閑話:しくじりシュナ先生 〜僕みたいにならないで〜
「そういえばお姉ちゃん、私お母さん達に何も言わずに来ちゃったんだけど……大丈夫かな?」
あぁ、そういえば私はみんなに忘れられているみたいだけどユイは違うからなぁ。
「分かんない。でも、結構やばいかもよ?手紙とか置いてきた?」
「んーー。書いてない」
「なら、かなりまずいかもね」
……お母さんたちは自分たちの娘が突然消えて、何もしない人じゃないから探しに来たりするかもしれないんだよね。
まぁ、魔国へは流石に来ないとは思うけど。
でも、最近は魔族側の動きが小康状態にあるって聞いた事があるな。
シオンが居なくなったせいだと思うけど。
だから、取り敢えずシオンを魔国に戻して魔族が人族と今まで通り戦えるようにする。
私たちはだけじゃ骨が折れるし、やっぱりそれが先決なんだよね。
まぁ、今は小康状態な訳だし、母の力は恐ろしいからね。……もしかしたら来るかもしれない。
「……どうしよう、お姉ちゃん。まずいかも」
あー、ユイが少し震えはじめてしまった……。
「ユイ、何とかなるって!」
私は元気を出して!という意味を込めて親指を立てる。
するとユイは
「お姉ちゃんはいつもそうやって能天気なんだから……うぅ」
と今にも泣きそうな声で言った。
はわわわわ!こ、これはまずい。
姉として妹に頼りないと思われてしまっているのは非常によくない状況っ!
何か、何か手は……。
「ユイ、昔話をします!」
「……え?……別にいいけど、どうして突然?」
「それは、姉としての地位を復権するためです!」
「……ごめん、ちょっとなに言ってるか分からないよ」
ぐっ、言葉が痛いよ……。
……でも、まあいい、よく聞けユイよ!
「前世ので通っていたとある小学校で、ある日先生にこんな話をされたの、
『あなたのお父さんやお母さんはあなたの事をとても大事に思っている筈ですから、自分や他人の命を軽く見てはいけませんよ』
ってね」
「うんうん」
「それで、私はお家に帰ってお母さんに聞いてみたの
『お母さんは僕のこと大切?』
って。
そしたら、
『それはもちろんよ』
って力強い声で言われたの。
……それを聞いた私は嬉しくなって、もう一つお母さんに聞いてみたの。
『僕が重い病気にかかって、余命が残りわずかだって知ったらどうする?』
って」
「ふんふん」
「私は『今まで以上に優しくする』みたいな答えが返ってくると思ったのだけど、実際は
『少しはいつもより優しくするかもしれないけど、今まで通りかもしれないね』
って、言われたの。
まだ幼かった頃の僕はそれを聞いて悲しくて、逃げちゃったんだけど……今ではね、わかるんだ。
私はお母さんの話をその時最後まで聞いてなかったんだって……。
そして、今ではその続きの言葉がわかる気がするの
『今まで通り、精一杯全力で愛する』
……多分こんな感じのことを言おうとしていたんじゃないかなって」
「みゃーみゃー」
「いつも全力で愛するから余命が残りわずかでも、愛情の強さは少ししか変わらない。
今では分かる、それが凄いことなんだって。
今では分かるの、僕はとても愛されていたんだって。
……でも、それに気づいたのは、ひどい事に両親が事故で死んでしまった後。
その時私は、きっと一生この後悔を背負っていくんだなぁって、思った」
「にゃーにゃー」
「……ねぇ、シオン」
「…………ん?えっ、俺!?」
「ユイがさっきからものすごく可愛くて抱きつきたい衝動が抑えられないんだけど、姉妹だし大丈夫だよね?……大丈夫でしょ?いいよね?」
相槌がさっきからすごく可愛いし、頷くのも可愛いし……あーーっ、ユイたん食べちゃいたいよー!
「お前……大丈夫か?…………もう一回死ぬ?」
「はっ!私は……なにを……」
何かが、何かが今おかしかった。
頭のネジが外れたというか頭のCPUがぶっ飛んでいった気がした。
危ない危ない。
シオンが私の事をゴミを見るような目で見てくれなかったら、私は一体どうなっていたんだろうか……。
考えるだけで恐ろしい。
「コホン、えっとね。私が結局ユイに伝えたい事は一つ!後悔しないように全力で動いて、考えろ!それだけ!
だから……ユイのためなら私はいつでも手を貸すよ!」
はぁ、なんとか立て直してまとめに入れた。
「……所々どうかしたのかなとは思ったけど、ありがとうお姉ちゃん!お姉ちゃんが協力してくれるっていうなら……使えるだけ、使ってやらないとね」
あれ?今一瞬腹黒のミサさんが出てきた気がするんだけど、気のせいだよね?
「じゃあ早速だけどお姉ちゃん、みんなにお別れの手紙を書いて渡したいから紙とペンと消しゴムを頂戴?
….あと、できた手紙をみんなに届けにいって欲しいなぁ。お願い!お姉ちゃん!」
あぁ、ユイが私を頼ってくれるなんて……感激。
「アイアイサー!!」
私は快く了承すると旅のキャンプ用品とかを作り出すために使った魔法を使う。
「《創造》!」
私が紙とペンと消しゴムを思い浮かべてそう言うと、虚空から想像した通りのものが出てきた。
……ふっふっふっ、この世界にある消しゴムは十数年の年を重ねても未だ地球の物には程遠い!
なので、私は今地球にある消しゴムを想像して創作したのだ!
ユイもその消し心地に感激するだろう……なんて思いながら。
「ふっふっふっ、安心して使うがよい!」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
ありがとうって言われた!
すっごく嬉しい!
「……こいつ、本当にこれから大丈夫なんだろうか。
人間に使い潰される神って……まずいよ、な?」
そんな事をシオンが呆れながら呟いた事をシュナは知らない。
(何でも作り出せるお姉ちゃん…………これは使えそうね)
と、ユイが少し幼さの抜けない邪悪な笑みを浮かべてそんな事を思っていた事をシュナは知らない。
 




