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皇国の精霊姫  作者: 雨野
日常編
49/102

アカデミー2年生 20



「やめろお前ら散れ散れ!可哀想に、こんなに震えて!

 よーしよしよし、変なお兄さん達でごめんなー」


「「そのニヤケ面隠してから言えよね」」


 緊急家族会議開始。結果テーヌ一族は空気椅子で頭を低くした。

 だが煌びやかなパーティー会場で、6人の男女が1人の少女をぐるっと囲んでその状態。悪目立ちして仕方がない。


「やめてー!なんでハーヴ兄もしてるの!」


 あっはっはっと笑い声が響く。緊張は完全に解れたようだ。


 ハーヴェイとどこで知り合ったか。付き合ってるの?何歳?こいつのどこが好き?等々兄弟の質問が止まらない。

 次第にセレスタンはハリエットと2人で会話を楽しむ。その間兄弟はヤンキー座りで円陣を組んだ。


「付き合ってる訳じゃねーの、俺の一方的な片想いだから」


「え、馬鹿なの?」


「テメーに言われたくねーよっ!?」


「「早く告っちゃいなよ」」


「あんないい子、もう現れないよ?」


「……うっせー」


「「「「ヘタレめ」」」」


「ハモんな!!」



「男共は騒がしいねえ」


「あはは…でもわたしは、ハーヴェイ卿の明るさにいつも助けられています」


「そうかい?…旦那もあんな男だったんだよ」


 ハリエットは懐かしむように目を細めて語った。

 夫はハーヴェイを身籠っている時に殉職。家族を守る為産後騎士に復帰した。

 仲間達の助けもあって5人の男の子を育てたが、一番下が反抗的で頭を抱えていたと。


「でもねえ、あのはっちゃけっぷりが旦那にそっくりでね。会った事も無いのに…血は争えないってね」


「そう、ですか…旦那様が…」


「…もう20年前の話だし、子育てが忙しくて悲しむ暇も無かったよ。

 ありがとうお嬢さん、心を痛めてくれて」


「…いえ、そんな…」


 セレスタンは胸元を握り締めて、悲しみから顔を歪めた。ハリエットはそれだけで彼女に好感情を抱いていた。


「ちなみに旦那は170cm無かったんだよ」


「お母様の遺伝子強すぎません?」


「ははっ、でしょう?…ハーヴと結婚してくれないのかい?」


「け…っ!!その…えっと…実は…」


「あっはっは、分かってるさ。頼まれてパートナーをしてくれただけだろう?」


 セレスタンも豪快に笑うハリエットに憧れの念を抱き始めた。芯を持って強くて格好いい女性。なんとも理想的な大人だった。


 会話もそこそこにまた会おうね!とテーヌ家は去って行く。セレスタンがポーッとしているので、ババアになんか言われた?と顔を覗き込むと…



「お母様格好いいね…僕将来、あんな風になりたいなあ…」


「………」


 ハーヴェイは想像した。この小さく愛らしい彼女が母のように…

 逞しい騎士達に「あんた達いいぃーーーっ!!」と怒鳴りながら尻を蹴っ飛ばすような?

 怪我をしたら「根性で耐えんだよ!!」と塩を塗ってきそうな?


