表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇国の精霊姫  作者: 雨野
日常編
35/102

アカデミー2年生 06



「お願いお兄様、いえお姉様!!私の振りをしてくれない!?」


「…えぇ?」



 明日アカデミーにおいて、魔術祭という秋の剣術大会と並ぶ一大イベントが行われる。こちらは希望する4・5年生のみ参加で、女子もエントリー出来る。

 様々なお題を魔術を使いクリア、得点を稼ぐ。皇帝は来ないが、皇室魔術師は見学に来る絶好のアピールチャンスなのだ。



「私も生徒会の仕事が…ゴホッ」


「わわっ!だめだよ寝てなきゃ!」


 シャルロットは珍しく風邪気味だった。

 愛娘体調不良の報せを聞いた伯爵は大慌て。今すぐ帰っておいで!と学園に乗り込みそうな勢い。更にはセレスタンに対して「お前の所為だ!!」と言う始末。彼女は誠に遺憾であると返しておいた。



 こうして可愛い妹の願いを聞き、1日シャルロットになる。

 バジルは心配そうにしていたが、シャルロットを連れて領地に帰って行った。




 ルクトルとルネは協力者だ。

 誰もいない生徒会室で、ルネが保管していた着替えセットで変身完了。2人で廊下を歩く。


「…わたしはシャルロット。よし、いける!」


「頑張ってくださいねロッティさん!」


「うん!…ええ、任せて!」


 心までなりきっていたら…正面から女子を3人侍らせたルシアンが歩いて来た。


「あら…」


「…………………」ギロリ


「(ひいいいい!僕睨まれた!?なんでえ!!?)」


 彼は何故かセレスタン…の生徒会の腕章を視認し鋭く睨む。早速化けの皮(シャルロット)が剥がれプルプル震える。その様子にルシアンは目を開いた。


「………?まさか、」


「ルシアン様、早く行きましょうよ〜!」


「ねえねえ、私達も秘密のサボり場所に入れてくださいよぉ」


「………ああ…そのうちね」


 女子に腕を掴まれて踵を返す。姿が完全に見えなくなった後、セレスタンは大きく息を吐いた。


「なんだったの…?」


「…恐らくですが。ご自分が生徒会役員に選ばれなかったのが悔しいのかと」


「ひぇ…とばっちり…」


 だがセレスタンも思っていた。兄皇子達も、ルシファーも生徒会長をしていたと聞く。皇族は生徒会に就任する伝統でもあるのかな〜と考えていたのだが、実際選ばれたのはシャルロットとパスカルだった。


「ルキウス様のご決断は正しいものですわ。ルシアン様は選ばれたとしても…真面目に仕事をしないでしょうし。さ、行きましょう!」


 セレスタンは彼が気になったが、ルネに手を引かれて歩きを再開した。



 会場で生徒会メンバーと合流、ルネと別れる。

 頭に叩き込んでおいた生徒会の顔と名前を確認して、気合を入れた。



「では僕も魔術祭に参加ですので…頑張ってくださいね」


「はい、そちらもお気をつけて」


 ルクトル含む上級生は離脱、残された者達で見回りに。セレスタンは3年生とペアになった。


「(この人はチェスター・エーベルト先輩だね)

