出発前のハプニング!?
お久しぶりです。待っていてくださった方……ありがとうございますっ!!
あの後なんとか秘蔵写真集というアブノーマルな代物を奪還してなんとか家から抜け出すことができた――のはいいけど……
「……うぅ、酷い目にあった」
まさかあの時の姿を撮られていたなんて……。あぁ、私の黒歴史を知っている人がまた増えてしまった……。
元はといえばあんな姿になってしまったのはお姉ちゃんのせいなんだけどさ……。
――そういえば、記憶を消せる魔法って無いのかなぁ。できることなら全て無かった事に……なんて。
でも、さっきの兵士たちの記憶を改竄して……っていうのはやっぱりダメだよね。
一歩間違ったら廃人に……みたいな感じで記憶というのは繊細な物だからね。――たぶん。
まぁ起こってしまったことは覆せないと割り切っていくしかないのかも。
でも、あんな姿を他の人に見られたなんて思うと恥ずかしいし……。
あぁ……やっぱり全部無かったことにできないかなぁ。
私はそんな感じに頭を悩ませながらユイとシオンの所へ戻った。
「おかえり……!」
すると、ユイが笑顔ですぐに私にそう声をかけてくれる。
――こんな笑顔を見せられたら、悩んでばかりではいられまい。
「ただいまっ!」
私はユイに全力で応えるべくそう言ってユイに文字通り飛び込んだ。
「もう……しょうがないなぁ」
するとユイは嫌な顔一つせずに私を優しく抱きしめてくれる。
――はぁ………………好き。
やっぱりユイは天使だった……天使はここに居たんだね!
ユイとこうしているだけでさっきまでの傷が嘘のように塞がっていく。
あぁ、ずっとこうしていたい。ずっと癒されていたい……。
そう思っていたけど――
「ところで、例の物は持って来れたのか?」
――シオンの一言で、私の傷が再び開いてしまった。
「……はぁ、一応取り返した」
私はそう言って兵士から取り返した記憶の結晶板をシオンに見せる。
「それは良かった……が、なんでそんなに不機嫌そうなんだ?」
「……シオンなら分かってるんじゃないの?」
「いや、すまん。本当に分からないな」
シオンは私の考えている事を覗き見る事ができるはず。……そう思って言ったんだけど、反応を見てると今はどうやら違うようだ。
「じゃあ、何でもない」
「そうか」
わざわざあんな事を言いたくもないので言わないでおくことにした。
「ところで…………そろそろ離れたらどうだ?」
「むぅ……」
シオンめ、私の癒しの時間までも奪うというのか……!
「私は別にこのままで良いよ」
ユイは私のためを思ってかそんな事を言ってくれる。
――でも、ユイの嫌だと思う事はしたくないし……。
「……分かった、離れるよ」
ここはシオンの言う通り、渋々抱きつくのをやめる事にした。
もっと癒されていたいけど、それで嫌われちゃったら元も子もないからね。
「……さて、じゃあこれからどうする?」
「どうするって……首都に行くんじゃなかったの?」
「さてはお前、もうボケたのか?」
そう、首都に行くというのはそうなんだけど――――ってちょっと!シオンの私に対する当たりが強くない!?……流石の私も傷ついちゃうよ!?
「……首都に行くのはそうだけど、どうやっていくかを話し合いたくてさ。……それと後でシオンにはお仕置きするから覚悟しといてね?」
ユイの前だし、できるだけ怒っていないように見えるように私は笑顔でそう言った。
「すみませんでしたっ……!!」
どうやらシオンには私の思っていなかった方向で効いたみたいたけど、まあ謝ってもお仕置き確定だから逃げられないと思え!
「さて、話は戻るけど……今までみたいに歩いて行く?それともパパッと行っちゃう?」
「俺は早いに越したことはないと思うが……」
確かにそうだよね、結局ここでは探している犯人は見つからなかったし……探すなら早いに越したことはない。
シオンのことはさっきので少し好感度が下がったけど、ここは私も同じ意見かな。
「私はそこまで急いでいる訳じゃないならゆっくり行きたいな。お姉ちゃんと最近あまりお話ししてないし……ダメ?」
「ダメじゃないですっ!是非そうさせてくださいっ!!」
「即決えぇ……」
シオンが私のことを変な視線で見てくるけど……可愛い妹のお願いに応えることは当然だと思う。
それにあんな可愛い視線で訴えられたら、そんなの叶えてあげたいと思っちゃうに決まってるよ!
