アカデミー1年生 11
ギュスターヴが屋敷に到着した時、門は閉ざされていた。
馬を降り呼び鈴を鳴らすも…無反応。それもそのはず、現在セレスタンは夢の世界だ。
「不在か…?これは殿下にしっかり忠言をせねば」
彼はため息をついた。そうして目的の人物を思い浮かべ、ふっと笑う。
「しかし、セレスは大きくなったかな?最後に会ったのは8歳の時だもんなあ…」
ギュスターヴはセレスタンと数度しか顔を合わせていない。
ほぼジスランのほうからラサーニュ邸に来るし、すでに騎士となっていた彼は昼間家にいない事が多いからだ。
彼が非番の日に偶然、当時7歳の姉妹とバジルはブラジリエ邸を訪問した。そこでセレスタンは、最初はギュスターヴを警戒していたが…次第に彼の笑顔に悪意が無いと分かり、とても懐いた。
『ぎゅ…ぎゅ、ぎゅすたーぶさま』
『あはは、言いにくいかい?ならばガスでいいよ』
『はい、ガスさま。あの…』
『おいで、絵本を読んであげよう』
『………!はいっ』
彼は脳筋勢揃いブラジリエ家には珍しく、成績優秀で文学も嗜む人だった。
だが年の離れた弟2人の幼少期、絵本を読んでやろうとしても…
『オレはけんがいい』
『そとはしってくる!!』
『……あっそ…』
と、すげなくフラれてしまった。その為ギュスターヴの部屋には、新品同様の絵本が数冊眠っていたのだが…
外で走り回るシャルロットとジスラン、それを追い掛けるバジル。3人を眺めるセレスタンに『絵本読むかい?』と声を掛けると、彼女は笑顔で控えめに頷いた。
それからブラジリエ邸で顔を合わせれば、幼児向けではあるが一緒に絵本を読むようになった。どうやらセレスタンは、内容よりも「誰かと読む」という行為が楽しいようだった。
ただ「読んでください」とは言いづらくてモジモジしていると、察してくれるギュスターヴを兄のように慕っていた。
しかし出会って1年程で彼は今の近衛隊に配属になってしまい、首都に住居を構えるようになる。それ以来、2人は顔を合わせていないのだった。
今は子供達も学生だし、今度屋敷に招待してあげようかなと考える。すると…
「…騎士様が、このお屋敷に何か御用ですかな?」
「!!?(な、なんだこのご老人!?まるで気配を感じなかった…!!)
失礼、自分は皇室第一騎士団所属のギュスターヴ・ブラジリエと申します」
すぐ近くに、帰ったはずのカリエが立っていた。ギュスターヴは驚き取り乱すも、即座に挨拶をする。
「これはご丁寧に…儂はラサーニュ伯爵家専属医師のカリエと申します。
ブラジリエと言うと…もしやジスラン様の兄君ですかな?」
「ご存知でしたか。その通り、ジスラン・ブラジリエは僕の弟です。僕自身セレスタンの幼少期は親しくさせて頂いておりました」
ただの平民の医者と、騎士である2人の身分差は明確なのだが…ギュスターヴは丁寧な姿勢を崩さない。
これは彼がルクトルのように、誰に対してもこうな訳ではない。
「(…なんだろう。この人は…敵に回してはいけない気がする…!)」
目の前にいるのは、ただの腰の曲がった老人なのだが…ギュスターヴは動物的本能で悟った。絶対に争ってはいけない相手だ…と。
そんな騎士の考えを知ってか知らずか、カリエは思考する。
ギュスターヴ…確かセレスタンが幼い頃ガス様と呼んで慕っていたという騎士。
彼の姿勢、振る舞いから下心があってこの屋敷に来た訳では無さそうだと判断する。ふうっとため息をつき、長身の騎士を見上げる。