 エーベルト先輩、わたし達は何処へ?」


「こっちこっち。道に迷った観戦者の案内とか、生徒が会場内に入らないよう見回りをするよ」


 彼に付いて歩くも、特に不審がられている様子もない。それどころか…沢山の生徒が声を掛けて来る。


「ラサーニュさん、相変わらず人気者だね」


「いえ…そんな事ありませんわ」


 代わる代わる彼女に労いの言葉を掛け挨拶をする。それらは皆、普段セレスタンに対して心無い言葉を掛ける者達だった。


「(話してみれば…普通なんだな…)」


 怖い人達だと思っていたが…シャルロットに扮している今は好意的。

 何か誤解があって、自分は嫌われているのかもしれない。そう考えた。

 事情があり親しい友人は作れないが、挨拶くらい出来る知人が欲しい。どうにか誤解が解けないかな…と淡い希望を抱く。



 時折観客席に設置された大きなモニターでイベントを見る。ルクトルが触手攻撃を喰らっており…黄色い悲鳴で大地が揺れている。


 ふと思い出す。セレスタンは去年も魔術祭は見学していたはずなのに、内容を思い出せない。

 ルキウスとランドールが張り合いまくって、どちらもぶっ倒れていた事は覚えている。が…


 こんな事してないで勉強しなきゃ。殆どの記憶はそれだったのだ。

 勿体ない事したなあ…と落ち込む。その時…


「ん?ラサーニュさん、あれ見て」


 チェスターが指差す先…蠢く黒い塊があった。恐怖から無意識にチェスターの手を握ってしまい、彼はだらしのない顔をする。


「(役得役得〜)これ…犬かな?」


「え…!?」


 木に隠れるように、大きな犬が丸くなっていた。

 セレスタンは思わず駆け寄り、膝を突いて犬に触れる。


「危ないラサーニュさん!噛まれるかもよ!」


「どうしたの、怪我してるの!?」


 犬は薄く目を開けて…彼女を見つめる。

 猟犬のような、筋肉のついた胴に足が長くスラッとした大型犬。

 触れると手が赤黒く染まった。血だ…!と青褪める。まるで初めてセレネと会った時のよう。だが今回は本当に死にかけで、後ろ足は折れて呼吸も浅い。


「どうしましょう、エーベルト先輩!」


「待って、落ち着いて!制服も汚れちゃってるよ、誰か先生に知らせてくるから!」


 チェスターはその場を去る。セレスタンは犬の体を持ち上げ前足を膝に乗せ、首の辺りを抱き締めた。


「(お願い、間に合って…!死なないで、治って…元気になって!)」


 涙が出そうになるのを堪えて、怪我がよくなりますようにと祈る。



 そこへ同じ生徒会のパスカルと3年生のジェフ・テナが現れた。


「マクロン様、テナ先輩!犬が、大怪我を…!」


「落ち着いて、ラサーニュ嬢。

 …怪我って、どこを…?」


「へ…?」


 パスカルが犬に触れると…怪我などどこにも無い。体は腫れ上がり斬られたような酷い状態だったのに、だ。

 セレスタンの制服に付いた血や泥汚れと犬を交互に見て、3人は首を傾げた。


「…もしかしてラサーニュちゃん、治癒魔術使える?」


「いえ…?」


 この状況を説明出来るのは、それしか考えられない。

 そう…本人は気付いていないが、治癒魔術の適性があったのだ。適性持ちは体が頑丈、自然治癒力が非常に高いのが特徴だ。

 彼女は骨折程度なら2〜3日で治ってしまう。明らかに異常なのだが…「遅いよりいいよね」と全く気にしていない。


「…わっ!うへえ、ひええ」


 元気になった犬が尻尾を振って頬を舐めた。くすぐったくて頬も緩む。


「……!」


「(うわっ、可愛い!ラサーニュちゃん、いつも近寄り難い感じだったのに…今日はなんか違うな〜)」


 男2人はその笑顔に見惚れているのか、頬を染めている。

 犬がすっくと立ち上がると…



「「「デッッカ!!?」」」



 なんと犬の体高はセレスタンの胸ほどもあった。彼女は現在150cm前後(セレネの体高は彼女の背と同じくらい)、これは大きすぎる。


「…ラサーニュ嬢、離れて」


「え…」


 返事も待たず、パスカルが彼女の腕を取って引き寄せた。背中に隠して静かに後退る。


「先輩…」


「ああ…魔物かもしんねえな…」


「ま、魔物!?」



 魔物は通常、山などの自然で発生する。動物との違いは魔力を帯びている事、非常に凶暴で生物を襲う事。

 出現数は多くないのだが、1匹に対して騎士や魔術師が数人掛かりでないと倒せない。弱い個体相手でも1対2で戦うのがセオリーだ。精霊のように階級は無いが、上位種は存在する。

