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皇国の精霊姫  作者: 雨野
訣別編
58/102

「あんな所にファイヤーダンスをするゲルシェ先生が!!」



「ふう…」


「疲れてるみたいですね」


「ちょっと…ね」


 週末はグラスと会う為にラサーニュまで帰る。

 それにナディアと過ごす時間は癒されるし、ロビンと共にロランの成長を見守るのは楽しい。


 だがシャルロットが来る可能性を考えて、あまり長くはいられない。

 土曜の夜に帰り、日曜の朝には首都に戻る。



 今はグラスが焼いてくれたお菓子で、寝る前の穏やかな時間を過ごす。


「僕ね、不良を目指して頑張ってるんだよ!」


 不良って目指すものだっけ?と3人は内心首を傾げる。


「果敢にも学園で一番怖い先生にバナナトラップをお見舞いしてあげたし。ふっ…超怒られたけど。

 あと塀にクレヨンで落書きしてやったぜ…すぐ落としたけど。

 医務室のベッドで爆睡して、仕事の邪魔をしてやったぜ…ほっとかれたけど」


 武勇伝を語るセレスタン。皆微笑みながら「すごいですね」と相槌を打つ。



 ※



「セレス。一緒に寝てもいいか?」


「……………はっ!!!?」


 後は寝るだけ、という時にグラスが部屋を訪ねて来た。セレスタンは真っ赤になり狼狽え、ダメに決まってるでしょ!?と首を横に大きく振る。


「別に何もしない。ただ…少しでも長く、一緒にいたいだけ」


「……で…でもぉ…」


 唇を尖らせ、悩んでいるうちに勝手に潜り込んできた。


「こらあ!?」


「おやすみー」


 頭をスパーン!と叩けば、高らかに笑った。

 仕方ないなあ…と息を吐き、照明を消して自身も布団に入る。



「……学園はどうだ?誰かにいじめられたりしてないか?」


「…平気。最近はね、精霊の皆も睨みを利かせてくれるし…何よりやり返すようにしたの!」


「そっか。部屋の鍵はちゃんと閉めてるか?」


「ファイがやってくれてるよ!」


 グラスにしてみれば、愛しい彼女が狼の巣窟に放り込まれているようなもの。

 寮で掃除の仕事でも…と探すも募集しておらず。ただ遠くから無事を祈るしかない。


 会えない時間を埋めるように抱き合って、他愛もない話をする。

 次第にセレスタンの目が閉じてきた。


「…寝る前のキスは、いいか?」


「……………ん」


「……っ」


 目を閉じて顔を上げる姿に、グラスは唇を重ねた。実際は頬とかにするつもりだったのだが。

 相手が口をつぼめて待っているのだから、無視する訳にはいかないな!と言い訳をする。


「…ミコトの、鼓動…落ち着く…」


「そっか…」


 すぐに寝息が聞こえてきた。

 早く…一緒に住めるようになりたい。毎日こうやって、彼女を抱いて眠りたい。

 決意を新たに、グラスも目を閉じた。



 翌日、セレスタンがいなくなった後にシャルロットが訪ねて来た。

 いないと言って追い返したが…グラスはずっと、彼女に冷酷な視線を送り続けた。



 ※※※



 4年生になると、魔術の授業も実践的なものが増えてくる。

 本日は座学で学んだ飛行術の実技。皆運動着で屋外の練習場に移動。



 セレスタンはトイレで着替えをしているのだが。


「………」


 サッ、ササッ!とジスランが先に入る。誰もいないのを確認して、グッと親指を立てた。まるで仕事の出来る護衛みたいな動きに、不本意にも感心した。

 許可が降りたところで個室に入り…服を脱ぐのだが。


 どうしても…個室の外に張り付いているであろうジスランが気になる。

 薄い壁を隔てた向こう側に、かつて恋心を抱いた相手がいるのだ。集中出来なくても仕方ないだろう。



 ス…パサ…スリ…


「……………」


 ジスランもまた、衣擦れの音に想像力を掻き立てられていた。