「ギュスターヴ卿。本日は坊ちゃんに会いにいらしたのですかな?」
「はい。本日よりご家族が皆不在で、彼が屋敷に1人と聞き…共に留守番をしようと」
「…どこでお知りになりましたか?」
「……申し訳ございません、お答え出来ません…」
ギュスターヴはスッと頭を下げる。ここでルキウス情報だ…と告げる事は出来なかったのだ。だが…
「…成る程、皇太子殿下ですな」
「!!!?」
ギュスターヴは動揺を隠せなかった。
「ふむ…忠誠心が厚く、勘も良い。儂に対して一切の警戒も解かない…よく鍛えておられる、腕も確かなようだ」
「あ…ありがとう、ございます…」
「…貴方にならば、坊ちゃんをお任せ出来るでしょう。ただし儂は、皇太子殿下は信用しておりません。くれぐれも…あの盗撮魔から坊ちゃんをお守りするよう、お願い致しますぞ」
「はいっ!…ん?盗撮魔???」
彼の発言は皇国民としてギリギリなものであったが、その後の単語が気になってそれどころでは無かった。
カリエは門の鍵を開け、セレスタンは部屋か庭にいるだろうとだけ言い残し去って行く。ギュスターヴは暫くその背中を見送っていたが…切り替えて庭に歩を進めるのだった。
カリエは帰り道、3台の馬車とすれ違う。その一瞬…ルキウスの横顔を確認し。
「…貴方が坊ちゃんを救うのか追い詰めるのか。見極めさせて頂きましょう」
ぶるり…
「っ!?」
「ん、どうしたルキウス?」
「外に何か?」
「い、いや…」
寒気を覚えルキウスは窓の外を見る。だがそこには何も変わった所など無く、気の所為かと安堵する。
「それより、もう到着じゃないか?」
「ギュスターヴ卿が上手く説明してくださるといいのですが…」
2人から非難の目を向けられ、ルキウスはたじろぎながら顔を逸らした。
※※※
ギュスターヴは、すぐにセレスタンを見つけた。だがうつ伏せで寝ているもので、倒れていると勘違いして慌てて駆け寄る。
「わーーーっ!!?セレス、セレスっ!?大丈、ぶ…?」
「…すよすよ」
「…寝て、る…はは、相変わらずのんびり屋さんめ。
…ん?君は、ロッティか?」
苦笑しながら仰向けにし、風邪をひかないようにと自分のマントを掛けた。
それよりも、留守番はセレスタンと聞いていたが…この子はどう見ても女の子だ。女の子向けの雑誌も転がっているし、ならばシャルロットだろう…と判断する。彼は双子の髪色の微妙な違いを覚えていないのだ。
幼い頃の弟達は、ジスランが少し大きいくらいで男女の体格差はほぼ無かった。しかし今のセレスタンは、サラシが緩いせいで胸も若干膨らみ、細い足も見せている。
「ラサーニュ伯爵、一体何を考えている…!?セレスでも許せないのに、女の子を1人で残すなんて!!
しかし伯爵はロッティを溺愛しているはず…どういう事だ?」
伯爵が…いや伯爵家全体が娘だけを溺愛し、息子を蔑ろにしているのは有名だ。
社交界では「素晴らしい娘と無能な息子では仕方がない」と皆口を揃えて言うのだ。
なのでギュスターヴも今回は、伯爵がわざとセレスタンを置いて行ったと憤ったのだが。現在も微笑みを消して眉間に皺を寄せている。
なんとか気持ちを落ち着け…話を聞く為、優しく彼女の肩を揺らす。
「ロッティ、起きて。起きなさい」
「……んん〜…?…あり…ガスさま…?」
セレスタンは眠い目を擦りながら開ける。その金の瞳を見て、ギュスターヴは…
「……え?セレス?
