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皇国の精霊姫  作者: 雨野
日常編
6/102

アカデミー1年生 05


「ねえ、最近ジスラン休んでるよね。今まで風邪もひいた事ないのに…大丈夫かな?」


「大丈夫よお兄様、あの脳筋ならすぐに登校するわ(あんなに酷い事したジスランを心配するなんて…お兄様は天使かしら…?)」



 結果発表から週も明けた日。今日は魔術の実技授業で、下級精霊を召喚する。


 魔術というものは、自分の中の魔力を燃料に、自然の力を借りて行うもの。自然そのものである精霊達と触れ合うことで親和性を高め、魔術を行使しやすくする為にこの授業は行われる。


 人間が自然の力を借りるのに、反動が一切無いわけがない。あまり魔術を使いすぎると命を縮める。大体その前に魔力切れで倒れるのだが。

 例えばエリゼが天才と言われる所以は、魔力量が桁外れに多いのと体質的に自分にかかる負担が少ないから。故に他の人より沢山、そして強力な魔術を行使できるというだけだ。


 そして自然…つまり大気中に溢れる大源(マナ)と親和性を高めれば。術者の反動を少しでも抑えてくれるのだ。




 マナが形作った存在である精霊には、下級・中級・上級・最上級がある。最上級以外は大体、10cm前後の大きさしかない。

 下級は名も無き精霊達。姿形もバラバラで、属性も存在しない。

 中級から無・火・水・地・風・木・光・闇という、8つの属性に分かれる。ただし個体名は無く、火の精霊・水の精霊と呼ばれる。

 上級から一気に召喚の難易度も上がり、精霊の力も強力になる。そして火の精霊サラマンダー、水の精霊ウンディーネといった風に、名のある個体に分かれる。


 そして最上級精霊だが…彼らは存在こそは確認されているものの、半ば伝説の生き物とされている。世界に一体ずつしかいない、精霊達のトップ。人間からすれば、神にも匹敵する生物。


 火の精霊フェニックス。水の精霊リヴァイアサン。地の精霊ベヒモス。風の精霊エンシェントドラゴン。木の精霊ドライアド。光の精霊フェンリル。

 無属性と闇属性は、何処の国のどの文献にも情報が無い。故に個体名も外見も能力も未知数。



 そして精霊と人間は、契約する事で共に生きる事も出来る。

 人間が召喚して、精霊がそれに応じ。人間が名を与えて、精霊が受け取る。

 中級までは容易に契約も出来るが…上級からはそうはいかない。そもそも、召喚に応じてくれる事すら滅多に無い。よほど、精霊と相性のいい者なら別だが。


 更に…もしも最上級精霊と契約を果たす人間がいたならば。その彼/彼女は…国王よりも敬われる存在となるであろう。

 最上級の力は災害レベル、人間が太刀打ちする術は無い。故に…そんな最上級をコントロール出来る人間は、世界中が欲しがるだろう。

 しかしそのような事例はこれまで確認された事が無いので…現実的な話ではないのだが。




 そこで今日の授業。下級精霊を喚んで触れ合うだけ。その為の魔法陣も至ってシンプル、ただの五芒星だ。

 だから…事故など起こりようもない、安全な授業のはず。なのだが…




「お兄様、一緒にやりましょう」


「うん。でも…ロッティと一緒に受けたいって人、いっぱいいるよ…?」


「いいの!」


 生徒は全員外の魔術修練場に移動する。そこでシャルロットは多くの生徒(ほぼ男子)に声を掛けられるも…全て断っている。

 断られた生徒達はシャルロットには気付かれないように、セレスタンに恨みの視線を送る。日常茶飯事なので…セレスタンは俯いてやり過ごすのだった。


 バジルも入り、3人で召喚を行う。地面に五芒星を描き、手を突き魔力を流す。

 魔術に決まった詠唱、言霊は無い。ただ、魔力を流し…心を込めて言葉にする。




 ここで余談だが。精霊召喚には2通りある。

「来て欲しい」と精霊にお願いする通常召喚。そして…「来い!」と命令する強制召喚だ。精霊は基本的に、契約者と自分以上の精霊以外の命令は聞かない。


 通常召喚は精霊が応じるかどうかで失敗する事もあり、精霊のランクが上がる毎に難易度も上がる。


 強制召喚は、必ず精霊が姿を現すが…大体不機嫌になっている。それが中級までならまだいいが、上級になると少々厄介になる。

 怒り狂った精霊が、人間に危害を加えるのだ。もしも最上級を強制召喚してしまったら…高確率で術者は命を落とすだろう。彼らは絶対に怒らせてはならない相手なのだ。

 強制召喚など以ての外、国ごと滅ぼされても文句は言えない。穏やかな精霊ならば、許してくださるかもしれない、といったところだ。





 シャルロットは「誰か来てちょうだい」と。バジルは「精霊よ、応えてくださーい」と言う。そしてセレスタンは…


「誰か…僕と一緒に遊んで欲しいな」


 と。すると…それぞれの陣が山吹色に光った。次の瞬間…シャルロットとバジルの魔法陣からは、動物型の精霊が1体ずつ。セレスタンの陣からは…なんと、20体程の精霊が溢れ出してきたのだ。