 正直に言って、覗きたい。合宿でのシャワーを思い出し……頬を限界までゆるゆるさせる。



 ガチャ


「………あのさ。見張り…いいから」


「気にするな、俺が勝手にやってるだけだ」


「気にするわ!!!」


「だ、だって!もし不審者が…上から覗きでもしたら!!」


「おうそこの鏡見るといいよ」


 ジスランが不思議そうに鏡を見て、自分と睨めっこしているうちに移動。



 ※



 飛行には大きく分けて2つの方法がある。

 自分の足下に足場をイメージし、それを飛ばす。

 鳥のように翼をイメージし、体を浮かせる。

 好きなほうを選んでいいというので、セレスタンは翼を選んだ。



 座学で描いた魔法陣の紙を地面に広げる。クラスメイトは「一緒にやろ〜」とグループに別れる。

 いつもなら…シャルロット、バジル、ルネと組むのが自然で。ジスランが控えめに合流して、エリゼは気まぐれに参加して。


「(自分から捨てておいて…寂しい、なんて)」


 もうあの日常は戻らない。その事実に、どうしようもなく目頭が熱くなる。




「その…セレス。一緒に、やらない?」


「!!!」


 油断していたところに後ろから声を掛けられ、飛び上がって驚いた。


「……や、やらないっ!」


「そう………?」


 シャルロットは悲しげに眉を下げるが、セレスタンの声がおかしい事に気付いた。


「………あっ!!あんな所にファイヤーダンスをするゲルシェ先生が!!」


「何ィ!!!?」


 バッ!!とシャルロットが指す方向に、疑いもせず顔を向ける。そこには…



「……真面目に授業受けなさいね…」



 苦笑するクレール・バルバストル。もちろん燃えてはいない。


「あれ…?ドンドコするゲルシェ先生は…あっ!!?」


「隙ありっ!!……え」


 シャルロットがセレスタンを押し倒して、眼鏡を奪って顔を露わにさせた。

 すると…眉間に皺を寄せて目を潤ませているではないか。


「…!見ないでよ…やめて…」


「………」


「どっか行けよ…馬鹿、馬鹿ぁ…」


「………………」


 グスッと鼻を鳴らし、手で顔を隠して一生懸命強がるセレスタン。シャルロットは腹の上に馬乗りになったままフリーズした。



「ちょ、ロッティさん!!何なさってるの!」


 慌ててルネが引き離す。バジルに肩を抱かれながら起き上がるセレスタンは、ぺたんと座り込んでしまった。

 震える手で乱れた上着を直す姿、憂いを帯びた横顔は…ジスランを筆頭に男子生徒の心臓を打ち抜いた。


「セレス様、こちら…」


「ありがと…」


 バジルが眼鏡を奪い返してくれてようやく落ち着いた。彼も目を合わせられないでいる。

 ちらっと妹の様子を伺えば、放心状態から抜け出せていない。今のうちに魔法陣を回収、逃走。誰も追い掛けて来なかった。



 飛行術は危険なので、必ず教師の付き添いのもと行う。クレール1人では時間が掛かるため、こういう時は5人体制だ。

 暇を持て余す場合は他の生徒を見学、それだけで勉強になる。


 このクラスはエリゼのみすでに飛行術をマスターしているらしい。

 セレスタンも見学していたが、彼は魔法陣も省略して優雅に空を舞う。


「スゴイ…格好いい…」


 目を輝かせて見上げる。あんな風になりたいな…旅に出るなら、飛べたら便利だよね…と気合を入れる。



 ひたすらに見学をして、どこをどうすればいいのか段々分かってきた。

 一気に魔力を流してしまうと、高確率で吹っ飛ぶ。ジスラン、ルネ、シャルロットは即座に教師に回収された。毎回エリゼの爆笑する声が聞こえ、便乗して小さく笑った。

 制限しすぎると浮かない。ルシアンは地面スレスレをつぃー…と移動して、バジルは30cm浮いた所で身動きが取れず。

 パスカルはふらつきながらも、安定して飛んでいた。だが最初から上手く出来る人は少ないので、点数が特別悪くなりはしない。




