策士策に溺れず
お久しぶりです!結局これから私用が忙しくなりそうです。orz
黒い影はどうやらこちらに気がついているようで、何かしてくるのかと思い体を強張らせたがこちらを向いたまま動く気配が無い。
マネキンでも置いてあるのかと思ったが、その影の周りで煙が不自然に動いていることからそうでは無いと分かった。
侵入者を見ても動こうとしていないのが逆に怖い。でも、取り押さえるなら煙で視界を奪われている今がチャンス……!
たとえ拳銃で撃たれても、剣で切られても、魔法を撃たれてもこの体ならそんなことで死んだりはしないだろう。――しないよね?
ということで、回り込んで後ろから取り押さえる。
取り押さえ方はうろ覚えだけど分かる。――刑事ドラマで見たやつが。
ええい!とりあえずやってから考えよう!
僕はそう考えることにし、相手の後ろに回り込むべく足に力を入れて踏み込んだ。
策士策に溺れるとはまさにこのことっ!!
そんなことを考えつつヒュッっとまるで飛ぶように飛んでいき、影の真横を通り過ぎようとしたその瞬間
――急に視界が暗転し、意識が飛んだ。
● ● ●
煙の充満する部屋に一人の少女と、床に倒れた少年がいた。
少女は華奢な体つきで黒い服を纏っており全身を目立たなくしていたが、そのせいで彼女の顔に付けられたガスマスクだけが異様に目立っていた。
そんな少女はふと、隣に転がる少年を見て
「この煙に含まれている毒は相手を昏睡状態に落とすもの。いくら強いと言っても油断は禁物よ」
と冷酷に言った。
「致死量じゃないけどすぐに相手を眠りに落とすくらいの効果はあるわ。貴方が次に目を開けた時に……ってもう寝てるの!?」
少女は床に倒れた少年から微かに聞こえる寝息を聞き取り驚いたような声を出した。
「しかし、この煙が邪魔ね。危険だし排除しますか」
彼女はそう言うと近くにあった換気扇のスイッチを押した。
煙はみるみるうちに晴れていき、やがて何もなかったかのような空間に戻った。
しかし、そこに倒れている少年を見れば、先ほどまでの出来事は本当に起きたことなんだと分かった。――ただし少年は心地よさそうに寝ているが。
そして、すっかり元に戻った部屋で少女は一人その少年を眺めるのだった。
「本当に、この状況でよくここまで心地よさそうに寝れるものね。…………こんな事で彼の寝顔なんて見たくなかったわ。でも、勇者が召喚されているという事実を確認できたことは……いいこと、なのよね」
しばらく天井を眺めて何か考えを巡らせていた彼女は、しばらくした後、その体つきに見合わぬ筋力で少年を担ぎ、どこかへと連れ去った。
◆ ◆ ◆
配線やらコンピューターやらでごちゃごちゃになっているものの、その全てが相まって妙な統一感の生まれている――例えるならSF映画のワンシーンに出てきそうな、ファンタジーな世界にはあまりに似つかない無機質な部屋に少年は運び込まれていた。
少年は腕と足に枷をはめられ、少女とその仲間たちの手によってその部屋の一角にある牢屋に囚われている。
そんな状況になってまでも、少年が起きる気配は全くと言っていいほどなかった。
そして、そんな少年を見て少女が『少し薬の量を間違えたのかもしれない』などと思い始め、その仲間たちは少年を奇異の目で見ていたその時、その部屋へと繋がるたった一つの扉が、大げさな音と共に開いた。
扉から入ってきたのは、頭に茶色の帽子を被った15歳くらいの少女だった。
少女は全員が全員同じような服を着た、およそ二十人くらいの彼女の仲間達から「団長」と呼ばれていた。
そんな彼女は、部屋に入ってすぐ一番近くにいた仲間にある質問をした。
「どうやらヤバい奴が捕まったと聞いて来たけど、そいつの詳細は?」
仲間の男は、それに少し緊張した様子で答える
「すみません。私は詳しく知らないのですが、バルヘルト様でも敵わないとか……」
「本当に?そんなバケモノ一体誰が捕まえたの?」
「トオサカ様が捕まえたそうです。ですが、見たくないものを見たと言って部屋へ籠ってしまいまして……」
少女は彼の言葉を聞き、少し驚いた様子を見せた。
それは何故かというと、少年を捕まえた少女――遠坂は実力者であるが、あまり仕事はしないのである。
今回のように命令ではなく、自分から外へ出て人を捕まえることなど滅多に無いのだ。
「遠坂が自ら動いたことには驚いたけど……見たくないものを見たってどういうこと?」
「捕まえた少年なんですが、トオサカ様が言うには姿を偽っているそうで……」
「その姿が彼女にとって嫌なものだったと」
「はい」
その話を聞いた少女は小声で「なるほどね」と呟いた。
「それで、その少年はどこに?」
「一番端の牢屋に捕らえてあります」
「ありがと」
仲間から少年の居場所を聞いた少女は部屋の部屋の隅にある牢屋へと向かう。
一番隅にある牢屋、それは他に数個ある牢屋とは違い希少金属であるアダマンタイトを使った特注品である。
つまり、捕らえられている者はそれだけ強いということ。
少女は、冷や汗を少しかきながら牢屋へと向かった。
そして一番隅の牢屋の前に立った時、少女は思わず声を出した。
「え……?」
少女の目に写ったのは、牢屋の中だというのに場違いなほど気持ちよさそうに寝ている少年の姿だった。
しかし、少女が驚いたのはそこではない。問題はその少年の方だった。
――――明らかに見覚えのある少年の姿が、そこにあったのだ。
「どうしたんですか?」
「え、いや……」
少女は動揺していた。
十数年前に亡くなったはずの少年、歴史上から消された少年の姿がそこにあったのだからしょうがないことだと言えるだろうが。
兎に角、そんな彼女を心配して声をかける仲間の言葉もあまり聞こえなくなるくらいには動揺していた。
しかし、流石は団長と呼ばれているだけあって頭の切り替えは早かった。
「ごめん、取り乱した。それで、この少年の姿は偽物なんだよね?」
「は、はい。トオサカ様の報告ではそのようだと」
「じゃあ……剥がそっか。全員警戒態勢でお願い。《魔法解除》を使う」
「了解しました」
少女はまるで人が変わったかのように仲間に命令を出していく。
仲間も、それに答えるように素早く装備を整え警戒態勢へ入った。
「相手はどんな姿になるか分からない。……もしかしたらとんでもない化け物になるかもしれないし、逆に可愛らしい少女になるかもしれない。まあ私は十数年前に牢屋に閉じ込めていたはずの魔王を脱獄させた奴だと踏んでるんだけどね」
少女は周りを見て、全員が警戒態勢に入ったことを確認すると
「いくよ…………《魔法解除》」
魔法を使った。
すると、少年の体が淡い青色に包まれた。
それは、魔法が発動した証拠であり、少年の姿が偽りのものだったという証拠でもあった。
しばらくすると、光は強さを増していき……やがて少年の姿が見えなくなった。
そして、それから数十秒後……光が引いたそこに居たのは――――
――――赤髪の少女だった。
「「……は!?」」
その姿を見て、その場に居た人たちは揃って驚きの声を上げた。
そして、その声によってか、或いは自分の体の変化によってか赤髪の少女は遂にあくびを上げて目覚めた。
「ん〜〜…………あれ、ここどこ?」
ブラックすぎる。
次話はできるだけ早く投稿したい……
 




