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皇国の精霊姫  作者: 雨野
日常編
36/102

アカデミー2年生 07


 何も言われなかったんだからバレてないよね!?と祈りながらセレスタンは走る。



「げほ…っ、はひゅ、ふへぇ…ごっふ。

 話は…聞き、ました。妹は、そのまま、仕事に…戻りました、ので」


 生徒会室からこの現場まで、休みつつ走り約5分。しかも階段の往復もある為相当疲労する。

 息も絶え絶えだが、なんとか話し合いを終わらせた。


「元気でね…!絶対迎えに行くからー!」


「みゃあああんっ!」


「はははっ、任せなさい!!!」


 テランス達が犬を連れて出て行った。今生の別れのような姿に、クレールは思わずもらい泣き。そんな彼女も仕事に戻り…クザンと2人残される。


「ふう…では先生…っ!?」


 突然腕を掴まれ袖を捲られた。引っ込めようにもびくともしない、その細い腕を見たクザンは眉を顰める。


「(これは男の腕ではない。しかし適度に鍛えられてはいる…どういう事だ)」


「なんで、しょうか…?」


「…寮監には儂が話を通す。お前も今日は戻りなさい」


「はい。よろしくお願いします…」


 戸惑いながらも、解放されて好都合。またまたまたダッシュ。




「はひー…休んでる暇がないよう。この制服もどうするか…」


 ルネの制服だったものは真っ黒に汚れている。

 洗浄魔術で色は落ちたが…ヨレヨレになってしまった。後で謝ろう…と思いながら袖を通す。


「カラコンよーし、カツラよーし、制服よーし、胸よし!!うっし完璧!」


 走り過ぎて震える足に気合を入れて部屋を出る。

 キョロキョロ見渡し、誰もいないと確認。小走りで移動する。



 ※



「お待たせ致しました。遅れて申し訳ございません」


「ラサーニュさん!」


 いつの間にか魔術祭も終了し、ルクトルがいた。彼は優勝は逃したらしい。


「マクロン君達に聞いています。その…犬はどうなりましたか?」


 先程の3人にも一緒に説明した。



「男子寮で?どこで飼うんだ?」


「夜はお兄様のお部屋で。それ以外は…寮の外に小屋を設けるという事になりました。

 実家に帰っている間はクザン先生に見ていただきます」


「わお、俺遊んでやろうっと」


「俺も俺も!」


「それより大丈夫だったか?クザン先生に何か言われなかったか?」


「(セレスタンが怒鳴られました…)平気でした。ありがとうございます、マクロン様」


「ならいいのだが…俺も寮住まいだ、何か力になりたい」


「あ、いえ…!お兄様にお任せして平気ですわ、動物好きですから!」


 見直しはしたが、あまり関わりたくないので協力はお断りした。

 生徒会室に移動、報告等済ませて解散。他の生徒は皆帰宅済みで、校舎は静まり返っている。



「疲れているんだろう?寮の前まで送ろう」


「い、いえ…この後ルネさんと約束がありますの」


「…大丈夫か?足がフラフラしているじゃないか」


「すぐに治りますわ」


「ならいいのだが…待ち合わせの場所まで送る」


「ありがとうございます…」


 パスカルが腕を出して来た。気遣いを無碍にも出来ず、エスコートされながら集合場所の医務室へ向かう。



「なんだ?マクロン。いつもはラサーニュちゃんに興味無い感じなのに」


「必要な会話以外しないよな。犬好きなのかなあ」





 足音のみ響く空間で、2人はゆっくりと歩く。

 セレスタンはちらりと見上げ、パスカルの整った顔を眺める。


「(うーん、積極的ぃ。ロッティじゃなくてごめんなさいね。

 …髪もサラサラだし、格好いいなぁ…僕こういう、目元がキリッとした人好きかも…)」


 まあ恋愛対象にはなり得ないのだが。こっそり目の保養にするのだ。