 ほぼ終わり、セレスタンは終盤に。注目されて恥ずかしいが…邪魔な前髪は1つに縛って臨む。



 翼、翼…彼女がイメージするものは。


 天使…ではなくフェニックスの燃え盛る翼だった。魔力を流すと、胸の刻印が脈打つ気配がする。


「(………いける)」


 重力が無くなり背中が熱を帯び、成功を確信した。

 すると、おおおおおっ!!と歓声が上がる。他の誰かがまた吹っ飛んだのかな?と目を開けた。だが…



「………ラサーニュ君。翼はイメージだけで…生やさなくてもいいのよ?」


「へ?」


 クレールの言葉に後ろを振り向くと…


 彼女の背中に、大きな翼がくっ付いていた。しかも炎の翼、フェニックスの羽根そのもの。


「何これえ!?」


 だが熱さは無く、また実体も無いようで触れてもすり抜ける。

 セレネが耳元でボソッと、「刻印が反応してシャーリィのイメージを具現化させちゃったんだぞ」と教えてくれた。

 困ったが邪魔ではないし…何より目を奪われる程に美しい。このままでいいや、とクレールと共に地面を離れる。




「すごく安定してるわね。ラサーニュ君…初めてなのよね?」


「はい、でも…いつもこの子達が舞う姿を見ていますから。イメージはし易かったです。

 あっ、ちょっと!眼鏡返して!」



 セラフィエルがここまでおいで〜!と先導する。仕方ないなあ、とクレールに許可を得てから追い掛けた。


 黄金に輝く翼、炎のような髪を靡かせ。女神と讃えられる程の美貌を持つシャルロットと同じ顔でたおやかに微笑み。

 小さな天使達が周囲を飛び回り、肩には白い毛玉を乗せて。楽しげに宙を舞う姿は…見る者全てを魅了した。




 蛇足。翌日、職員会議にて。


「ゲルシェ先生、おはようございます…」


「ああバルバストル先生、おはようございます。……何か?」


「……い、いえ…なんでも…ぶっふう!!」


「なんですか!!?」


 クレール及び魔術教師は…オーバンの顔を見ると。

 どうしても脳内でドコドコ言いながら踊る姿を想像してしまい。暫くの間笑いが止まらなくなってしまった。




 ※※※




「セレス、一緒にお昼食べましょう」


「……め、メシが不味くなる…」


 シャルロットの誘いを、なるべく厳酷に断らなくては!と突き放すセレスタン。

 いつもならしょんぼりと去って行くのに、今日は引かなかった。


「…セレス、それがご飯?少なくない?」


「え、あ。…うるさいっ!」


 彼女が手にしている袋には、小さな菓子パンとパックの飲み物1つ。俺が買って来る!!とジスランも参戦。ぎゃあぎゃあ言い争った後…


「いらないってば!もう放っておいてよ!!」


「きゃっ」


「あっ…」


 無理矢理手を振り解くと、シャルロットはよろめいた。セレスタンは咄嗟に手を掴み引き寄せ…


「……ああもう鈍臭いな!!足捻ってないね!?腕痛くない!?…その………ばーーーか!!」


 子供のような捨て台詞を吐き、セレスタンは廊下を走って逃げた。シャルロットは呆然として…



「……バジル」


「はい」


「貴方…本当にお兄様の態度、心当たり無いの?」


「…………」


「そう…あるのね」


「……セレス様は…お嬢様を嫌ってはいません」


 バジルはそれ以外何も言わない。

 シャルロットは自分で辿り着かなければならない。兄の真実に…本当に、手遅れになる前に。



 ※



「…食事少なくないか?」


「くう…」


 屋上でもルシアンに同じ事を言われ俯いてしまう。少食だからこれでいいの!と強がるも…


「(すぐお腹空いちゃうな…)」


 いつも夕飯前は空腹状態になってしまう。

 見かねたルシアンがこれも食べろ、と自身のサンドイッチを差し出してくる。遠慮するも口に突っ込まれ、渋々咀嚼。こういう時は強引に行ったほうがいいとルシアンは学んだ。




 何故食事を我慢しているのか?答えは至ってシンプルだ。



