閑話:二人と一人
お久しぶりです( ;∀;)
星の瞬く空の下、僕は屋上で一人景色を眺めていた。
別に、見たくて見ているわけじゃないけど――――すごく、綺麗だ。
だけど、夜風が寒い……!
これさえ無かったら文句はないんだけどなぁ。
そんなことを思いつつも、そうすることくらいしかやることが無いのであまり文句は言えないのも事実。
と、いうことで僕は大人しく夜景を眺めていると、後ろから声が聞こえてきた。
「着替え終わったよ」
「りょーかい」
どうやら、もう運動着に着替えたようだ。
少し早い気もするけど運動着を着るだけだし、気を遣って僕をあまり待たせないようにしてくれたのだろうから、わざわざそういう事を言うのはやめておいた方がいいかな?
そう結論を出すと、僕は天文ドームへ戻った。
僕が天文ドームへ入ると、そこには運動着に着替えた遠坂さんが居た。
「サイズとか、色々と大丈夫だった?……と言っても、それしか無いんだけどね」
さっきはその場のノリというか……安易に運動着に着替える事を提案したけれど、いざ着替えたとなると余計な事を心配してしまう。
「別に体格とかもあまり変わらないし、大きすぎたり、逆に小さすぎたりみたいな事はなかったよ。
というか、それ以前に私は文句を言える立場にないのだけれど」
「あはは…………まぁ、問題なく着れたようだし良かったよ」
やっぱり余計な事を聞いてしまったかな……。
でも、そこは心配だったし、問題がないなら良かったかな。
「さっきから、何から何までありがとう」
「どういたしまして」
遠坂さんから突然お礼を言われて、少し驚いてしまう。
僕としてはあまりお礼のされるような事はしていないと思うけれど、そういう謙遜は今は要らなそうだし…………何より、人から感謝されるのは嬉しいし……。
だから、素直に『どういたしまして』と伝える事にした。
そうすると、遠坂さんも微笑んでくれたので……これで良かったのだと思う。
さて、この件が落ち着いたところで大きな問題がある。
「この後どうする……?」
「それなんだよね……」
因みに、僕はあまりいい案は思いつかない。
「何かいい案はある?」
「特に、というか全くダメね。思いつかない。……貴方はどうなの?」
「不甲斐ないばかりです……」
どうやら、お互いにあまりいい案は無さそうだ。
「仕方ない……飛ぶ?」
僕はその場に蹲み込んで色々考えていると、遠坂さんが突然そう呟いた。
「え!?……冗談ですよね?」
この人がそれを言うと本当に冗談に聞こえないから、毎回びっくりしてしまう。
「うん。冗談だよ」
「……心臓に悪いからやめて」
「そう?……ならやめる」
どうやら冗談に聞こえない冗談はさっきので最後になったようだ。
無駄かもしれないと分かっていても、それを言われると心配してしまうのでそれはよかった。
「……暇つぶしってわけじゃないのだけど、貴方の火傷を見せてくれない?
「え……?」
そう、一度落ち着いたところで遠坂さんは突然そう僕に聞いてきた。
僕としては――――構わないけど。でも、見ても楽しいものではないよね?
