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皇国の精霊姫  作者: 雨野
日常編
33/102

アカデミー2年生 04



「…セレス。それ、重くないか…?」


「?いえ全然」


 ランドールの問いに、ほれほれと振り回してみせる。トリオは顔を見合わせて…


「ちょっと…貸してくれないか?…おっも!?」


 ルキウスに言われ刀を渡す。すると彼は両腕で抱えて、足を広げて踏ん張って受け止めた。


「えええっ!?ルキウス様!?」


 慌てて奪うもやはり軽い。訳が分からずセレスタンは首を傾げる。ルクトルの説明によると。



 それは数十年前に箏の親善大使がこの国を訪れた際に、贈られた刀という武器。

 何故贈られたのか不明だが、この刀には不思議な力が宿っているという。

 箏の武器には魂が宿る事がある。優れた鍛冶屋の作品に、稀に現れるという現象だ。

 そして自我を持ち、持ち主を己で定める。この刀は恐らくそれ、由来を聞いたセレスタンは感心しながら刀を見る。


 ここからはルキウスが言葉を引き継いだ。この刀は持つ者によって重さを変化させるという。老若男女誰が持っても、「振り回せないがギリギリ持ち運べる重さ」に感じるらしい。



「私がまだ幼い頃、初めて手にした時…重すぎて振れなかったのが悔しくてな。

 数年後再び挑戦したのだが、また同じ結果だった。明らかに筋力は増えているのにも拘らずだ。恐らく、持ち主として認められていないのだろう」


「へえ…?」


 なんか…「使わせはしないが、世話はさせてやる」という意思を感じるなあ、とセレスタンは思った。


「しかも誰も鞘から抜けず…」


「お、綺麗な刀身」


「「「えええーーーっ!!?」」」


 全く話を聞いていないセレスタン。すらっと抜刀すれば、美しい銀の刀身が姿を現した。


「ん…?片刃剣か〜………なんで僕は普通に持てるんですか?」


 彼女は反応がワンテンポ遅れている。トリオは脱力しながらも、恐らくセレスタンが持ち主に認められた…と説明した。

 それを聞き、自分なんかが…?と目を丸くした。嬉しいけども、なんで?という考えに支配される。



「…判断基準は分からない。ただ…この剣は君を選んだ。よかったら貰ってくれないか?見ての通り、扱える者がいなくて端に追いやられていたんだ」


 ルキウスが穏やかに微笑みながら言う。セレスタンは戸惑ったが…この刀に惹かれたのも事実。選んでもらえたというのなら、断る理由は存在しない。


「……では、こちら有難く頂戴致します」


 鞘に戻して、ぎゅっと抱き締めた。自分の、自分だけの宝物。



 上機嫌で足取り軽く外に出ると、バジル達が声を掛けてきた。見て見て〜!と自慢する。バジルに手渡してみると「おんもっ!!?」と驚愕していた。


「なんですかコレ!?今普通に持ってませんでしたか!?」


「いやあ〜。凄いでしょ!」


 ひょいっと持ち上げるセレスタンに、誰もが目を見開く。ただ…グラスだけは、刀を訝しげに見ていた。どうしたの?と訊ねても、なんでも…と返すばかり。


「…あ!これってね、箏って国の物なんだって。グラス、何か知ってる?」


「………ソウ?………???」


 グラスは顎に手を当てて考え込んでしまった。無意識に漢語を呟き、刀にも反応を示す。彼はそちらの国の人ではないか、とセレスタンは推測する。

 しかしこれ以上は何も分からなそうで、折角だから刀を振ってみよう!という話に。ハーヴェイに案内され、全員で騎士の練武場を目指す。




 ※




 騎士達に歓迎されつつも、邪魔にならぬよう敷地の端っこで抜刀した。遠くから興味津々の騎士達が様子を見ているが、気にしないよう努める。


「集中集中…よお〜し!…どうやって握るのかなコレ?」


 とりあえず、普段と同じ握り方をしてみる。その時…刀身に何か刻まれている事に気付いた。



『魅禍槌丸』



 図形のような、文字のような。見た事がない形に、ルクトルに助けを求めた。


「…これは漢語ですね。しかし…うーん、ごめんなさい。難しくて読めません」


 一応グラスにも聞くが、読めそうで読めないと言う。辞書で調べるか〜と諦めるセレスタンの脳内に、誰かの声が響いた。



魅禍槌丸(ミカヅチマル)


「ん?ミカーディナル?」


【…ミ カ ヅ チ マ ル】


「ミ…ミカ、ディエル?」


【………ミカでよい】


「ミカね!あなたミカって言うのね!……いや誰?」



 突然独り言を始めたセレスタンに、皆唖然としていた。ランドールの「今誰と話してたんだ?」という問いには「さあ…?」としか言いようがない。本当に頭に声が届いたのだ、精霊との会話に近い感覚だった。


