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皇国の精霊姫  作者: 雨野
日常編
48/102

アカデミー2年生 19



 セレスタンは寮まで逃げて1日中ベッドで過ごした。

 夜ルキウスによって付けられたキスマークを確認し、姿見の前でへたり込む。その時の感触や昂揚感を思い出しては悶えて転げ回る。

 精霊達は「ついにおかしくなったか…」と憐れみの眼差し。


 キスマーク…鬱血痕は治癒で消せる。服で隠せる部分以外は全て治した。

 全部消さなかったのは、彼を想う気持ちからかもしれない。



 ※※※



 さてテストの結果は。


「あーーー!!!落第は免れたと思ったのに…!名前を書き忘れたなんて!!!」


 ジスランはやらかしていた。

 ブラジリエ伯爵が流石に哀れに思ったのか、勉強は半分にする約束に咽び泣いていたが。

 セレスタンは12位。もうなんの感情も湧いて来なかった。



 休暇に入ってすぐルシファーの輿入れだ。テノーより王太子リンバルが迎えに来る。本日より5日間、皇宮で盛大なパーティーが開かれる。

 セレスタンは現在伯爵邸で準備中。一応月に2回くらいは帰っているのだ。シャルロットが寂しがるのと、お小遣いを貰う為だけに。


「よし…じゃあ行って来るね」


「ああ。待ってるから」


 グラスに送り出され、バジルが操る馬車に家族と乗る。両親と狭い空間で数時間、セレスタンにとっては苦痛以外の何物でもないが…このまま入宮するのだから仕方ない。


「ロッティは今日も美しい。もちろん君も」


「嬉しいですわ、旦那様」


「ありがとうお父様。でもお兄様のほうが素敵だわ」


「ありがと(目が笑ってないよロッティ…)」


 伯爵夫妻にとってセレスタンはいない者扱い。誰にも気付かれないよう、膝の上で拳を握った。



 ※



 馬車が止まり、シャルロットをエスコートして歩く。煌びやかなパーティー会場に案内されスタートだ。

 本日の主役のルシファーとリンバルに挨拶をし、必要な所も回る。

 全て終わった後、セレスタンは顔面蒼白で口元を押さえていた。


「お兄様、大丈夫!?吐きそう?お手洗い行く?」


 口を開いたら本当に出てきそうなので、小さく頷きトイレに行く。

 スッキリしたらバジルに付き添われ、テラスに出て深呼吸。シャルロットは両親と行動しているので大丈夫だろう。

 寒さのせいで誰もおらず、ようやく一息つけた。



「ふぅ〜……ぅい…」


「セレス様、何かお飲み物をお持ちしましょうか?」


「いや…いいから側にいて…お願い、1人にしないで」


「…!かかかしここまりましたっふ」


「君ってたまに変になるよね?」


 バジルはセレスタンの涙目+上目遣い+裾ぎゅっ&懇願攻撃にハートを打ち抜かれている。

 彼は割と女性好きで、気の多い性格だったりするのだ。令嬢にはそんな態度を取れないので、知っている人物は少ない。


 双子と初めて会った時だってそうだ。

 シャルロットの「よかった、目をさましたのね!もう大丈夫、ゆっくりからだを休めてね(お兄さまのごえいゲット!!)」という言葉と笑顔に一目惚れしている。

