遠い約束
「ところで、なんで話をするのにこんな所へ来たんですか?」
話をするだけなら別にどこだっていいはずなんだけど。
というか、ここに来てから何分だったのだろうか?
お店に行って、何もなしという訳にはいかないはずだよね?
「それは……とくに理由はないわね。と言っても落ち着いた所といえばと考えてみたら、一番にここが思い浮かんだだけなんだけどね」
「でも……私たち何もたのんでないけど大丈夫なの?」
少し、怖くなってきた。……お店の人に怒られないよね……?
「まぁ……咲がいる以上これくらいの事では怒られないんじゃない?分からないけど」
まぁ、咲がファミレスを作ったという話は聞いたけど……本当に大丈夫?
「そうだとは思いますけど、流石に申し訳ないので何か注文しましょうか」
「そうだね。私もどこかの誰かさんのせいで一日中徹夜で働かされた訳だし、少しお腹が空いていたところなんだよね」
……どこかの誰かさんって、ひどくない!?
「元を辿れば、ゼニアスさんのせいなんですけどね」
「うっ……」
まったく、その通りです!
……って言いたいけど、お姉ちゃんを働かせたのは本当だし、申し訳ない気持ちはあるんだよね。
だから、やめておこう。
決してお姉ちゃんのイジワルが増長されるからやめようなんて思っていない。
と、そんな事は置いておいて。
「何かを注文しようというのには賛成なんですけど……ユイの事が少し心配なんですよね」
「ユイって……さっきの話で言っていた翔くんの妹の?」
「はい」
元々出かけようとした理由を思い出してほしい。
朝ごはんを作るための食材を買いに外に出たんだよ。
という事は、家ではユイがお腹を空かせて待っている訳で……。
「あまり待たせる訳にはいかないんです」
それに、少し罪悪感があるし。
『なんで先に食べてたの?』って言われてしまうかもしれない。
「そうだね……じゃあ、連れてくる?」
私が色々考えていると、お姉ちゃんが突然そんな事を言った。
「そうだね、ユイを連れてくるよ」
やっぱりユイを呼んだほうがいいよね。
「いや、私が連れてくる?って意味だよ。
ほら、私なら転移で一瞬だから」
なるほど……そう考えると転移ってすごく便利だったんだね。
……色々と僕を困らせてきたイメージしか無かったんだけど、よく考えてみれば移動が一瞬で完了したり……中々に凄いスキルだよね。
「それじゃあ、お願いしようかな」
「りょーかい」
私がお姉ちゃんにお願いすると、お姉ちゃんはサッと消えてしまった。
……そういえばお姉ちゃんって最高神なんだよね?
そんなに人に使われてていいのでしょうか……。
なんて、お姉ちゃんの事を心配していると
「二人きりになってしまいましたね」
と、咲が言った。
お姉ちゃんがいなくなって、確かに私達二人だけになってしまった。
「そうですね。……といっても、すぐ戻ってくると思うけど」
「……だといいんですけどね」
「?」
咲は何か意味深にそう言った。
といっても、どういう事を考えているかなんて分からないし……勝手に覗いても嫌だと思うし、取り敢えずおいておくことにしよう。
でも、さっきから何か違和感を感じるんだよね。
なにかが違う……みたいな。
…………そうだ!転移の時に光が出ていなかったんだ!
「さっきお姉ちゃんが転移した時、光って出ていなかったよね?」
ちょっと気になるので咲に話してみる。
別に何かという訳ではないんだけど、転移する時に周りに気づかれないと言うのは隠密行動で役立つ気がする。
私は魔法の知識が本当に無いので、咲なら何か知っていないかと思って聞いてみた。
「確かに出てなかったですね。それがどうかしたんですか?」
「いや、転移って使う時に白い光が出るんだけど……どうして出なかったのかなぁ……って思って」
「言われてみればそうですね。……でも、アレはあの人……というか神だから為せる技だと思いますよ」
お姉ちゃんだからできる……?
「どういうこと?」
「アレは私達の知っている転移では無い可能性があるんですよ。
転移の術式を読み取って、光を出すようにしている所を加筆修正したなら光を出さない転移の術式を作る事ができると思うけど
……今の術式から完璧により近づけようとすると最高神ほどの技量を持った者にしかできないと思う。
それと、もう一つの可能性。
文字通り転移の様に見えるけど違うモノって言う可能性。
あの神様は、過去へ転移したり違う世界線へ飛んだりとか……色々できてしまいそうですから。これくらいの魔法を作るのは容易いんじゃないですかね」
……なるほどね。どちらにしろお姉ちゃん位の実力が無いとできないのか。
「少し残念だなぁ」
「……翔くんはゼニアスさんの話を聞くかぎり半神半人みたいな状態なんですよね?
なら、できない事はないかもしれませんよ」
確かに、努力すればできない事はなさそうだね。
よし、頑張ってみよう!
「ありがとう。話を聞いてくれて」
「いえ、そんなに気にしないで下さい」
「でも、色々助かったし。よければ何か僕に頼んでくれてもいいんだよ?
今まで、何でもと言って痛い目を見てきたから何でもとは言えないけど」
何でもすると言って痛い目にあったことに後悔はしていない。
決して何でもは流石に言いすぎたかなぁ……などとは思っていない。
……思ってない。
「……頼むことは無いですけど、聞いて欲しい事はあります」
「聞いて欲しい事?」
咲から何か話をされる事なんて今まであまり無かったし、珍しい。
「…………私たちの関係というか、距離感というか。
昔の様に、してもいいのでしょうか……?」
咲は、少し声を小さくしてそう言った。
でも、昔の様にって……
「もしかして……口調のこと?」
「そう、ですね。
私たちは一度死んで……そうなると、もう赤の他人になってしまったのかもって……すごく心配になって。
それに、翔くんを一度ならず二度までも傷つけてしまったから……私の事が嫌いになってしまったんじゃないかって。
今までのままじゃ嫌な気持ちにさせてしまうかもしれないと思って」
咲は、少し申し訳なさそうにそう言った。
……まさか、咲がそんな事を考えていたなんて。思いもしなかった。
咲は優しいから、罪悪感で胸が痛んでいるのかもしれない。
「……口調の事は実はさっきから、気になっていたんだよ。
僕たちの昔のことを知らないお姉ちゃんにはその変化は分からないと思うけど……僕はずっと気にしてた」
「やっぱり、私の事なんて……」
「違うよ。
僕の方が嫌われているんじゃないかって、ずっと心配していたんだよ。
ほら、第一印象が最悪な訳だし……」
だって、今世の初対面がストーカーだったもん。
嫌われたってしょうがないかな、なんて思っていた。
だけど、
「そんな事、思ってない!」
……杞憂で本当に良かった。
「……だから、二人ともずっと同じ気持ちだったんだよ。
『何があっても嫌いになんかならない』
って約束したあの日から、ずっと」
かなり昔の話だけど、咲は覚えているだろうか。
小五の頃に約束した、本当に他愛のない約束。
というか、覚えて無かったらやばい奴じゃん、僕。
……そんな事を思って、少し心配になっていると、咲が徐に右手を出してきた。
「?」
僕はしばらくその意味が分からなかったけど、ふと思い出した。
そういえば、あの約束をした時握手をしたっけ。
「約束ね?」
……ものすごく懐かしい。咲も覚えてくれていたんだ。
そう思うと、すごく嬉しかった。
「もちろんっ!」
僕は、咲の手を取って……そう言った。
二人の過去について少し書いてみました。
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閑話も少しずつ書いていきたい……!
 




