アカデミー2年生 18
「ただいまー」
金曜日、教会に帰って来たセレスタン。
「お帰りなさいお姉様、クッキー焼いてみました!」
「美味しそうだね、上手になったねえ」
あれからナディアはセレスタンにべったりになった。頭を撫でて褒めてもらい上機嫌だ。
「ぐ…!セレス様、おれはケーキ作ってみた!」
「デカいよ!?あはは、皆で食べよっか」
対抗するグラスは、直径20cmのチーズケーキを手に持っている。最近の彼らは、セレスタンを巡って火花を散らしていた。
グラスは自分も撫でてもらおうと頭を下げた。セレスタンは目を泳がせてから控えめに撫でる。
これで対等だな、と言わんばかりのドヤ顔。ナディアはチーズケーキをやけ食いする。
「お姉様♡一緒にお風呂入りましょう」
「いいよー(甘えん坊さんだなあ)」
「な…っ!」
セレスタンの腕を取り、こっそり勝ち誇った顔を見せるナディア。
「おれも一緒に入る!!ナディアは出て行け!」
「いい…ワケあるかあっ!!」
セレスタンは真っ赤になり、グラスの顔面にセレネを投げつけた。
彼女らが風呂に行った後、ロビンは遠い目でグラスの肩を叩く。
「アニキー、流石に分が悪いよ」
「悔しい…!」
「セレネも追い出されたちゃったぞ…」
しかもその後、一緒に寝ましょうお姉様!と2人は寝室に消えた。グラスは涙で枕を濡らし…一晩考え、別の方向から攻める事にした。
※
「おはよう。いい匂い…」
「おはようございます、セレス様」
「ぐぎぎ…!」
グラスは朝食の準備を完璧に済ませ、悔しそうな顔のナディアに「はんっ」と笑ってみせた。
「すごい、もう漢語マスターしたの!?」
「読み書きだけな」
「ひえ…僕はカンジとかヒラガナ、カタカナってこんがらがるのに…」
セレスタンの部屋、机に並んで勉強をする。
漢語の本を読みたい彼女に訳してあげたり。たまに手が触れると明らかに動揺した。
「…ここここれ、なんて読むの?」
「ん?ここか…「箏の食文化」だな。向こうの主食はコメっつー穀物で…」
「へぇ…(集中できん…!)」
グラスは互いの小指を絡ませる。しかも頬が触れそうな程顔が近付き、逃げられればその分迫る。
セレスタンはもっとベタベタされれば抗議もするが、この程度では自意識過剰では?と考え気付かないフリ。
死ぬ程照れくさいのだが…次第に彼の声、体温、香りに安らぎを覚え。無意識に机の上にある彼の手を握った。
「……あ…」
「………」
「ひいやぁっ!!?」
グラスは重ねられた手を取り、顔の前まで持って来て手のひらにキスをした。伏せ目がちな彼の黒い瞳にセレスタンは心臓を跳ねさせた。
リップ音を立てながら何度も口付けられ、羞恥から魂が半分抜けている。
拒絶されていないのを確認したグラスは、次に手首に。袖を捲って二の腕に口付ける。熱を孕んだ視線で見上げれば、涙目で小刻みに震えている愛しのお嬢様。
そこへナディアが突撃してきた。
「お姉様っ!わたくしとロビンは清掃活動に行って参ります、ロランをお願いします!」
「ひゃああっ!!いってらっしゃい!!」
「…チッ(まあ今はこれ以上する気無いし)」
近頃はこの2人と、護衛の天使のみで清掃に行く。ナディアはグラスに睨みを利かせてから、ロビンを引き摺り教会を飛び出した。
「じゃあ勉強はここまでね!ロランに絵本読んであげなきゃ!」
助かったー!と安堵するセレスタン、グラスも渋々離れる。
ロランにミルクをあげて、オムツを変えて。寝かしつけて…膝に乗せるセレスタンを見て、何やら慈愛の目をしている。