「という事でゆっくり行こう!異論は認めません!」
「わーい!」
「……ああ」
という事で私たちはまた旅を続けることになったのであった。……やったね!!
◇ ◇ ◇
あの後、とりあえず門までやって来たけど……
「門番さん居ないね」
「ああ、まぁ俺たちからしたら無駄な手間が省けて好都合だがな」
それもそうだね。いちいち透明化を使うのも面倒だし。
――あっ、別にユイのためなら面倒だなんて全く思わないからね!寧ろ役に立てるなら嬉しいし……!
「ならササっとくぐっちゃおうか。いつ誰が見てるかも分からないし」
「お前の力ならそれを察知するくらいは朝飯前だと思うけどな」
うっ、確かにそれはそうかもしれない……。
でもまだ自分の力がどんなものかも分かっていないし……それにそこまで万能というわけでもないだろうから、最悪の状態はいつも考えておくべきだと思う。
例えば誰かに呼び止められたり――――ってシオンもいるし流石にそれはないか。
その時私はそんなふうに思っていた……のだけど
「あれ、もうこの街を出るの?」
「なっ、見つかった!?」
フラグ回収がいくらなんでも早すぎません!?……でも何かすごく聞き覚えのある声で呼ばれた気がする。
私は呼び止めた人が誰なのかを確認すべく声のした方へ振り向いた。のだけど
「……ってあれ、咲!?」
「どうも」
そこにはまさかの咲が立っていた。なぜ私がここに居るのが分かったんだろう?……偶然ってこともあるけど。
「で、翔くんはもうこの街から出てしまうのですか?」
「う、うん。そうだよ」
何か咲の方から威圧感を感じるような……。いや、笑顔なんだけど――何故かその笑顔が怖いよ……。
――――もしかしなくても咲にもう行くってことを言っていなかったからかな。確かに悪いことしちゃったなぁ私。
「それで、それを私に言って下さっても良かったんじゃないですか?」
「うっ……ご、ごめんなさいっ!」
やっぱりそうだったーー!まずいよ、敬語を使ってくるとか咲ほんとに怒ってるよ!
「別に怒ってるいるわけではないですよ?でも翔くん達が私に伝えてくれないのは嫌なだけです。突然お別れだなんていけないと思いませんか?」
「は、はい!その通りです!」
助けてシオン、ユイ〜〜!!
必死に耐えるしかない私は、ただ助けを願うことしかできなかった。
「こいつを虐めるのはそこまでにしてもらおうか」
「シオン……!」
願いが届いたのかは謎だけど、どうやら動いてくれたみたいだ。
「それに、ここに来るという話はお前に俺から伝えただろ」
「えっ!?」
それは初耳なんだけど!?……というかいつの間に?
「やっぱり翔くんには伝えていなかったんですね。……お陰で面白いものが見れました、感謝します」
「ああ、なら良かった」
「人をおもちゃにして遊ぶのやめませんっ!?」
うぅ……最近色々な人に振り回されてばっかりだよ。このままではお姉ちゃんとしての威厳が地に落ちてしまうっ!……それは何としても阻止せねば!
「それで、例の物は持ってきてくれたか?」
「ん。そこら辺は抜かりなく」
そう言って咲はポケットから何かを取り出した。――――あれは、何かの鍵……かな?
だとしたら何の鍵なんだろう?そして、何でシオンはそれを持ってくるように咲に言ったのかな?
「それは……何の鍵なんですか?」
私が悩んでいると、ユイが丁度聞きたかったことを言ってくれた。――ユイ、ナイス!
