再出発
さて、ここからまた初めからスタートすることとなったわけだけど。
――正直言って、今後の展望とかそんなものは一切ない。
「うーん、世界を救うことにしたけれど、一体これからどうすればいいのでしょうか」
「……難しい事は考えなくていいんじゃない?
まぁ、なるようになるさ!」
少し心配になってお姉ちゃんに意見を聞いてみたけど――――完全に聞く人を間違えたね。
そういえばお姉ちゃんって変なところでざっくりしてるような人だったなぁ。
「何か変なこと考えてない……?
えっと、それで二つ目の話をしていい?」
「あっ、完全に忘れてました!すみません」
そういえば大きく分けて二つの話があるって最初に言っていたっけなぁ。
一つ目の話のインパクトというか、お姉ちゃんの圧によって完全に忘れてた。
――二つ目の話って、たしか咲についての話だったよね?一体どんな話なんだろうか?
「二つ目の話は……正直もうあまり重要性はないんだけど。
単刀直入に言えば、遠坂咲はさっきまで相対する理念で動いていた。オーケー?」
「えっと、はい……?」
ん……っと、つまりどういう事?
さっきまで実は敵対してる立場だったってこと?
「すこしざっくり過ぎたね。
遠坂咲は、革命軍とかいうやばそうな所に所属しているわけだけど、その革命軍の行動理念……というか活動目的は第三勢力として魔族と人族に戦争を仕掛けて、魔族と人族を協力させて仲良くさせよう…………みたいな感じなの」
「へぇ…………なんか凄い組織なんですね。人族と魔族を同時に敵に回すとか、普通考えないですよ。
…………でも、たしかに上手くいけば仲は戻りそうですけど」
上手くいったなら、例え一時的だったとしても、魔族と人の仲が戻りそうだ。
「うん。そして恐ろしいことに革命軍には魔族と人族、両方は無理だけど片方を相手取るくらいの実力は持っているんだよね……」
「それって、考えれば考えるほど恐ろしいですね…………」
「まあ、活動目的がそんなんで力も持っちゃっているわけだから、さっきまではどこかでぶつかり合う運命だったんだけど……今はそうじゃなくなったから、この話はもう重要性のなくなった話なの」
「なるほど……。そういう事だったんですね」
たしかに、あのままだったら咲と争っていたかもしれない……。
それは――――嫌だな。
だから、結局のところこれでよかったのだと思う。いや、こうするしかなかったとも言えるか。
とにかく、こうなってしまったことに文句は言えないってことだ。
かなりハードモードな旅になってしまったけれど、地球からこの世界に飛ばされた時点で人生がハードモード過ぎたわけだし元からそうだったと思う事にしよう。――うん、そうしよう。
僕がそう考えていると、お姉ちゃんが何か言いたげに体を少し動かしていた――――いや、震わせていたというのが正しいか。
まあ、そんな事はどうでもよくて
「どうしたんですか?」
僕は少し気になって聞いてみることにした。
「いや…………話さなきゃいけないことなんだけど、話したら怒られそうなことを思い出しちゃって……」
「話したら怒られそうなこと……ですか?…………というか、話さなきゃならないことなら迷わずに話すべきでは!?」
突然凄いことを思い出すなぁ。
まあ、緊急性のないことなら心の準備ができた時にでも話してくれればと思う。興味がないと言ったらうそになるけど――――いや、むしろ知りたいけど。そこは、ぐっと我慢するから。
いや、やっぱり気になる!