「…どうしたの?」
「なんか…おれらの子供みたいだなって思って」
「へ…」
「おれ洗濯取り込んでくる。後よろしく」
彼は目を丸くするセレスタンを放置して、鼻歌を歌いながら部屋を出た。
「こども…っ!!?」
つまり僕らは夫婦。と激しく鼓動する胸に手を当てる。深い意味は無い、勘違いするな!!と言い聞かせて心を落ち着かせた。
「お姉様!今日はゴミを5トンは拾いました!」
「すっごーい!!」
「「いやいやいや」」
5キロの間違いです、と修正するロビン。なんにせよナディアが元気になり、褒めて!と言わんばかりの弾ける笑顔で報告する姿が可愛くて。ぎゅっと抱き締めて頭を撫でるのであった。
※
「おーい、ロラン風呂上がりました」
「はーい…なんで裸なのっ!!?」
「風呂の途中だからですかね」
ロランは男2人が交代制で風呂に入れる。今日はグラスだったのだが、腰にタオルを巻いているだけという格好で出て来た。
「おれはもうちょい入るので、世話お願いします」
「分かったから、早く戻って!!」
ロランは呆れているロビンに渡し、セレスタンは手で目を覆う。だがグラスの裸体を指の隙間から見ていた。
「(う…以前のガリガリと違って、肉も付いた身体…腹筋割れてる…水も滴るなんとやら…)」
「ん?セレス様…そんなに興味ありますか?」
「ぴょえっっっ!!?」
グラスはニヤッとしてみせた。後退るセレスタンを壁に追い詰め、耳元で囁く。
「おれの裸なんて…以前見ただろう?タオルの下までな…」
「な…なんで、知ってるの…!?」
「カマかけただけ。やっぱそうなんだ?」
「ひ…うぎゃああぁ〜〜〜!!!」
彼の胸が触れそうな程近く…限界を超えて絶叫しながら談話室を飛び出した。グラスはスキップしながら風呂に戻り、上がった後ナディアに呼び出された。
「ちょっと!!!何セクハラしてるんですか!!」
「そっちこそ、同性を武器にしてんだろーが」
「ふーんだ!わたくしはお姉様と偽装結婚して、お支えする事も出来るんですよ?…今は平民だけど…」
「必要無い。彼女は伯爵にならない…させない」
「え…」
ナディアも彼女の事情を全て聞かされている。なのでいずれ男のまま伯爵になると思っていた。
というより、それがセレスタンの願いだと思っていた。
「違う。領民の幸せは願っているが…自分よりもっと相応しい統治者がいれば、そっちに任せたいと思っている。彼女の願いはもっとささやかなものだ」
「…それは、どんな…?」
「…自分で考えろ。とにかく、本気で手を出すつもりは無いから安心しろ。閨事は想いが通じ合って婚姻を結んでからだ」
「ね、や…?」
ナディアは首を傾げる。
廊下を歩きながら、グラスは窓の外を見つめた。
「……もしもこの教会で…ずっと…
いや、それは無いな」
彼の表情は暗闇に紛れて見えなかった。
※※※
「お姉様。ねやごとってどういう意味ですか?」
「ブーーーっっ!!?」
「あ…やべっ」
翌朝、コーヒーを噴き出すセレスタン。逃げ出したグラスの姿に全てを察して…
「子供になんて事言うのーーー!!!ばかっ!ばかーーー!!」
「ひえー、こえー、やべー」
朝っぱらから追いかけっこが始まった。
その後現れたバジルにナディアは泣きついた。
事情を聞き憤慨した彼は収穫作業をしているグラスを引っ張り、教会の壁に押し付けた。
「グラス!!お前セレス様にセクハラしてるって!?」
「…言っとくが、遊びじゃないからな」
「……!」