「(…見られてる気がする。やっぱいつものラサーニュ嬢と違うような。頭でも打ったのか…変な物でも食べたか…?)」


 さり気なく失礼な事を考えているパスカルであった。

 会話も少なく歩く。時間を掛けて医務室に到着、別れる前に…


「そうだ、犬の名前は決まっているのか?」


「いくつか案を出したんですけど…全部却下されて…」


「…どんな?」


「にゃんた、マッスル、クロたん…」


「……レオンとか、チャッピーとかどうだ?」


「…ん?」



 こんなやり取り前にも誰かとしたような…?とデジャヴを感じるセレスタン。パスカルは彼女の肩に手を置き、熱の込もった目で見下ろす。


「どうしました?」


「…やはり、君は…あのと「何やってんだお前ら?」…ぐぅ…」


 ガチャっと扉が開き、オーバン登場。邪魔されたパスカルは項垂れながら帰った。

 ルネは先に来ており、こっちこっちと手招きする。


「先生、ちょっと出て行ってくださいません?」


「なんで?」


「ロッティさんがお着替えなさるからですわ」


「なんで!?」


 寮でやれ!と言いながらも出て行き廊下待機。速やかに着替え、セレスタンは逃げた。


「お待たせ致しました」


「…ラサーニュ妹は?」


「窓から帰りました」


「なんで!!?」


「ではご機嫌よう〜!」


「説明しろー!!」


 オーバンは無視してルネも移動。



 外で落ち合い、セレスタンが制服汚してごめん…と謝罪した。

 ルネは貴女が無事ならそれで良いと言ってくれ、そのまま犬の話に。


「まあ…私も会ってみたいですわ。怪我はなさってない?」


「うん!今度一緒に散歩しようね。

 あ、それと…第三皇子殿下と何度か顔合わせちゃったんだ」


「ルシアン様と?何か…仰ってました?」


 彼とのやり取りを話すと…ルネは頭を抱えた。


「大丈夫、完っ璧に誤魔化しといたから!追及もされなかったし、疑ってないよアレは!!」


 その自信はどこから来るのだろうか。

 ルネはとにかくルシアンの出方を見るか…と様子見する事に。


 明日は休日なので、ルネと別れたその足でラサーニュ領に帰る。

 セレネを呼び、馬よりも鳥よりも速く走る。



「それでねー、新しい仲間が増えるよ!魔物だけどいい子だから仲良くしてね」


「シャーリィの犬はセレネだけで十分なんだぞ!!」


「その言い方なんかイヤ…」


 ライラプスが黒に対してセレネは白っぽいので…名前も対極にしようかな?と考える。

 セレネは月。では太陽?


「名前…ヘリオスとかどうかな?」


「おお!シャーリィにしてはいい名前だぞ!」


「いやあ、それほどでも…今褒めたんだよね?」


「もちろんだぞ!」


 なんともモヤモヤしたまま屋敷へ向かう。





 シャルロットは完全回復していたので、今日の出来事を余すとこなく語った。齟齬があっては困る為、細部まで。



「…つまり、私が魔物を助けて…お兄様に引き取ってもらった、でいいのね?」


「ごめんね…治癒に関しては否定しておいたから」


「それは大丈夫、いくらでも誤魔化しが利くわ。それより手負の獣は危険よ!今後は気を付けないと駄目だからね!?ただ…」


「ただ?」


「…………」


 シャルロットは難しい顔で黙ってしまった。


「(マクロン様の態度が気になる。彼は…女子に優しくなんてしない。いつも事務的で、機械的に対応する。

 噂では彼と親しくなる女性は昔から、皆不幸に見舞われるからだとか。勿論私だって例外じゃないわ。生徒会室でも、仕事以上の世間話すらした事ないもの)

 お兄様、マクロン様との会話を詳しく」


「(ひえー!まさかロッティもマクロン様を…!?いやん、美男美女お似合い!)お任せを!まずねー…」


「ふんふん…」


「かくかくしかじか…こんなとこかな?