「頼むからやめて…!顔面は母似の俺が女装してあげるから我慢して!!!」


「なんでえっ!?」


 まあ結果的には、楽しい時間でしたとさ。



 ※



 パーティーが始まって暫く経つが、セレスタンは昨日のようにリタイアしなかった。すぐ隣にいるハーヴェイのお陰だろう、安心感が伯爵とは天と地なのだ。


 ふと会場の隅に、見慣れた茶髪の男性を発見。いつもの適当な黒い服、ボサボサの頭とは違いカチッと礼服を着たオーバンだった。

 その姿は凛とした紳士で、セレスタンはギャップで少し胸を高鳴らせた。

 彼の隣にもう1人男性がいる。灰色の長髪が特徴的な、色気の溢れるお兄さんだ。あの人誰かな?と呟く。


「んー?ああ…多分ご友人の男爵かな」


「友達いたんだあの人…」


「……ぷっ」


 一体オーバンをなんだと思っているのだろうか。とにかく近寄らず逃げた。以前髪を染めただけの変装をすぐに見破られているからである。



「どうした?」


「いんや。すっげえ可愛い子がこっち見てたから」


「あの水色のドレスの子か?…あ、ルキウスが声掛けてら」


 背中を見送られている事には気付かなかった。




「セレスタン。遅くなってしまったが…私と踊ってくれないか?」


「はい、喜んで」


 ルキウスが踊り出せば皆が瞠目した。最も注目を集めたのは、やはりルキウスの表情だろう。

 彼が柔らかい笑みを浮かべているのだ。皆笑顔が超絶下手くそなルキウスしか知らないので、天変地異の前触れか。いや影武者に違いない!と言う者もいる。


「…テーヌ家に挨拶はしたか?」


「はい。とっても楽しかったです」


「そうか。ハリエット卿は女性騎士にとても慕われているんだ」


「分かります。憧れちゃいます…

 それに…あんな素敵なお母様に育てられたから、ハーヴ兄もお兄様達も優しい人になったんですね。

 皆さん大きくてびっくりしたけど威圧感はなくて。朗らかでわたしを気遣ってくださいました。お嫁さんのお話も聞きましたが、とっても大事になさっているのを言葉の端々から感じました。

 きっと騒がしくて楽しいご家庭なんですね。ちょっと羨ましいなぁ」


「…そうか」


 恥ずかしいので内緒にしてくださいね?とお願いする。

 だが残念、ハーヴェイはきっちり聞いていた。真っ赤な顔を両手で覆い、本気で彼女をテーヌ家の養女にしたいと考えている。



 ダンスが終わり、名残惜しそうに手が離れた。

 ルキウスには令嬢達が集まったが、いつもの笑顔に戻ってしまったので…結果は語らずともいいだろう。

 セレスタンにはルクトルとランドールがダンスを申し込む。疲れたけれど楽しい!と自然と笑顔になる。



「レディ、私に貴女をお誘いする栄誉を授けてくださいませんか?」


「はい、喜ん……でえっへい!?」


「………んふふ…」(必死に笑いを堪える)


 ややハイになっていた彼女は、相手を確認もせずに了承した。

 後ろからスッと手を差し出しているのはルシアン。今更断れないので、何事も無かったかのようにしずしずと手を重ねて中央に躍り出る。それがまたルシアンのツボを刺激した。


「…ぅぶ…美しい貴女のお名前を教えていただけますか?」


「(ぶ?)わたしはエレナ・カリエと申します。麗しい第三皇子殿下にお声掛けいただき、身に余る光栄ですわ」


 彼は普段学園で感じる威圧感など皆無で、爽やかスマイルのまさに王子様然とした少年だった。

 セレスタンも今は「伯爵令息」ではないので、怯える事なく対応する。


「カリエ嬢。どうか私の事は名前で呼んでいただけませんか?」


 あっれー、この人こんなキャラでしたっけ?と疑問が浮かぶが、どうせパーティーが終わればそこまでだし。と腹を括った。


「では…ルシアン殿下。どうかわたしもエレナと呼んでくださいませ」


「ありがとう、エレナ」


 彼が何を考えているのか分からない。後はダンスに集中して、礼をして別れる。

 皇子達に誘われた令嬢は誰だ!?と社交界は騒然となったが、誰一人としてエレナの正体に辿り着く者はいないのであった。




 ※※※




「じゃあスタン、明日もよろしくー!」


「へ!?今日だけじゃ」

 