君は…女の子だったのかい?」
「…ん〜…そだよ。でもね…誰にも言っちゃだめ〜…
僕父上に怒られちゃう…家を追い出されるか…殺されちゃうかも」
「え…」
「だから…絶対、秘密なの〜…ロッティにも…バジルにも。母上にも…内緒にしてね〜…」
「え…ちょっ、と…セレス?」
「………すよぉ…」
彼女はそのまま再び目を閉じた。ギュスターヴは再会と同時にとんでもない秘密を知ってしまい…混乱の極みに達してしまった。
「(え…ど、どういう事だ?女の子って…それじゃジスランの初恋は、実っても良かったんじゃ。
あの子がセレスに一目惚れして、男だという事を思い出して一晩中大泣きしたのはブラジリエ家では有名な話だし。
でも…誰かに知られたら、怒られる…最悪殺されるって…?僕知ってしまったんだけど…この場合、どうすれば…?)」
頭上に大量の?を浮かべながら、セレスタンの髪を撫でる。その時…車輪の音が聞こえ我に返る。
そうだ、殿下!目的を思い出し、今度は強めにセレスタンを起こす。彼女を腕に抱き、ぺちぺちと頬を叩く。
「セレス、セレス!起きなさ……顔が腫れていないかい!?ごめんね、痛かったかな…」
「…?ふわあぁ…あれ、ガス様?お久しぶりですね…どうしてここに…?」
ようやく意識が覚醒した彼女も頭に?を浮かべ首を傾げる。どうやら先程の会話は覚えていないようで…ギュスターヴは頭を抱えた。
「…って、今はいい!
ごめんねセレス、実は今皇太子殿下と第二皇子殿下がこの屋敷に向かっている」
「………へ?」
「それとナハト、アラニウスさん。メイドが3人と料理人が1人。騎士は僕を入れて8人、馬車3台に馬11頭」
「……………なんで?」
「君のご家族の旅行中…こちらにお邪魔する事になって。
理解が追いつかないだろう、本当にごめんね。僕はてっきり、セレスも了承済みなのだとばかり…」
「……………………」
セレスタンはたっっっぷり時間を掛けて、状況を把握して…
「…ふう…………う…うわあああああん!!!じゅんび、準備しなきゃあああ!!!」
「セレスーーー!!?待って、落ち着いてーーー!!!」
慌ててギュスターヴの腕から飛び出し、マントを踏んづけてビタァンッ!!と地面に転ぶ。涙目で起き上がり…玄関に向かってダッシュした。
「わああーーーん!!!玄関…さっきホコリまみれにしちゃたあああああ!!布団も出しっぱなし…どどどどうしよ」
「なんで玄関に布団が!?」
パニックに陥るセレスタンと、なんとか冷静になるよう笑顔で優しく声を掛けるギュスターヴ。
「大丈夫、大丈夫だよ。その為にメイドや料理人も連れて来…」
「りょうり!!!どうしよう、僕1人分の食料しか無いよおおお!!買いに行かなきゃ…そんなにお金持ってないよおおおおおん!!うわああああーーーん!!!」
「こっちで買いに行くしお金出すよ!?」
何を言っても今の彼女には届かない。その時丁度馬車が到着し…ルキウス達が降りて来た。
「さて…ん?なんだか騒がしいな」
「客間!お部屋が足りない、わーーーん!!!」
「あ、ホラ!騎士は交代制で起きてるし…ベッドは4つ、いや2つで充分だから!!」
「それでも足りないもん!!!もう僕のベッド使ってえええ!!僕ソファーでいいからあ!!!」
「絶対駄目!!!」
「あ、馬!!馬のお世話もしなきゃ…!」
「待って!それ掃除用のデッキブラシだよね!?それで馬をどうするつもりかな!!?」
「そうじ!?そうだ、使ってない部屋を換気して掃除して…あああああああん!時間も手も足りないよう!!!」
「僕達も手伝うからあー!!」
「その間殿下達はサロンでお茶でも…お茶菓子買って来る!!!」