グラスが声を潜めるのでつられて小声になる。
「…貴族と平民は結ばれない」
「いくらでも方法はあんだろが。聞き齧った程度だが…神官になって功績を挙げれば、准貴族の地位も貰えるとか」
「そんな…夢物語だ…」
バジルを押し退け、グラスは青空を見上げる。
「おれはセレス様が好きだ、愛してる。
…おれの罪が消える訳では無いけど。それでも…彼女の全てが欲しい。受け入れて欲しい…」
その声色から本気だと伝わってくる。バジルは無言で拳を握り…その場を離れた。
角を曲がってすぐの窓の向こう、教会の中に見覚えのある赤髪が見える。まさか?と思い覗き込むと。
「!!バ…バジ…」
「お嬢様…!?」
廊下に座り込み、頬を染めているセレスタンがいた。彼と目が合うと、胸を押さえながら逸らす。
「……聞いて…いましたか…」
「………」
眉を下げて目を伏せ、セレスタンは小さく頷いた。
「「………」」
どちらもそれ以上口を開かず、蒸し返す事もしなかった。
午後はシャルロットとジスランも交えて冬季の試験勉強をする。
この頃にはナディアを紹介する事も出来た。シェフィールドの令嬢だと言うと、シャルロットは難しい顔をした。しかし他言無用と言われて深く頷く。
「…ロッティ。前から思ってたがグラス…セレスに距離が近くないか…!?」
「全面的に同意するけど、あんた気にしてる場合じゃないわよ。また落第点取りたいの?」
「嫌だ!今度こそ休暇を一緒に過ごすんだ…!!」
ジスランはセレスタン絡みであれば超人的な勘の良さを発揮するので、マークシート方式であれば満点を狙えるかもしれない。
だが実際そんな事ないので、必死に教科書に齧り付くのである。
それも愛しの君の側に立つ男が気になって仕方がなく、この日は全然捗らなかったのだが。
終わった後は皆一緒に学園へ戻る。
大通りまで出て来て馬車を待つが…グラスがスッと隣に立った。
セレスタンはそれだけで肩を跳ねさせたのだが、スルッと指を絡ませて手を繋がれた。
「「………」」
顔に熱が集中し胸が高鳴る。この感情はなんなんだろう…と考えて。
ルキウスに対しても同じようにドキドキした事を思い出し。まさか…!!?と何かが芽生え始めた。
「…!?(な、なんで手を繋いで…!?くっそう、俺も!)」
「!!?」
だが反対側の手をジスランに繋がれて混乱の極みに陥る。
頭の上では2人が目を血走らせて睨み合い。「タスケテ…」と超小さく呟くも、馬車が来るまでその状態で過ごす事になるのだった。
※※※
とある日の放課後セレスタンは、寮でランドール勉強を見てもらっていた。復学してからはほぼ毎日、兄姉の誰かに連れられ街で遊ぶ。
プリスカは観劇や服屋。ギュスターヴには屋敷に招待してもらったり。ハーヴェイにはあちこち連れ回され。ランドールとはカフェ等でゆっくり過ごす事が多い。
「その…ランディ兄」
気まずそうに言い淀む姿を見て、首を傾げるランドール。どうした?と促せば、セレスタンは手を止めて続けた。
「……えと。男性が…キ、キスをする理由ってなんだと思いますか?」
「ボひゅっ」
明後日の方向から飛んできた問いに咽せた。
キスしたい令嬢でもいるのか?と聞けばキッパリ違うと言う。
「…誰かにされた?」
「ち…!違います友達の話です!付き合ってる訳じゃないけど気になる男性から口付けられたって相談されたんですっ!!」(超早口)
「(つまり自分の話か。可愛い子だとは思っていたが、ルキウス以外の男にもモテるとは…ルキウスじゃないよな?)