「明日はこのドレスがいーんじゃねー?」


「………仕方ないなあ。仕方ない!なあ!!」


 ハーヴェイが笑顔で広げているのはオレンジ色で、小さな宝石が散りばめられたドレス。

 あっさり物に釣られて明日も参加決定である。



「シャーリィ、明日もパーティーなのか?一緒にいられなくてつまらないんだぞ!」


「うーん…」


 精霊禁止でもないが、子犬や天使を連れていては目立つと思い留守番をお願いしていたのだ。護身用にファイのペンダントは太腿に巻き付けている。


「そうだ!セレネもスカートの中に…」


「絶対イヤ」


「なんでだぞ!?ファイはいいのに!」


「いや…なんか…ね」


 そんな話をしていたらルシファーが訪ねてきた。

 しまったサラシ!!と慌てるも手遅れ、バーン!と扉が開かれる。


「セレスタン君!私とデートしましょう」


「……はへ?」


「さあコレに着替えてちょうだい」


 ぺいっと渡されたのは庶民向けのワンピース。ルシファーも似たような服で、髪まで黒く染めてお忍びである事が窺える。


「可愛いお顔も隠しちゃ駄目よ。人混みは平気?」


「えっと、貴族でなければ…」


 オッケー外で待ってるわー!と扉が閉まる。茫然自失のセレスタン、正気に戻る頃にはすでに街に降りていた。




「さあ楽しむわよ」


「あの、デートて。僕王太子殿下に喧嘩売りたくないんですが…」


「お財布は気にしないで頂戴!」


「あんらー、話が噛み合いませんね…」


 ルシファーはセレスタンの手を引っ張り、自身の結婚祝賀祭で賑わう街を散策する。

 建物は彩られ、沢山の屋台が並び軽快な音楽が流れる。行き交う人々も笑顔で皇女の輿入れを祝っている。

 そしてセレスタン、実は強引に振り回されるのは嫌いではない。護衛が離れて付いて来ているのも確認して、足取り軽く街を回った。


 が、ルシファーが取り出した財布は紺色で、明らかに男性の物だった。


「ルキウスが快く渡してくれたわ」


「えーーーっ!!?」


「中々入ってるわね…全部使い切ってやるわよ!」


「待ってえーーー!!」


 奪ったの間違いではないだろうか。後で謝ろうと心に決めた。



 ※



 ルシファーは目についた屋台に次々突撃。毒味は?と不安になるも「こんなに大勢の人が食べてるんだからいいの」と気にしていない。


「(まあ僕が毒見役すればいっか)こんなに食べ切れるのですか?」


 2人は両手いっぱいに屋台食を持っている。こんなに食べたら明日のドレスが着れないわね!と笑った。


「今の私はただの町娘よ!そうね…ルーシーでよろしく、エレナ」


「はい…ルーシー様」


「様付けで呼び合う平民がいるのかしら?」


「…ルーヒー…ひゃん…」


 頬を限界まで伸ばされ、ひえ〜と声を漏らした。まるで友達のようなやり取りが、怖いような楽しいような。

 ふと広場の中央から楽しげな歌声が聞こえてきた。誘われるがままに近付くと、特設ステージで少女が歌っている。


「歌のコンテストだわ」


「女性限定、飛び入り参加歓迎!優勝者には金貨10枚…」


「行くわよ!!」


「うっそーーー!!?」


 無理無理ー!!と抵抗虚しく連行された。


「皇女ってバレたらどうするんですかー!」(小声)