「おわっ!?…わぁ〜…可愛い…!って、あは、あはは!くすぐったいよぅ〜!」


 精霊達は一斉にセレスタンに飛び掛かり、髪を食べたり服の中に入ったり。肩や頭、膝の上…彼女の体で休んだり。しかも…どんどん数が増えている。

 他の生徒が召喚した精霊も、皆セレスタンに引き寄せられてしまっているのだ。しかし本人は気付いていない。目の前のシャルロットとバジルは、間抜け面で呆然としている。



「小さい精霊と戯れるお兄様…可愛い…!じゃなくて!

 1つの陣からは、1体の精霊しか喚べないんじゃなかったかしら…?」


「はい…下級ならば2〜3体もありえますが…この数は異常では…?」


 その通り、これは異常事態である。しかもセレスタンが人気者すぎて、あぶれた精霊達はシャルロットとバジルの元に向かう程に。

 ただし他の生徒達は…セレスタンが召喚した場面を見ていない為、彼らはシャルロットが召喚した精霊だと判断した。精霊にまであんなにも好かれるとは…へへっ、まさに聖女様だぜ!という具合に。


 教師までもが3人を信じられない目で見つめる。その所為で…修練場の隅で。特徴的なピンク頭が…一心不乱に複雑な陣を描いている事に。誰も気付けずにいたのだ。




「…よし、完成だ!!」


 突然誰かが大声を上げて、全員がそっちに顔を向ける。すると…足元の魔法陣を妖しく光らせるエリゼの姿があった。

 それは…最上級精霊を呼ぶ為の陣。それに気付いたクレールが、慌てて止めに入るも…手遅れだった。


「ラブレー君!一体何を…!」


「あっははは!全員よく見ろ、僕の実力を!

 さあ来い!僕の呼び掛けに応えろーーー!!」


 あろう事かエリゼは、強制召喚をしてしまったのだ。通常ならば「誰が行くかボケ」と精霊が蹴ればいいのだが…引っ張られてしまっては出るしかない。

 エリゼの魔法陣は、どす黒い色に光っている。精霊が怒っている証だ。


「………あら?何故怒る…?って、力がぁ…」


 エリゼは自分ならば、最上級も使役出来ると考えていた。何故なら天才だから!なのでこの反応には、少したじろいでいる。

 しかも魔力切れでその場に倒れ…彼の目の前では、魔法陣がカッッ!!と一層強く輝き、風と土埃が大きく渦を巻く。

 