【私はここだ、其方の手の中である】


「…………刀が喋ってます」


「「「はっ?」」」


 皆で頭を捻るも答えは出ない。まあ…不思議な剣だからな!という事で無理矢理納得した。


 切り替えて今度こそ!と思い刀を振ってみる。これでいいのかな?といつも通りに素振りをする。

 30回程振るも、あまり手応えを感じない。次は鍛錬で使う、木の支柱に布を巻き付けた的を相手にしてみる。


「はあっ!!」


 セレスタンは刀を握り締め、全力で右斜めに振った。斬れ味は如何程に!?とギャラリーも固唾を飲んで見守る。



 ヒュッ……トサ…



「……………え?」



 結果…支柱は鮮やかに真っ二つ。気付けば上部が地面に落ちており、音も無くバターを切るような感触だった。

 セレスタンは…刀を見て、支柱を見て、唖然とするギャラリーを見て、もう一度手元に視線を落とす。


「……ミカ、いやミカさん。いいえミカ様…!!」


【やめなさい…】


 今度は優しく横に振ってみた。流石に途中で止まったが、強く振れば言わずもがな。

 こいつぁとんでもねえ代物だ…全員引き攣った笑みで一歩後退った。




 その後色々試すも一切の刃こぼれもせず、目を輝かせるセレスタン&騎士達。慄く皇子&従者コンビ。精霊達は彼女を守るモノが増えて喜ぶばかり。


「これは対人戦闘では怖いね…魔物戦で活躍しそうだよ」


「スタン、今度はレンガ斬ってみねえ!?」


「いいですね!…ん?」


 盛り上がりを見せる中、セレスタンの足元に紙が転がった。どうやら誰かが送ってきたらしい、拾って読み上げると…



『セレスタンへ

 明日、遊びに行ってもいいか?ジスラン』



 ジスランは鬼特訓をやめて以降、必ずお伺いを立ててから屋敷に来るようになった。

 最近のセレスタンは忙しく、彼の誘いも断ってばかりだったが。明日だって皇帝を出迎える為、時間など無いが…

 断るついでに彼のいる寮まで行こうかな、と考える。


「そうだ!ジスランにミカ様を(見せつけて超自慢して、目の前で鉄とか斬れるか)試してこようっと!」


「「待ったぁーーーっ!!!」」


 彼女の発言に、ギュスターヴとジェルマンが青い顔でストップをかけた。


「ジスランがお前にした仕打ちはオレも聞いている、でもやめてくれ!!」


「ごめんね、まだ怒っているのかい!?僕達がよく言って聞かせるから、勘弁してあげて!!」


「………へあ?」


 弟想いの兄2人、必死にセレスタンを止めようと詰め寄る。

 彼女は別に、ジスランを真っ二つにしようとか考えてはいない。ただ…完全に言い方が悪かった。



「単純お馬鹿だけど、良い所もいっぱいあるんだ!!勉強は全然駄目だけど!!」


「剣しか脳がない阿呆だが、一途な男でもあるんだ!!デリカシーねえけど!!」


「そうだ、美味しい物食べに行こうか!!スイーツがいいかな!?もちろん奢るよ!」


「なんか欲しいもんあるか!?綺麗な服でもアクセサリーでも買ってやるぞ!!兄上が!」


「………???」


 可愛い弟を守る為、お兄ちゃん達はあらゆる手でセレスタンを思い止まらせようとする。若干悪口も含まれているが。

 3人以外は皆すれ違いを察しているので、口やら腹を押さえて笑いを堪える。いや、ハーヴェイやランドール辺りは地面を叩きながら爆笑している。



 数分後、漸く勘違いに気付いたセレスタンは…


「そんな事しませんっっっ!!!」


 と、真っ赤な顔で地団駄を踏むのであった。



 ※



 プンスコと怒りながら彼女は皇宮を後にした。髪を下ろして顔を隠して… バジルとグラスと共に学園へ向かう。

