 目撃者の視点では…目を離さず見張っていた相手が突如崩れ落ち、確認すれば息をしておらず。まるで幽霊を相手にしてるようなものだった。

 手口も死因も不明で…依頼主の正体まで辿り着ける筈もなく。仇打ちすら叶わず。



「それでついた異名が『亡霊』だろう?父上から聞いたが…詳細不明だが怪我して引退したってな」


「おうよ。戦後20年程は動乱の時代だった。その『亡霊』が戦争の残火を消して回ったお陰で…平和が訪れた」


「そいつがいなけりゃ、下手すりゃ今も小競り合いが続いてたかもしんねえ…英雄と呼ばれた暗殺者。

 で、それがどうかしたか?」


「…………いや。なんとなく…」



 今こうしている時ですら、見張られている気がしてならない。酒を一口飲み、寝ると言って客間に消えた。


「(あたしも昔…好奇心から調べまくって、出てきたのはマイニオ・カリエルバッハという名前だけ。名前からして男…それ以上は掴めなかった)

 やべーな…セレスタンちゃん。敵に回したら終わりじゃん…」



 遠くから「俺の酒が全然ねえ!?」と騒ぐオーバンの声がする。少しだけ気が抜けて…眠りについた。



 ※



 ルキウスの執務室、ハーヴェイは人払いをして報告をした。


「…という事で。皇弟殿下とファロ男爵にスタンの事情がバレました」


「……お前こそ、いつから知ってた…?」


 ようやく正常な反応が返ってきたので、ハーヴェイは感極まる。


「殿下の愛の告白からです」


「聞いていたのか…!」


 ルキウスは深いため息をつく。当然引越し先を訊ねたが…


「まずスタンが認めて、ばっちゃ…バジル、グラス、ナディア嬢、医師、精霊全員の許可が下りないと駄目だそうです。なので俺は何も言えません」


 がっくりと肩を落とし。それでも…寮を出たのなら、それでいい。そう思う事にした。




 ※※※※※




「4月から私とグラスさん、バジルさんで計画してたんです。お姉様を安全な場所に避難させて、おじい様も一緒に暮らすって!