「突然、どうして?」
「最近は傷痕も薄くするくらいならできるって聞いたし。私が打ち明けたんだから、貴方の秘密も私に教えるべきじゃない?」
「まあ……そう、なんですけど」
遠坂さんの秘密というのは、やはり家族との関係だろう。あまり深くは聞かなかったけど、大方察するくらいまではできたし。
僕の傷痕も、嫌がらないなら隠す必要もないし、こっちが打ち明けたのだから秘密を見せるべきというのはもっともだと思う。
ということで、やはり見せることには抵抗はあるけれど僕は左の袖を脇の近くまでまくった。
「部屋が暗いけど、どうぞ」
「ん、それくらい気にしないよ。見せてもらってるのはこっちなんだから」
遠坂さんは、そういうと僕の左腕をじっと見つめる。
そんなにじっと見ても何も面白くないと思うけどなぁ。
「左手は今は痛まないの?」
「いや、強く押されたりしたら痛いかな。……あと、思い出しちゃったりしたときに痛むことがある」
左手は痛まないのか……って言われると、正直たまに痛むんだよね。
まだ約一年しかたっていないわけだし、しょうがないけど、ちょっと強い衝撃が加わっただけで痛むのはまあまあ不便。まあ、傷痕は別としてあと数か月かで治るだろうけど。
「あれは本当にごめん!」
「いや、あれは僕が!…………ってこの話はもう終わったことだったよね」
「じゃあ、あまり触れないでおく。その話にも、貴方の腕にもね」
「ん」
全く関係ない話でこの気まずさを振り払おうとしてみるけど、話と腕を触れないにかけるの上手くないですか?咄嗟に出せるなんて、やっぱ遠坂さんってすごい人だよなぁ。
「そういえば、失礼な話だけど遠坂さんは女子から嫌がらせを受けてるの?」
「ん。陰湿で嫌になるけどあの人のグループからね……今は少し、心が休まっている感じがする」
ふと、気になってそんなことを聞いてみると、そのようなことが帰ってきた。
心が休まるのは、ここには虐める人がいなくて親もいないからだろうか?どのような事情かは分からないが、本人が言いたくないならそっとしておこう。
そういう部分の話は、仲の良くなった相手にも言い出せないものだから。
でも、やっぱり遠坂さんは女子から嫌がらせを受けているらしい。それも、さっき彼女を虐めていた人たちのグループが。
そして、他の人たちは――特に男子は虐めようとはしない。
まあ、遠坂さんがやって来た初日のクラスの反応や、これまでの男子たちの感じからそういう事なんだろうなぁと、なんとなく予想はついていたけど。
そうなると、注目が遠坂さんに集まったことで自分からして邪魔な恋敵が現れたから排除しようとしているわけか……あの女子のグループは。
「ねえ、夜が明けるまで話でもしない?」
色々と考えを巡らせていると、遠坂さんがそう言いだした。
特に断る理由もなければ、暇つぶしに困っていたところなのでとても助かる提案だ。
なので、考えるまでもなくそうすることにした。
「やることもないし、そうする?」
と、いうことで成り行きで夜が明けるまで二人で話をすることになった。
まあ、僕らに限って楽しい話題なんて持っているわけがないんだけど……
◇ ◇ ◇
――結局の所、当初の僕の心配通り楽しい方面の話なんて広がらなかった。
それは、周りの環境が悪くてそんなものに目を向けてられないので仕方ないことだと思う。
――――それは置いておいて、数時間話をしていただけだったけど有意義な時間ではあったと思う。
お互いのことを色々知れたというか……良心を削りあったというか…………お互いに心を痛めあった。
何か、誤解を生むような言い方だったかも知れないけど、まあ簡単に言えばお互いに日々積もりに積もった不平不満を吐き出したということ。
誰にも言うことができないというのは、かなり辛いことだから。それを解消できたのは、良かった。
やっぱり『お互いに苦労してるね』と笑い会える機会は僕達に必要なものだったのだろう。
心が少し軽くなったような気がした。
ところでだが、僕達は今屋上に出ていた。
本当なら寒いので風を防げる天文ドームの中に入っていたいのだが……
「日の出が綺麗……」
遠坂さんがそう呟いている通り、そろそろ夜が明けるかなと思って外を覗いたらちょうど日が出るところだったのでこうして外に出ているのだ。
僕は、初日の出だとかそういうものは見に行ったことがないので、こういった日の出を見るのは意外と初めてだったりする。
夕焼けとは違う綺麗な景色に、一瞬、こんなハプニングがあってよかったななんて思ってしまった。
流石に自分の内に留めておいたが。
「ねえ」
しばらく日の出を見入っていた遠坂さんが、気づけばこちらを見ていた。
「貴方は私のことはどう思うの?」
「……え?」
突然思ってもいなかったことを質問されて、露骨に驚いてしまう。
どう思っているか?……ってどういうこと?そのままの意味で捉えていいんだよね?