「お金が…無いよう…っ!」


「……なんて?」


 単なる金欠だった。

 放課後、ルシアンは用があるとの事で不在。オーバンに愚痴を聞いてもらう。


「先生、学園でなんか雑用のバイトとかありません?」


「ねえよ」


「そんなあ…ひもじいよう…」


「伯爵に小遣いせびれよ」


「………むり」


 はあっ?と眉を顰めるオーバンに、口外禁止で事情を説明した。


 自分は学園を卒業したら家を追い出される。それで今すでに実家も出て、絶縁状態であると。

 すると小遣いもカットされて…バジルが自分の給料から出そうとしたので断固拒否した。

 今は貯金でやりくりしているが、卒業後に少しでも残したい。それに…生理用品代も結構馬鹿にならないのだ。そこまでは言わないが。


 話しているうちにぐすっと鼻を鳴らす。聞き終えたオーバンは…静かに怒りを堪えていた。



「…それは立派な虐待だ。俺から通報すっから…」


「待って、やめて!」


 立ち上がるオーバンの背中に飛び付き懇願する。

 だが…ルシアンより遥かに細くて軽い身体。それが追加燃料となる。


「なんで止める。父親を庇ってんのか?だが俺は教師として大人として、今のお前を放ってはおけねえ」


 そっと腕を外してベッドの上に転がす。それでもセレスタンは止まらない。


「違うの!!あの…僕…好きな人がいるの!!」


「……はあ?」


 だからなんだ?と眉を吊り上げた。しかし続く言葉に、オーバンは目を見開く。


「相手は平民だから…だから。僕も平民になる以外に、一緒になる方法は無いの!!

 …追い出された時はすっごく悲しかったけど、今は感謝すらしてる。伯爵令息と平民じゃ…世間は認めてくれないもの…」


「…………」


 オーバンはその表情のまま固まった。

 そしてたっぷり時間が過ぎた後…隣に腰掛けた。大きく息を吐き、右手で顔を覆う。



「……金があればいいのか。相手も…覚悟決めてんのか」


「相手は孤児で、失う物は何も無いって言ってる。治癒が使えるから…夏に神殿の試験を受ける予定。それぞれお金を貯めて、結婚するの」


 神殿は独身者しか入れない。なので…結婚までに、なるべく稼がなければいけない。



「…………」



 オーバンは口元を覆い、どこか遠くを見ている。彼が何を考えているのか分からず…セレスタンは横顔を眺める。



「………分かった。誰にも言わねえ」


「本当!?よかったあ〜…」


 ほっと胸を撫で下ろすが、根本的には解決していない。もういっそ街で仕事探すか…と思案する。



「お前、家事出来るか?つか料理。クッキーは美味かったけど」


「っ!出来るよ!何々、学食で調理のバイトとかあるのっ!?」


「違えよ。だから……俺がお前を雇う」


「……へ?」


 セレスタンは口をポカンと開けて、オーバンの顔を凝視した。


「俺は1人暮らしなんだが…料理だけは苦手でな。大体買うか外食か、お節介な奴が持って来る。

 だから…飯作ってくれ。材料費はもちろん俺が出す。ついでに掃除とかしてくれたら、その分も払う」


「…お…おいくら程に…?」


「うーん…(学生の小遣いレベルは…あ、でも将来の貯金もしてえよな…?)んー…まず…月に金貨25枚(※経費別)でいいか?」


「よろしくお願いしますっ!!」


 月に金貨5枚のお小遣いとは雲泥の差。オーバンの左手を両手でガシッと掴み「頑張りますご主人様!!」と膝を突いて興奮気味に挨拶をした。



「ご主人様はやめろ…」


「イエス旦那様!!」


「今まで通りでいいわ!」


「イエッサー先生!!」


「…ったく…この阿保が」



 呆れたように言うけれど。

 大はしゃぎするセレスタンを見つめる目は、とても穏やかなものだった。



セレスタン、はじめてのしゅうしょく。

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