 精霊様も協力してもらって家を買って。昨日は突然でびっくりしたけど…今日から私もご一緒です!」


 ビシイ!と親指を立てるナディア。

 セレスタンは少し考え…まず家を探検だ。ドレス風ワンピースに着替えて、にっこにこで部屋を飛び出した。



 ヘリオスの小屋は男子寮から持って来て、玄関横に置いてあった。


「おはよう」


「おはよ、ヘリオス」


「普通に喋ってますねこの犬…?」


「犬じゃにゃい、ヘリオスにゃ」


「発音練習頑張ったもんね〜」


 ヘリオスの腹を撫で回して庭を眺める。広いが殺風景で…


「ほっほ。折角ですしガーデニングでもしましょうかねえ」


「おじいちゃん!」


 いつの間にか立っていたカリエに飛び付き、素敵なお家ありがとう!と満面の笑み。カリエもとても穏やかな笑顔で頭を撫でる。

 四阿(あずまや)に移動、グラスとバジルがお茶のセットを持って来た。


「「おはようございます、お嬢様」」


「………」


 セレスタンは目を輝かせてじ〜…ん…と小さく震える。


「も…もっかい…」


「「…?おはようございます、お嬢様?」」


「………」じぃん…


 いつもの挨拶なのに何故か感激している。



「(素敵な家、庭には犬。綺麗な服で…メイドさんがいて…従者がいて…僕ってば、なんかお嬢様っぽくない…!?)」


 叶う事は無いと思っていた、憧れのシチュエーション。

 今後は自分達で家事もするので、お嬢様とは言えないが…今だけ妄想に浸っていたいのである。



「あ、いたいた。おはよう」


「おはよーね」


「おはよう…先生…ジャンお兄さん(お父様と、えーと…家庭教師ゲット…おじいちゃんは…じいやで…)」


「はよ〜、スタン〜!」


「(お兄様も…)」


 脳内で理想的な家族を作る。だがそこに…最愛の妹はいなくて。一瞬にして笑顔から泣く寸前になり、全員驚きを隠せない。



「え、えーと。まずお茶にしましょう!その後は朝食ですよ」


「うん…」


 椅子にセレスタン、オーバン、カリエが座り会話が始まった。


「あの…まず先生、なんで気付いたの?あとハーヴ兄にも知られちゃったのね」


「え?俺はバティストが気付いて。てかハーヴェイ卿は前から知ってたんじゃねえの?」


「え?」


「は?」


「いや〜…ハハっ」


 全員顔を見合わせて…情報を共有する事にした。




 ※※※




 賑やかな朝食にしてから談話室で話し合う。


「そういう事かい。…じゃあお前は、卒業まで続けるんだな?」


「バレない限り。でも、もし僕が伯爵令嬢になっても…迎えに来てくれるんでしょう?」


「必ず」


 セレスタンとグラスは頬を染めて見つめ合う。そこへ般若のナディアが割り込み、にぱっと笑ってセレスタンの手を取った。


「お姉様!先日私、ついに猪を仕留めました♡でも硬くてあんまり美味しくなかったです、調理法も勉強しなきゃ」


「ナ、ナディアちゃんすごい…」


「えへ♡これで人生何があっても、お姉様が飢える心配だけはありません!!次は熊を狩りたいですう」


「わお、がんばって!」


 頑張らないで…男達は全員心の中で呟いた。


 そんなやり取りを見ていたオーバンが、あっと声を上げた。

 グラスに向かってお前がセレスタンの彼氏なんだよな?と確認をする。


「知らんかったとは言え…悪かった。将来を約束した恋人が男の家に出入りするなんて気分悪いだろう」


「いえ…心配だったのは本当ですが、精霊達もいますし(やっぱ律儀と言うか…ちゃんとした大人で良かった)」


 菓子折りと共に深々と頭を下げて謝罪。更に正直にパンイチ晒したやら、寝惚けて抱き付いた事までご説明。

 バティストとセレスタンは「あちゃー」と天を仰ぐ。グラスはやや不機嫌顔になるも…「今回だけ許します」と息を吐く。


 セレスタンは今後も仕事を続けたいと言うが、全員に反対される。なので折衷案として、オーバンがこの家に夕飯を食べに来る事にした。

 基本平日のみで、食費は全て彼が出す。ついでに朝食と昼食のお弁当も渡す…それで月に金貨20枚。

 貰いすぎじゃない?と言うも押し切られ、一応決着となった。




「でもおじいちゃん。この家も土地も、家具も…お金掛かったんじゃ…?」


「ほっほ、気にしないでください。儂の若い頃の…貯金ですよ。老い先短い身では使い途も無くてですねえ…

 出来る事なら、いずれお嬢様に遺産をお譲りしたいのですが…如何ですかな?」


「そんな事言わないで!?あの、僕は貰ってばかりで…その、申し訳無いって…いうか」


 カリエの申し出に、セレスタンは顔を歪めて俯いた。その頭に手が置かれる。皺くちゃで骨張っている、温かい手。


「ほっほ。もう沢山のものをいただきましたとも。金などには代えられない…大切なものを」


「……?僕、何もあげてない…」


「…さて、儂は少々日課の散歩でも。お若い者同士、ごゆっくり。

 そうそう、お嬢様」


 わざとらしく言葉を切って、扉に向かいながら愉快そうに言葉を続ける。


「この家でなら…廊下を爆走しても、階段を滑り落ちても、庭で転げ回っても…誰も咎めませぬよ」


「……!!もうっっっ!!忘れてよーーー!!!」


「ほっほっほ」


 笑いながら部屋を後にした。背中に「なんの話ですか!?」という若者達の楽しげな声が届き。廊下を歩きながら…セレスタンと初めて出会った、生まれた日からこれまでを思い出す。



「……貴女の優しい笑顔。温かな歌声。小さな手で儂を癒やしてくださった。終ぞ持ち得なかった…家族になってくださった。

 儂には精々金銭での援助しか返せず…ああいや、もう1つ」


 カリエは…セレスタンにだけは決して見せない、冷酷な暗殺者の目で何処かを見つめる。



「ボリス・ラサーニュ。貴様だけは…必ず地獄に堕としてくれようぞ。

 儂のラサーニュは貴様でもシャルロットお嬢様でもない。セレスタンお嬢様…あの方だけだ」




 ※




 寮は退去の手続きも完了しているらしく、荷物を運び出すだけ。私物は少ないのですぐに終わった。誰にも気付かれないよう早朝に。少しずつ…自分の痕跡を消していく。

 翌日には教会の荷物も取りに行き…これで完全にラサーニュと切れたと言ってもいいだろう。


「教会もアデラナの皆も、もう大丈夫です。

 俺もここに来れてよかった、ロランも。どうかこれからは…ご自分を一番に考えてくださいね」


「てれつたま。ばいばい、またねぇ」


 すっかり大人びたロビン、歩き回るようになったロランに見送られ。セレスタンはラサーニュ領を後にする。

 本当は…元アデラナに住んでいた皆にも挨拶に行きたかったけれど。自分は彼らを見捨てて逃げるのだと、そんな資格は無いと思い呑み込む。


「…大丈夫。ロッティがいるから…この街もきっと変わる。部外者の僕に出来るのは…遠くからそれを祈るだけ」



 生まれ育った土地に別れを告げて。セレスタンは一歩踏み出した。



「バジル。君も色々とありがとう。今後は…あの家以外で僕に話し掛けちゃ駄目だよ?さあ、ラサーニュ邸に帰って」


「……はい、どうかお元気で…」


 今にも泣きそうな彼の表情に、セレスタンは苦笑しながらそっと抱き締める。


「…君と出会えて本当によかった。伯爵家で君が味方でいてくれたから…僕はここまで来れた。

 さようなら、バジル。もう僕はラサーニュじゃない。君が仕える主は1人だけだよ」

 

