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皇国の精霊姫  作者: 雨野
日常編
29/102

アカデミー1年生 28



「好き…?ルキウス様が、僕…を?」


「そうだ。いずれは君を皇太子妃として迎えたい…そう願っている」


 聞き間違い…だなんて思える程セレスタンはお花畑ではない。それでも何度も何度もその言葉を噛み砕いて…ようやく理解が追い付いた。



「…………!!!?」


 その瞬間、ルキウスに負けず劣らず真っ赤に茹で上がる。


「や、いや!僕は男です、まさか本当に少年趣味がお有りでしたか!?」


「それは…今聞き捨てならない発言が無かったか!?妃と言っているだろう!

 違う、断じて違う!!その…私は君が女性だと知っている!!」


「………へ…」


 ルキウスは立ち上がり、彼女の両肩に手を置いた。

 見下ろされるセレスタンは…目に涙を浮かべて震えてしまった。



「……ご、めん、なさ…い…」


「え…」


 ルキウスは絶望した。長期戦の覚悟だったが…ここまで拒絶されるとは思っていなかったのだ。


「(泣く程…私が嫌なのか…)」


「う…嘘ついてて、ごめんなさい…」


「(そっちか!)」


 伯爵は…出生届の時点で虚偽を国に申告しているのだ。彼女の意思ではないにせよ、何かしらの罰を下されるだろう。

 セレスタンはそう考えて…謝罪を繰り返す。


「ごめ、なさい!申し訳ございません…!!あの、僕は…いや、わたし、は…!!」


「落ち着きなさい!ゆっくりと呼吸をしなさい!」


「違、わたし、は!騙したかった訳っでは、なく!う…ああ、ぁ…」


 ルネに気付かれた時も、これ程動揺はしなかった。それはやはり相手が皇太子…次期皇帝陛下であるからだろう。パニック状態に陥ってしまった。


「……!」


「ひゃあっ!?」


 ルキウスはセレスタンを抱き締めた。強く、他に何も考えられないように強く。



「い…痛いです…苦しい、です…」


「……落ち着いたか?」


「はい…ごめ」


「謝るな」


 落ち着いても彼は離そうとしなかった。彼女の後頭部と腰に手を回して、耳元で囁く。


「忘れたのか?君が何をしても決して怒らないと言った事を。私は出来ない約束はしない、約束は守る。絶対だ」


「う…ぅぅ…」


 セレスタンはそのままポロポロと泣き出した。彼の背中に手を回して、全身で温もりを感じる。




「(どうしてこんなに優しくて素敵な男性が…僕なんかを…。すごく嬉しい、筈なんだけれど。僕は…彼を男性として好き…なのかな?うーん…)」

 

「…もう大丈夫か?」


「は、はい。お手数お掛けしまして…」


 彼らは中庭のベンチに並んで座っている。ルキウスはセレスタンの手を離さず、顔を覗き込んだ。


「それで…返事はどうだろうか…?」


「あ……」


 正直なところ、今は愛している訳ではないけれど。これまでの彼の事を思うと…きっと、好きになる。愛し合える…と感じた。

 だが…セレスタンは手をぎゅっと握り、俯いてしまった。



「……わたし、は…ラサーニュです。いずれ…ラサーニュ伯爵として生きるんです。ですから…貴方のお気持ちに、応え、応……え…ら…」


「……………」


 ラサーニュ領の現状を知ってしまっては。領民を放ってはおけない…国や他者に全てを投げてしまう訳にもいかない。

 自分が。伯爵の子として。責任を持って。親の後始末を、しなくては。


 セレスタンはルキウスに語った。推測も含まれているが、自分が男装をしている理由。

 詳しくは語れないが…父親にラサーニュ領は任せられない、と感じている事。自分なら上手くやれる、とも思わないが。頑張らないといけない…そう決意した事。

 それに、シャルロット。父親の負債が妹に向かってしまう可能性だってある。それなのに…自分だけ幸せになんてなれない。

 ルキウスは静かに聞いていた。そして…


「(今彼女を否定しては、きっと壊れてしまう。君じゃなくていい、誰かに任せれば良い。そんな言葉は…追い詰めてしまう)

