アカデミー2年生 07
何も言われなかったんだからバレてないよね!?と祈りながらセレスタンは走る。
「げほ…っ、はひゅ、ふへぇ…ごっふ。
話は…聞き、ました。妹は、そのまま、仕事に…戻りました、ので」
生徒会室からこの現場まで、休みつつ走り約5分。しかも階段の往復もある為相当疲労する。
息も絶え絶えだが、なんとか話し合いを終わらせた。
「元気でね…!絶対迎えに行くからー!」
「みゃあああんっ!」
「はははっ、任せなさい!!!」
テランス達が犬を連れて出て行った。今生の別れのような姿に、クレールは思わずもらい泣き。そんな彼女も仕事に戻り…クザンと2人残される。
「ふう…では先生…っ!?」
突然腕を掴まれ袖を捲られた。引っ込めようにもびくともしない、その細い腕を見たクザンは眉を顰める。
「(これは男の腕ではない。しかし適度に鍛えられてはいる…どういう事だ)」
「なんで、しょうか…?」
「…寮監には儂が話を通す。お前も今日は戻りなさい」
「はい。よろしくお願いします…」
戸惑いながらも、解放されて好都合。またまたまたダッシュ。
「はひー…休んでる暇がないよう。この制服もどうするか…」
ルネの制服だったものは真っ黒に汚れている。
洗浄魔術で色は落ちたが…ヨレヨレになってしまった。後で謝ろう…と思いながら袖を通す。
「カラコンよーし、カツラよーし、制服よーし、胸よし!!うっし完璧!」
走り過ぎて震える足に気合を入れて部屋を出る。
キョロキョロ見渡し、誰もいないと確認。小走りで移動する。
※
「お待たせ致しました。遅れて申し訳ございません」
「ラサーニュさん!」
いつの間にか魔術祭も終了し、ルクトルがいた。彼は優勝は逃したらしい。
「マクロン君達に聞いています。その…犬はどうなりましたか?」
先程の3人にも一緒に説明した。
「男子寮で?どこで飼うんだ?」
「夜はお兄様のお部屋で。それ以外は…寮の外に小屋を設けるという事になりました。
実家に帰っている間はクザン先生に見ていただきます」
「わお、俺遊んでやろうっと」
「俺も俺も!」
「それより大丈夫だったか?クザン先生に何か言われなかったか?」
「(セレスタンが怒鳴られました…)平気でした。ありがとうございます、マクロン様」
「ならいいのだが…俺も寮住まいだ、何か力になりたい」
「あ、いえ…!お兄様にお任せして平気ですわ、動物好きですから!」
見直しはしたが、あまり関わりたくないので協力はお断りした。
生徒会室に移動、報告等済ませて解散。他の生徒は皆帰宅済みで、校舎は静まり返っている。
「疲れているんだろう?寮の前まで送ろう」
「い、いえ…この後ルネさんと約束がありますの」
「…大丈夫か?足がフラフラしているじゃないか」
「すぐに治りますわ」
「ならいいのだが…待ち合わせの場所まで送る」
「ありがとうございます…」
パスカルが腕を出して来た。気遣いを無碍にも出来ず、エスコートされながら集合場所の医務室へ向かう。
「なんだ?マクロン。いつもはラサーニュちゃんに興味無い感じなのに」
「必要な会話以外しないよな。犬好きなのかなあ」
足音のみ響く空間で、2人はゆっくりと歩く。
セレスタンはちらりと見上げ、パスカルの整った顔を眺める。
「(うーん、積極的ぃ。ロッティじゃなくてごめんなさいね。
…髪もサラサラだし、格好いいなぁ…僕こういう、目元がキリッとした人好きかも…)」
まあ恋愛対象にはなり得ないのだが。こっそり目の保養にするのだ。
「(…見られてる気がする。やっぱいつものラサーニュ嬢と違うような。頭でも打ったのか…変な物でも食べたか…?)」
