アカデミー1年生 09
その後正気に戻ったセレスタンは、ベッドの上で勢い良く土下座した。その行動に彼女以外の全員が戸惑う。
「大変!申し訳ございません!!」
「何故謝る!?私は怒ってなどいない、顔が怖いのは生まれつきだ!」
「「「(自分で言っていて悲しくないのかな…)」」」
なんとか顔を上げるように言うルキウス。だがセレスタンは…皇族に馴れ馴れしい態度をとってしまった。失礼な物言いをしてしまった。部屋着という…見苦しい姿を見せてしまったと考えている。
命じられるがままにゆっくりと顔を上げれば…その目には怯えの色が浮かんでおり、先程までとは違う理由で泣いているのは明白だった。身体も震え、シーツをぎゅっと握り締めている。
「………!大丈夫だ、私は——」
「ひっ!!?」
ルキウスが彼の頭を撫でようと、静かに手を伸ばす。だが…セレスタンは短い悲鳴を上げて、全身を跳ねさせ頭を抱えてしまった。
その様子にルキウスは固まり、行き場を失った手を下げられずにいる。もしや今…殴られると思ったのか?とショックを受けているのだ。
セレスタンはそのまま「ごめんなさい…申し訳ございません…」とカタカタ震えている。
「お兄様…?」
シャルロットが顔を拭きながら声を掛けるも無反応。
「……………私は、少し離れていよう…」
眉間に皺を寄せて落ち込むルキウス。セレスタンはその顔をチラッと見て…
「(やっぱり、すっごい怒ってる…!!どうしようどうしよう、僕の所為で伯爵家全体が罰せられてしまったら…!!)」
と、完全に自分は不敬罪で罰を受けると思っている。トボトボ歩く姿は目に入っていないようだ。
この男ルキウス。顔を強張らせる以外の表情の変化がほぼ無いだけなのである。
不機嫌な時だけではなく、戸惑い・疑問・悲しみ・喜び…様々な理由で皺を深める。ブチ切れている時は、逆にいい笑顔になっているのだ。
彼と付き合いが長い、人柄を知っている人物ならば見分けもつく。更に笑顔は凶悪という、難儀な体質なのだけれど。
それでも先程のように、普通に笑う事も稀にある。本当に、心の底から笑っている時だけ。遠慮も気遣いも緊張も混じっていない純粋な感情。
今のセレスタンには何も届かないだろう…と、ルキウスを始めとした男性陣は離れた。近くにいるのはシャルロットと女性、まだ子供のバジルのみ。
その後精霊がセレスタンにくっつき慰める。「なかないで」「わらって」「こっちみて」と、一生懸命に歌って踊って泣き止ませようとする。
すると…少しずつ、落ち着いてきた。シャルロット達が優しく声を掛ける事で、ようやく普通に戻った。
「あの…本当に、申し訳ございません…」
「いや…怒っていない…」
ソファーに姉妹が並んで座り、ルキウスが向かいに座る。
どうしてあんなに自分を恐れたのか。色々聞きたい事はあったが…ルキウスは口を閉ざす。その代わりに、自分の付き人だという女性を紹介した。
「初めまして、ラサーニュ君。私はプリスカ・アラニウスと申します」
プリスカはニコニコとセレスタンを見つめる。その顔に少し安心して、彼女も控えめに笑顔を返した。
「ラサーニュ君。殿下は怒っていませんからね」
「でも…失礼な態度をとってしまい」
「いいえ、全然。むしろもっと言っても良かったのですよ?」
プリスカはセレスタンの横に膝を突いて座り、優しく説明した。その甲斐あって誤解も解け、部屋内に穏やかな空気が戻ってきた。
それから少し雑談をしルキウスは帰る事に。伯爵の娘自慢だけで2時間程使ってしまったので…大分予定が狂ったようだ。
先に皆は外に出て、セレスタンは急いで着替える。まだ部屋着のままなので。
「あれ、どしたん?」
ハーヴェイと騎士数名が馬を迎えに行くも…なんだか反抗心が見え隠れしている。一応手綱を引けば言う事を聞くが、どことなく「あーはいはい、分かりましたー」と言っているようだ。
「いやあ、今回はあまり時間が無くて残念です。どうぞまたいらしてくださいませ!」
「…………………」
伯爵は笑顔でルキウスを見送る。今にも揉み手をしそうな顔で、今度は最高級のお茶をご用意致します!と次があるかのような物言い。すでに親戚にでもなったつもりなのだろうか。
ルキウスは怒りを覚えているが…今回は何もしない。代わりに怖い顔で睨み付ける。
「伯爵」
「はい!なんでしょうか?」
「………あまり私を見縊るな」
「え…そ、そのような事はございません!!ああ、何かお気に触る事でも!?もしや息子が失礼を!?申し訳ございません、優秀な娘と違ってなんとも愚鈍な子供で」
「私が会いに来たのはセレスタンだ。子供の名前も分からないのか?」
「な!?いえしかし、アレに殿下が目を掛けるような特別な何かはありません!それよりやはり娘が…」