 では…君は、ラサーニュ伯爵になるから。皇太子妃にはなれない…そういう事か?」


「……………はい」


「そうか…」


 ルキウスはそこまで聞いて…目を細めて軽くハグをした。

 お断りしたのに…どうして嬉しそうなの?とセレスタンは困惑気味。


「…断られる理由が私でないのなら、いくらでもチャンスはあるんだろう?」


「え………っと……?」


 今は、それでいい。そう考えて立ち上がった。彼女に背を向けて言葉を発する。



「数年以内に…貴族社会が大きく変わるだろう」


「え?」


「そうなった暁には。君にはいくつかの選択肢が現れる筈だ。今はそれ以上語れないが…その時が来たら。

 私はもう一度、君に求婚をしよう。どうかそれまで…私という男を頭の片隅にでも入れておいてくれると嬉しい」


「……!いいえ、わたしの事なんて忘れてください!貴方は本当にわたしなんかには勿体ない、素敵な男性です!もっと相応しい女性がいます、だから…!」


「私は君を愛している。

 皇后の公務に不安があるのなら問題無い。君は優しく努力家だ。昔学園をサボりまくっていたという母上すらも、今は立派…に…すまない、忘れてくれ。

 ルクトルも、ランドールも味方だ。アラニウスだって…騎士団も馬達すらも君を愛おしく思っている。父上も母上も…絶対に喜んでくださる」


 断言されてしまい、セレスタンはそれ以上言葉が出なかった。ルキウスは「最後に。伯爵を糾弾する気はないんだな?」と訊ねた。彼女が「………今は」と答えると、ルキウスは眉間に皺を寄せてため息をついた。


「それと…私の卒業後の君が心配だ。なのでルクトルには事情を話す、いいか?」


「う…もし…断ったら…?」


「父上に全部話す。そして皇太子の権限で君を攫う」


「ひえ!?お、お話くださーい!!」


「(そんな権限ある訳ないだろう…)」


 素直すぎるセレスタンがかなり心配だが、彼は校舎に入って行った。



 セレスタンは夢見心地だったが…頬を撫でる夜風が現実だと告げている。

 ルキウスの上着を握り締め、心臓の高鳴りは治らず。もしも…と考えた。


 

 何も知らなかった自分なら…求婚を受けたかもしれない。彼に助けを求めて、楽になりたいと思ったかもしれない。

 だが今は違う。領民の為、自分は働かないといけない。だが当主にはなるが…もう父親の言いなりになる気はなかった。好きでもない男性の子を産むのも、女性を娶るのも。

 