 次にセレスタンと顔を合わせて。優しい言葉と柔らかい笑顔にまたも惚れた。彼は男…!と言い聞かせて事なきを得たが…彼女の秘密を知って以降、また再熱しているのだ。


 だがグラスのような覚悟も無い、自分は半端な人間だと自覚している。

 なので「可愛い」と悶えつつも、一線は越えてはいけない…と戒める。だが可愛い。



「人が多くて怖かった…でも皇女殿下のお祝いはしたかったし。

 …王太子殿下、素敵な旦那様だよね」


「…はい。本当に仲睦まじく…」


 パーティーホールを見渡せば。ルシファーとリンバルは腕を組み時折互いを見つめ、照れくさそうに笑っている。

 政略結婚であっただろうが、それでも幸せになる夫婦は沢山いる。

 だけど自分にはそんな未来は無い。それが堪らなく悲しかった。


 それだけでなく、ホールには美しく着飾った令嬢が大勢いる。

 可愛い妹も、絶えず子息が声を掛けていて…誰よりも輝いて見えて…



「……セレス様…?」


 セレスタンは涙を流していた。


「…僕もね、綺麗なドレス着てみたい。それに……ごめん、なんでもない」


 これ以上見ていたくないのか、彼女は外を向き天を仰いだ。テラスの柵を握る手は震え、ぐすっと鼻を啜る音がする。


「(本来ならば…ご令嬢としての幸せがあったというのに…!!)」


 バジルはそんな彼女の後ろ姿に心が苦しくなる。自分の上着を羽織らせて、体が冷える前に会場に戻る。



 パーティー終了後、ラサーニュ家は帰宅する。高位貴族や皇室と親しい家は毎日参加だが、彼らはそうではない。はずだった。


「あー待ってスタン。お前は残ってね」


「え…」


 馬車までハーヴェイがやって来て、彼女を抱き上げて下ろしてしまった。


「ちょっとハーヴェイ卿!?お兄様をどうするのよ!」


「皇太子殿下からの命でね。スタンは5日間お泊まりだから」


 彼は一応伯爵に許可を求めるも「好きにしろ」と無関心。内心「言質いただきましたー!」とハイテンションでセレスタンを連れ去ってしまった。



 ※



「はい、この部屋使って」


「ぎえ…超セレブ…」


「(令嬢が何言ってんだ…おもろ)」


 連れられたのはただの客間だろうが、広く天井は高く調度品は全て最高級。暫く落ち着かなくてウロウロして、部屋の隅っこに収まった。


「猫かよ…ふひゅ…っ!」


 顔を背けて肩を震わすハーヴェイ。頬を限界まで膨らませ、彼を両手でべしべし叩くセレスタン。

 ぶすっと怒りながらも、恐る恐る探索を開始した。だがクローゼットを開けると…



「……ハーヴ兄、部屋間違えてない?ドレスがいっぱいなんだけど…」


「正しいぞ?いやー、実はさあ…俺のパートナーやって欲しいんだよね!」


「はいいいぃっ!?」


 ハーヴェイは両手を合わせてウインクする。口が半開きという間抜け面で固まるセレスタンに、かいつまんで説明した。



母親(ババア)がさー、いい加減身を固めろってうるっさいんだよー!!確かに兄貴は全員嫁さん貰ってますけど?俺にもタイミングっつーもんがあんのよ!

