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皇国の精霊姫  作者: 雨野
日常編
28/102

アカデミー1年生 27


 始業式前。セレスタンはルネに挨拶をして、教室の隅で内緒話をする。


「あのね…バジルにバレちゃった…」


「………はい?」


 ルネがギロリとバジルを見る。バジルは視線を受けて、赤い顔を勢い良く逸らした。

 問い詰めたい気持ちを抑えて深呼吸。そこへセレスタンは言葉を続けた。


「あとね、僕生徒会室行きたいんだけど…怖いから、ついて来て欲しいな〜って…駄目?」


 ルネは快諾し、式後揃って向かった。

 セレネと天使達は寮でお留守番。何かあったら名を呼べば、駆けつけてくれるとの事。


 廊下を歩きながら雑談する。


「そういえばロッティがね、新しい生徒会役員に選ばれたんだ!」


「まあ、おめでとうございます!」



 この学園の生徒会は、現生徒会長と顧問教師の指名により役員を選出する。

 1年生を除く全学年から2人ずつ。1年生はこの時期に選ばれて引き継ぎをし、2年生になってから本格的に参加するのだ。

 そして5年生から生徒会長。もう1人の5年生と、4年生から1人副会長が選ばれる。

 つまり現在、生徒会長はルキウス。副会長はランドールとルクトルだ。次の会長はルクトルだろう。


 大体成績と教師の評価で見るので、シャルロットが選ばれるのは当然とも言える。


「もう1人はどなたですの?」


「マクロン様だって」


「ああ…確かに適任そうですわね」


 それとパスカル・マクロン。成績も素行も良いので、これまた当然の流れだろう。彼がいなければルネだったかもしれない、エリゼは無いだろうが。


 だが…セレスタンはパスカルが苦手だった。品行方正で端正な顔立ち、侯爵家嫡男という地位。

 言葉を交わした事はないが…どことなく怖いのだ。まあ関わる事もあるまい、と考えるのをやめた。



「失礼致します。1年生のルネ・ヴィヴィエとセレスタン・ラサーニュです」


「ひえ…躊躇わない…!」


 ルネがノックすると、すぐにランドールが開けた。2人を招き入れ、ソファーに並んで座る。



「どうかしたのか?」


「あの…僕です」


 ランドールを押し退けて、ルキウスが正面に座った。セレスタンは苦笑しながらも用件を伝える。


「ルキウス様。ルクトル殿下。ランディ兄。その…プレゼントありがとうございました!すっごく嬉しかったです。お姉様や近衛騎士団の皆様にもいずれお礼に行きますね!」


 ぺこりと頭を下げるセレスタンを、皆が穏やかに笑いながら見つめる。彼女の頭を撫でながらどういたしまして、改めて誕生日おめでとう。と言葉を贈る。

 ルネは「お誕生日だったんですか!?」と驚いた。次は自分も祝いたいと言う。


 お茶をご馳走になったり、冬期休暇の出来事を話したり。セレスタンが暗い顔になってしまったので、すぐお開きになったが…


「あ…そうだ、ルクトル殿下」


「なんですか、セレスタン君?」


 部屋を出る前に彼に声を掛けた。ルキウスとランドールが悔しそうな表情をするので、ルクトルは勝ち誇った顔を見せた。


「あはは…その。***って言葉…分かりますか?」


「……?うーん…ちょっと待ってくださいね」


 セレスタンは以前、グラスが呟いていた言葉がずっと気になっていた。なので外交関連に強いルクトルなら…と思い相談する事に。

 彼は発音を書き記し、調べてみますねと笑った。セレスタンはそんなお手数をお掛けする訳には!と言ったが、いいからいいから、と返されては何も言えない。


 再度お願いして生徒会室を出て、ルネとも別れて寮に向かう。