「持って来たから!!落ち着こうセレス、ね!?」
「だってだって…ラサーニュ家の代表としてちゃんとおもてなししなきゃ!!父上に怒られちゃうううう!!ひっく…ぅ……うああああああん!!!」
「セレス…ごめんね、連絡しなかったこっちが悪いんだ。ね?君は何も悪くないよ」
デッキブラシを振りかざし玄関の外と中を行き来するセレスタン。ついには限界を迎え、しゃくり上げながら泣いてしまった。暫く優雅なおひとり様生活だと思っていたのに…どうしてこうなった?と考えながら。
その場に膝を突き少女を優しく抱き締めるギュスターヴ。そして…ルキウスをキッと睨み付けた。
光の精霊達も一緒になってわたわたと飛び回っていたが、ギュスターヴの真似をして顔を険しくさせてみた。
そのやり取りを見ていた一行は…
「……兄上の所為ですよ…」
「可哀想に…」
「殿下…あの子を泣かせてばかりですね」
「あちゃー」
「…………すまん…」
上からルクトル、ランドール、プリスカ、ハーヴェイ、ルキウスの発言である。騎士やメイド達、果ては馬達からも白い目を向けられ、彼は大きな体を縮こまらせる。皇太子の威厳も何もありゃしないのであった。
その後セレスタンはギュスターヴが部屋に連れて行き、その間に皇太子一行が屋敷を整える。
「ほら兄上、荷物運びますよ」
もちろん、皇子2人もキビキビ働くのであった。
※※※
「……改めて、いらっしゃいませ…」
「いや、その…すまない」
色々と落ち着いたのは夕方になった頃だった。セレスタン達はサロンにて一息、ルクトルと3人ソファーに座ってお茶にする。
「それで…皆様はどうして我が家にいらしてくださったのですか?本日は父も妹もいませんが…」
「いや…その。お前が4日間1人だと、聞いて…危険なので…一緒に留守番…しようと」
ルキウスは目を逸らしながら答える。そして一番聞かれたくない事を突っ込まれてしまう。
「…………どこでお聞きになられました…?」
「「……………」」
セレスタンの尤もな問いに、プリスカと揃って視線を逸らす。その様子で…セレスタン以外の全員が悟った。盗み聞きか…と。
「…あ、もしかしてロッティかバジルから聞きましたか?ブラジリエ家に連絡が行って、ガス様がお聞きになって…殿下に伝わったとか?」
「……………その通りだ!」
「(おいいいいいいい!!?)」
ギュスターヴは笑顔の下で叫んだ。訂正したくても…ルキウスが小声で「すまない、合わせてくれ!必ず事情は話す」と言うものだから、「実はそうなんだよ」と言った。
ルキウスの立場なら命令する事も可能なのだが…そうしない主君を、ギュスターヴなりに慕っているのだ。後でバジルに話を合わせてもらおう…と、こっそりため息をついた。
その後は気難しい話題は終了し、ランドールやプリスカも座り雑談モードに。
「んでもスタン、いくらなんでも1人じゃ危ねーだろって。強盗とか来たらどーすんだよ」
「む…で、でも僕だって剣や格闘を習ってますもん!護身くらいなら出来ますっ!」
「ほお〜ん?じゃいっちょ勝負といきますか!」
「騎士様に勝てる訳無いでしょうが!僕、友達にだって一度も勝ててないのにい!」
ハーヴェイに連れられ、セレスタンは外に出た。そして庭にて2人剣を構え…何故か試合が始まった。
その場の全員がセレスタンを応援する。精霊達もいつかのポンポンを手に持ち踊る。
「よっしゃかかって来い!」
「んもう、行きますよハーヴェイ先輩!!」
そうは言っても皆、小さくて細いセレスタンがまともに剣を振れるとは思っていなかった。が…
「はあっ!!」
ガキンッ!
