元公爵令嬢ですが何か?
新作です。暇潰しに読んでいただければ幸いです。
私、リディア・コルディスは元公爵令嬢だ。
『元』と付くのは今は公爵どころか貴族でもない。
ただの『平民』であり、小さな村でひっそりと暮らしている。
畑を耕し、野菜を市場で売り家計をやりくりしている。
かつての私を知っている者がいれば間違いなく驚くだろう。
公爵令嬢だった頃の私は他人に対して隙を見せず完璧に見せていた、……あくまで見た目である。
実際の私は大の面倒臭がりやでズボラで厄介事に巻き込まれたくない。
だから、産まれた家を間違えたんじゃないか、と思う。
常に周囲の目を気にしなくてはいけないのは苦痛だった。
本来は庶民になるべきではなかったのか、と思った。
更に言えば勝手にこの国の王太子と婚約され物心ついた頃から王妃教育を受けていた、地獄である。
しかも王太子は『俺の婚約者に選ばれた事を光栄に思うんだな』と言う俺様キャラ。
開口一番がそれだったから初対面の印象は勿論最悪。
飛び蹴りを喰らわせなかった私を誰か褒めてほしい。
当然だが愛情なんてこれっぽっちもない。
『幼い頃の事だから』と思う人もいるが成長しても性格は変わらなかったから質が悪い。
貴族学院に入学して王太子は生徒会長に就任、私も生徒会に入ったんだけど仕事は全て私に任せて本人は取り巻きと共に女遊びに夢中。
婚約者放ったらかしてこの状態だから誰か怒っても良い筈なんだけど一人息子だし王太子だし、と誰も注意をする事が出来ず……。
外っ面だけは良いから国王様も王妃様も王太子の腐りきった内面は知らない。
知っていても見てみぬ振りと言う悪循環。
唯一、私は小言を言うんだけど聞き流していた。
こんな奴を国王にしたら間違いなく国は滅びる。
まぁ、私が王妃になって上手くコントロールできれば良かったんだけど、この馬鹿王太子、卒業記念パーティーに遂にやらかした。
私に婚約破棄を一方的に宣言したのだ……。
隣には知らない令嬢が怯える演技をしている。
何かわからないけど彼女を私が苛めたとか。
申し訳無いけど他の令嬢を相手にする暇なんて私には無い。
学院では授業に出て放課後は生徒会の仕事をやり更に城に行き王妃教育を受ける日々。
まぁ、攻めればボロは出るだろうし私の行動は常に王家の『影』が監視しているので無罪放免になるのは確実だったんだけど私はあえてしなかった。
もう貴族社会にもこの国にもうんざりしていたからこれを機に全部捨ててしまう事にした。
何もかも捨てて綺麗サッパリ新しい人生を歩もうと決意したのだ。
だから否定せずに全てを受け入れる事にした。
最後に今までの不平不満愚痴を言ってやろうか、と思ったけどしなかった。
言う事はいつでも出来るからね。
それから実家に帰り両親に報告。
はい、勘当を言い渡されました。
流石は貴族です、家に取って災いの元になるものは実の娘であっても切り捨てる、当然です。人としては最低ですけど。
私は荷物を纏めてさっさと家を出て国内を旅して現在住むこの村に落ち着きました。
漸く私の理想郷にたどり着いたのです。
所謂辺境なので滅多に人が来る事はありませんし、住人は訳ありの私を何も聞かずに受け入れてくれました。
おかげで婚約破棄から1年、私は心穏やかに暮らしています。