 んでさ、今回の結婚披露パーティーの間だけ女装してもらっていいかな?彼女として紹介すっから!」


「どうしてそうなっちゃったの!ハーヴ兄なら喜んでお相手したい令嬢いっぱいいるでしょ!?」


「え、やだ。もう決定事項だし、ルキウス殿下もオッケー出してるし」


「(僕の意思は?)」


 呆れて物も言えないが…そっとドレスを撫でてみる。上質な生地でとても肌触りがいい。だがここで疑問が。



「………これ…誰のドレスですか…?」


「…………」


 ハーヴェイは無言で素敵な笑顔。

 わざわざ買ったの…!?と慄くセレスタンを見て楽しんでいるのだ。


「…ふはっ!悪い悪い、それルシファー殿下がサイズアウトしたやつだから気にすんな」


「よかったあ…!」


 ほっと胸を撫で下ろす…のも束の間。皇女のお下がりって…畏れ多いよー!と半泣きになる。

 そんなやり取りの中扉がノックされ、ルキウスが姿を現した。

 セレスタンは以前の出来事を思い出し…頬を赤らめて俯いた。


「…ハーヴェイ卿、少し出てもらえるか」


「かしこまりました。では外で待機しております」


 ハーヴェイはチラッとセレスタンに目を向けた後出て行く。

 セレスタンは2人っきりが気まずくて、ルキウスの顔をまともに見れなかった。



「…その、すまなかった。君の意見も聞かず…」


「あ…や、えっと…

 驚きましたが…僕の立場はどうなるのでしょう…?」


「ヴィヴィエ家が協力者だ。君は公爵家の遠縁で、田舎から出て来た令嬢という設定」


 彼は膝を突きセレスタンの手を取った。


「もちろん辛かったらやめていい。君を苦しめたくないんだ。ただ…ドレス姿の君を、私が見たかったんだ…」


「……!」


「パーティー中は必ずハーヴェイ卿が側にいる。離れるとしても、その間私かルクトル、ギュスターヴ卿…信頼出来る者が付き添う。

 それで…叶うならば。一曲でいい、私と踊ってくれないか?」


 まるでお姫様扱い。それだけで嬉しくて、気付けば「喜んで」と返事をしていた。



 彼女の支度はルキウスが信頼するメイドがする。絶対に秘密を漏らさないので、女性として楽しんで欲しいと。


「ありがとうございます。でもこの顔は…」


「髪はウイッグ、目の色を変えてメイクも施せば他人には気付かれまい。ラサーニュ嬢に似てると思われても、セレスタンだとは考えもしないだろう」


「……はい。今回は、ルキウス様の提案ですか…?」


「…………」




 それは数ヶ月前。パーティーの打ち合わせ、警備体制についての会議終了後。



『あーあー。俺パートナーいないんだよなー。

 寂しいなー、いっそスタンがドレス着てくんねーかなー。絶対可愛いのになー、見てみたいなー!』


『『『………』』』


『ハーヴェイ卿…君、もしかして知ってる…?』


『ん!!?なんすか副団長!?俺は単に、スタンにドレス似合いそうだなって思っただけっすよお!?』


『え、何、なんの話?』



 超絶デカい一人言をするハーヴェイ。

 戸惑うギュスターヴ。

 確かに似合うかもなー、と考えるランドール。

 即座にセレスタンのドレス姿を妄想するルキウス。

 彼女に似合いそうなドレス、宝石、メイク…手配について速攻で組み立てるプリスカ。



 こうしてセレスタンの女装?作戦が始動した。




「まあ…そんな感じだ。ゆっくりしてくれ」


 ルキウスはそれだけ言って逃げた。

 流石に皇室の晩餐会に混ざる勇気はなく、客間に用意してもらった。

 近衛騎士達とプリスカ、ランドールと楽しく食事。パーティー楽しみだな〜と胸を弾ませるのであった。



 ※※※



「おはようございます、ラサーニュ令嬢」


「お…おはようございます…」


「お目覚めでございましたか、では朝食の準備をしてよろしいでしょうか?」


「お願いします…」


 5人のメイド軍団がセレスタンの部屋を訪ねて来た。素早い動きで朝食の準備、片付け。セレスタンは用意されるがままだった。



「では準備に取り掛かります」


「まだ8時ですよ!?パーティーは昼過ぎからじゃ」


「ふふ、レディの支度は時間が掛かるのですよ」


 一番若いメイドが指を頬に当てながら言った。メイド軍団はじりじりとにじり寄り…


「ひ…ひいぃ…!」


「素材は最高級、腕が鳴りますわ…!」


 舌舐めずりでもしそうな凶悪顔でセレスタンを囲み。


「まずは入浴からですわ!!」


「ぎええええ〜〜〜!……気持ちえい〜…」


 切り替え早いな、とメイド達は思った。

 裸は恥ずかしい…!なんて隠す間も無く服は剥ぎ取られ、いい匂いのするお湯に運ばれる。全身をマッサージされながらゆっくり浸かれば、うへえ〜…ぃとオッサンのような声を漏らした。