さり気なく失礼な事を考えているパスカルであった。
会話も少なく歩く。時間を掛けて医務室に到着、別れる前に…
「そうだ、犬の名前は決まっているのか?」
「いくつか案を出したんですけど…全部却下されて…」
「…どんな?」
「にゃんた、マッスル、クロたん…」
「……レオンとか、チャッピーとかどうだ?」
「…ん?」
こんなやり取り前にも誰かとしたような…?とデジャヴを感じるセレスタン。パスカルは彼女の肩に手を置き、熱の込もった目で見下ろす。
「どうしました?」
「…やはり、君は…あのと「何やってんだお前ら?」…ぐぅ…」
ガチャっと扉が開き、オーバン登場。邪魔されたパスカルは項垂れながら帰った。
ルネは先に来ており、こっちこっちと手招きする。
「先生、ちょっと出て行ってくださいません?」
「なんで?」
「ロッティさんがお着替えなさるからですわ」
「なんで!?」
寮でやれ!と言いながらも出て行き廊下待機。速やかに着替え、セレスタンは逃げた。
「お待たせ致しました」
「…ラサーニュ妹は?」
「窓から帰りました」
「なんで!!?」
「ではご機嫌よう〜!」
「説明しろー!!」
オーバンは無視してルネも移動。
外で落ち合い、セレスタンが制服汚してごめん…と謝罪した。
ルネは貴女が無事ならそれで良いと言ってくれ、そのまま犬の話に。
「まあ…私も会ってみたいですわ。怪我はなさってない?」
「うん!今度一緒に散歩しようね。
あ、それと…第三皇子殿下と何度か顔合わせちゃったんだ」
「ルシアン様と?何か…仰ってました?」
彼とのやり取りを話すと…ルネは頭を抱えた。
「大丈夫、完っ璧に誤魔化しといたから!追及もされなかったし、疑ってないよアレは!!」
その自信はどこから来るのだろうか。
ルネはとにかくルシアンの出方を見るか…と様子見する事に。
明日は休日なので、ルネと別れたその足でラサーニュ領に帰る。
セレネを呼び、馬よりも鳥よりも速く走る。
「それでねー、新しい仲間が増えるよ!魔物だけどいい子だから仲良くしてね」
「シャーリィの犬はセレネだけで十分なんだぞ!!」
「その言い方なんかイヤ…」
ライラプスが黒に対してセレネは白っぽいので…名前も対極にしようかな?と考える。
セレネは月。では太陽?
「名前…ヘリオスとかどうかな?」
「おお!シャーリィにしてはいい名前だぞ!」
「いやあ、それほどでも…今褒めたんだよね?」
「もちろんだぞ!」
なんともモヤモヤしたまま屋敷へ向かう。
シャルロットは完全回復していたので、今日の出来事を余すとこなく語った。齟齬があっては困る為、細部まで。
「…つまり、私が魔物を助けて…お兄様に引き取ってもらった、でいいのね?」
「ごめんね…治癒に関しては否定しておいたから」
「それは大丈夫、いくらでも誤魔化しが利くわ。それより手負の獣は危険よ!今後は気を付けないと駄目だからね!?ただ…」
「ただ?」
「…………」
シャルロットは難しい顔で黙ってしまった。
「(マクロン様の態度が気になる。彼は…女子に優しくなんてしない。いつも事務的で、機械的に対応する。
噂では彼と親しくなる女性は昔から、皆不幸に見舞われるからだとか。勿論私だって例外じゃないわ。生徒会室でも、仕事以上の世間話すらした事ないもの)
お兄様、マクロン様との会話を詳しく」
「(ひえー!まさかロッティもマクロン様を…!?いやん、美男美女お似合い!)お任せを!まずねー…」
「ふんふん…」
「かくかくしかじか…こんなとこかな?