「ああ、これはな……簡単に言うと首都にある咲の所有している家の鍵だ」
「へぇ…………って、えぇー!?本当に?」
私は思わず驚いて声を出してしまった。そして同時にしまったとも思う。
どうやら、幸い今の声で周りにわたしたちの存在が見つかってはいないようだけど……あまり大きな声は出しちゃいけないよね。
「いつそれを咲に頼んだの?というか、何で咲が首都に家を持っているって分かったの?そもそも咲っていろんな所に家を幾つも持っているの!?」
「どうやら混乱させてしまったみたいだな。悪い」
混乱なんてしてません!……いや確かにしてる、かも?分からないことだらけで困っているのは確かだし。――って、問題はそこじゃなくて
「私の知らない所で何があったの?」
「それに関しては私から説明するわ」
教えて、咲先生ー!
「順を追って説明しましょう。まず翔くんたち三人が革命軍のアジトに来た時にシオンさんに『この後首都に行く事になるかもしれない』と聞かされたの。
そして、私が拠点となる家はあった方がいいよねという事で首都にある私の家の存在を明かした。
その後、シオンさんと翔くんの可愛らしい戸惑い顔を見せてもらう事と引き換えに家の鍵を渡す事にしたの。
あ、家の鍵はあの時持っていなかったから今まで取りに行っていて、ここで集合っていう流れになったわけ」
「なるほど…………私は見事にその計画に嵌められた訳ですね!?」
どうやら私の知らない所で邪悪な計画が蠢いていたようだ。……ひどい。
「ええ、とても可愛らしかったわ。因みに今ここにさっきの写真があるんだけど」
「な、何で!?」
ダメだよ、そんな事を言ったらユイが……!
「本当ですか!?その画像私にも下さい!」
ユイが……食いついちゃうから…………。
そう思った時には時すでに遅し。既にキラキラと目を輝かせたユイが咲に近寄っていた。
「あぁ……終わった。私の人生が…………」
「まぁまぁ、お前の犠牲のおかげで安心して首都に行けるんだ。可愛い妹の為だと思えばそれくらいは……」
「当たり前でしょ?なんだってやるに決まってるじゃん!」
ユイの事を思えばこれくらい進んでやるよ!
私がそんなふうに決意を新たにしていると――
「こいつちょろいな……」
「……あれ、何か言った?」
――何かシオンの方から何か聞こえてきた気がするんだけど、気のせいか。
「じゃあ、そろそろ行くか?」
「そうだね……少し名残惜しい気もするけど、行かないとね」
「うん、私も秘蔵写真集に新たに一枚加えることができたし……行こう!」
あ、そういえば気になっていることが一つあるんだった。
「ところで、その秘蔵写真集ってユイが作ったの?」
「いや、ゼニアス様にもらったんだよ。あれ、お姉ちゃんは聞いてないの?」
――――やっぱりお姉ちゃんの仕業だったか……。今度会ったらユイに変なことを吹き込まないようにきつく言っておこう。
――でも、これでまた咲ともお別れか……。
「じゃあこれで一旦お別れね、翔くん」
「うん……でも絶対また会えるよ!」
「もちろん」
何とも呆気なく、感動のない別れだとは思うけど……また会えるから良いよね?
「では、気持ちを新たにして首都へと向かいますか!」
「ああ」
でも、少し寂しいな。色々片付いたらまたここに戻ってこよう。
「そうだユイちゃん、約束の件よろしくね」
「もちろん!お姉ちゃんが女の子を誑かさないように見張ってるね」
何か二人の間で謎の一体感が生まれてる……!?
まあ、ユイが色々な人と仲良くなるのは良いことだ。
「っていうか、私そんな酷いことしないからね!?……私に対して変なイメージを持たないでよ?」
「じゃあねー!」
「ええ、また会いましょう」
これは大丈夫なのかな……。私のお姉ちゃんとしての威厳が日に日にすり減っていっている気がするんだけど、気のせいだよね……?
――怖いからあまり深く考えないようにしよう。現実逃避も時には大事なのです。
「さあ、いざ魔国の首都フィーデランテへ!」
「「おー!!」」
「……コイツら、本当に大丈夫だろうか…………」
シュナちゃん……あなたが強く願えば兵士たちの記憶を安全かつ確実に消すこともできるんだよ……。