 自分は生涯独身でいよう。子供はいずれ養子でも迎えればいい。父親が何か言ってきたら…黙らせるのにセレネにも手伝ってもらおう。そうやって、少し前向きになっていた。



「だから…彼の事は受け入れられない。今度会ったらちゃんと言おう。僕の事は忘れてくださいって」




 そして彼女は愚かにも…未だ父親を心の何処かで想っていた。

 領地が散々なのは、父親に経営能力がミジンコ程も無いだけ。きっと他人の口車に乗せられて、何も考えずに適当に生きているんだろう…と。

 若干貶している気もするが…いずれ罰を受けて貰いたいと計画しているが。それでもやはり、誰かに唆されているだけ…そう信じたいのだ。


 しかし彼のせいで多くの子供達が不幸になったのは事実。今は路頭に迷う人々を保護しながら、証拠を集める事にしている。いつか罪を詳らかにする為に…



 彼女は長い間家族の愛情を渇望していた。その所為で…家族や領地を切り捨てて、ルキウスの手を取る事が出来なかった。

 特に可愛い妹には。何も知らず…幸せに結婚をしてお嫁に行って欲しい。それが彼女の願い。


 父親の罪は。全て自分が背負うから…




 嬉しい気持ちと悲さが入り混じり、彼女はトボトボと寮に帰る。




「…ふーん。まさか…スタンが、ねえ…」




 2人の会話を聞いている者がいた事に、どちらも気付いていなかった。




 ※




「……ん?」


「ん…ルキウスか」


「ランドール…」


 ルキウスはその足で生徒会室に向かった。そこには先客、ランドールが。彼は暗い部屋の中で窓の外を眺めていた。ルキウスも並んで無言の時間が流れる。



「……告白したのか?」


「…プロポーズしてきた。………断られた」


「そうか。………私も断られた」


「「………………」」



 実は…ランドールにも想い人がいた。しかし相手は教師で11歳年上。昨年から何度も告白をしているのだが相手にされず…卒業し教師と生徒ではなくなったので求婚したが、惨敗。


 しかし相手はランドールを嫌っている訳ではない。若い彼の時間を奪いたくなかったのと、もう1つ。


「俺のように…先生に告白する生徒はこれまでにいたらしい。だが全部遊び半分で、卒業したら誰一人連絡を寄越さなかったと。

 だから…俺の事も信じきれないって…。俺は何度でも想いを告げる。本気なんだと分かってもらえるように…」


「……私だって。諦めるつもりは毛頭ない。今日の事で私を男として意識してくれたはずだし…だ…が……」


「「はあぁ……」」



 それ以上、どちらも言葉を発しなかった。最後に「またな…」と挨拶をして、それぞれ自宅に帰る。





 ルキウスはフラフラと自室に向かった。途中柱や壁やら人間やらにぶつかりながら進む。どうやら…自分で思っていた以上に告白のダメージを受けていたようだ。


「どうしたんだ、ルキウスは…?」


「晴れの日なのに…」


「失恋でもしたのかしら?」


 ルシファー大正解である。夕飯も食べずに家族に心配されながらも、ルクトルを部屋に呼んだ。

 セレスタンの事を説明すると、かなり驚いていたが必ず彼女の力になると約束した。


「それで…告白を…お断りされたのですか…」


「………………」


 弟に追い討ちをかけられたルキウスは…のっそりと布団に潜る。ルクトルは静かに退室し…使用人にルキウスをそっとしておくよう言っておいた。



「……あ。眼鏡…持って来てしまった…」


 胸の辺りに硬い物があり、彼女の眼鏡を取り出した。それを眺めながら…唇を固く結んだ。




 ※※※




「…という訳で、全部聞きました。兄上は今朝は普通でしたけど、昨日は抜け殻になってましたよ」


「う…」


 次の日。早速ルクトルに生徒会室に呼び出されたセレスタン。彼女も考え過ぎて眠れずにいたので隈が酷かった。

 ルクトルと色々打ち合わせをして…部屋を出ようとしたら。


「あ!以前の***ですが…」


「わかったんですか!?」


 グラスが寝言で繰り返していた単語。彼女は期待に満ちた顔で迫った。


「はい。同じ発音でも、言語で意味が違いますが…多分…『帰りたい』が有力かと」


「帰り…たい?」


「はい。これはオオマキラ大陸で広く使われている漢語です。大国(ソウ)を始め、周辺諸国の母国語になります」


 帰りたい。




『……帰りたい。帰りたい…帰りたい……』




 セレスタンはあの日の夜を思い出し…拳を握った。



「…ありがとうございました。お礼は必ず」


「いえ、そんな…何があったのか知りませんが。1人で抱え込まないでくださいね…?」


「……ありがとうございます」


 深く礼をし、今度こそ部屋を出る。




 グラス。異国の少年。彼がこの国に来たのは、セレスタンの所為ではないけれど。



「いつか必ず。貴方を本来の居場所に帰します…!」



 オオマキラ大陸…箏…ルクトルから貰った情報を胸に、彼女は脇目も降らず歩き続けた。



セレスタン、現時点でのルキウスの評価。

顔が怖い。エロい。手が早い。意地悪。格好いい。なんかいい匂いする。優しい。好きかもしれない←New‼︎



ちなみにジスラン。初恋の少年として思い出に押し込まれている。


次回、2年生に進級します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 二人共告白失敗、あきらめはしないようですが。セレスの正体に気づいたのがまたひとり、絡んでくるのでしょう。
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