伯爵はルキウスのご機嫌をなんとか取ろうと必死だ。ルキウスは言い訳を聞き流しそれ以上何も言わない。
そこにセレスタンが走って来て「遅くなってしまい、申し訳ございません」と頭を下げる。
その姿に…伯爵は「遅い!!」と怒鳴りつけようとしたが、ルキウスの視線に気付きやめる。どうやらそこまでは愚かでは無いらしい。
「お?お、うわ」
その時…馬が全員セレスタンに近付いて頭をハムハムした。そしてブブブ、ブブルと低い声で甘えているようだ。
「わわ。えへへ、バイバイ!帰り道も頑張ってね」
馬の挨拶に彼女も順番に返す。優しく首筋をポンポン叩き、1頭ずつ声を掛けるのだ。「またおいでね」と言えばブン!と返事をされた気がして、嬉しくなって自然と笑みが溢れる。
その姿に騎士達はほっこり。今日同行した者は、すっかりセレスタンのファンになってしまった。
馬達もやる気の無い態度から一転、キリッとバシッと歩く。彼らも、セレスタンに完全に懐いてしまった。
「じゃーな、スタン。また来るぜー」
「はい、ハーヴェイ先輩。お待ちしております(殿下はまたロッティに会いに来るのか…上手くいったのかな?)」
セレスタンが全く見当違いな事を考えている傍ら、ルキウスは衝撃を受けていた。
「スタン…?ハーヴェイ、先輩………?」
「ん………うぇっ!?」
ハーヴェイが殺気を感じて横を見ると…超不機嫌顔のルキウスがいた。ハーヴェイは「やべ、俺なんかした…?」とビビり、静かにその場を離れる。
ルキウスは最後に「可愛いダンスだったぞ」と言って馬車に乗る。すると彼女は「忘れてください…!」と、小声で言うのであった。
そうして皇太子一行は帰って行ったのだが。
「結局…何しに来たのかしら…?」
シャルロットは首を傾げるのであった。
※※※
「いやー。小動物系で感情表現が豊かで、まさに殿下の好みピッタリの女の子でしたね」
「……うるさい」
帰り道、馬車の中。ルキウスとプリスカはそんな会話をしていた。女の子とは…セレスタンの事である。
あの夜。ルキウスはセレスタンが女性であると気付いた。サラシの下に胸があるのもバッチリ見たし、さり気なく下も触ってついていない事も確認した。色々された本人は、まだ隠し通せていると思っているが。
それをこの敏腕秘書プリスカに言ったら…「最低ですね、殿下」と非難の視線を浴びせられてしまった。
ルキウスはすぐにセレスタンについて調べた。すると…出生届の時点ですでに男性と記されている。ならば…男装は彼女の意思では無いだろう、では何故?と疑問に感じた。
ここで皇太子の権力を使い、伯爵を糾弾するのは容易な事だ。しかし何か事情があるかもしれない…そう考えて安易な判断は下せなかった。その時、プリスカにだけ真実を伝えたのだ。
有能で口が硬く、ルキウスを恐れない数少ない女性の1人。更に彼女は…
「はあ…本当に私と殿下は女性の好みだけは一致するのですよねえ…」
「だ、だから…私は別に…彼女を好いている訳では…」
「はいはい、そういう事にしておきましょう」
彼女は、女性が好きなのである。もちろん恋愛対象として。そしてセレスタンはどストライクなのであった。馬車の中でも、いかに彼女が可愛かったかと興奮気味に語っている。
一通り語って満足したのか、彼らは真面目な顔になった。
「ふう…こほん。彼女の部屋をさり気なく調べましたが、服も何もかも女性用の物はありませんでした。精々、あのオルゴールくらいでしょう」
「使用人や家族の態度も読めなかったな…届出されている以上、両親は関わっているだろうが」
彼らは今回、まず自分達の目で調べる為に行動した。それも不発に終わり、単に伯爵の娘自慢とセレスタンのダンスしか収穫は無かった。それはそれで可愛かったのでよし。
「しかし…彼女のあの異常な怯え方は気になりますね。もしや…虐待でも受けているのでしょうか…」
「………………そう…だな……」
2人は沈黙してしまった。もし虐待なら…見過ごせない。ただし教育だと言い張られてしまったら、必要以上によその家庭に踏み込む事は出来ない。何か、証拠でもあれば別だが。
「という訳で、彼女に監視を残してきました」
「何をやっているんだお前!?」
プリスカはセレスタンに、虫型の魔生物をくっ付けておいたのだ。皇室魔術師団作で、虫の視界を受信して共有する事が出来る優れ物。
彼女がスッと取り出したのは、薄型で長方形の石板。タブレット端末と言えば分かりやすいだろうか、今回はそれに映像を映し出す。
ただし、盗撮は皇国の法律でも普通に犯罪である。もしもこれで重要な場面を捉えても証拠にはならないし、流石にルキウスは焦った。
「おい、今すぐ解除を…」
向かいに座るプリスカの手から石板を奪おうとしたその時。
『……この、役立たずがっ!!』
『あがっ!』
ガッシャアアン!!