 ジスランは突然の訪問に喜ぶも、明日も駄目だと聞いて落ち込んだ。


「その用事は…1日中掛かるのか…?」


「うー…ん…うん…」


「そうか…」


 しょぼんとするジスランに対し、僅かな罪悪感が顔を覗かせる。今度から土曜ならいいよ、と言えば満面の笑み。犬耳と尻尾の幻覚さえ見えてきた。


 刀を自慢すれば、彼は素直に「すごいな!」と褒めてくれた。

 すごいんだよ〜、自我もあるんだよ〜、僕以外持てないんだよ〜!と調子に乗りまくるセレスタン。


「…おいバジル。セレス様にとって、ジスラン様はなんなんだ?」


「う〜ん…幼馴染で、一時期大嫌いになりかけた…友達?」


 グラスは2人のやり取りをイライラしながら見ていた。ある意味ではルキウスよりも、自分よりも距離が近いんじゃないか?と口をへの字にする。


 グラスが観察した感じでは、ルキウスには頼れる憧れの男性を見るような目をしていた。

 シャルロットやバジル、自分に対しては…「僕が守ってあげる!」というお姉さんぶりたい思惑が見て取れる。

 ジスランに対しては…対等な、迷惑を掛けてもいいような相手。と言う風に思える。



 はしゃぐセレスタンとジスランを眺めながら。グラスは拳を握り締めていた。




 ※※※




 屋敷に帰り、バジルはシャルロットの元へ向かった。

 セレスタンは部屋でグラスと2人きり(正確には精霊達もいるが)になり、刀を膝に乗せて対話を試みる。


「ねえねえミカ様、どうして僕を選んでくれたの?」


【…………刀匠の好み、とだけ言っておこう】


「鍛治職人の?ふうん…?貴方はなんでも斬れるの?」


【大概のものは。扱いには注意せよ】


「確かに…自分の手足とか斬りそうで怖いなあ。刀の使い方とか教えてくれないの?」


【不可能】


「ぶー」


 これじゃ使えない、宝の持ち腐れじゃん!とブーイング。そのうち箏の文化について調べよう、と考えて刀を置いた。

 顔を上げれば、机に向かって文字の勉強をするグラスがいる。彼の真剣な横顔を眺めながら言葉を放った。



「ねえグラス。多分だけど…君の故郷は箏か、その近隣国だと思うんだよ。

 だからさ。絶対いつか帰してあげるからね。それまでは申し訳ないけど、ここで我慢して…」


「………おれを、追い出すのか?」


「え…」


 セレスタンは彼の為を思って言ったのだが、どうにもグラスの様子がおかしい。読んでいた本を置き立ち上がり、虚な目でセレスタンを見下ろす。


「…おれを捨てるのか」


「捨て…!?しないよ、そんな事!!」


「本当に…?」


 グラスは眉尻を下げて、ベッドに腰掛けるセレスタンの正面に立ち手首を強く掴んだ。


「じゃあ、なんでそんな事言うんだ。おれに、いなくなって欲しいんだろ?」


「違う!ただ…君の居場所は…」


「おれの居場所は、おれが決める」


 グラスは握る手に更に力を込めた。セレスタンは痛みに顔を歪ませるが、声を上げる事はしなかった。



 彼らの間に沈黙が落ちる。グラスは何度も口を開こうとしては、唇を震わせて閉じるを繰り返し。

 最終的に…握りすぎて赤くなったセレスタンの手首を優しく撫でて。頭を下げ無言で退室した。

 セレスタンは呆然と…いつまでも扉を眺めていた。




 部屋を出たグラスは、自分とバジルの部屋に向かった。伯爵の意向で屋敷の業務は手伝えないので、勉強以外やる事は無い。

 彼はここに週末しかいないが、ベッド等家具類は全てカリエが揃えてくれた。自分のベッドに仰向けに倒れて、サイドチェストに手を伸ばす。そこにあるのは、私物のほぼ無い彼の宝物。