 (ん…僕、ロッティはジスランの事が好きなんだと思ってた。結構気を許してるし…ジスランだって昔から花とかいっぱい贈ってたし。つまりさ、さんかくカンケイ…!!おとなだー!)」


「ありがとう、お兄様(やっぱり対応が違う。これ以上お兄様に下心を抱く男は要らないってのよ…どうしてやりましょうか…?)」


 目を輝かせるセレスタンと、険しい顔のシャルロット。見物しているバジルは…「なんか勘違いしてそう」と遠い目をする。




 セレスタン退室後、バジルは訊ねる。


「実際同じ状況だったらお嬢様はどうしますか?」


「遠くから観察、すぐに先生を呼びに行ってお任せするわ。襲われるかもしれないし、何か病原菌を持っている可能性だってあるじゃない。

 お兄様の行動は素晴らしいけれど…同時に危なっかしいわ。難しいわね…」


 それが普通だよな、と彼も納得するのであった。




 ※※※




 日曜日の午前中、セレスタンはグラスを連れて皇宮に野菜を持って行った。


「よく来たなースタン!一昨日の話は聞いてるぜー?」


「ハーヴ兄!ではヘリオスがどこにいるかご存知ですか?」


「ヘリオス?ああ、ライラプスのこと?いー名前じゃん!」


 無事納品完了。ハーヴェイと会えたので、魔術師団の塔へ連れて行ってもらう。


「あれハーヴ兄、私服なんですね」


「非番だからな。この後暇なら遊び行かねえ?もちグラさんも一緒にな」


「……あっ、おれですか」


 他に誰がいんだよー!とハーヴェイは笑う。

 セレスタンは考え、じゃあ少しだけと了承する。



 雑談しているうちに目的地に到着。魔術師の総本山とはいえ、外観は古いが普通の塔である。

 中に入れば誰も座っていない受付。数人談笑しているロビー。ハーヴェイはその中の1人に声を掛けた。


「いたいた!アイク、ちょっといいか?」


「ん…?ああハーヴか。そっちの子達は…?」


 誰?セレスタンがハーヴェイの背中からひょこっと顔を覗かせた。


「この子はお前の弟と同級のはず。セレスタンっつー俺の可愛い弟な!それと従者のグラスだ」


「お前末っ子じゃん…

 初めまして、オレはアイザック・ラブレー。エリゼの兄で、ハーヴェイ卿とは同級生で友人だ。セレスタンって呼んでいいか?オレの事はアイクでいいぜ」


「セレスタン・ラサーニュです。はい、どうぞ僕の事もセレスとお呼びください」


 それは薄桃色の髪を耳が隠れる程度まで伸ばしている、背の高い好青年。セレスタンに手を差し出し握手する。

 どうして弟はあんななのか…と考えずにはいられないセレスタン。


「で、なんか用?」


「例のライラプス、保護者この子だから」


「え、令嬢じゃねえの?」


「違えよ」


 シャルロットが保護した事になっているはずなのに、何故ハーヴェイは知っているのか。疑問が顔に出ていたのだろう、彼は答える。


「ラサーニュ嬢がそんな事する訳ないじゃん」


「…へ?いや、優しい子ですし…」


「……(その優しさはお前限定だよ)普通か弱い令嬢はビビって近付けねえよっ!ほらほら、早く案内してくれや」


「へいへい」

 

 ひとまず塔の奥に案内される。とある扉の前で立ち止まり、ノックもせずに開けると…




「ハア、ハア…!これが無害な魔物…なんて素晴らしい研究材りょ、観察対象だ…!」


「ひひ…飲食も排泄も不要とは…是非体内を調べたい…」


「精霊との共通点も多いが…何か関係はあるのだろうか?」


「みい…みゅうぅ…うにゃあ…」ブルブル


「ほお…恐怖を感じているのか…んふふ…是非とも知能テストを…!」


「喜怒哀楽、人間及び動物への態度、同じく魔物に対してはどう反応するのか…」


「へへへ…牙をちょっと見せてね…?」


「み…みー…みー…みぃ……」プルプル



「きゃあああーーー!!ヘリオスウゥーーー!!」


「!!にゃあああーーーんっ!!!」



 檻に入り縮こまったヘリオスを、複数の魔術師(へんじん)が囲っていた。



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