「別に……変かもしれないけど、仲間……みたいな感じ?」
「仲間って…………本当に?」
「ん」
今まで席が近いくせにまともに話す機会はなかったから……そういうのは少し変かもしれないけど、僕の思う遠坂さんはクラスの仲間というよりは、同じような境遇に生きる仲間って感じなのかな?
と、そう思っていると遠坂さんに伝えてみるが、どうやら少し疑っている?ようだ。
「じゃあ、私のこと嫌い?」
「え……そんなこと無いけど」
疑っていたのは、これが原因なのかな?
嫌いなら関わらないほうが相手のためにいいと思って、そう心配になってしまう気持ちはすごく分かる。
「逆に……僕のことは嫌い?そんなこと言われると少し気になってしまって……」
「嫌いなわけない……!」
……さっきは仲間なんて言ったけど、何か引っかかっていたものが無くなったような感じがして……ようやく今、本当に仲間になれたような気がする。
「結局の所、お互いに何があっても嫌いになんてならない。……いや、なれない。僕達はそういう関係なんじゃない?」
「嫌いにはなれないか……。確かに、それは的を得ているかも」
嫌いになる理由はないし、仲間としていい関係だと思うし……嫌いになったら、また心の重りが増えてしまう。
だから、嫌いにはなれない。
「じゃあ、お互いに何があっても嫌いにならないって約束しましょう?」
「……まあ、いいけど。約束なんかしなくても僕は大丈夫だと思うけど」
「…………こういうのは形が大事なんじゃないの?」
「確かに、そういうものなのかも……?」
何か、押し切られてしまった。
別に約束をすることに対して反対はしないけど、でも形が大事?らしいし……。
「じゃあ、約束ね」
遠坂さんはそう言って手を出した。握手をしようということなのだろう。
「うん、約束」
僕も手を出して、遠坂さんの手を取る。
……形が大事と言っていたのに、かなりさらっと約束してしまった。
――――でも、今思えば今でも心に残るくらい大きな出来事だった。
それは、咲の言う通り約束は大事だったということかもしれない。
「生きてるーー?」
僕が、少し昔の思い出を思い出しつつ、感傷に浸りつつで意識を追いやっていたけど、それもそろそろ限界を迎えつつあった頃、ふと、シュナがそう言ったのが聞こえた。
いや、自分がしゃべってるのか?
まあそれは置いておいて、一度意識を戻してみると、もうシュナはお風呂から上がって髪を乾かしていた。――――ゼニアスさんが家の設備を使えるようにしてくれた時におまけとして作っていたのであろうドライヤーっぽい便利な魔道具で。
…………どうやら時間がたったからか少しずつ元に戻りつつあるようだ。なら、こうやって僕が色々なことを考えることができるのも残りわずか。
まだ、思い出したいこともあったけど、間に合わなさそうだし、迷惑もかけちゃいそうだしやめておこう。――――本当にシュナに嫌われたらやっていけないし……。
「生きてる」
僕は、少し無理やり声を出すことにした。――――うん、やっぱり喋ると僕とは違う声が出るのは慣れない。まあ、完全に合わさったらそんなこと感じなくなってしまうのだけど。
「良かった、生きてた」
んん……。やっぱりどうも慣れない。自分で話そうと思っていないのに勝手に自分の口が動くという。
まあ、返事はしなくてもいいだろう。どうせこのまま元通りだろうし、強引に話してお互いに気分が悪くなるのも良くないし。
「こんな変な状況でしか言えないから言うけど…………よろしくね?」
こちらこそよろしくお願いします。
僕は心の中でそう返した。――まあ、どうせ少しくらいは伝わっているのだろう。
向こうからはこちらの考えていることが少しわかるようだし。
――――でも、今日は忘れていたようなことを思い出せてよかったな。
できれば、こんなハプニングなんか無く、普通に思い出したかったところだけど…………。
エナドリでブーストしつつ頑張っていきたいです!投稿ペースが遅くても気長に待っていただければ幸いです……。
_(:3」∠)_