 実は…ルキウスには、セレネと契約した事を伝えようと思った。

 本来なら皇室、国に報告すべきだろうから。でも目立ちたくない…いつか言おう!とやめたのだ。

 ただルキウス達は子犬形態のセレネを目撃しているらしい(バジル談)。なので顔を合わせたら、その時こそは打ち明けるかもしれない。

 実は狼形態でも生徒会トリオはエンカウントしているが、狼=子犬=フェンリルとは結び付かない。



「ただいまー」


「おかえりシャーリィ!」


「「「お帰りなさいませ、我が君」」」


 部屋に戻るとセレネと天使ズが出迎える。ガブリエルが主になってお世話をしてくれて、セレスタンはなんだかむず痒い。


 夕飯も入浴も済ませて机に向かう。彼女はまだまだ勉強が足りない、と気合を入れる。

 今までも将来当主になるのは確定だったが…心のどこかで逃げようとしている自分がいた。


「もう甘えるのはやめる。どっちにしろ次期伯爵は僕しかいないんだから…領民を笑顔に出来る伯爵になるんだ…!」



 その様子に精霊達は、何も言わずに寄り添った。ただ…膝の上に座るセレネを撫でながら。


 ふいに「なんで僕…ロッティにもセレネの事で嘘をついたんだろう…?」と考えた。

 ルキウス達のように、言おうかな〜とすら考えなかった。最初からその選択肢は無く、誤魔化す事しか考えていなかった。天使達に関してもだ、なんで…?

 領地経営についてだって、彼女の意見を聞いたほうがいい。優秀な彼女なら有益な意見をくれるだろう。なのに…頼ってはいけない気がしたのだ。



 ペンを落とし、呆然とする。大切な愛する妹なのに。

 どうしてそう思ったのか、理解出来なかった。答えは出ないまま時間だけが過ぎ…ついには朝になってしまった。



 で、当然。

 


「ゲルシェ教諭!!セレスがーーー!!!」


「新学期早々…」


 医務室送りになりましたとさ。




 ※※※




 セレスタンは今まで以上に勉強に力を入れて。毎週領地に帰ってはグラスのスキンシップを躱し、教会を見に行って。学園では特に大きな事件も無く三学期を過ごしていた。


「ランディ兄達も卒業ですね〜…」


「お前と気軽に会えなくなるなあ。俺は卒業後宮内省に就職が決まってるから、皇宮に来たら顔を見せてくれよ」


「行ったら…ね…」


 ルキウスとランドールは生徒会を引退した。卒業式まであと半月、5年生は授業もほぼ無い。それでも2人は学園にちょくちょく顔を出している。

 現在彼らはセレスタンの自室にいる。ルキウスが押し掛けようとしていたので、ランドールも見張りと称して付いて来たのだ。精霊達は隠れている。


「それで、ルキウス様。僕に何かご用が…?」


「………………」


 ルキウスは眉間の皺を深くして薄っすらと頬を染めた。セレスタンは「この表情は怒っていない」と今は理解しているので、怯える事は無かった。


「…………卒業式の、後。話があるから…時間をくれないか?」


「え…もちろん構いませんが」


 今ではダメなのかな?と思いつつ承諾。それを言いたかっただけらしく、すぐに帰って行った。



「おいルキウス。お前…何言うつもりだ…!?」


「…………さあな」


「さあって…」


 長い足で早歩きをするルキウス。その表情、声色からランドールは何かを察した。


「……あの子は男だぞ?」


「……………………」


 ルキウスは何も答えず、馬車に乗り込む。



 彼は帰って早々自室の人払をして、着替えもせずにベッドに仰向けになった。


 目を瞑り思い出すのは…初めてセレスタンと言葉を交わした日。彼女の歌声を聴いて、声を上げて泣く姿を見て。倒れそうになって…思わず飛び出してしまった。すぐに女性だと気付き、刻印も確認した。