「「!!?」」
突然の伯爵の怒鳴り声と、誰かの短い悲鳴。そして大きな衝撃音に、揃って石板に齧り付く。
そこに映されていたのは…右手を握り震わせる伯爵と、床に倒れるセレスタンの姿が。場所は書斎のようで、彼ら以外誰もいない。
『よくも私とロッティに恥を掻かせてくれたな!!可哀想に、あの子は殿下が会いにいらっしゃると胸を弾ませていたのだぞ!!』
それは無い。むしろ「来んな」と考えていた。
『申し、訳…ございません…』
ヨロヨロと体を起こすセレスタン。その頬には殴られた跡があり…口の中を切ったのか、血が流れている。
伯爵は彼女に対し長時間捲し立てる。それをずっと俯きながら受け止め、ひたすらに謝罪する。
『いいか!!貴様は今後殿下にロッティの素晴らしさをお教えして差し上げろ!!なんとしてもロッティが皇后の座に就けるよう、あらゆる手を使え!!!
それと明日から当主の勉強は要らない。どうせこれ以上、お前に何を教えても無駄だからな!!その分殿下に媚を売る勉強でもしていろ!!!』
『かしこまり…ました…』
1時間程経ち、ようやくセレスタンは解放された。その間にももう一度殴られて…すでに青く腫れている。その様子を見ていたルキウス達は…
「「……………………」」
石板を持つ手に力を込め、今にも破壊してしまいそうだった。2人共額に青筋を浮かべ、黒いオーラを撒き散らしている。
「………殿下。命じてくだされば、秘密裏に…」
「……駄目だ。だが……」
現状盗撮しているので、この映像を見せつけて伯爵を追い詰める事は出来ない。逆に訴えられてもおかしくないし、弱味を握られる事になる。
その為今は…顔を押さえながらフラフラと廊下を歩くセレスタンを、心配しながら見守るだけであった。
『……いたた…』
彼女は部屋に着き、冷たい濡れタオルで顔を冷やす。その目に生気は無く…虚ろな表情をしている。光の精霊達が心配そうに近寄るも無反応。
着替えよう…とクローゼットを開けたら。ルキウスの制服が目に入った。
『あ…返しそびれた。どうしよ…』
彼女は無意識にそれを手に取り…じっと見つめる。
『……そうだ、殿下に…ロッティがどれだけ可愛くていい子なのか教えてあげなきゃ。あんなに素敵な女の子だもん、きっとすぐ好きになっちゃうよ』
そう呟き、上着を握る手に力を込める。
暫くそのまま立ち尽くしていたが、ふいにノック音が響く。
『坊ちゃん。夕飯のお時間ですが…』
それはバジルの声だった。姿を現さないセレスタンを心配し、呼びに来たらしい。
『…ごめんね、僕ちょっと具合悪くて…もう寝るから、放っておいて』
『え、大丈夫ですか!?では、僕に看病をさせてくだ』
『バジル。……お願い、今は1人にして…』
『…………かしこまりました、おやすみなさい…』
『ん。おやすみ』
そんなやり取りの後、彼女は着替えもせずに布団の上に倒れ込む。そして上着をぎゅうっと抱き締め、ポロポロと涙を流した。
『……なん、で…僕が……!……いや、ダメ。今度こそ、父上の期待に応えて…殿下とロッティの仲を取り持たなきゃ。そうすればきっと…僕を認めてくれる、愛してくれる。でも……』
上着に顔を埋めて、ルキウスの姿を思い描く。怖い顔で優しい男性で、ちょっと意地悪で。きっと妹を大事にしてくれるだろうと思う。それでも…
『…2人の気持ちを無視するのは…駄目なんじゃ…。
いや、違う。だからこそ、お互いに好意を持てるよう僕が頑張って……』
でもそれって、僕がやるべき事?