 国中の村町道路に魔物避けの結界石が配置されており、人里を襲う事はほぼ無い。だがこうしていくつもの結界を超えて、学園まで来てしまうような例外も存在する。



「稀に町中で発生してしまう事もあるが…原因は未確定。

 それか…結界も効かない程の上位種の場合。ただしこれは精霊の最上級に該当するレベルなので、無いと考えていい」


「そうだったら俺ら今頃皆殺しだろうな。

 他は脅威にならない程弱ってる場合だったか。ラサーニュちゃんの服を見るに、相当深傷を負ってたみてえだし」


「そそ、そんな…!」


 セレスタンは警戒する2人の後ろで慌てふためく。犬は大人しく座り…尻尾をゆらゆら揺らす。まるで「敵意はないよ」と言っているようだった。

 このままじゃ殺されちゃう…!と飛び出した。


「危ないっ!」


「待って!魔物って凶暴なんでしょう、この子は大人しいですよ!ね?」


「みゅう。みぃ〜」


「ほら可愛い!!」


「「猫かよ!!!」」


 ガタイに見合わない可愛い鳴き声。ますます怪しい。


「お座り!はもうしてるわ。お手!」


「みゅっ」たしっ


「伏せ!!」


「みょ」しゅたっ


「ちんち「ストーーーップ!!(※パス)」あらまっ」


「みゃあ」スッ


「3回回ってワン!!」


くるくるくる「ミャン」


「ほらいい子!!!」


「「…………」」


 完全に言葉も通じている、ただの犬ではない。もちろん狼でも、精霊でもなければ魔物しかない。

 だが…必死なセレスタンと大人しい犬の姿に、少しだけ警戒を解く。そこへチェスターがクレールを連れて戻って来た。



「おーい!まず…治ってる?」


「怪我してなかったみたいです!これは血糊です!」


「なんで犬が血糊被ってるのよ…」


「…失礼、バルバストル先生」


 段々と収拾がつかなくなってきてしまった。更にそこへ…剣術教師のクザンまで来た。60を超える彼はまだまだ現役騎士と遜色ない実力の持ち主だ。



「つい先刻…首都の外で魔物ライラプスが確認され交戦。だがあと一歩のところで取り逃し、街に侵入を許してしまったと緊急通報があった」


「ライラプス…狙った獲物は死ぬまで決して逃さないという、強力な犬の魔物ですよね」


「犬……」



 全員の視線は…セレスタンと犬に注がれる。


「…!違う、この子は可愛いワンちゃんです!も、もし魔物、だとしても…こんな、大人しい子…」


 犬の首に抱き付き、なんとか抵抗する。


「こ…この子は、誰か傷付けてしまいましたか…?騎士や魔術師、一般の人や…動物を襲ってしまいましたか…?」


「…いや。交戦中も抵抗はするが、反撃は一切しなかったと聞く。他の被害も確認されていない」


「じゃあ…」


「魔物は斬るのが常識だ」


 クザンは剣を抜き、セレスタンに離れるよう指示する。

 今は大人しいが、豹変するかもしれない。魔物の命と生徒の命、比べるべくもないのだ。

 イヤイヤと首を振り退こうとしないセレスタンに手を伸ばすと…


「お待ちください、先生。まだ魔物と決まった訳ではないでしょう」


「…マクロン」


 保護反対派だったパスカルが間に立った。


「儂は生徒を守る義務がある」


「…存じています。それでも俺は、涙を流す女性を無視したくない」


 涙と言われ、自分でも初めて泣いている事に気付いた。濡れた頬を犬が舐める。

 睨み合うパスカルとクザン、まさに一触即発。クレール、チェスター、ジェフは身動きが取れない。



「…丁度今は皇室魔術師も多く来ている。判断は彼らに任そう」


 クザンは息を吐き…剣を納めた。だが警戒は解かず、犬を殺気を込めて睨む。

 皆も緊張を解き深呼吸をした。

 騒ぎにはしたくないので、チェスターとジェフがこっそりと魔術師を呼びに行く事に。



「マクロン様。ありがとうございました」


「…いや」


 セレスタンはこのパスカルに苦手意識を抱いていたが…見る目が少し変わった。話は通じるし、優しくて…


「(…まさか。この人ロッティの事を…!?きゃー!

 うん、マクロン様だったら安心してロッティをお任せ出来そう!)」


 少し明後日の方向に飛んでしまった。

 パスカルは逡巡して…彼女の頬をハンカチで拭き、やや顔を近付けた。


「(ひいっ!?違う、僕はセレスタンです!)あの…何か?」


「……貴女は。動物は好きか?」


「…?好きです」


「いつも、傷付いた動物を見捨てられないのか?飼っている訳でもない、関係のない犬の為にクザン先生に歯向かえるのか?」


「う、ん…目の前にいたら、放っておきたくはありません」


「……そうか。貴女はもしかして…

 幼い頃、真っ白な毛」



「うおおおおい!!!怪しい犬はどこかな!!?」

 


 パスカルが何か言いかけるも、テランスの大声でぶった斬られるのであった。



 

 セレスタン以外の3人は仕事に戻れと追い出された。


「大丈夫かなー、ラサーニュちゃん」


「なんか、今日の彼女様子違くないか?」


「な!ほわほわしてて可愛いよな」


「俺さっき手ぇ繋いじゃった」


「うらやま!」


 盛り上がる3年生コンビ。パスカルはその後ろで難しい顔をしている。



「(シャルロット…いや、まさか。だって()()()の髪はあんなに鮮やかな赤ではなかった。

 そう、まるで彼女の兄、セレスタンのような…暖かな緋色の髪。でもどこか面影が…どういう事だろう)