えーと…キスって場所によって意味が違うらしいんだよな。どこにされたか分かるか?」
「手のひら、手首、腕…ですね」
「うーん?んー…分からん。まあ、恋心はあると思うぞ」
「へ…へえ〜…」
目を泳がせながら一心不乱にペンを走らせる。
やっぱあれは聞き間違いじゃなかった…グラスは本当に僕の事を…!と思い出しては頭が茹だる。
ランドールは可愛い弟分が変な男に引っかかっていないか心配になったが、この日は暗くなる前にお開きになった。
「……ん?」
「どうしたんですか?」
「んや、ちっと野暮用。おやすみ」
「おやすみなさい…?」
門の所で別れたのだが、ランドールは何かを見つけたようだ。何やら心苦しそうな表情になり、早足でそちらに向かう。
美形の憂い顔は絵になるな〜と感心しながら寮に戻る。
「……っ!?ナハト君!?」
「お久しぶりです、先生。いや──」
※※※
「ハア……そうだルキウス。セレスな、誰か男にキスされたんだっ」
「詳しく」
言い切る前にルキウスはランドールの胸ぐらを掴んでいた。落ち着け変態皇子!と言われようとも止まらない。
昨日の会話をそのまま伝えるも、ルキウスも首を傾げた。しかし意味はあるはず…と深読みして…
「ほっほ〜ん?そんで近衛騎士イチのモテ男に相談に来たんすねっ!」
恋愛経験豊富そうなハーヴェイを訪ねた。
少々イラッとしたが、セレスタンという名前は出さずに相談した。するとハーヴェイは若干引き攣った笑みを見せる。
「んー…相手が意味を知っててやったかは分かりませんけど…」
「「いいから」」
皇太子と宰相子息の勢いに圧倒され、顎に指を添えながら説明した。
「一般的に手のひらへのキスは『懇願』、手首は『好意・欲望』、腕は『強い恋慕』。
まー要するに『愛してる、貴女の全てが欲しい。自分を愛して欲しい』って言って…ひええっ!!?」
「……ゆる…さん…!!相手は…誰だぁ…!」
ルキウスは全身で怒りを露わにし、かつてない凶悪な顔。文字通り殺人鬼顔負けで、気の弱い者なら心臓麻痺でも起こしてしまいそう。
屈強な騎士達すらもズザザザザ!!と距離を置く。なんとかランドールに宥められるも、完全には落ち着かず…
「「…………」」
「誰だ…許さん…負けん…」
翌日ルキウスは、弟達と共に登校していた。昨夜からブツブツと様子のおかしい長兄に、弟達はそっと身を寄せ合いガクブルしている。
学園に着けば7時頃。始業には1時間程早いが、大体この時間には来ている。
ルキウスは寮に向かって大股で進む。弟達は顔を見合わせ、そろっと後を追った。最近のルシアンは家族に対してやや砕けており、ノリも良くなっている。
「……む?」
「ヘリオス〜!いっくぞー!!」
「みゃいっ!!」
探すまでもなく、件の彼女はグラウンドにいた。ヘリオスは危険性が無いと判断され、早朝深夜以外も遊ばせていいと許可が下りたのだ。これにより無駄に早起きする必要は無く、朝食後ヘリオスの運動をしている。
「次は競走だよ!!あそこの木まで先に着いたほうが勝ち!」
「ふん〜」
「すでに勝ち誇ってる…!見てろよう…!」
彼女は自身に身体強化の魔術を掛ける。
「へえ…魔法陣無しで発動してる、相当練習したんですねぇ」
「努力家だからな」
「努力…」
皇子達は物陰に身を潜ませ覗きをしている。
「よーい…ドンっ!って速ーーー!!?」
「みゃっはっはっはっは!!」
まずスタートからして出遅れた。ヘリオスのスタート地点は地面が抉れており、どれ程の衝撃だったかが伝わる。
風のように疾るしなやかな黒い身体。一瞬で木まで到達、踵を返しセレスタンの下へ。
「わっ!!うへえ、あひゃっ!なははは!」
顔をペロペロ舐められ、擽ったさから身を捩らせて笑い転げる。
少女と犬はその後取っ組み合いを始め、砂まみれになりながらも弾んだ声を上げる。
ルキウスはその姿に、先程までの怒りも忘れて見惚れていた。ルクトルはやれやれだぜと思いながら反対側にいる弟に目を向けると。
「………」
なんと同じように、頬を染めて蕩けた目をしているではないか。