そう考えては「いいや、父上の為」とか「ロッティも幸せになれるはず」や「殿下もきっと分かってくれる」と自分に言い聞かせる。
セレスタンはその後も声を上げずに泣き続け…いつの間にか、寝入ってしまうのであった。
「「…………………」」
その姿にルキウスとプリスカは映像を切る。それから間もなく皇宮に到着したが…終始無言のままであった。
※※※
次の日の朝、ルキウスは目覚めてすぐ石板を手に取った。申し訳ないと思いつつも、彼女が気になって仕方がない。
ちゃんと着替えたのか、顔は腫れていないか。ご飯は食べたのか…色々言い訳をしながら映像を繋ぐと……
「ブフォオッ!!!」
セレスタンは丁度、サラシを巻こうとしている時だった。当然裸な訳で…真正面から見てしまったルキウスは盛大に咽せた。そして今度お詫びを持って行こう…と、固く誓う。
『…よし。今日も頑張る、頑張るぞ』
着替えた彼女はそう言いながら、ルキウスの上着を持った。
『しわしわ!僕の涙やら鼻水やら付いてる、汚い!!折角洗濯したのにぃ…またやらなきゃ』
ため息をつきながらシワを伸ばす。その時またノックの音が響いた。
当然相手はバジルだ。この屋敷で彼女の部屋を訪れるのは、バジルとシャルロットしかいない。
セレスタンは慌てて鏡を確認するが…バッチリ腫れている。こんな顔見せられない!でもお腹空いた!と、扉越しに簡単な朝食を部屋に持ってくるようお願いした。
数分後、バジルが部屋に入ると…
『坊ちゃん!?なんですかそのお顔は!?』
『げっ!!その…転んだ…』
『そんな訳ありますか!それはどう見ても…殴られた跡でしょう…!』
隠しそびれたセレスタンは捕まった。ルキウスは2人をハラハラしながら見守る。
『(また旦那様か…!!)後で先生を呼びます、いいですね!』
『いいの!すぐ治ってるんだからあ!!』
『駄目です!!!』
先生…?医者か?と思いつつ、ルキウスは侍従が淹れたお茶を飲む。一体この男は、いつまで覗きを続けるつもりなのだろうか。恐らく、今自分が盗撮している事も忘れているのだろう。
しかしそのお陰で、重要な話を聞けた。
『あの…明日からの旅行なのですが…』
『ああ、行ってらっしゃい。お土産よろしくね!』
ラサーニュ家の恒例行事、3泊4日夏の家族旅行である。セレスタンの発言から推測出来るだろうが、彼女は行かない。
自分だけ使用人以下のランクの部屋だったり、美味しいものを食べさせてもらえなかったり。酷い時には置き去りにされそうになり…それが嫌でいつの頃からか、数人の使用人と一緒に留守番するようになった。
どうして兄大好きなシャルロットが何も言わないのか?それは…
セレスタンが最初「もう行かない」と言った年。「じゃあ私も行かない!!一緒にお留守番する!」と駄々をこねた。すると…
伯爵が「お前の所為でロッティと旅行に行けなかった!!お前は這ってでもついて来い!!」と、幼いセレスタンを殴り蹴飛ばしたのだ。
それをバジルに知らされたシャルロットは、兄に関する我が儘を一切言わなくなったのである。自分が大人しくお父様大好きな可愛い娘を演じる事…それが一番だと理解したから。
『旅行が…旦那様が「ロッティと殿下の婚約祝いだ!」と言って、使用人全員連れて行くと仰ったのです…』
『え、婚約したの!?』
『してません』
「していない」
思わずルキウスも突っ込んだ。
『してないんだ。じゃあ…僕は1人で留守番かあ』
『駄目です!ですから、今年は一緒に行きましょう!?』
『………父上も母上もいい顔しないよ。それにどうせ、僕の分だけ部屋とか取ってないだろうし』
『それなら僕と同室ではいかがですか?僕はソファーでも床でも構いません!それか僕も残ります』
バジルがなんと言おうと、セレスタンは首を縦に振らない。
行きたくないというのもあるが…1人屋敷ではっちゃけたい欲もあった。彼女は典型的な、誰もいないと活き活きするタイプなので。
どうしても行かないというセレスタン。バジルは諦め…
『では…ブラジリエ家でお世話になるとか』
『留守番必要でしょ。…ジスラン呼ぼうかな…』
『駄目!!です!!!』
『おおうっ!?』
パンを齧りながら何気なく言うと、バジルは断固反対した。
ジスランが坊ちゃんに好意を抱いているのに気付いているので…誰もいない屋敷で2人きり。絶対許しません!
