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深い、深い海の底

あけましておめでとうございます!

「おねーちゃん?……おねーちゃん!」


 ……。



 …………。



 ――――はっ!


「な、なに!?」

「しばらくぼーっとしていたようだけど、何かあったの?」


 ミサさんに呼ばれて、はっと我にかえる。


 ここは……家?

 さっきまでファミレスにいた筈じゃなかったっけ?



 んん……、確かにミサさんに呼ばれるまでぼーっとしていたけど、何があったんだ?


 確か、ミサさんに咲と並んで座っているところを見られて――――その後の記憶がない。


 何というか……これは多分ショックで気が飛んでいたような気がする。

 もしくは記憶を無意識に抹消しようとしたのかもしれない。


「私……さっきまでの記憶が、無いんだけど」

「え!?ど、どういう事?」


 私がミサさんに正直にそう言うと、凄い驚かれた。


 それは、当たり前なんだけど。


 ミサさん、怒るかもしれない。

 お姉ちゃんに連れてかれた先で私と咲が隣同士で座っているのを見たし……その後のことを忘れたなんて、怒って当然だ。


 それに、呆れられて……私の事が嫌いになってしまうかもしれない。


 嫌だけど、そうなったら……私はどうなるのだろうか?

 私の前からミサさんが、ユイが消えたら……子供っぽいけれど、落ち込んで……何かを壊したくなってしまうかもしれない。



 ――――私は、ユイを失うのが怖い。


 僕と私からしたら、親友であって、仲間であって、姉妹であって、家族であって……きっとそれ以上の、言葉ではいい表せないくらいの関係なんだ。



 いなくなった時のことなんて考えたくない。


「ごめんね。嫌だよね、こんなお姉ちゃん。


 何かとすぐにやらかすし。妹の気持ちにいつも反したことばっかりしちゃって。


 多分、良いところない……し」



 でも、そんな思いとは裏腹に……そんな言葉が口から出てしまった。



 …………だって、ユイには幸せでいてもらいたいから。

 嫌な事があれば話を聞いてあげたいし、解決だってしてあげたい。


 そんなお節介が嫌なら、私が嫌いなら自分が消えてもいいなんて思っている。


 多分私は……というか僕が、どこか深いところで壊れているからそんな事が思えるのだろう。

 それがミサさんの為にではなく、本当は自分が満たされる為にやっている事だって分かっているから……僕はあまり自分を好きになれないのかもしれない。


 他人には色々言えるけど、自分にはできない。

 そういうところが嫌いなんだと思う。それに、これから先ずっと好きになれる気がしない。……好きになんてなりたくない。


 僕と私はミサさんから離れた方がいいのだろうか?


「ごめん、変なこと言ったよね?

 何でもない!気にしないで」



 目の前で、頭に「?」を浮かべているミサさんを見て我にかえる。


 色々と周りの状況を見ずに長く考えてしまうのも、僕の悪い所。


「お姉ちゃんは私の事が嫌いですか?」

「え?」


 突然、ミサさんはそんな事を言った。


「そんなことはない、絶対にない!」


 つい、大きな声でそう言ってしまった。

 びっくりされてしまっただろうか、嫌いになってしまっただろうか?


「……安心した」

「ど、どうして?」

「急にそんな事を言い出すから、私の事が嫌いになってしまったのかと思ったよ」


 ……確かに、変なことを言ってしまったから、変な風に勘違いさせてしまったのかもしれない。


「お姉ちゃん……大好きだよ」

「ひゃっ……!?」


 ミサさんはそう言った後、私に抱きついてきた。


 ……次第に、顔が熱くなっていくのがわかる。


「何で、何でそんな事言うの?

 私はお姉ちゃんの事大好きだよ。何があっても、何をしても。


 お姉ちゃんがみんな殺したって、私の事を殺したって……きっと、いや絶対に嫌いになれない。


 でも、お姉ちゃんがお姉ちゃん自身の事を嫌いになるのは……嫌なの。


 私はこんなに好きなのに、お姉ちゃんには幸せでいてもらいたいのに……どうして気付いてくれないの?」

「っ……」



 あぁ、そんな事言われたら……私。

 もっと、一緒にいたくなってしまう。もっと壊れてしまう。


 多分私はずっとこうなんだろう。


 私は、そっとミサさんを抱き返した。


「ありがとう。


 私……色々と、どうすればいいのか分かった気がする。


 …………私もミサさん、そしてユイのことが大好きなの」

「大丈夫、ちゃんと分かってるよ」



 ……何か、少し変われた気がする。


 ミサさんには感謝しないと。



「昨日、どうやら私牢屋に入れられていたらしいし……お風呂に入ってこようかな?」

「え!?牢屋って……どういう事ですか!?


 ……じゃあ、私も一緒にお風呂に入ろうかな」

「それはダメです!!」


 ……私はいいかもだけど、僕はダメなんです!



◇ ◇ ◇



「やっぱり……自分の体とはいえ馴れないよ……」


 僕は目を瞑りながらそんな事をいう。



 そんななのに何でお風呂に入ったのかと言われたら……勿論昨日牢屋に入れられていたらしいというのも関係しているんだけど……。



 恥ずかしい話、涙が抑えられないから。

 こんな恥ずかしい姿、見せられないよ……。



 お風呂に入ると、色々と整理できて落ち着くかと思って……。



 一度、湯船に口のあたりまで沈めてみる。


 …………あったかいお湯は、やっぱり正義だね。


 日本人の心が満たされていくような気がする。……いや、そんな事はないんだろうけど。



 ……ふぅ。


 ちょっとの間、今も抑えられずに目から出ている涙と、さっきまでの気持ちを見なかったことにするよ。



『お姉ちゃんがお姉ちゃん自身の事を嫌いになるのは……嫌なの』……か。


 その言葉で、僕も、私もはっとさせられた。



 気づけば自分自身の事を責めていた様な気がする。

 だから、今さっき、ミサさんに……物凄く救われたんだろう。


 あのままだったらどうなっていたか分からない。



 …………うん、これからはちゃんと変わらないとね!


 だって、ユイに心配をかける僕が

 ミサさんに迷惑をかける私が


 ……()は大嫌いなのだから。

年明け一発目は少し暗めで。


こういう成分が枯渇してきたというのもありますが、こうした方が明るいところがより引き立つというものです。……知らんけど。

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