(ん…僕、ロッティはジスランの事が好きなんだと思ってた。結構気を許してるし…ジスランだって昔から花とかいっぱい贈ってたし。つまりさ、さんかくカンケイ…!!おとなだー!)」
「ありがとう、お兄様(やっぱり対応が違う。これ以上お兄様に下心を抱く男は要らないってのよ…どうしてやりましょうか…?)」
目を輝かせるセレスタンと、険しい顔のシャルロット。見物しているバジルは…「なんか勘違いしてそう」と遠い目をする。
セレスタン退室後、バジルは訊ねる。
「実際同じ状況だったらお嬢様はどうしますか?」
「遠くから観察、すぐに先生を呼びに行ってお任せするわ。襲われるかもしれないし、何か病原菌を持っている可能性だってあるじゃない。
お兄様の行動は素晴らしいけれど…同時に危なっかしいわ。難しいわね…」
それが普通だよな、と彼も納得するのであった。
※※※
日曜日の午前中、セレスタンはグラスを連れて皇宮に野菜を持って行った。
「よく来たなースタン!一昨日の話は聞いてるぜー?」
「ハーヴ兄!ではヘリオスがどこにいるかご存知ですか?」
「ヘリオス?ああ、ライラプスのこと?いー名前じゃん!」
無事納品完了。ハーヴェイと会えたので、魔術師団の塔へ連れて行ってもらう。
「あれハーヴ兄、私服なんですね」
「非番だからな。この後暇なら遊び行かねえ?もちグラさんも一緒にな」
「……あっ、おれですか」
他に誰がいんだよー!とハーヴェイは笑う。
セレスタンは考え、じゃあ少しだけと了承する。
雑談しているうちに目的地に到着。魔術師の総本山とはいえ、外観は古いが普通の塔である。
中に入れば誰も座っていない受付。数人談笑しているロビー。ハーヴェイはその中の1人に声を掛けた。
「いたいた!アイク、ちょっといいか?」
「ん…?ああハーヴか。そっちの子達は…?」
誰?セレスタンがハーヴェイの背中からひょこっと顔を覗かせた。
「この子はお前の弟と同級のはず。セレスタンっつー俺の可愛い弟な!それと従者のグラスだ」
「お前末っ子じゃん…
初めまして、オレはアイザック・ラブレー。エリゼの兄で、ハーヴェイ卿とは同級生で友人だ。セレスタンって呼んでいいか?オレの事はアイクでいいぜ」
「セレスタン・ラサーニュです。はい、どうぞ僕の事もセレスとお呼びください」
それは薄桃色の髪を耳が隠れる程度まで伸ばしている、背の高い好青年。セレスタンに手を差し出し握手する。
どうして弟はあんななのか…と考えずにはいられないセレスタン。
「で、なんか用?」
「例のライラプス、保護者この子だから」
「え、令嬢じゃねえの?」
「違えよ」
シャルロットが保護した事になっているはずなのに、何故ハーヴェイは知っているのか。疑問が顔に出ていたのだろう、彼は答える。
「ラサーニュ嬢がそんな事する訳ないじゃん」
「…へ?いや、優しい子ですし…」
「……(その優しさはお前限定だよ)普通か弱い令嬢はビビって近付けねえよっ!ほらほら、早く案内してくれや」
「へいへい」
ひとまず塔の奥に案内される。とある扉の前で立ち止まり、ノックもせずに開けると…
「ハア、ハア…!これが無害な魔物…なんて素晴らしい研究材りょ、観察対象だ…!」
「ひひ…飲食も排泄も不要とは…是非体内を調べたい…」
「精霊との共通点も多いが…何か関係はあるのだろうか?」
「みい…みゅうぅ…うにゃあ…」ブルブル
「ほお…恐怖を感じているのか…んふふ…是非とも知能テストを…!」
「喜怒哀楽、人間及び動物への態度、同じく魔物に対してはどう反応するのか…」
「へへへ…牙をちょっと見せてね…?」
「み…みー…みー…みぃ……」プルプル
「きゃあああーーー!!ヘリオスウゥーーー!!」
「!!にゃあああーーーんっ!!!」
檻に入り縮こまったヘリオスを、複数の魔術師が囲っていた。