結局「カリエ先生に様子を見に来てもらう」という解決策に落ち着いた。セレスタン自身鍛えているし、頼もしい精霊達もいるからである。
『ね。セラ、バラ、ガブ』
『おや、契約されたのですね』
『うん。名付けに苦労したけど…全部嫌がるんだもん』
『………なんて付けようとしたんですか?』
『へ?ピカりんとか…』
『やめて良かったですね〜』
『どういう意味かな!?』
「センスが無いという意味だろう…」
また突っ込んだ。この男は覗きに夢中になり、朝食を部屋に持って来させる始末である。
『それで結局、神話の天使様から名前取ったの。さっきのは略称で、正式には右からセラフィエル(短髪)、バラキエル(長髪)、ガブリエル(ツインテール)だよ』
光の精霊達は順番に手を挙げるが、髪型以外見分けがつかない。話をしている間に食べ終わり、バジルが片付ける。
1人になったセレスタンは…オルゴールを手に取った。これは彼女の一番の宝物、辛い時触れていると…また頑張ろうと思える。
『………いつかこの宝石箱に。キラキラな宝石を入れる時が来るのかな…。大切な人に貰って、幸せな気持ちで眺めたら……』
いいや、そんな日はやって来ない。彼女は悲しげに笑い、棚に戻す。
『………しかし殿下に媚びる勉強って…何すればいいの…?』
今度は昨日の伯爵の発言について考える。今日から当主の勉強に行かない代わりに…ルキウスに取り入る勉強が必要か?と頭を悩ませているのであった。
「………勉強なんていらない。そのままで…」
ルキウスは俯いた。今後彼女が可愛い笑顔を見せてくれる時は…演技かもしれない、と悲しさが込み上げてくる。
そろそろ映像を切ろうとしたら、またノック音が響く。
『どちら様?』
『儂です、坊ちゃん』
『あ、先生。どうぞー』
『では、失礼します。……………』
誰か、男性の声が聞こえたと思ったら……
フッ……
「…切れた…?私はいじってないぞ…?」
突然映像が切れ、ただの石板に戻ってしまった。不思議に思ったが…魔生物の調子が悪いのか、と結論付ける。
それよりも、と。ルキウスは己の執務室に向かい、出勤してきたプリスカに…明日から4日間の予定を調整するよう命じるのであった。
「…どうしたの、カリエ先生?」
「いえ…大きな虫がおったもので…」
「え、全然気付かなかった」
「ほっほ。巧妙に飛んでいたのでしょうなあ」
カリエは窓を開けて…魔生物の残骸を捨てた。そして何事も無かったかのように診察を始める。
「……痛いでしょうに…少々沁みますよ」
「んーん、もう大丈夫だよ。それより…バジルに話聞いた?」
「はい。ただの老ぼれですが…有事の際には、坊ちゃんの盾くらいにはなりましょうよ」
「いや逃げてね…」
セレスタンは苦笑気味だが…このカリエ先生は父上の味方だ。もしもこの屋敷が強盗に襲われようとも、きっと逃げてくれるだろう。と…内心思っているのであった。
顔の治療を終えると、カリエは立ち上がりながら問い掛ける。
「ところで…最近お屋敷に、この部屋に客人は来ましたかな?」
セレスタンは特に気にも留めず、ありのままを話した。
「ああ、昨日皇太子殿下と付き人さん、護衛の騎士と馬が来たよ」
「そう…でしたか…殿下が」
それを聞いた一瞬のみ、カリエの目が怪しく光ったのだが…彼女は気付かないのであった。
ジスラン、大チャンス逃す。