 昨年の夏、初めてセレスタンと出会った時。彼女から奪った財布と眼鏡だった。

 財布の中身は使ったが、これだけは大切に保管していたのだ。


「…………………」


 グラスは財布を掲げて、顔の上に持って来た。


「…………お嬢様。セレスタン…セレス。おれは、お前のなんなんだ?なあ…」


 眉間に皺を寄せて、唇を結んだ。目尻に涙を溜めて、流れないよう堪えている。



 初対面からして、印象は最悪だったのだろう。次に会った時だって襲い掛かったし…しかも本気で犯して殺す気で。

 彼女が自分に罪悪感を感じている事は知っている。だからこそ、側においてくれる事も。


 もしもまた彼女を襲おうものならば。深く心に傷を負わせるだろう…その上で、抵抗もせず受け入れるのだろう。

 ふざけ半分で抱き付いたりキスをする程度なら、「こらー!」と怒られるだけで済む。



「……違う。あの時も、本気じゃなかった。た、だ……」



 財布を握り潰して、あの夜を思い出す。



 仲間達が死に絶え、人生に絶望した。

 グラスの一番最初の記憶は、このラサーニュ領に流れ着いた頃。幼いバジルと出会い、教会で暮らし始めた辺り。それ以前の記憶は何故か曖昧なのだ。

 外見年齢からして、グラスは現在16歳前後だろう。そんな彼の始まりは、遠い国。綺麗な服を着て…沢山の人から愛されていた気がする。


 記憶の中の風景。本当に自分がいるはずだった場所。帰りたい…その想いだけでこれまで生きて来た。

 それも限界を迎え、履いていた靴も崩れて脱ぎ捨て、裸足で雪の中を歩いた。

 帰りたい、帰りたい、帰り、たい……

 肌は爛れて、鮮血が雪を染めても尚歩いた。

 遂に力尽き、死を覚悟してゆっくりと目を閉じた。どうして自分はこんな所で、惨めに死んでいくのだろう。そう涙を零す…が…



 自分に近付く足音が。凍りついた頬に触れる温もり。それが全身を包み…そこで意識は途絶えた。


 次に目覚めれば、暖かい布団と立派な部屋。そして…自分を心配そうに見つめる、1人の子供。

 金持ちの道楽か気紛れか、自分は拾われたらしい。なんでもいい、生きているならば。暫く動けない振りをして、隙を見て逃げ出そうと考えていた。

 だが…少しずつ子供、セレスタンと言葉を交わして。以前自分が金を奪った子供だ、と気付いた。思わず見惚れた、金の瞳が美しい子供。残念ながら顔は隠されていた為、すぐには思い至らなかったが。


 セレスタンと親しくなってしまい…自分達を苦しめて来た元凶、伯爵家の人間だと知ってしまった。


 許せなかった。自分達はその日を生きるのに一生懸命で、挙げ句の果てには全員死んでいったと言うのに。

 貴族とはこうやって暖かい部屋で充分な食事を摂り、ぬくぬくと暮らしている。


 最下層の人間が、どんな思いで生きているかも知らないで…!!

 家畜よりも下の扱いをされ、人間の尊厳すらも失っているというのに…!



 ただの子供であるセレスタンを憎むのは間違っている。分かっていても…グラスの憎悪は彼女へと向けられた。



 

 そして、あの夜。眠るセレスタンが女の子だと気付き、益々黒い感情に支配された。

 グラスはもう分からなくなっていた。これ以上ここにいたら…貴族への憎しみと、少女への情が渦を巻き…気が狂ってしまう。


 だからもう…死のうと思った。最期に、この少女だけ道連れにして…

 わざと恐怖心を煽るような発言をして、無様に泣き叫ぶ姿が見たかった。

 抵抗するようなら無理矢理組み敷いて、雲の上の存在である貴族を嬲って。満足したら殺して…自分も後を追う。

 そう思ったのに…セレスタンは一切の抵抗をしなかった。気高く美しい姿…それが腹立たしくて、一層自分が惨めで。苦しめたくて、暴走してしまった。


 なんでもいい、叫べ!おれを憎め!醜い本性を曝してみろ!!偽善者め、お前も所詮自分本位な貴族共と同類なんだろうが!?どうにかして彼女を穢したかった。


 グラスの悲しみを彼女が全て受け止めてくれて…正気に戻れた。

 違う、誰かを傷付けたい訳じゃない。誰かに…知って欲しかっただけ。そんなささやかな願いを思い出し、彼は泣き続けた。




「……何やってたんだ、おれ…!!」

 

 当時を思い出し、両手で顔を覆った。印象が最悪なんてレベルじゃない、人として許されない行いをした…と猛省しているのだ。


 あれから数ヶ月。当初彼女はグラスを恐れる事もあった。特に薄着で迫ったり、急に腕を掴んだりすると。

「びっくりしたー」と誤魔化すけれど。僅かに顔を青くして、一瞬だけ身体を強張らせるのだ。最近はそうでもないが…やはり根底ではグラスに対する恐怖心があるのだろう。


 それも当然だ、自分は愚かな行為をしたのだから…と後悔しても遅い。

 相手は年下の女の子。更に父親から庇い自分のベッドすらも譲り、献身的に看護してくれた恩人なのに。



「ごめんなさい…ごめんなさい…!おれが馬鹿だった、おれが全部悪い。

 それでも…置いて行かないで。側にいて…!セレス、セレス…おれの、大好きな、ひと。ごめん…!」



 グラスは枕に顔を埋めて泣いた。今更許しを乞うなどと、出来るはずもないが。

 彼女の為ならなんでもするし、死ねと望むのならばそのように。

 だから…見捨てないで、一緒にいて。もうこれ以上、家族を失いたくない…!



 この日は泣き疲れて眠ってしまう程、懺悔を繰り返すのであった。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] ほんとモラハラかDVしかいないな、レディコミかよ これがただのラブコメだと思い込んでるなら、正気ではないね 正直人格形成が歪みかねない作品なので、制限のある場所がふさわしいよ
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