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皇国の精霊姫  作者: 雨野
訣別編
60/102

「お前目からビームでも出んの?」



『セレスタンへ

 お前の事を信じてはいるが、一度ゲルシェ先生とやらに会いたい。週末そっちに行くから、先方に都合を聞いておいて欲しい。


 それと…最近ナディアが狩りをするようになった。今日も罠で捕らえた鳥を血抜きして解体して捌いてた。美味かったが、ロラン達チビは泣いてた。次は猪を狩る!と息巻いている。

 おれ達がいつか国を出て、旅に出るかもしれないって言ったから…あいつはついて来る気満々だ。最悪の事態を想定して、サバイバルの練習をしているらしい。

 その前に首都で家を借りるって言ったら、メイドでもなんでもいいから一緒に住むって。


 おれは最近バフ、デバフの魔術を鍛えている。もう魔法陣も省略して、ある程度の距離なら遠くの人間にも掛けられるようになった。これで魔物の討伐にも役立つはずだ。

 金を稼ぐのはおれに任せて、セレスは自身を第一に考えてくれ。それでも仕事、楽しみなんだろう?おれも応援してる。


 お前に早く会いたい。愛してる。グラス』



「…口では言えないくせに…文章ではサラッと口説き文句言うよね…

 そっか、先生に話通しておかなきゃ。恋人じゃなくて…従者として挨拶したいって事にすればいいよね」


 グラスから送られてきた手紙を何度も読み返し。んへへへと声を漏らして笑った。

 愛されてる…そう実感しながら。明日から頑張るぞ!と布団に潜った。



「…いやナディアちゃん何してんの!?」


 か弱い令嬢は露と消えたようだ。




 その頃、バジルの部屋。


『セレスがゲルシェ先生とやらの家に通うって聞いた。彼女と精霊達を信じてはいるが不安だ。先生が本当に信用出来るか判断したい。

 とりあえず、彼女を隠れて護衛してくれ。頼んだぞ。週末はおれもそっちに行く予定』


 グラスから送られてきた手紙を読み、首を傾げる。


「先生の家に通う…?よく分かんないけど…先生は信頼出来る人だし。とにかく尾けておくか…」




 ※※※




「………」


 セレスタンは自分の机を眺めていた。中に入れておいた教科書類がズタズタに裂かれているのだ。

 最近勉強をサボりがちで、入れっぱなしにしていたのが悪かったか。


「(幼稚な嫌がらせ…あほらし)」


 どこからか嘲笑が聞こえてくる。これまで暴言・暴力はあったが、後に残る物を壊されたのは初めてだ。昨日の言い争いを見た誰かが暴走したのだろう。

 犯人探しをする気にもなれず、ため息をついた。


「ファイ」


 彼女が名を呼ぶと同時に、紙切れとなった教科書が渦を巻き浮かぶ。小さな破片も残さず、そのままゴミ箱へ飛んでいった。


 綺麗になった机の上にカバンを置き、何事も無かったかのように着席。

 今度は教室中がどよめいたが…完全無視。何人かの生徒が悔しそうに顔を歪ませる。あいつらが犯人か…と一応確認。


「(無くなった教科書…買わないとな…ノートもまた新しく…)」


 セレスタンにとっては貯金が減るほうが一大事。次は必ず弁償させよう、と決めた。


 そこへシャルロットが登校してきて、教室の異様な雰囲気を訝しむ。何があったの?と近くの生徒に訊ねれば、生徒は躊躇いつつも見たものを正直に答えた。


「な…!セレス、私の教科書を使って」


「……君が、勉強出来ないでしょ。僕なんかと違って期待されてんだから…精々応えてあげれば?」


 なんと言おうとも受け取らない。すると遅れてやって来たジスランが事情を知り割って入る。


「俺のを使え!」


「いや君はお馬鹿なんだからちゃんと勉強しなさい」


「馬鹿だから勉強しても何も変わらん!!」


「……うーん?そう、なのかな…?」


 納得しかけるセレスタン。いつものシャルロットならここで「純粋なお兄様可愛い…!」と悶えているところだ。

 もう、要らないってば!と徹底拒否。そのうち担任のクレールが教室に入ってきた為、生徒達は各々の席へ戻る。


 セレスタンはホームルームを聞き流しながら、どの教科書が無くなったのかチェックする。

 終了後、後で職員室行くか〜…と息を吐いていたら。


「…!?」


「…………」


 机の前にルシアンが立った。

 合宿から必要以上の恐怖心は抱かなくなったが、無言で立たれると戸惑う。


「どの教科書が無くなった」


「え…算術と歴史と、経済…」


