蔓延する闇
私たちは《変身》を使いユイはミサさんの角ありバージョンに、私は自分の成長した姿をイメージしたものに角をつけたものへ変身した。因みに自分では16歳辺りをイメージしたつもりなんだよね。
あと、シオンがついてきていたら変身しても元も子もないので分体をしまってもらうことにして、準備を整えた私たちは早速魔国へと向かったのだけど
成長した姿に変わっているので私たちは前よりも早く魔国へ着くことができました。
やったね!成長って素晴らしい。
とはいっても夜になってしまったので門がまだ開いているのか心配になってきているのです。
せっかくここまで来たのに夜が明けるまで待ってくださいなんて言われた日には隠れて潜入してやりますよ!
まあ夜だし少しは警備の数が減っているからいけるでしょ。
と思っていたけどそんなことはなく、遠目で見てもわかるくらい依然警備はすさまじかったですよ、こんちくしょうっ!
まあ前みたいに兵士に隠れられていたらそのまま行っちゃいそうだったから――そこはありがとう?
「ということで正々堂々いきましょう。正面突破です」
「ということってどういうこと……というか私たち、《変身》を使っている時点で正々堂々とできていないのでは……」
「それは言わないお約束」
『お前ら、本当に大丈夫なんだろうな……』
あはは……正直自信ない。
でも、為せばなんとかなるって。
よし、行こう。門は――――まだ開いてるみたい!
「すみません、中に入りたいんですけど」
私は門の近くにある前世で見た、いかにも受付みたいなところで言う。
この時間帯に人が来るとは思っていなかったようで人は立っていなかったけど、門が少し開いていたので中に人はいるのだろう。
というか門が開いてるって少し警備が雑過ぎない?
「すみません、誰かいませんかー」
返事が聞こえない……え?本当に人居ないの?
「居ない、のかな?」
「返事がないのでおそらくそうかと。……でも、もしかしたら中で人が倒れていたりして」
人が倒れているなんて、そんなわけないって。
「流石にそれはないんじゃない」
『いや、なんとなくだが人の気配がする。何をしているのかは知らないが……お前のことを無視しているのかもしれないな』
「な!?そんな……私ってそんな嫌われてるの!?」
「ど、どうしたんですかお姉ちゃん」
あ、そっか今は私にしか聞こえてないのか。
「シオンがミサさんの言った通りこの中から人の気配がするって。……それで私を無視しているのかもしれないって」
私がミサさんにシオンの言ったことを説明すると、ミサさんは笑顔で
「そうだったんですね。では後でシオンさんをミンチにしてさしあげます」
と言った。
その笑顔は世界一怖かったと思う。
これにはさすがのシオンも
『や、やめろ!?本当にやりそうで怖いから!』
と、ビビっていた。
と、そんなことはさておき。門番さんが返事をしないのは少し怖い。
もしかしたら何かあったのかもしれない。
そう思った私はシオンに中に居る人がどのような状態になっているのか確認してもらうことにした。
「シオン、中の状況を確かめられる?」
『おう、やれるだけやってみるが……あまり期待するなよ?』
「大丈夫、初めからき……」
初めから期待してない……と思ってもいないことをつい言い出しそうになったけど咄嗟に口を押さえてなんとか抑える。
なんだったらちょっと期待している自分がいるんだけどね。
『《探索》』
「どう?」
私が問いかけるとシオンはゆっくり中の状況を答え始めた。
『受付の窓から入っておくに扉。扉の先にもう一つ部屋がある。そこにドアがあるがおそらく外へ繋がっている。
扉の先の部屋に男の魔族が一人倒れているな。ベッドの上で寝ている』
「……じゃあ呼んでもこないのは単純に寝てるからか」
……起きるまで粘ってみる?
でも、それだとまたすごく待たされることになるしな。
『いや、男の体に若干何か不穏な魔力の痕跡が残っている。……俺でないと見逃してしまうかもしれないレベルに上手く隠蔽されている』
「え!?それって大丈夫なの?」
『安心しろ、どうやら眠らされているだけだ。後数時間すれば問題なく起きるだろう』
「よかった……」
私はそっと胸を撫で下ろす。
あぁ、ミサさんにも報告しないとね。
「ミサさん、どうやら男の人がこの奥で寝てるらしいよ。というか眠らされてるの。
命に別状はないらしいけど、きっと不審者がこの国に侵入した事は間違いないと思う」
「本当ですか!?……そうなると少し危険ですね。奥にいる人は眠らされているだけだとしても、何があるか分かりませんよ」
「そうだね……私たちなら大抵の敵は何とかなるとは思うけど、油断大敵だしね。万が一もあり得る」
どうしたものかなぁ。
「でも、やっぱり行くしかないんじゃないかな。取り敢えず街の人に聞き込みをしたり、図書館に行って情報を集めたらすぐ出ようよ」
「私としてはお姉ちゃんには危険な目にあって欲しくないのですが……しょうがないですね。二人で手を繋いで行きましょう」
「うん……って何言ってるの!?」
さらっと変なこと言わないで!?
「だめ、でしたか?」
……っ!!
「だめ……じゃないです」
そんな顔されたら……断れるわけないよ。
別にミサさんと手を繋ぐのは嫌じゃ、ないし。
というか嬉しいかもしれない。昔はそんな事、願っても叶わなかったし。
時間の差があれど、こうして二人とも死んでしまって……でも、またこうやって同じ時間に生きて、出会って手を繋ぐというのはとっても感慨深いものがあるよ。
「でも、手を繋ぐなら僕の姿が良かったなぁ」
「ふふ……翔さんもお姉ちゃんも、可愛いですね」
「な、なっ!?」
「そういうところですよ」
ど、どういうところなの!?
やめてよ!変なこと言うの……!
「姉としての威厳が失われていっている気がする」
「なら私がお姉ちゃんになります」
「それは色々と違うでしょ!?」
私はこの姉という立場にずっといたいのだ。
しかし、何故か妹によってそのポジションが揺らいでいる!?
これはひじょーにまずい。なにか姉らしいことをしないと。
「よし、じゃあ結局正面突破になっちゃったけど……勝手に入国させてもらいましょう。私はお姉ちゃんだから先陣をきって門を通るね」
「……お姉ちゃんなら不法入国しないよね?」
あっ……。
「バレなきゃ犯罪じゃないから!!」
「妹を犯罪の道に連れ込んでいいの?」
そ、それは絶対ダメ!でも、どうすれば?
朝になるまで待つことにするしかないのかな?
うーん。
「お姉ちゃん」
「なに?」
「入らないの?」
「え?」
私は考えることを中断してミサさんの方を見る。
するとそこには門の向こう側から少し顔を覗かせるミサさんの姿があった。
先を、越された……!!?
「早くー」
「あ、うん」
結局私はなんとも言えない気持ちで魔国へと入ることになったのだった。