「案外国民って、皇族の顔とか知らないモノよ?」


「……ぐぅ」


「でも…本当に嫌ならここで待ってて?私は行って来るわ!」


「…んもう、わたしも行きますっ!」


 舞台に1人で立たせるもんか!と弱気を呑み込み舞台に上がる。美女コンビの登場に、主に若い男性が沸いた。


「ルーシーでーす!」


「エレナ…でーす」


「お次はペアでの参加です!2人はご友人?」


「この子は弟の彼女よ」


「(あだばあぁーーっ!!?)」


「「「えええぇぇーーー!!?」」」


 ルシファーはセレスタンに向かって、てへっ♡と舌を見せながらウインクした。

 ここで違いますっ!!と否定しても照れてると思われるだけ。「そ…うで〜す」と弱々しく拳を突き上げた。それだけで男性の悲嘆の声が響く。


「ところで何歌うんですか?」


「…国歌とか?」


「それは…どうかと…」


 音源がある中で選び、今流行りの恋愛曲を選択。ルシファーはサビしか分からないと言うので、それ以外はセレスタンが頑張る事に。


 舞台でルシファーとがっちり手を繋ぎ、歌詞カードを握り締めてふんーっ!と鼻を鳴らす。

 大勢に注目されて足が竦む。人間不信は大分マシになったが、普通に怖いったら怖い。

 スピーカーからメロディーが流れ始める。心臓がバクバクして呼吸が荒くなるが、とにかくやるっきゃない!と覚悟を決めた。



 だが、ステージから離れた噴水の近く。見覚えのある人物が見えた。汗を流しながら走り、誰かを探すかのように首を左右に振っている。


 あれは、なんで。ここにいるはずのない…グラス。



「(まさか…帰らない僕を探しに来た?わざわざ首都まで…?)」



 涙で視界が滲む。セレスタンは唇を噛み…涙を飛ばす弾ける笑顔を見せた。


「この曲を君に捧げる!!ちゃんと聞きなさいよこんちくしょう!!」


「……セレス!?」


 セレスタンは観衆の中、真っ直ぐグラスだけを見つめる。

 彼は人を掻き分けて向かって来た。一番前まで到達し、息を切らしながら彼女を見上げる。



 ステージの上でマイクを握り、これまで隠していた素顔を曝け出す。

 抑圧されていなければ本来の彼女は、面倒くさがりだが元気いっぱいの女の子なのだ。


 切ないバラードのはずだったのに、完全無視して情熱的に歌い上げる。歌詞も若干変えて「この手を握って」は「手ぇ握れやコラア!!」とか言う始末。

 だが澄んだ歌声、リズム感はバッチリで。アイドルのコンサートのように観客も大盛り上がり。例の光る棒とうちわがあれば完璧だったろう。


 サビが近付き、目を丸くするルシファーに顔を向けた。ハッとマイクを構えて彼女も歌い始める。



''気付けばいつでも目で追っていた とっくに恋していたのよ もう自分に嘘はつけないわ

 いつまでもどこまでも一緒にいて ねえ お婆ちゃんなってもよ

 ずっとずっと…貴方だけを愛してます…''