「うえっ!?」
開始の合図と同時にセレスタンが斬り掛かる。ハーヴェイは予想よりずっと速いもので、慌てて防御する。
防がれはしたが、すかさず体勢を整え二撃目を叩き込む。キンッ、カアン、ガスッ!という音が周囲に響く。
「…そいっ!」
「あっ!!」
暫く剣戟を振るっていたが、セレスタンが大きく振りかぶったところで剣を下から弾かれてしまった。彼女は肩で息をして、ぐったりと項垂れる。
「…だからあ…騎士様に勝てませんってば〜…」
「いや言っとくけど、最初っから誰もスタンが勝てると思ってねーからな?」
ギャラリーの誰もがうんうん頷いた。むしろ彼女は大健闘…ハーヴェイが反撃する事すら考えていなかった。
皆はハーヴェイが彼女の攻撃を余裕で全て受け流し、疲れ切ったセレスタンが勝手に剣を落とすものだと思っていた。
特に驚きを隠せないのが、女の子だと知ってしまった3人。その中でギュスターヴが口を開いた。
「セレス…君の闘い方は…まさかジスラン仕込みかい?」
「はい。彼にはしょっ中扱かれてました…」
「……扱く、とは?」
彼女は汗を拭きながら、少々不機嫌になりながらこれまでの出来事をギュスターヴに告げる。
「…でね、僕がもう無理!って言ってるのに全然やめてくんないんですもん!思いっきり頬を裂かれて血塗れになるし、吹っ飛ばされて頭打っちゃったし!
……そんなに僕が嫌いなら…もう放っておいて欲しかった…。だからそう言ったら謝ってくれて…こっちから頼まない限りは、剣の特訓もしなくなりました。
もう僕には、彼が分かりません。僕に怖い事や嫌な事ばっかりするくせに、この間は「何処にも行かないでくれ。俺はお前が大切なんだ」とか言って…」
後半は涙目になりながら語った。その話を聞いているうちに…ギュスターヴの顔から笑みは消え、額に青筋を浮かべている。
「…ガス、様…?」
「おかしいね…君の話が正しければ…君達の鍛錬は我々現役騎士と遜色ないものだ」
「へっ!?そうなんですか!?」
彼女の質問に騎士全員が頷いた。
「それを…あの脳筋弟はともかく…身体も出来上がっていない君に押し付けていたのかい?何年も…何度も大怪我をさせてまで…!!」
彼は拳を握り震わせ静かに怒っていた。しかも、初恋の子相手に…!!と、更に燃えている。
ちょっとお仕置きが必要かな…と不穏な言葉を残し屋敷に入る。その様子を見た騎士達は…ジスラン死んだな、と手を合わせるのであった。
「あ、あー…スタン。ジスランってーのは、グラト卿(ジスランパパ)の秘蔵っ子、その才は計り知れず。12歳の現時点で現役騎士にも劣らぬ腕前、10年後には皇国最強と謳われるであろうと噂のジスラン・ブラジリエ?」
「…………ジスランって、そんなに凄いんですか…?」
セレスタンの問いにハーヴェイは大きく頷く。彼女はこの時、ジスランが規格外だと初めて知った。それでも自分が弱い事に変わりはない…と、相変わらず自己評価は低いのだが。
「それとさ、スタンの戦闘スタイル合ってねーよ?お前のソレは大振りで力任せの重量タイプ。小柄で軽いお前は手数勝負のスピードタイプだろー?」
「………何も考えていませんでした…。とりあえずジスランの真似してて…」
「ありゃりゃ。よっしゃ、ここは同じスピードタイプのハーヴェイ先輩が指導してやろう!秘蔵っ子に目にモノ見せてやろーっぜ!」
「え、うええ!?」
そんな2人のやり取りに、他の騎士達も混じって来た。しかし人見知りのセレスタンは、困ってしまってハーヴェイの背にそっと隠れる。
「うえーい、怖え髭面のニーサンは下がりんさい!」
「やかましいわ!俺達だって将来有望な若者の指導してやりたいだけだっての!」
