はじまり、はじまり
セレスタンの物語、ifの世界線でございます。
時は皇国新暦76年、春。
舞台はカンタル大陸にあるグランツ皇国。数百年に渡る世界戦争を当時の皇帝が終息させ、近隣諸国を統一し…大陸一の大国となったのが76年前の事である。
そして皇国の首都にある、12歳から17歳までの貴族の子供達が通う学園・アカデミーの門に今。3人の少年少女が立っている。
「お兄様…今日から私達もついに学生ね!ふふ、これからどんな生活が待っているのかしら…楽しみだわ!」
そう語るのは…真紅の髪を靡かせ微笑む少女、シャルロット・ラサーニュ伯爵令嬢。
彼女は長い睫毛に縁取られた大きな灰色の瞳を輝かせ、顔のパーツがまるで計算されたかのような黄金比に配置されている。一般的な感性の持ち主ならば十人中十人が彼女を美少女だと称するだろう。
美しいだけでなくあらゆる才に恵まれている。それでいて鼻に掛けるような真似はせず、誰に対しても公平に接し、誰からも愛される存在。
まだ社交界デビューを果たしていないにもかかわらず、すでに彼女は注目の的である。
無数の家から求婚の手紙が届くも、全てシャルロットを溺愛する父親が弾き、未だ婚約者はいない。
才色兼備である彼女は老若男女、万民に愛され聖女と称えられている。欠点と呼べる隙が一切無く、完璧なところが欠点…としか言いようがない。
そんなシャルロットがお兄様と呼び、声を掛けた相手は。
「あ…うん。そうだね…」
シャルロットの双子の兄である、セレスタン・ラサーニュ伯爵令息。
緋色のショートボブの髪は外にはね、前髪だけ異様に伸びている。更に大きな眼鏡を掛けているので…鼻から上の部分は完全に隠されている。
彼は妹とは対照的に、全てにおいて平凡と言わざるを得ない人物だ。性格も暗く人付き合いを好まない、大人しい人物。
天真爛漫なシャルロットに隠れ、静寂を好む少年。幼い頃から剣術を続けているが体格に恵まれておらず、妹とほぼ変わらない程華奢である。
「んもう、お兄様ったら!さあ、入学式に行きましょう」
「わわ…!待って、ロッティ!行こう、バジル」
「はい、坊ちゃん」
そんな兄妹に付き従っている少年。シャルロット専属執事であるバジル・リオ。
彼は茶色い短髪で、あまり目立たないが美形の部類に入る少年だ。
バジルは孤児であるのだが…幼少期シャルロットに拾われ、それ以来彼女に忠誠を誓い仕えるようになった。
彼はシャルロットだけでなくセレスタンの事も慕っており、セレスタンにとっては数少ない友人である。
シャルロットが笑顔でセレスタンの腕を引っ張り、元気よく走り出す。バジルはその様子に苦笑しながら後を追う。
彼らの学園生活は、まだまだ始まったばかりである。