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八面体の記憶

 絶望、一言で表すならそれだった。


 いや、二言も話せる気力は無かったのかもしれない。

 ただ、とても大切なものを失ったということを目の前に突きつけられた。……嫌な気分だ。


 その時、僕は何年か振りに泣いた。全力で。ただ……


 ただ泣くことしか出来なかった。


 

 何分後だろうか、口から漏れる嗚咽がようやく収まってきた頃。


 ……彼の近くに転がる八面体に目を向けた。



 僕はこれを知っている。最近読んだ本に出てきた物だ。


 ……彼に勧められた本。


 この八面体の名前は記憶の結晶体(クレアライトメモリア)、魔水晶という物で作られている。


 魔水晶とは、本によると魔力溜まりという魔力濃度の高い所、かつ地下深い場所に生成される鉱物である。当然、魔力溜まりには魔力を喰って強くなったモンスターが沢山いるので魔水晶の希少価値は高い。この世界では希少価値ごとにランク、AとかBランクなどとランクがつけられているのだが、これは文句無しのA +ランクだそうだ。


 そんな希少価値の高い魔水晶は一体何に使われているかというと……目の前にあるこの記憶の結晶体(クレアライトメモリア)の様な元の世界で言うところの電子機器の様な物が作れる。そして、その動力源は魔力。


 つまり魔力を流し込めばこの記憶の結晶体(クレアライトメモリア)は動く様になる。


 彼の残した言葉が聞ける、筈だ。


 取り敢えず、手に取り魔力を流し込んでみた。魔力の流し方は最近教わったので、上手くいく筈だ。


 すると少しずつ透明な状態から透明感のある赤色へと変化していった。


「成功、だ」


 この状態になったら……


「……起動」


 と、唱えるだけだ。すると……


『起動を確認しました。音声を再生します』


 電子音が聞こえた。彼の残した言葉が聞ける、誰に向けてなのかは分からないが、聞ける。


『……先ずは何から話した方がいいのでしょうか?まぁ、先ずはごめんなさい。と言わせて下さい。これを聞いている人が私と親しい人だと願って言います。ごめんなさい、と。


 私にはまだ実感が湧かないけれど、貴方がこれを聞いてくれている時には既に私は死んでいることでしょう。』


 …………。


『私の死に涙してくれたなら、死んだ後の私としても嬉しい事です。大切に思ってくれて、ありがとう。そして、だからこそ


 ……ごめんなさい。


 私は、実は殺されてしまう事は分かっていたのです。私は、異世界の者に対してとても弱い。勇者に、弱い。だからこそこの機に私を殺そうとする事は分かっていました。』


 ……そうか、この世界の住民では無く、違う世界の住民、つまり勇者なら……。


 気づけなかった。……いや、そんな事あいつらはしないと思っていたのか。


 心の底ではあいつらを信用していた?……いや、そんな訳が無い。なら、きっと、……あいつらには人を殺す勇気が無いと思いこんでいた。


 しかし、実際は……。




 あった、のか。


『今頃責めても遅いですよ?……なんて言ったりして。

 

 私は、別に貴方に気づいてもらいたかった訳じゃない。……貴方を傷つけたく無かった。なんて言うのは可笑しな話でしょうが、ただ、守りたかった。……そこに矛盾なんて、無い。私はそう信じています。


 だって、貴方は強いから。私が一人居なくなった程度で躓いている様じゃ私のお願いは達成出来ないですよ?……まぁ、命の危機にあっていることを伝え無かったのは、こんな私みたいな駄目人間の言うことなんかに縛られていないで自由に生きろって言うのが本音なんだけど。


 ……取り敢えず、世の中は貴方の思っている程易しくは無い。でも、その分楽しい事も沢山ある筈。少なくとも私の人生はそうだった。だから、そんなに落ち込まないで、安心して生きなさい。そして、間違って死んでしまった時には、向こうで沢山励ましてあげます。


 ……話すことも話したし、じゃあ、そろそろお別れの時間。……また逢いましょう、気長に待ってるから。くれぐれも、間違えずに死なない様に』

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