 何度も入浴をして揉まれて擦られて絞られて。支度が終わる頃にはぐったりしていた。


「ひい…!令嬢は大変だあ…」


「でも素敵です…!主役は皇女殿下ご夫妻ですが、輝かしさでは引けを取りませんわ!」


 若いメイドに皆賛同する。

 え…そんなに?と思い鏡を見ると…



 ※



「はあ…やはり私のパートナーになってもらいたかった…」


「兄上は無理ですよ。皆を混乱させてしまいます」


 パーティー直前、トリオとハーヴェイはセレスタンを待っていた。



「お…お待たせ致しました…」


「スタン!待って…まし…た…」



 開かれた扉から姿を現したのは。


「…えへへ、どうですか…?」


「「「「………」」」」



 黒いウイッグを付けて紫の瞳。派手になりすぎない程度に大きな目はパッチリメイクで強調、血色の良い頬と唇。

 刻印と胸の谷間が見えないよう首元まで隠している、水色のグラデーションが目を惹くドレス。幾重もの薄いレースは上品で、腰元のリボンは幼さが垣間見える。

 本人の希望によりコルセットは緩めだが、それなりに豊満な胸のお陰でバランスが良く見える。

「彼女自身が宝石だ」というメイドの判断により、アクセサリーはダイヤのイヤリングとトパーズのブレスレットのみ。髪飾りには大きなサファイヤが使用されている。


 極めつけは…不安そうな、でもどこか誇らしげな微笑み。男達は目が離せず、ルキウスは三度惚れた。が。



「スタン…俺のお嫁さんになって…成人まで待つから…」


「へ」


「させるかーーー!!!」


 ハーヴェイがフラフラと近寄り、彼女の前に膝を突いて求婚してしまった。



 ※



「…視線を感じるような」


「そりゃスタンが超絶美少女だからな。あのご令嬢は何処の家だ!?ってなってんだよ」


「褒めすぎだよハーヴ兄。…ありがと、嬉しい」


「ん"ん"…っ!!」


 パーティー中セレスタンは、ハーヴェイの腕を離さない。彼はもうそれだけで昇天寸前、生きてて良かった…と心の涙を流す。


 誰もが突然現れた美少女を遠巻きに観察する。声を掛けないのは…ハーヴェイを始めとした騎士達が睨んでいるからである。


「エレナさん!」


「あ、ルネさん!昨日は挨拶出来なくてごめんね。すぐに僕だって分かった?」


「もちろんですわ。本当に綺麗…うっとりしてしまいます…」


「褒めすぎぃ〜…うひぃ」


 ルネもベタ褒め、身をくねらせて喜ぶ。ふと彼女の後ろにいる男女が目に入った。


「あ…お初にお目にかかります!わたしはエレナ・カリエ。ルネさんと親しくさせていただいております」


「初めまして。こちらこそ、娘からよく聞いている。学園で素敵な友人が出来たとはしゃいでいてね」


「もう、お父様ったら…」


 それはヴィヴィエ公爵夫妻であった。夫人は皇后と姉妹であり、どことなく雰囲気が似ている。

 公爵は穏やかなおじさんといった印象で、セレスタンは少し安心した。


「本名はセレスタン君というのだろう?」


「はい…ご協力感謝致します」


「いいのよ。でもとっても綺麗…女性として羨ましいわ」


「夫人のお美しさには敵いません」


「まあ、お上手ね」


 うふふと笑う夫人。親子仲も良好なようで…セレスタンは少しだけ、胸を痛めた。



「おっとダンスだな。閣下、夫人、ご令嬢。俺達は失礼させて頂きます」


 するとハーヴェイが流れる動きで離脱してくれた。ルネにも「またね」と挨拶して別れる。

 公爵夫妻と話すのは楽しかったけれど、やはり負担になっているのを察してくれたのだろう。



 緩やかな曲に合わせて踊る2人。ハーヴェイは「上手いじゃん」と驚いた。

 セレスタンは笑って誤魔化したが。いつもシャルロットのダンスを観察して、部屋で1人練習していた。

 こうなる事を予期していた訳ではないが…結果的には大いに役立っている。


「スタンはカーテシーも優雅だし、仕草も完璧だな」


「ふふ。伊達にロッティを見てきてないよ。…ただの猿真似だよ」


 自分で言って悲しくなる。楽しいダンスの時間なのに表情を曇らせてしまった。

 ハーヴェイは「…よし!」と気合を入れて。彼女の脇の下に手を入れて持ち上げた。


「ひゃああっ!?」


「ほい着陸」


 2回転半後ストンと下ろし、ハーヴェイはポーズを決める。つられてセレスタンもシュピッと腕を伸ばし、周囲から歓声が上がった。


「アドリブって面白えだろ?」


「予告してほしかったあ…」


 心臓がバクバクと激しく音を鳴らし、覚束ない足取りで歩く。それは恐怖ではなく、高揚感から来るものだった。

 配膳からジュースをもらい、2人は一息つく。



「俺な、最初剣術始めたのは兄貴達とババア…母上の猿真似だった。

 テーヌ家は由緒正しい騎士の家系だったから…将来は騎士になるって自然と思ってた」


 ハーヴェイは壁に寄り掛かりそう言った。彼が自分の話をする事は少ないので、セレスタンも隣に並んで聞き入った。


「んでも…アカデミーに入った頃かな。ふと思ったんだよ、「なんで俺騎士になるの?」って。

 無い頭を捻って考えても「そういう家系だから」っつー答えしか出なかった。なんか…誰かに自分の人生を決められてる気がしてならなかったんだ」



 彼は珍しく真面目な顔で語る。

 他に生きる道は無いのか。剣は好きだけど、それすらも刷り込まれただけの気がしてしまう。

 こんな考えは母を失望させてしまうのではないか。そう危惧して誰にも言えず、惰性で鍛錬だけは続けていた。


「惰性…」


「おう。

 …学生の頃、魔物の討伐に同行した事があった。まー俺ってば端っこでチョロチョロしてただけで。

 でも…そのお陰で4歳くらいの女の子が現場に蹲ってんのを見つけた。後で聞いた話じゃ、お祭りやってるって思って見に来たんだと…ある意味大物だわな。

 誰も気付いてなくて、騎士に踏んづけられてもおかしくねえ場所にいた。こう、窪地にすっぽり嵌まってた感じ?