 サビだけは真面目に歌い上げ、余韻を残して終了。一瞬の静寂の後…わああああっ!!と老若男女が沸いた。



「いえーいどーもどーも!!!逃げようルーシーさん!!」


「あーちょっと!まだ選考が…」


「辞退しまーっす!!」


「セレスー!!?」


 グラスは聞き惚れて、正気に戻る頃にはセレスタンはステージから飛び降りていた。慌てて後を追おうとするも、観客に阻まれて叶わなかった。


「おおおい!兄ちゃんが彼氏だろ!?」

「エレナちゃんずっと見てたもんな!!」

「かあーーーっ!!美人の姉ちゃんに可愛い彼女かよオイイ!!」

「羨ましいじゃねーかオォイ!!」

「色男がよおっおおう!!」


「いででっ!なんだお前ら!?」


 男性陣にもみくちゃにされ、暴力を振るう訳にもいかず押されるグラス。




 逃走した2人は祭りの会場から少し離れた所に腰を下ろした。


「いやあ、はっちゃけるのもいいですね!!」


「(本当はこんな子だったのね…ふふっ)そうでしょう?にしても貴女歌手になれるんじゃない?」


「えー?いやあ…やっぱり僕は、当主として生きるんです」


 街が明るく星は見えないが、セレスタンは上を向いた。つられてルシファーも…暫く無言の時間が続き、遠くの喧騒が大きく聞こえる。



「………好きな人、いるの?」


 ふいにルシファーが訊ねる。セレスタンは視線を落として、悲しげに笑った。


「……僕は多分…2人に恋をしているんです。ふしだらですよね…」


「あら、そんな事ないわ?」


 ぶった斬られて、思わずルシファーと顔を突き合わせた。


「恋は女を美しくするのよ!!私も愛しているのはリンバルだけでも、沢山の殿方に胸をときめかせたわ!」


「く、詳しく!」


 セレスタンは完全に女性として振る舞ってしまっている。どちらも気付いていないけれど。


「まず初恋は叔父様だったわ。ほら、女の子が「大きくなったらパパのお嫁さんになる」って言うアレよ」


「……パパは?」


「…うふふ。血の涙を流していたお父様の顔は忘れられないわ…それが5歳くらいかしら?