「…そんな…お別れみたいな事を…

 主でないなら、せめて。僕もグラスのように…」


「うん。今から僕達は友達だよ。…あの家限定でね」


「はい…うん。必ず遊びに行くよ…セレス」


「お休みの日にね、バジル」


 強く抱き合い、バジルが頬にキスをした。セレスタンも照れながらお返しして…手が離れる。



「(…セレス。僕は…)」



 セレスタンの「ラサーニュから逃げたい」という願いと。

 シャルロットの「兄と仲直りしたい」という願い。

 どちらも叶える為には…シャルロットが伯爵家を出るしかない。



「(…諦めたくない。でも…今は離れる時間が必要だよね…)」



 遠ざかるセレスタンの背中が見えなくなるまで、バジルはその場に立ち尽くしていた。




 ※※※




「ルシアン、この間違い探し分かりますか…?」


「……?いや全く一緒じゃないか?」


「それが1ヶ所違うらしいんですよねえ」


「それつまらなくないか?」


 始業前、ルシアンと雑誌を広げてうんうん唸る。観念して答えのページを開くと…



『どちらの絵も違いはありません。間違い、それは無駄な時間を使ってしまったアナタの決断1つです』



「「なんじゃこりゃあっ!!」」


 同時に雑誌を叩き付け、出版社にクレームじゃー!!と大騒ぎ。

 アンケートハガキを書いていたら、登校してきたジスランがやって来た。


「セレス!!お前、いつの間に寮を出たんだ!?」


「……昨日だよ。文句あんの?」


「文句、は、無いが…今どこに住んでるんだ!?」


 教える必要も義理も無い、と突っぱねる。

 俺は友達で幼馴染だ、知りたいと…遊びに行きたいと思って何が悪い!?と大騒ぎ。


 まあ実は、カリエにジスランには教えていいだろうと言われている。

「彼はお嬢様に何かあれば夜中でも駆けつけるだろうし…いざと言う時役に立つ」という理由から。

 確かに…と思う反面利用するみたいで気が引ける。それに今シャルロットも同じ空間にいるのだ、了承など出来ない。


「教えろ!」「やだ!!」「じゃあ私には?」「うーん…」「セレス!?」という言葉の応酬を、シャルロットは遠くからルネと眺めていた。




「…ロッティさん、セレスさんの新居はご存知?」


「いいえ、知らないわ。多分私が聞いても、教えてくれないだろうし…」


 ルネは少々違和感を覚える。シャルロットの表情が…いつもの悲しげなものでなく、柔和な笑みを浮かべているのだ。


「……心配ではないのですか?」


「心配だけど…お父様が用意したのでしょうし、多分カリエ先生も一緒だもの。大丈夫よ」


 益々違和感が強くなる。まさか、和解を諦めてしまったの?と恐る恐る訊ねた。

 シャルロットは一瞬キョトンとして、小さく吹き出した。



「違う違う。きっと…何か行き違いがあったのよ。

 あの優しくて可愛いお兄様が、本気で家を出るとは思えないわ。だから私は待つの。いつか、誤解が解ける日をね」



 ふふふと笑うシャルロットに引き攣った笑顔しか返せない。彼女の後ろに立つバジルも…

 彼はシャルロットの思考をまるで理解出来ないが…ルネは少しだけ分かってしまう。


「(私も…もしもセレスさんの事情を何も知らなければ。

 あの方が意固地になっているだけ、そう思ってしまうかもしれない…)」



 いくら伯爵がアレでも。


 息子を成人後無一文で追い出そうとしてるなんて…シャルロットやルネのように愛されて育った者には想像もつかない。



 ルネはもう一度セレスタンを見た。ジスランの顔面に拳を叩き込み、手の痛みに悶えている。

 彼女は周囲の助けを受けながらも、未来に向かい歩き始めた。

 シャルロットはその場に留まり続ける事を選択した。


 他人である自分には、ラサーニュ家の問題に首を突っ込む権利などありはしない。

 このままでは確実に双子は訣別する。それを…黙って見ているしか無いのか?

 ルネは唇を結び、同じ事を考え続けた。



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― 新着の感想 ―
[一言] カリエ先生ラサーニュ伯爵家の専属医師であって伯爵ボリスの専属ではない立場で今はセレスタンのために専属を辞めセレスタンのみを自分のラサーニュとしてまた孫として見ていますね。そんなセレスタンにひ…
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