 ただ魔物が火を噴いて、騎士達は避けたけど…運悪くその子目掛けて飛んでった。俺は無我夢中で飛び出して、その子の上に覆い被さった」



 死を覚悟した。助かったのは彼の兄が弟の行動に、咄嗟に魔術障壁を張ったからだ。

 そのお陰で多少の火傷で済み、犠牲者は出さずに任を終えた。



「いやー、家族や騎士達から「良くやったクソ野郎!!無茶すんな馬鹿野郎!!大したもんだアホンダラ!!」ってど突かれて褒められたぜ」


「褒め…てるのかな?」


「はは、細かいこたいいんだよ。

 んでな、女の子は泣きじゃくってたんだけど…落ち着いた頃。俺の裾をぎゅーっと掴んで「あんがと、おにーたん」ってにぱって笑った。

 その笑顔を見て…俺が騎士を目指す理由が分かったんだ。だから…」


 ハーヴェイは優しい目でセレスタンを見下ろし、頭をポンっと叩いた。


「笑ってくれよ。俺はな、誰かの笑顔が好きだ。命を懸けて守りたい。クサいけど、お前に憂い顔は似合わねえぜっ!」


「……うん!」


「つか猿が人間に劣ってるなんて決めつけんなよっ。俺ぁ猿以下じゃねえかっつー人間腐るほど見てきたからな。お猿様に謝罪せい!」


「…あははっ!ほんとだね、ごめんねお猿様」


 揃って声を上げて笑う。

 ハーヴェイはその後、剣だけでなく魔術の腕も磨いた。身体強化や障壁を集中的に、兄のように咄嗟に発動できるようになるまで。

 そうして現在努力が実り、近衛騎士団に所属しているのだ。



「そんで母上がー…」


「ほお?ようやくババア呼びは卒業か?」


「「へっ?」」


 ハーヴェイ家族の話で盛り上がっていたら、どこからか女性の声が。ハーヴェイがゆっくりと振り向くと…


「げええっ!?母う、ババアっ!!?」


「言い直すなクソガキ!!」


 そこには40代程で、細身の女性が立っていた。ドレスではなく騎士隊服で、美しいが格好良いという形容詞がピッタリだ。その後ろには4人の若い男性が。


「なんでここにいんだよっ!!」


「いや…ご家族が来るから僕にドレス着せたんじゃ…」


「……そうだった!!」


 それはセレスタンにドレスを着せる言い訳に過ぎない為、完全に忘れていたようだ。

 テーヌ家はにこやかに近付いて来た。セレスタンが挨拶する間もなく、次々に話し掛けられる。


「「久しぶり、ハーヴ。初めましてお嬢さん」」


 長男次男は双子らしく、揃って挨拶してきた。二卵性なのか、そっくりでは無い。


「すっげー可愛いじゃん!ホントにこの弟でいいの?」


 三男はハーヴェイ同様軟派なようだ。


「やっとハーヴにも素敵なお嬢さんが…」


 ハンカチで顔を覆い感極まっているのが四男。セレスタンは名前を覚えるのが大変になってきた。


「こらお前達、困らせるんじゃないよ」


 息子達を叱責するのがハーヴェイの母。彼女は息子達には厳つい顔を見せるが、セレスタンに対しては微笑んでくれる。


「初めまして、可憐なお嬢さん。私はハリエット・テーヌ。以後お見知りおきを」


「初めまして、エレナ・カリエと申します!ハーヴェイ卿とは親しくさせていただき……」


「「?」」


 途中で切ってしまった。何故かと言うと…


「(で…デカっ!!?お兄さん達もお母様もデケエ!!)」


 ハーヴェイ含め、テーヌ家は全員180cmを超える長身だった。特に三男四男は190も超えていそうで、6人揃って150cmの彼女を前後左右から見下ろしている。

 圧された彼女はプルプル震えてハーヴェイの服をぎゅううっと掴む。まるで大型犬に囲まれた子猫のようなのであった。



「お母様50代なの!?40、いや30代って言われても納得するよ!?」「照れるねえ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 大型犬に囲まれた子猫、その通りの感じですね。ハーヴェイは縋り付かれてまんざらでない内心うれしい感情でいっぱいでしょうね。
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