「……刻印持ちである事も父上に報告して。皇太子の権力やらを全て活用して…彼女と婚約を交わしてしまうべきだったのだろうか…?」


 誰が答えてくれる訳でもないが、口に出さずにいられない。今になって…そうするべきだったのではないか、と考えてしまう。

 あの時は、ここまで好きになってしまうとは夢にも思わなかった。距離が近付くにつれて、彼女の内面を知っていって。

 屋敷に行った時の可愛らしいダンス。ハーヴェイの…「働き者で優しくて可愛くて、馬にモテモテで。女の子だったら嫁に来て欲しかったっす〜」という発言には飛び蹴りを食らわせておいた。

 少し揶揄うと顔を真っ赤にして逃げる姿は面白くて。自分を恐れる姿には悲しみを覚えた。他の男が彼女に触れていると、胸がムカムカした。


 そして…自分に対して無邪気な笑顔を見せてくれて。もうどうしようもない程に、彼女に惹かれてしまった。



 セレスタンが剣術大会で倒れた瞬間は…目の前が真っ白になった。彼女の細い肩に、ジスランの重い剣が食い込む姿。今思い出すだけでも胸糞悪くなる。



「そもそも…女性として生きていたなら。あんな事にだってならなかったろうに…!」


 次第に怒りは伯爵へと向かう。彼は起き上がり、顔を険しくさせて制服を脱いだ。

 セレスタンが自分の意思で男装をしているなら仕方ない。国や周囲を欺くのは褒められたものではないが…事情があるのだろう、と思える。

 だがギュスターヴの…「女の子だと知られたら、父親に怒られる…最悪殺される、と言っていました」の証言から、伯爵に強要されている事は火を見るよりも明らか。苛々しながら着替えを進める。



 だからこそ卒業式後、彼女と話をする。事情を聞き出し…伯爵の処分を考える。それと…


「…………彼女は…どんな反応をするだろうか…早計だろうか…だが卒業しては機会が…」


 不安と期待が入り混じり落ち着かない。部屋の中をウロウロ行ったり来たり、ブツブツ呟く。鏡に向かってキリッとしてみたり。

 結局夕食の準備が整った、とメイドが声を掛けるまで。奇行を繰り返すのであった。




 ※※※




 時間は流れて卒業式。セレスタンは、僕もそろそろ2年生か〜と上の空。

 別れを惜しむ先輩はルキウスとランドールだけ……だったっけ?と首を傾げた。


「お前、オレの事忘れてない?」


「…………ジェルマン様!いや〜、ご卒業おめでとうございます!」


「今一瞬誰だコイツ?って思ったろ」


 シャルロットは生徒会メンバーとして別行動。式終了後、セレスタンに声を掛けた青年。

 名前をジェルマン・ブラジリエという…ジスランの次兄である。

 彼は190cmを超える長身に鍛え抜かれた肉体。皇室騎士団への入団も学生のうちから決まっている武人。ちなみに剣術大会で総合優勝した人。

 目を引きやすいはずなのだが…何故か目立たない。容姿も良いほうなのだが、なんだか地味なのだ。例えばかくれんぼをすれば、高確率で忘れ去られるだろう青年。セレスタンも目の前に立たれるまで気付けない。