 シャーリィ…」




 ※




「ふむ…魔力を感じるし、目撃情報と一致する。間違いない、通報にあったライラプスだ」


「そんなあ…!」


 テランスはやかましいので口を塞がれてしまった。代わりに部下である総副団長が犬を見る。

 クザン、クレール、テランスにも囲まれて、セレスタンは半泣きで犬に抱き付いている。


「こ…ころ、こころされてしまいますか…?」


「…うん、そうだね。魔物は殲滅するのが我々の仕事だから」


 それが決まりなのだから、仕方がない。そう分かっているのに…

 セレスタンはどうにも、この犬を好きになってしまった。モフモフのセレネもいいが、ムキムキスマートな犬も素敵なのだ。


「…こんなに可愛いのに…ですか…!?」


「みぁ」ニタリ…


「「「………」」」


 残念ながら大人達の目には…マッスル犬が少女を食い殺す寸前にしか見えない。


「そうだな!!!魔力封じの首輪でも作れば、かなり無力化出来るのではないか!!?始末するには惜しい実例だ!!」


「やっかましいですよ総団長!」


 テランスが味方になりそうで、なんとか畳み掛ける。


「ちゃんとお世話しますから!お散歩もするし、ご飯もトイレも!」


「魔物は食事も排泄もしないんだよ」


「駄目だ、皇室に差し出しなさい」


「寮の番犬になるじゃないですかー!」


「そんなものが女子寮にいては、他の生徒が恐れるだろう」


 クザンとのやり取りが、段々と孫と祖父に見えてきた。


「女子寮…はっ!!ではお兄様に面倒を見てもらいます!」


「む?そうか、君はセレスタン君の妹さんか!!!」


「知っているのか、総団長」


「まあな!!確かに彼が見張っていれば安全だろう!!!」


「「?」」


 それは当然、セレネと天使達を指している。

 事情を知らないクレールとクザンは…「あの弱々しい子が何故…?」と首を捻る。


「じゃあお兄様を呼んで来ます!!

 …殺しちゃ駄目ですよ、連れてっちゃ駄目ですよ!?絶対ですよ!」


「おお!!それはフリというやつか!!!」


「ちっがーーーう!!!」


 何度も振り返りながら、彼女は校舎へ走った。当然…着替える為。

 残された者達は…



「…よーしよし…」


「みぃ…」


 遠くから犬を棒で突ついていた。




 数分後、着替えたセレスタンが現れる。


「はあ、はあ…!お話は妹に聞きました、僕がその子の面倒を見ます!」


「久しぶりだなセレスタン君!!!…雰囲気が違うな!?前髪のせいか!!

 で、この犬を任せて平気かね!!?」


「あ、はい。お久しぶり、です。お任せください!」


 丸まっていた犬も彼女に擦り寄る。


「えー…まあ総団長が言うのなら…でも首輪作るまではこっちで預かるよ?」


「う…お願いします…」


「駄目だ!!」


「ぴゃーーーっ!!?」


 なんとか話が纏まりそうになっていたが…クザンが声を張り上げた。


「お前は自分が何をしているのか分かっているのか!!この学園には皇子殿下も在籍している、皆を危険に晒すのか!!」


 大気を震わす怒声、伯爵とは比べ物にならない迫力に怯む。それでも…逃げたい気持ちに喝を入れて真っ直ぐにクザンを睨む。


「…僕はこれ以上失いたくありません!人間だろうと魔物だろうと、助けを求める子を見捨てたくありません!!

 学園でなく領地で飼います、それならよろしいでしょう!?」


 まさか言い返されると思っていなかったのか、クザンは僅かに目を開く。


「代わりに領民を危険に晒す気か!!」


「教会の番犬をしてもらいます!!」


 すぐに切り替え、どちらも退かぬ口論が始まってしまった。魔物とはいえ、無害な犬を殺したくないセレスタン。何よりも人の命を優先するクザン。



「何か起きてからでは遅いのだ!!」


「もしもの時は…僕(というか精霊が)必ず止めます!!全ての責を負うと誓います!(伯爵が)」


 ヒートアップする2人にテランスが割って入る。


「まあまあ!大昔ではあるが、人間に好意的な魔物の例も存在するのだ!!