「今、僕の中で自制心が好奇心に負けました。なので包み隠さずすべてを話してください」
「えぇ……ど、どういう事?……まぁ、話すんだけどさ」
「やった!…………じゃない、ありがとうございます」
しまった、つい本音が。
でも、話さなきゃいけないことらしいからしょうがないね。気になるからしょうがないね。
「えっとね、さっきの話から行くと、遠坂咲と翔くんが敵対する筈だったんだけどさ…………翔君がいざというときに判断が鈍っては良くないから…………あのレストランでの記憶を少し消させてもらいました……」
「えっ!!?…………ってことは記憶が消えているのはお姉ちゃんの仕業だった!?」
普通に驚いているんだけど。そんなこと考えもしなかったなぁ。
でもまぁ、全て今さっき知ったことだし、そんな考えに思い至らないのもしょうがないん
だけど。
「でも、お姉ちゃんって私の記憶をいじりがちだよね。…………おっと、僕の記憶もね」
まずいまずい、そろそろこうやって分離していられるのも限界みたいだ。
「あまり怒らないんだね……?」
お姉ちゃんに悟られないように内心で少し焦っていたら、そんなことを言われた。
うーん、怒らないというよりは、まだ追いついていないというか……。
「今日は色々と驚かされ過ぎていているのと、聞いた話を理解するのとで限界で……怒れないです。
また、色々と落ち着いたら怒りますね」
「何その宣言っ!?」
お姉ちゃんは色々と納得いっていないような、複雑な表情をしているけれど……私は意味深に微笑んでおく。
「うぅ…………まあ、それは覚悟しておくわ。
それで、消した内容なんだけど……遠坂咲に翔くんが…………いや、シュナが色々と甘やかされて、だんだんと堕ちていくような、そしてそれに対抗しようとするユイにも色々と甘やかされて、私もそれに負けるか!……といった感じで、今の翔くんが思い出したら大分堪える内容だったと思うけど
…………思い出す?」
「……遠慮しておきます」
どうしてそうなったみたいな状況で、流石に驚いた。
逆に消してくれてありがとうとまで思ってしまう。
多分思い出したら僕は精神崩壊してしまいそう。
「うん、分かった。私もそれで正解だと思うよ。
……さて、話したいことは話せたし私は帰ろうかな。……怒られる前にね」
最後のは少し余計なのでは?……といっても、今となってはもう怒る気はないけど。逆に感謝したいくらいだけど。
「分かりました……また来てくださいね?」
「もちろん!色々と落ち着いたころにまた来るね。これからちょっと大変そうだけど……。
あ、それと、シオンがそろそろ復活するからよろしくね?」
え!?シオンが復活するの!?てっきり少なくとも半年は寝たままだと思ってたのに……。
「嬉しそうね?」
「っ……お姉ちゃんもかなり勘が鋭くなってきちゃったみたいですね。……正直なところ嬉しいです。十年ちょっとの間寝ずに頑張ってくれていたんだから、改めて色々とお礼を言わなきゃな……って」
「それは、いいね。もちろん私にも色々してくれてもいいのだけど?」
「それは……また今度ちゃんとやりますよ。色々とお世話になっているので」
うん、助けられてばっかりだし。日頃の感謝を込めてお礼をしないとなぁ。
「いや、お礼をもらうために頑張ってるわけじゃないから本気にしなくていいんだよ!?」
「いや、言われたからじゃないですよ。本当に感謝してるので、また色々としますね」
「本当?ありがとう!」
「いえいえ」
喜んでくれて何よりだ。でも、こういうのはちゃんと実現してからだよね!
また今度一緒にいろんなところを回ったり――――こんな事をしてられるのもあと少しなんだから、精一杯やろう。
「これからもよろしくね、お姉ちゃん」
「もちろん!たくさん頼ってくれていいんだよ?」
「うん、ため込み過ぎない程度に頑張って……躓いたらたくさん頼るかもだけど、よろしくね」
そんなことを言ってから、お姉ちゃんとお別れをした。
転移で帰っていくから、別れるのが一瞬なのは少し寂しいような何というか……。
いや、何言ってるんだ私!?
もう一度部屋へいって落ち着こう……。
◇ ◇ ◇
お姉ちゃんとの話も終わって、今度こそ自分の部屋で安静に過ごしていたら……何か奇妙な感覚と共に二つが一つになっていくのを感じた。
そして、そのまま完全に一つに合わさった時、さっきまであった違和感のような、変な感覚は嘘のように消えてしまった。
やっとこれで元通りだね!……ちょっと長かったような、短かったような。
色々と面白い体験だったなぁ。
うーん。でもこれから方針が180°転換されたわけだから…………ちょっと本気で頑張らないとなぁ。
私はベッドに倒れたまま、そんな風に思うのだった。
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いつも文字数が少ないかもしれませんが、許してくだせぇ……。