 まだ精霊は姿を現していないが…周囲に伝播するその圧倒的な存在感に圧し潰され、生徒達は皆怯えた。足が竦み腰が抜け、酷い場合には失神している者もいるようだ。

 しかも徐々に竜巻は大きくなり…よく見ればその中に、巨大な影が見える。魔力波でなく本物の竜巻であれば、エリゼはおろか修練場の全員が吹き飛ばされていた事だろう。


 セレスタンは精霊のシルエットに怯え、青い顔で地面に座り込んでしまっている。下級精霊達は風で飛んで行ったり、セレスタンにしがみ付いたり。

 突風で彼女の髪は巻き上げられ眼鏡も飛ばされ、秘している素顔も露わになった。その金色の目に…恐怖で涙が浮かんでいる。


 それを見たシャルロットは……



「バジル、お兄様お願い!!」


「へあっ!?お嬢様あーーー!!!」


「ロッティーーー!!?」


 精霊の影響を全く受けていないのか、元気よく立ち上がりエリゼに向かって走って行く。

 何事もなくエリゼの元に到達し…倒れる彼の胸倉を掴み持ち上げ、その可愛らしい顔に拳を叩き込んだ。


「うごっぶ!!」


「このピンク野郎!!!私の可愛いお兄様を怯えさせて、どう落とし前つける気よあ"ぁん!!?」 


 エリゼはその一撃で昏倒。シャルロットはエリゼを脇に抱えてその場を離れようとする。だが…その前に



 ゴオオォォッ!!と…竜巻が一瞬で爆発したかのように猛威を振るった。

 強靭なシャルロットも、流石に立っていられない。仕方なくエリゼを背に隠し、目を閉じてその場に座り込む。それを遠くから見ていたセレスタンは…



「ロッティ!!くっそう…こんな、所でぇ…!!」


「き、危険です坊ちゃん!!ああっ!!」


 バジルの静止も振り切り、震える足に喝を入れて走り出した。

 愛する妹が危険な目に遭っているのだ…怯えている場合じゃない!!と。


 ただし彼らに到達する直前で、竜巻が2人を呑み込んでしまった。セレスタンは風の壁に阻まれ、近付けない。

 するとその時…土煙の向こうから眩しい光と、熱量を感じた。まさか…攻撃する気!?と、セレスタンは狼狽する。目から大粒の涙を流して、触れれば身を裂かれてしまいそうな勢いの竜巻に突っ込もうとしている。

 それはなんとか追い付いたバジルが止めたが…取り乱してしまい、彼女は暴れる。



「やだ、やだあああああ!!ロッティ、やめてえええ!!

 精霊様、ごめんなさい!!!お願いですから…ロッティとラブレーを殺さないでええっ!!!」


 バジルに抱き付かれ、大声で泣きながら謝罪するセレスタン。その時…



 キイィィン…バアンッ!!と…竜巻が爆散し、修練場を突風が襲う。

 同時に精霊がシャルロット目掛けて、高温度のブレスを放ったのだ。だがそれは彼女に届く前に…轟音と共に霧散した。


 セレスタンはその衝撃に目をぎゅっと閉じ、耳を手で塞ぐ。暫くの後風が弱くなったのを感じ…恐る恐る目を開けると…




「…………綺麗……」




 晴れた竜巻の中から姿を現したのは…巨大な火の鳥。火の最上級精霊・フェニックスだった。



 それは思わず見惚れてしまうほどに、美しく神々しかった。バサッバサッと羽ばたく姿も、炎を纏う黄金色の体も。自分達を見下ろす…真っ赤な瞳も……


 彼女は涙に濡れる目で、その荘厳な姿を見ていた。周囲には顔を腫らしているエリゼ。フェニックスに対してファイティングポーズで呆然とするシャルロット。セレスタンの後ろでまだくっ付いているバジル。遠くで地面に転がる生徒達…

 

 するとフェニックスは…シャルロットの後ろで倒れているエリゼに「ペッ!」と小さな炎を吐いた。


「あち、だあちちち!!?」


 エリゼはその熱さで目を覚まし、ゴロゴロ転がり火を消す。まさか今のは…唾を吐いたのか?とセレスタンは感じた。


 するとふいに、セレスタンとフェニックスの目が合った。それは時間にすれば数秒の出来事だろうけれど、彼女にとっては…この空間だけ切り取られているかのように…とてもスローに感じたのだった。

 フェニックスは翼をバサっと広げる。その時…セレスタンにはフェニックスが、微笑んでいるように見えたのだ。



「う…あぐっ!?」


「え、坊ちゃん!?」



 フェニックスが、グオオオオォォォォ…!!と咆哮を上げる。それと同時に…セレスタンは左胸の辺りに痛みを感じて、その場に蹲った。


 次の瞬間にはもう、フェニックスはいなくなっていた。そして…遠くから一連の流れを見ていた生徒達は…




 エリゼ、調子に乗ってフェニックス喚ぶ。

 シャルロット、優しい彼女は彼の前に立ち、フェニックスと対峙する。

 フェニックス、ブレス吐く。

 シャルロット、なんか凄い力でブレスを無効化させる。

 フェニックス、ビビって大声上げて逃げる。

 ついでにセレスタン、シャルロットの後ろで泣き喚く…



 というストーリーが完成していた。これによりシャルロットはまた人気上昇、セレスタンは蔑まれる…という形になるのであった…





 ※※※





 エリゼはその後、皇室魔術師団総団長をしている祖父が迎えに来て…説教と修行のし直しを喰らった。

 彼がヨロヨロと登校したのは事件の2日後。すると…シャルロットとエリゼが生徒会に呼び出しを食らってしまった。



「ひ、ひい…!生徒会長って、あの怖い顔の…!?」


「そうね。ちょっと行ってくるわ」


「あばばばばばば…!!」



 アカデミーの現生徒会長は、グランツ皇国皇太子でもある5年生のルキウス・グランツ。彼は眩しい金髪の美丈夫で、人柄も能力も素晴らしい人物なのだが…顔というか、笑顔が怖い。