 ここは首輪を作ってから様子を見ようじゃないか!!!魔力を封じてしまえば、ただのデカい犬となろう!!!」


「…………………いいだろう」


 物凄く渋々ではあるが、クザンは認めた。


「ただし飼うなら領地ではなく学園で。

 グラウンドで走らせるなら早朝か深夜。それ以外は寮に置くか儂の元に寄越しなさい。守れなければ魔術師団に引き取らせるぞ」


「大丈夫です、ありがとうございます!!必ず守ります!

 よかったね、えーと…名前から考えようか!」


「みゃい!」


 セレスタンは小躍りしながら喜ぶ。犬も一緒になって小刻みに揺れる、その目はキラキラと輝いていた。


「ではセレスタン君、この子は一旦預かろう!!!妹さんにも話を通さねばな!!」


「……呼んで来ます!少々お待ちください!」


 ピューッと校舎にダッシュする。

 残された者達は…



「……わお、ムキムキ」


「みゅふんっ」


 犬の筋肉を堪能していた。



 それと同時に、校舎内から一部始終を見ていた者がいた。

 校舎もイベント会場の一部になっているのだが、それは屋上などの外側だけ。内部はトイレ等使用する為に決まった通路から立ち入り自由。



「ひー!!急がなきゃ、走れー!!…わあっ!?」


「っと」


 高速で着替えたセレスタンは廊下を爆走していた。

 しかし曲がり角で誰かとぶつかりそうになってしまった。


「でっ殿下!?ご機嫌よう、急いでいたもので…」


 それはルシアンだった。周囲には誰もいない。

 彼は特に気にした様子もなく…彼女の顔をじっと見る。


「…ラサーニュ嬢の目は灰色と記憶していたが」


「…………」


 急ぎすぎてカラコンを付け忘れたようだ。

 おほほと言いながら後退る。


「し、思春期ですので…これにて失礼っ!!」


 不敬とか言っている場合ではない。踵を返して生徒会室へ戻る。


「…言い訳にもなっていないじゃないか…っ」


 ルシアンは廊下の隅で腹を抱えた。




 ※




「はあ、はあ、はあ。お兄様から、聞きました。許可して頂き、ありがとうございます、わ」


「うむ!!!細かい打ち合わせをしたい、いいかな!?」


「もち、ろん、です」


 何度も校舎を行き来し怒鳴り合い、彼女はヘロヘロだった。


「クザン先生、ご心配くださり、ありがとうございます」


「…何故兄はいない?」


 分身は出来ないからです、と言い掛けてやめた。


「おほほ…兄は…少々お手洗いに…」


 なんとも苦しい言い訳だが、無理矢理納得させる。

 魔術師団で特注の首輪を作っている間に、学園で飼育環境を整える。生徒を混乱させない為、魔物とは言わずただのデカい犬で通す。


「無理だろう」


 断言された。なので精霊で通す事にした。



「うむ!!黒いしな、闇の精霊とでも言えばよかろう!!」


「大丈夫でしょうか…?」


「団長、黙ってくださいね。

 闇の精霊は特に謎が多いからね、皆納得すると思うよ」



 こうして魔物ライラプスは、男子寮の一部で飼われる事となった。


「セレスタン君と話を…」


「呼んで来ます!!!」



 またまた校舎に走る。ここまで来ると…大人達は不審に思った。


「なんで一緒に出て来ないんでしょうか…?」


「喧嘩中かしら…?」


「はっはっはっ!!」


「…………」


「みゃあ」




「ひーーー!!もう疲れたよー!!何この校舎、無駄に広い!!」


 着替えてからダッシュするセレスタン。すると…


「…………」


「わあっ!殿下!?」


 またもルシアンと遭遇。なんなのこの人、暇なの!?と内心悪態をつく。


「……………」


 彼は何も言わない。ただじー…と、セレスタンの胸元を見る。

 不審に思い見下ろすと…サラシをし忘れていたせいで膨らんでいた。


「!!!!…あはは、蜂に刺されちゃって…失礼っ!!!」


 一瞬で顔を沸騰させて、生徒会室へ走った。その背中を見送るルシアンは…



「…馬鹿者が」


 同じく、顔を真っ赤にしているのであった。



セレスタンの前髪事情:

バジル、グラス、ルネ、カリエ、ルキウス以外誰もいない場合。前髪を上げて眼鏡を外している。

皇族等めっちゃ偉い人の前に立つ場合。前髪は上げて眼鏡をしている。

それ以外。前髪を下ろして眼鏡もしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