 素直に答えるとルシアンは席に向かう。

 だがすぐに戻って来て、自分の教科書をセレスタンの机の上に置いた。


「え!いや、え!?うん?なん!?」


「(語彙力が消えてる…ふふっん)」


 内心吹き出しながら無言で去る。

 彼は家族と和解してから、生活態度は変わらないが授業は真面目に受けるようになった。だがこの日、午前中は結局戻って来なかった。


 教室中、今何が起きたのか理解出来ていなかった。だが1つだけ。


 セレスタンはルシアンのお気に入り…ほぼ全ての生徒がそう解釈した。

 これにより彼女に喧嘩を売る=腐っても皇子を敵に回す、という図式が成り立つ。



 意図した訳ではないがそのお陰で、物を壊されるという事は無くなったのである。




 ※※※




「それで、どうして殿下が僕に教科書をくれたのか分からないんです…」


「………」


 屋上でランチにしながら、早速不良友(ルシアン)に相談。

 相手が皇子でなければ、「要らない」といって突き返す事もするだろう。ジスランだったら顔面に叩き付ける可能性もある。


「…貰っておけばいいじゃないか?」


「申し訳ないです…殿下だって勉強なさるだろうし」


「あー…ついさっき噂で聞いたが、一旦帰って兄君からお下がりを貰ったらしいぞ」


「そうなんですか!?」


 そうなのだ。教科書を失くしてしまったので、兄上達のをくださいとおねだりすれば、即座に2人共持ってきた。どちらも書き込みが多くされており、とても勉強になる教科書だった。


「だから心配するな」


「う…せめて、何かお礼をしないと。でもあんまり高いのはちょっと…」


 別に要らない、と言いたい。このままでは無理をして、高級菓子折りでも買いそうな勢い。

 そこでルシアンはピーンと来た。


「まず礼を言ってはどうだ?まだなのだろう?」


「そうなんです…びっくりしちゃって。だからこそ品を持って礼を」


「学生同士なんだから!その…金品もいいが、心の込もった言葉も嬉しいと思わないか?」


 セレスタンは少し考え…それもそうですね!と目を輝かせた。殿下を探してみます!と屋上を後にして、ルシアンは…


「まずいまずい!鍵を返してから自然に合流しないと…!」


 1人で大慌てする羽目になっていた。




「あ…いた!」


「…………」



 誰もいない渡り廊下で、ルシアンは表に出さないが息を切らせて佇んでいる。

 セレスタンは息を呑み拳を握り、気合十分でそろっと近付いた。抜き足差し足忍び足…姿は丸見えなので意味は無い。


「(早く、普通に歩け…!)」


 彼女はいちいちルシアンのツボを刺激する。口の端が震えているのを悟られないよう、必死にポーカーフェイスを維持する。

 時間を掛けて、ようやく会話出来る距離まで寄ってきた。だが礼儀として、目下の者から話し掛ける事はいけない。なのでルシアンから言葉を発した。



「…なんだ?」


「その、殿下!教科書ありがとうございます。とっても助かりました」


「構わない」


「…えと。何か…おっお礼をしたいのですが…」


「いや、いい。教科書は別にあるし…気にするな」


「ですが…本当に助かったんです。僕にご用意出来る物なんて、たかが知れてますが…」


 しょんぼりさせてしまい、ルシアンは困った。何か…安い物でも要求するしかないか?と考えていたら。

 ふと思いついた事があり、彼女に一歩詰め寄った。


「何か…?」


「動くな」


 彼女の前髪をかき分けて目を合わせる。

 きょとんとするセレスタンだが、彼の赤い目でじっと見つめられて…次第に顔を紅潮させてきた。

 無意識に下がるとその分詰められてを繰り返し…柵まで追い詰められてしまう。


「あ、の」


「どうして顔を隠す?」


「…えっと」


「其方のこの美しさは武器だ」


「うつ…!?い、いえ、殿下のほうが…とってもお美しいです」


「ありがとう」


 セレスタンは普段ルシアンに冷たい印象を抱いていた。それが今は…ふわりと微笑み蕩ける瞳で見つめられ、まるで親しい者のように頬や耳を撫でる。

 更に不快に感じないので困惑する。まるで、この手をもっと昔から知っているような…



「礼は要らない。ただ…其方のそのコロコロ変わる表情を、いつだって見せてくれると嬉しい。

 だが無理強いはしない。じゃあな」


「…………」


 それが礼…?と呆気に取られ背中を見送る。セレスタンはその場にへたり込み…



「………殿下…其方とか言う人だっけ…?