「(え。え…え。まさか…?いや、この子は知らないはず。いやでも…?)」
自分の中に浮かんだ疑問をどう消化すべきか1人悩む。
「……でえっ!!?」
「で?」
兄の叫びに思考が戻ってきた。何事かと視線の先を追うと。
「ぎゃあ!帰るよヘリオス!!」
「みゃーい」
汗をかきシャツ1枚になっていた彼女だが、走って転んでと動いているうちにサラシが解けてしまったのだ。
ルキウスは静止を振り切り上着を脱ぎながら飛び出す。それを彼女の頭から被せて、「え、誰!?」「私だ!」「ルキウス様!?」という会話をしながら横抱きにして走った。
寮に…いや目撃者は少ないほうがいい。皇太子の自分は目立つと考え、ルクトルに鍵を借りて生徒会室に連れ込んだ。
「誰にも見られていないな…」
「あ…ありがとうございます、ルキウス様。その…何故学園に」
「………」
「…ぎええええっ!!?」
セレスタンをソファーに降ろし、ルキウスは真正面から抱き締める。流れるように彼女を寝かせて覆い被さった。
「なななな!?」
パニックになるセレスタンだが、視線が交錯した途端大人しくなる。
彼の力強い瞳に心を奪われたかのように、思考が凍結してしまったのだ。
「……っ!」
耳に何度も口付けられ軽く噛まれ、頭が沸騰したかのように熱い。羞恥から涙を流せば舐め取られ、瞼や目尻に唇が落とされる。
ささやかな抵抗など意に介さず、今度は下に移動してきた。喉やら首筋に舌を這わせて吸い付き、音を立てながらキスをする。
「駄目、です…!痕が残っ、ちゃう」
「そうしているんだ」
「あ…ひやぁっ!!?」
襟を広げられて鎖骨にも。これ以上は本当にマズい!と危惧したセレスタンは叫ぼうか迷った。
だがそれ以上は何をされる事もなく、行為をやめて彼女を腕の中に収めた。互いの鼓動と時計の音がやたらと響く。
ルキウスの体温と重さを全身で感じ…セレスタンは安らぎを覚え始めた。
「(……本当にこの人は…僕なんかの事を…相変わらず手は早いけど…)」
なんかもう、いいかな…と気持ちが傾く。後継だとか領民だとか全部誰かに丸投げして…彼の愛を受け入れたい。
まだ他人の視線は怖いけれど、訓練すれば治るかもしれない。そうすればいずれ皇后になっても…
今彼の大きな背中に手を回したらどうなるだろうか。ごくりと喉を鳴らし、そっと腕を動かして…
『おれはセレス様が好きだ、愛してる。
…おれの罪が消える訳では無いけど。それでも…彼女の全てが欲しい。受け入れて欲しい…』
グラスの告白を思い出し動きを止めた。
直接言われた訳ではないのだが。あの時の声が耳に残って消えない。
「…セレスタン?」
「駄目です、ルキウス様」
両手でグッと彼の胸を押す。ルキウスは大人しく体を離した。
「僕達は…そういう関係ではありません。
助けてくださってありがとうございました。それでは…」
胸を庇いながら立ち上がるも、ソファーに突いた腕を掴まれ進めなくなってしまった。
「…すまない、気持ちが逸ってしまった。だが…どうしてそんな顔で拒絶する?」
「………!」
ルキウスには嫌がっているようには見えなかった…先程までは。
セレスタンは眉間に皺を寄せて唇を震わせ、腕を振り解き駆け出した。
扉の前にはルクトルとヘリオスがいた。バアンっ!!という音と同時にセレスタンが弾丸スピードで飛び出す。
ヘリオスは後を追い、ルクトルは呆然とした。生徒会室を覗けば、ソファーでうつ伏せに倒れる兄が。
「……やって…しまった…」
「……まさか、手を出したんですか…?」
「………多分アウト…」
真面目な弟は頭を抱えた。
次第に生徒達が登校して来る。喧騒に混じって聞き覚えのある声がいくつか。
「……お兄様あああーーー!!どこー!!」
「セレス!セレスー!!」
「セレスタン様あー!!」
行方不明のセレスタンを心配して探す声。
あっちでもこっちでも…どうしたら…と。ひとまず部外者の兄を引き摺って追い出すルクトルであった。
漢語はまんま日本語。グランツ語はアルファベットのようないくつかの文字の組み合わせ、的なニュアンスでどうぞ。