「私もテクニックタイプだし、教えてあげるよー」
「指導係は俺1人で充分でーっす」
自分だけ懐かれているハーヴェイは、他の騎士を煽りまくる。最終的にセレスタンは彼の指導を受ける事になったが…それはジスランのように決して厳しいだけのものでは無く。自分に何が足りないか、武器は何か…正確に丁寧に教えてくれたのだ。
するとたった数時間で、元々基礎の出来上がっていた彼女は大きくステップアップする事となったのである。
※※※
その日の夜。ルキウスに当てられた部屋にプリスカとギュスターヴが集まった。
「で?説明していただけますよね、殿下。アラニウスさんも」
「「…………はい…」」
観念した2人は、全て正直に話した。魔生物を使い盗撮した事まで。
それを聞いたギュスターヴは頭を抱えた。プリスカの独断とはいえ、ルキウスも噛んでいるし…その結果今回の事態を知る事が出来た。諫めるべきなのだろうが…と。
「はーぁ…この盗撮魔め……ていう事は、殿下……見たん、ですか?」
「?何を?」
「……………服の、下を…」
2人は暫く、ギュスターヴの言葉の意味を理解出来なかった。時間を掛けて消化して…プリスカが震える声を絞り出す。
「あ、貴方、は…ご存知、だったのです…か…?」
「………………今日、知りました。元々知っていたら…女の子1人の家に男が大勢押し掛けるなど…止めるに決まっているでしょう」
「「うぐっ…」」
もっともすぎる発言に、2人は何も言えない。そうして3人は自分達の持っている全ての情報を共有し、彼女を守ると決心した。
「それで、殿下。貴方は責任を取る気はあるのですか?」
ギュスターヴは鋭い目でルキウスを見る。セレスタンが女性だと知った上で盗撮し、あまつさえ裸体まで見て。
徹夜で政務を終わらせてまで、こうして屋敷を訪問している。それは…単に皇太子として、先輩としてと言う範疇を超えている。それこそ…男女の情があるのではないか。ギュスターヴはそれが知りたかった。
ルキウスは目を閉じて俯き…静かにギュスターヴを見据えた。
「……ああ、ある。もちろん彼女が望んでくれたら…だが。私は全身全霊で彼女を守り、愛し…幸せにしたい、そう思っている」
「……………………」
暫く両者は睨み合いを続けたが…ギュスターヴが息を吐いた。
「ならば…いいのです。当然ですが、あの子の心を無視した行いだけはやめてくださいよ!」
「勿論だ」
彼はルキウスを信じる事に決めた。すると黙って話を聞いていたプリスカが待ったをかける。
「いえいえいえ。あの子と結婚するのは私です!!」
「「なんで!!?」」
「よく考えてください!!あの子は戸籍上は男性…つまり!!私が合法的に美少女と結婚出来る大チャンスなのです!!!」
彼女は鼻息荒くそう宣言した。
「という訳で、私は明日から全力であの子を口説きますわ。殿下も精々頑張って、少年趣味があると思われてくださいね〜!」
「おいコラ!!」
プリスカはそのままスキップで部屋を出る。彼女は割と本気でそう思っている、が……ピタっと足を止めた。
「………なんてね。あの子はいずれ、女性として世に羽ばたくべきだわ。ラサーニュ伯爵の思惑は読めないけれど…
あーあ…私はいつになったら、理想の小動物系美少女と巡り会えるのかしら〜…」
伯爵に容赦無く殴られている辺り、セレスタンが普段どのような扱いを受けているのかは想像に難くない。だから…ルキウスのような高い身分の男性が彼女を守ってくれるなら。自分もすぐ側であの可愛らしい笑顔を見守れたなら。
それは…とても幸せなんだろう、と…目に涙を浮かべながら微笑むのであった。
「……まあ、一応アタックだけしておこうかしら…」




