85 メガネ、状況確認
やあやあ、どうしたんだい?
人に眼鏡をかけてもらってくすぐったさを我慢しているような顔をして。
私だよ私。メガネだよ!
さて、世界中を揺らす大きな地震のせいでメガニア国内でも被害が出た。大陸を繋ぐ橋も一部が崩れていたので、その修理を主に進めている。建物の全壊はなかったけれど一部欠損があったり壁にひびが走ったりしていた。今後の地震で崩壊しないとは限らないので、住民たちはナハティガル君と私達が住んでいる屋敷に避難させていた。水道電気ガスがある世界ではないから、その辺で困ることはないし、食糧も十分にあるからそれ以上の被害はない。津波が起きるかもしれないと構えたけれど、大きな地震の割にメガニアでは津波被害はなかった。
「それこそ、彼女の加護のおかげかもしれませんね」
「えっと、ナハティガル君と一緒に最初に作られた人のことだよね。……名前とか覚えてないかな?その人の呼び名がないのは不便だよ」
「申し訳ないですが、覚えてないんですよね。……まあ、プレニル神やノヴィル神を倣って母神と呼びますか」
私とナハティガル君は、念のためと海沿いの様子を見に来ていた。プレニルとノヴィルには津波被害がそれなりにあったようだが、メガニアには全くないのが不思議だと話したところ、ナハティガル君は母神のおかげだと言ったのだ。
「この島は母神が降り立った初めての場所ですしね。私を縛る場所でもあるから、この島に人が住めなくなるのは困るのでしょう」
「そっか。まぁ、どうあれ被害がなくてよかったよ。プレニルとノヴィルは建物の倒壊とかスゴイって聞いてたんだ」
「耐震の建築知識のおかげですね。大きなけが人もなく、ヨナキウさんも安心していました」
「じゃあ問題は橋だけか。こっちに来たついでに橋の様子も見に行こうか」
私とナハティガル君が工事中の橋に近づいていくと、そこにアンちゃんがいた。私達に気づいたアンちゃんはロープを持っていた手を降ろす。
「危ないからあんまり近づくなよ」
「お疲れ様、アンちゃん。工事は順調?」
「なんとかな。だけど、橋の近くにいた奴から不思議なこと聞いた」
そう言ってアンちゃんはロープを近くの人に渡してからこちらに来た。どうやら命綱ようのロープの生成をしていたようだ。
「メガニア国内にいた俺たちには震度3か4ぐらいにしか感じなかったが、橋にいた奴は立つのが厳しいぐらいには揺れてたって。震源がおかしくないか?」
「多分母神の加護のお陰でメガニア国内はあまり揺れなかったんじゃないかってナハティガル君と話したよ。ミーティと、ちょうどプレニルに行ってるルデルに聞いて来たけど、ミーティもルデルも震度6あるんじゃないかってぐらいの大きい揺れを感じたって」
「その二国もそんな大きな揺れって……震源特定も原因特定も難しくないか?」
「それに関してはプレニルとノヴィルの神様に聞いたんだけど」
「あ、あの……二人とも」
私とアンちゃんの会話を申し訳なさそうにナハティガル君が止める。なんだろうと二人でナハティガル君に視線を向ければ、ナハティガル君は首をかしげる。
「会話にあるシンドというのは?話の様子からだと、揺れの大きさを測るものですか?」
「そうだよ。前世の私達が住んでた国は地震が多かったからね」
「メガニアでは初めての地震だったのか?結構慌てふためく人が多かったよな」
「少し揺れているような感覚はたまにありましたが、あれだけはっきりと揺れてるとわかるのは初めてでしたね。……あれが常にあるのかと思うと恐ろしい世界ですね」
まぁ、確かに。この十年でメガニア国内で起きた地震は気づけないぐらい小さなものだけだったし、洪水が起きるほどの大雨も飛ばされそうなほどの強風も起きてない。それが急にとなると慌てる人もいるに決まってる。それでも怪我人が少なくて済んだのは幸いだ。
「んで、メガネ。神様から聞いた話って?」
アンちゃんに促されて、私はこの世界は元々平らだったのに丸い世界になろうとしていること、そして穴が開くことが増えてきていることを伝えた。
「穴が開く、ですか。メガニアではそのような現象は起きてないですね」
「神様の仕業ってわけじゃないのか。放っておけば危険じゃないか?」
「うん。でも、もし母神様が原因だとどうにもできないし、他の原因も思いつかないから」
私がナハティガル君の眼鏡に転生できた感謝を伝えられる人も今のところいない。神様になってもわからないことばかりで困ったものだ。まぁ、全部を知らなくてもいいのだろうけれど。
「そういや、明日ミーティが来る予定じゃなかったか?地震後で来れそうなのか?」
「あぁ、国内の状況確認してから来るから明々後日ぐらいになりそうだって言ってたよ。地下道も一部使えなくなってたみたいで」
「そうか。無事に来れるならいいか」
ミーティの安否を心配するアンちゃんに、私は目を細める。
「アンちゃんや。結婚はまだしないの?」
「またその話か。こっちのことは放っておけ」
「いい加減に決めないとミーティが可哀想だから言ってるんだよ。アンちゃんもミーティのことちゃんと好きじゃん。何が嫌なの?」
「嫌じゃない。ただこっちのタイミングがあるからで」
「タイミングなら何度も逃してるでしょ。こっちはもうアンちゃんがいなくても運営できるようになってきてるし、あっちに婿入りしてもいいんだよ?」
「だから……」
頭を抱えるアンちゃんを庇うように、ナハティガル君が私に笑顔を向けてきた。
「まあまあ、メガネ様。アンも思うところがあるんですよ。決して怖がっているとか臆病になっているとかフラれたくないとか、そんな気持ちが邪魔しているわけではないはずです」
「そうそう。ナティの言う通り」
「……ナハティガル君が言うならそういうことにしておくけど」
ナハティガル君を盾にするなんてズルイが、とりあえず今はそれでよしとしておこう。もしまた半年進展がなかったらまた迫ってやる。