 ていうか…今の話し方…まさか」


 さっきまで一緒に過ごしていた友達。まともに言葉を交わして…雰囲気や声が似ていると疑問が湧いた。




「我が王。我が君は本気で気付いていないのでしょうか?」

「そうみたいだぞ。いい加減教えてやるか…」

「セレネ様、それはどうかと思うのです」

「僕も。そのほうが面白くなりそう!」

「いやでも」「いやいや」



 放心状態の傍ら、精霊会議が開かれているのであった。




 ※※※




「顔…か。武器って、なんの?」


 呆けていたら授業が始まってしまったので、サボるか…とゆっくり立ち上がった。

 医務室に行こうかと思ったが、その前にふとトイレに立ち寄る。顔を露わにして鏡を眺め、ルシアンの言葉を思い出す。



 セレスタンは自分の顔を、あの女神の如き妹と同じだと自覚している。

 ただ…どうしても自分を美しいと思えない。造形は整っているはずなのに…恐らく自己肯定感が極端に低い所為だろう。


 顔を晒さないのは当然男装バレを恐れてというのもある。同時に…


「ああ…そっか。ロッティと同じ顔なのに…待遇の差が激しいのを、認めたくなかったんだ…」


 自分も同じように、両親に可愛がって欲しかった。他人にも…だから隠した。

 自分が醜いから嫌われるんだって、そう思い込む為に。


 眼鏡をぎゅっと握り、鏡の自分を睨み付ける。全然怖くない…どこが武器だよ!と理不尽に憤る。



 ガチャ


「「あ」」


 トイレの扉が開かれて、パスカルが入ってきた。考え事をしているうちに授業は終了したようだ。

 彼はあれ以来何度もセレスタンと話そうとした。だが毎回逃げられ、どうしたものかと思案していたのだ。


 そこでこの大チャンス。逃げ場のない空間で先手必勝、腕を掴んだ。


「ラサーニュ。頼む、少し話を…」


 が。セレスタンは突然長身の男性に迫られて怯んでしまった。パスカルは昨年辺りから急激に背が伸び、180後半になっている。対してセレスタンは155前後。約30cm差である。


「………」


「な…何か…用ですか…?」


 眉は下がり潤む瞳で見上げられ、パスカルは喉を鳴らしてゆっくりと手を離した。

 セレスタンはハッ!!として顔面武器が通用するか試そう!と闘志を燃やす。



「……!」キリッ!