 国を守ってくれる騎士にもときめいたし。怜悧な男性も格好いいし。無邪気な少年も、壮年の男性も素敵だわ!」


「おおう…でも、それって恋なのですか?」


「恋の定義なんて人それぞれよ。超真面目な人はときめきすら浮気よ!なんて言うし。

 私は…そうね。リンバル以外の男性とどうにかなりたいと思った事は無いわ。見目麗しい男性は目の保養ってだけよ」


 ルシファーの恋愛観にセレスタンは感心するばかり。すると恋している2人について教えて!と迫られる。


「んと…1人は社会的地位もあって、包容力のある人です。

 少し意地悪だけどとっても優しくて、きっと僕を何よりも大切にしてくれるって思えます。

 ただ最近押し倒されて…キスとかされちゃって、すっごくドキドキした…」


「へえぇ〜…(ルキウス殺す)」


 セレスタンは目を伏せて両手で口元を覆った。


「もう1人は平民で、いつも隣にいてくれる人。

 僕が一番辛い時、誰よりも近くで支えてくれた。僕らは互いに負い目があって…最初は全然甘い感じじゃなかったけど。近頃…まあ、色々ありまして」


「(さっきの彼かしら?グラス…だったわよね)ふむふむ」


「でも僕は、当主になって生涯独身でいると決めたんです」


「じゃあ…どっちも諦めるの?」


「……ルキウス様が以前仰ったんです。「数年以内に貴族社会が大きく変わる。そうなったら僕には、いくつかの選択肢が現れる筈だ」と。

 なんの話か分からなくて…それまで保留にして欲しいって」


「……(ああ、アレね!)成る程。確かにそうね…」


 ルシファーは何か思い至ったようだが教えてくれなかった。まだ不確定な話題だから、らしい。


「両方に思わせぶりな態度とか取ってるの?」


「う…分かりません。僕は情けない事に隙が多いようで…付け込まれて、流されちゃうんです…

 でも…もしも結ばれる事が許されるなら…その時は……」


「……貴女の中では、もう決まっているのね」


「……はい。僕は…」



「あーーーっ!やっと見つけた!!」


「「えっ」」


 突然大きな声が。そちらを振り向くと…

 全力で走って来たのか、頬を上気させて肩で息をするグラスが膝に手を突いている。


「わあっ!?」


「なんで逃げたんだ!!全く…!」


 視界が突然暗くなったと思ったらグラスに抱き締められていた。

 彼は安心したように大きくため息をつく。するとようやくルシファーの存在に気付いたようだ。


「…と、失礼致しました。皇女殿下」


「あらいいのよ、今はルーシーだもの。

 じゃあお迎えも来たし…後は2人で楽しんで。はいコレ」


 ルシファーがスッと右手を顔の高さまで挙げれば、護衛の騎士が姿を現した。彼女の荷物は騎士に預けて、何かを手に握らされる。


「……ルキウス様のお財布!!」


「好きに使って!じゃあお先にね」


 逃げるように騎士を連れて去って行ってしまった。

 残された2人はとにかく状況を整理する。



「日帰りのはずなのにお泊まりだって言うから。連絡もないし…」


「ごめん…急な予定変更で…」


「いや、おれが勝手に来ただけだ」


 グラスは責める事なくただ無事を喜んだ。


「このまま帰って来ねえんじゃねえかって…」


「そんな事しないよ?」


 どうしても不安が拭えなかったらしい。

 なので馬を走らせて来たと。皇宮を訪ねたが、セレスタンは街に行ったとハーヴェイが教えてくれた。


「でも本当に賑やかだな」


「うん。ちょっと遊んで行こうよ」


 祭りの音に導かれ、2人は自然と手を繋ぎながら歩いた。

 買い食いをして道に迷いかけて。ルキウスのお金は畏れ多くて使えなかった。


「お、踊ってる。混ざろうミコト」


「本当に歌や踊りが好きなんだな」


「……!忘れて!!」


「あはは、やだ!!!」


「いやーーーっ!!」


 大通りの広場で、皆思い思いに踊っている。2人はその隅で適当にリズムに合わせて揺れていた。


「さっきの、おれに歌ってくれたんだろ?愛してるとか、抱き締めたいとか」


「ち…ちが…いやっ、あの…!!」


「さあ来い!」


 グラスが大きく手を広げて構える。周囲がダンスに集中しているのを確認して…逡巡した後飛び込んだ。


「わっ!?」


 セレスタンを抱き上げその場を抜ける。何処に行くの!?という質問も無視して彼は歩く。



 着いたのは公園。会場から離れている為、人はまばらでベンチにも座れた。


「セレス」


「は…はい…」


 グラスは彼女の左手を取った。そしてポケットから何かを取り出して…



「………」


「ごめん、安物で。皇太子殿下やジスラン様には敵わねえけど…」


 左手薬指に銀の指輪が輝く。小さな宝石が嵌め込まれたものだ。

 グラスは言葉の出ない彼女の前に座り膝を突く。


「…受け取ってくれ。いつか必ず、もっと大きな宝石を用意するから。それまで、繋ぎというか…」


「ミコト…」


「……帰るぞ!!」


 中腰になった瞬間、セレスタンが首に両腕を回して押し倒した。

 膝の上に乗る形になり、彼女の柔らかい髪が頬を撫でてくすぐったい。


「…ありがと。嬉しい…」


「……うん…」


 彼も腕を伸ばして包み込む。冬の寒さなど忘れてしまう程熱い抱擁を交わす。

 人目も少なからずあるので一旦離れて…目を見つめ合った。



「(ああ…これだ。力強く輝く黒の瞳。まるで奥が見えなくて…吸い込まれそう…)」


「(優しく淡く眩しい金の瞳。儚げかと思いきや太陽のような情熱を隠している…綺麗だ…)」



 グラスの顔が近付く。セレスタンは腰をがっちり掴まれて逃げられず…観念したように目を閉じた。


 直後唇を覆う温もり。すぐに離れてしまい、グラスに引っ張られ立ち上がる。


「…帰るぞ…」


「……ん」


 繋がる手が熱く、鼓動は過去最高潮。

 大通りの喧騒も2人の耳には届かず。

 彼の背中を追いながら、先程の感触を思い出すかのように唇に指を当てて。



 目尻が下がるのを止められず、ニヤけてしまうセレスタンであった。

 グラスも全く同じ顔をしていたのだが。その様子は…




「こいつら…セレネ達の存在を忘れてるぞ」


「あっつぅ〜いキスしてたって広めてしまいましょうか」


「やめなさいガブ…」



 完全に忘れられている精霊達のみ目撃していた。



次回、2年生編終了。予定より長引きました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 恋してる? ただ共依存できそうな相手を探してるだけじゃん
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