「はあーぁ…昔絵本とか読んでやったのにーぃ…」


「うぐぅ…!」


 セレスタンは幼少期、ギュスターヴがブラジリエ家を出て…絵本を読んでくれる人がいなくなり、とても寂しそうにしていた。

 それを見かねたジェルマンが、つっかえながらも読んであげたものだ。お世辞にも上手とは言えなかったが、彼女は嬉しくて何度も読んでもらっていた。


「すいません〜…」


「ははは、冗談だ」


 ジェルマンはジスランとよく似た顔立ちで微笑み、彼女の頭を撫でた。そしてまた絵本読んでやるからな!と言い残して去って行くのであった。



「セレス、今誰かと話していたか?」


 そこへ弟ジスラン登場。君のお兄さんだよ…と呆れながら言えば。


「ん?ガス兄上は…………ああ!ジェイル兄上か!!」


「扱い酷いね?」


 と、自分も忘れていた事を棚に上げて笑った。



 卒業式後はパーティーがある。ルキウスは話があると言っていたが…挨拶回りから抜け出せないようだ。


 結局パーティーが始まり、人々の歓談の声がパーティーホールに広がる。音楽が流れてダンスをしたり、別れを惜しんだり。

 セレスタンはシャルロットとルネと踊り、その後はバジルと一緒に隅っこでじっとしていた。


「うーん…ランディ兄とジェイル様にはご挨拶したし。ルキウス様…あり?」


「どうされましたか?」


 会場中を見渡すも、目的の人物がいない。そう思っていたが…



「…ラサーニュ。こっち〜…」


 どこからか自分を呼ぶ声が。2人でキョロキョロすると…いた。出入り口で手招きをするオーバンだ。


「先生、何か?」


「ルキウス殿下が呼んでる、銅像の中庭に行け。1人でな」


 セレスタンとバジルは顔を見合わせた。オーバンがメッセンジャーならば、他生徒の嫌がらせという事はあるまい。要求通り1人で向かった。




「…ルキウス様?」


「セレスタン…」


 ルキウスはすぐに見つかった。ルシュフォード像の前に佇み、セレスタンを優しく見つめる。


「来てくれてありがとう」


「いいえ…抜け出してよろしいのですか?」


「ああ」


 ルキウスはセレスタンに自身のジャケットを羽織らせた。確かに寒いと思っていたので、思わず頬が緩んでしまう。

 ただ後輩を思っての行動なのだろうけど…女の子扱いされているみたいで嬉しい。温かい…いい匂い。そう考えて微笑む。



「………………」


「?」


 しかし彼の様子がおかしい。呼び出しておいて言葉を発さない。言いづらい事だろうか…?と急に不安になってしまった。


 ルキウスはセレスタンの正面に立った。優しく髪を横に流して眼鏡を取って。素顔の彼女と見つめ合う。

 パーティー会場から人々の笑い声や音楽が聞こえて来るが…空間が隔てられた向こう側のように思える。彼らは今それ程に互いしか見えていない。


 ルキウスの真剣な眼差しに胸が高鳴ってしまう。普段は顰めっ面だし笑顔は極悪人な彼だが、彼女の前だけでは…穏やかな顔を見せてくれる。

 照れくさくて顔を逸らしたいのだが、彼の目に吸い込まれるように動けない。



「……セレスタン」


「は…はい…」


 数分間見つめ合っていたが…ルキウスが動いた。地面に片膝を突き。彼女の両手を取って見上げる。


「な…!ルキウス様、お召し物が汚れてしまいますっ!」


 慌てて立ち上がらせようにも聞かない。寒いはずなのに触れ合っている手は熱くて、心臓の鼓動が激しくなる。


「(なんなのこれ…!どうしちゃったの僕!?)」


 このポーズは…まるで騎士とお嬢様みたいじゃない!?と考えては舞い上がってしまう。そんなはず無いと分かっていても、そういうのに憧れる年頃なのだ。


 

「………だ」


「え?」


 内心浮かれていたが…ルキウスが何か言っているので思考を切り替える。


「…好きだ」


「……………え?」


 彼は珍しく首まで真っ赤になって…握る手に力を込めた。その姿にはいつもの余裕は無く…ひたすらに言葉を紡ぐ。



「セレスタン・ラサーニュ。私…ルキウス・グランツは…君が好きだ。好きだ…ずっと…前から…!」



 彼の必死な様子に、嘘や冗談でない事はすぐ分かった。


 突然告白されてしまったセレスタンは…何を言われているのか理解出来ず。呆然とするしか無かった。



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[一言] 告白されました。返答は如何に。卒業するランディは意中の彼女を捕まえられたのかな。ジェルマンは彼女ができるのか気になりますね。
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