 そもそも美形の真顔とは、少し冷たい印象を周囲に与えてしまうもの。しかし…彼が笑うとどうしても、悪人面でニタァ…となってしまうのだ。


 その笑顔で失神(悪い意味で)する令嬢も多数いる。その為素晴らしい人物であるのだが、16歳になっても婚約者もいないのである。お見合いする令嬢が、皆逃げ出してしまうので。



 セレスタンは、入学式の出来事を思い出していた。

 生徒会長挨拶として…ルキウスが壇上に立った時の事。真顔なら美形な彼の登場に、女子生徒はきゃあきゃあ静かに騒いだ。が……



『新入生の皆、入学おめでとう。私達は君達を歓迎する』にっごぉり…



 挨拶しながら…その笑顔を炸裂させたのだ。すると……



「「「「ぎゃーーーーーっっっ!!!!」」」」



 という悲鳴が講堂に響き渡った。不敬なんてもんじゃ無いが…誰も新入生を咎める事はしないのだ。何せ、誰もが通った道なのだ。

 ちなみにセレスタンも震えていた。怖すぎて悲鳴も出ず、シャルロットの手を握っていたのである。



 挨拶終了後。講堂の隅で大きい身体を丸めて膝を抱え、落ち込む会長の姿があったとか。





「あわわ…ロッティが食べられちゃう…!僕も行く…っていない!?」


「お嬢様ならもう行かれました。さあ、僕達は教室に行きましょうか」


「うわああああん!ロッティ無事に帰って来てえええ!!」


「(坊ちゃんはなんと繊細なお方か…。僕はむしろ、お嬢様が殿下方に何か失礼をしないか心配です…)」


 バジルは半泣きのセレスタンの背中を押して、乾いた笑みを溢しながら歩き出すのだった。

 



 セレスタンの心配も杞憂に終わり、シャルロットはすぐに戻って来た。

 呼び出しはやはり、フェニックス事件について。


「周囲が勝手に、私が精霊様を追い返したなんて言ってるじゃない?

 だから「私は何もしていません、立っていただけです。恐らく精霊様は、最初から攻撃を当てる意志が無かったのでしょう」って言っておいたわ」


 エリゼに関しては、一応謝罪はした。だが…どうしても完全に反省しきっていないようで、言葉の裏に「なんでボクが…」という考えが見え透いていたらしい。

 その為反省文30枚提出。次は厳罰を与える、と言われてしまった。


 それでも、最上級精霊を呼び出す魔力量とセンスだけは素晴らしいと褒められていたのだが。


「皇太子殿下は今後、召喚について法令を定めるべきだなと仰っていたわ。

 今までは…呼び出せる程高位な魔術師が、そんな愚かな事しようはずもなくて罰則も無かったらしいのよね」


 と、シャルロットは呆れていた。

 

「じゃあ…何も怖い事はなかった?皇太子殿下に怒られたりしなかった?」


「私はね。他の役員のお2人も、優しい笑顔で出迎えてくださったし」



 実はもう1つ呼び出しの理由はあったのだが。それは絶対に他言無用と言われているので…シャルロットは黙っているのであった。




 その次の日。魔術の授業で…何故か魔力量を測定すると言われた。

 生徒達は騒ついた、何故なら入学時にすでに測っているからだ。この短期間で変わるのか?と皆疑問に思っている。

 

 しかし学園の決定に、逆らう理由も無い生徒達は応じた。

 検査は手の指の長さ程の小さな細長い紙を使う。それに魔力を流すと色が変わり…その色によって結果が判明するのだ。



 それは赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の順で、右に行くほど魔力量が多い。

 生まれ持った魔力量は成長と共に変化するが…赤が紫になる程の成長はあり得ない。生涯で精々1か2段階上がる程度である。そして皇国民の平均は黄だ。



 結果エリゼは紫。シャルロットは緑、バジルは黄、ジスランも黄。そしてセレスタンは…



「……藍色…?僕、緑じゃなかったっけ…?」



 と、数ヶ月で2段階も増えていたのだった。彼女は目を疑っているが、何度やっても結果は同じ。不思議に思いながらも名前を書いて提出し…いつもの授業が始まる。




 ただしこの日を境に。彼女の回りを変人が3人程彷徨く事になるのだが…まだ、知らない。




フェニックス

「いやあ、用も無しに呼びやがった子供をビビらせてやろうと思ったんだが…別の子がなあ。ワシを殺意マシマシで睨み付けてきてな。人間にも、気骨のある奴が残っていたんだな〜。それに光の愛し子も見れたし、よきよき」

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