「……?」


 口をきゅっと結び、キリリと睨み付けてみる。だが無反応。


「………」ギギギ…


「………」プルプル


 今度はルキウスを参考にして、思いっきり悪人面を披露する。ただの変顔になってしまい…パスカルは俯いた。


「…勝った!!」


「(え、にらめっこ勝負だったの?)」


 拳を突き上げ喜ぶもので、何も言えなくなってしまう。僕の顔意外と使えるな…と変な自信がついてしまった。


「いよっし!」


「あ…!待ってくれ、シャーリィ!!」


 パスカルの呼び掛けは届かなかった。それよりも速く、スキップしながら出て行ってしまったからだ。

 だがその場にセレネが残っていた。


「お前、遅すぎたんだぞ」


「しゃべった!!?」


 一言だけ残し、パスカルの頭を踏んづけてセレスタンを追った。



 ※



「先生!!僕の顔怖い?強そう!?」


「……怖くねえし、弱そう」


「なんでー!?」


 ホラよく見て!ホラホラ!!とオーバンに詰め寄った。


「…お前、先生の事誘ってんの?」


「え?……あ」


 ムキになるあまり、椅子に座るオーバンの膝の上に正面を向いて跨っていた。肩に手を置き顔を近付けて…完全に距離感が恋人のそれだった。


「悪いけど、先生男は興味ねえから」


「わかってるわいっ!!」


 ニヤニヤと揶揄っては、彼女の額にデコピンをする。ルシアンが「この馬鹿…」と頭を抱える。



「…だって。殿下が…僕の顔は武器になるって言うから…」


「お前目からビームでも出んの?」


 ルシアンに視線を送りながら言い訳をした。当の本人は体勢は変えず若干震えている。


「ふ…!多分、そういう意味じゃない…

 お前のような可愛らしいタイプには、まともな感性の人間だったら暴力など振るえない。更に高確率で周囲の人間はお前を擁護するはずだ。

 涙は女の武器って言うだろう?それに近いものだ…と殿下は言いたいのでは?」


「……可愛い、ですか…」


「あー、可愛いんじゃね?」


「先生は適当言ってますよね!」


「(適当じゃねーのにな…)」


 流石に褒められれば嬉しくなってしまう。唇を尖らせて、髪切ろっかな…と呟く。

 これまで何度も晒してきてるし…というか物凄く邪魔。たまに根っこから引き千切りたくなる程に。

 うだうだ言っていたら、ルシアンがある提案をする。


「…お前が髪を切ったら。俺も帽子を脱ぐ…かも」


「…!本当ですか?」


「見たいなら」


 セレスタンは大きく唸った。


「(でも本当に殿下だったら。僕は…どうすれば…?)」


 知りたいような知りたくないような。

 ひとまずこの件は保留、本日初出勤の為帰り支度をする。



 今後は基本4時に学園を出て、買い物をしたり臨機応変に動く予定だ。


「先生、嫌いな食材ってある?ナス苦手だったよね?」


「よく覚えてんなお前。それ以外はあんまり…大体食える」


「ラジャ!量とか内容のリクエストは?」


「普通…っつっても分かんねえか。適当でいいわ、多かったら明日にでも食うから。内容は…家庭料理っぽいの?」


「アイサー!!じゃあ後でね。ルカ、また明日」


 張り切って医務室を出る。オーバンは頬を緩ませて、早く終業時間になんねーかなと時計を見た。


「………セレスは随分と、叔父上に懐いているな…?」


「そういやいつの間にか敬語抜けてやがる。ま、いいけど」


 ルシアンは悔しそうに歯軋りをする。いつか…私だって…!と、対抗意識を燃やしまくりなのであった。




 ※※※




「〜♪」


 セレスタンは私服に着替え、外出届を提出して寮を出発。

 ヘリオスのリードを引きながらオーバンの家を目指す。



「……よし、情報通り」


 そして離れた所から、ギュスターヴが見守っている。何度か護衛して、問題が無さそうなら手を引く予定だ。


 その為彼女の移動に合わせて動き始めたのだが…


「……っ!!?」


 突如背中に悪寒を感じ、その場を即座に離脱。そこに立っていたのは…




「っと…ギュスターヴ卿でしたか。驚かせてしまい申し訳ございません」



 丁寧に頭を下げるのはバジル。普段と変わらなく見えるが、ギュスターヴは確かに『殺気』を感じた。


「(いや、違う…死の気配?)君も、セレスの警護かい…?」


 心臓が嫌な音を立てている。全身を流れる冷や汗を悟られないよう、平常を装い話し掛けた。


「はい。大変失礼致しました、セレス様を付け狙う変質者の類かもと思いまして。

 というより、皇室でも把握なさっているのですか?」


「事情があってね。帰りも遅くなるかもしれないみたいだから…数回はこちらでも護衛するよ」


「それは頼もしい。是非お願い致します」


 バジルはいつも通り。弟の友人の1人で、双子の頼れる執事。

 なのに…先程の寒気が消えない。見慣れた笑顔なのに、どこか薄ら寒い気がする。

 


「……バジル」


「はい?」


「君は…僕を殺す自信はあるかい?」


「…………」



 彼は何も答えず。ただにっこり笑い、会釈をして消えた。



「…恐ろしい子供だな…世が世なら、暗部…暗殺者として活躍しただろうに」


 同時に、絶対に敵に回したくないと強く感じた。自分だって気配を消していたのに、あっさり見つかってしまったのだから…



 さて、予定外のハプニングはあったが…護衛を再開しないと。

 バジルの気配は感じないが、恐らくどこからか見ている筈だ。セレスタンは順調にゲルシェ家に進んでいる。



 だが。彼女の後方…15m離れた所に。



「どこに行くんだ…!」


「こっちは住宅街だよな」


「ボク帰ってもいいか…?」



 バレバレの尾行をするジスラン、パスカル、エリゼの姿があった。ギュスターヴは思わず力が抜けてずっこける。

 彼らは建物の陰やら塀をサササッと移動。なんとなくだが、バジルが呆れている気がした。



 そんな風に多くの護衛を引き連れて。セレスタンのお仕事は始まったのである。



それぞれの大体の身長。

シャルロット:セレスタンと同じ

ルネ:160ちょい

バジル&ルシアン:160後半

エリゼ:170前後

ジスラン:190越え

グラス:180前後

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