84 メガネ、時が経つ
やあやあどうしたんだい?そろそろ眼鏡変え時かなーって言いたそうな顔をして。
私だよ私!メガネだよ!
なんだかんだこの始まりは久しぶりだよ。皆、この話の主人公は私だからね!
さて、前回までのあらすじとしては、プレニル神とノヴィル神と対面して、そこにナハティガル君が迎えに来てくれて、推し宣言してもらったという感じかな。
なんと、あれから10年も時間が経過したのです。
10年も経ったので国の中でも大分変化が起きていて、勿論皆も年齢を重ねている。
私もあの大人の姿で日常を過ごしているよ。神様としてちゃんと自覚はしたけれど、やることはそんなに変わっていないよ。祭の時は舞いを披露して、メガニアの様子を確認して、眼鏡を通して悪いことしてないか確認している。
あ、ちなみにあの時全世界に配った眼鏡だけど、眼鏡が無くても視力に問題はなくなったってエレオスとミーティアに言ってもらって、全員が眼鏡を常に着用しているって事態にはなっていないよ。でも、視力が落ちて困っている人もいるので、メガニアにいる医者に診断してもらって希望があれば度入りの眼鏡を渡しているんだ。
眼鏡はもうメガニア限定商品としてファッションとしても人気になっているよ。一番人気は、眼鏡の弦にあるボタンを押せば、骨伝導を使ってセレナードの歌が聞こえるという眼鏡。新曲が出たらその眼鏡を持ってきてくれれば、新曲のお金だけもらってその眼鏡に新曲も聞けるようにできる。できるかなーっと試しに作ってみたものだけど、まさか本当に音楽プレイヤーになってくれるとは思わなかった。
メガニアの歌姫セレナードは、なんと数年前にシムコムと結婚をした。アイドルってわけではないので結婚したから歌姫やめることはなく、今は歌姫になりたい子たちに歌を教えたりしている。最近は子供も生まれた。最初は自分の子供も黒い肌になるのではとセレナードは子供を作ることを拒否していたけれど、シムコムに頼み込まれて無事に生む決意ができたようだった。生まれてきた子の肌はシムコムの肌の色だったのでセレナードも安堵していた。
フォルモさんは変わらず、警備と料理人を兼任してくれている。料理を学ぶ弟子も増えたし、レパートリーもさらに増えている。ただ、50が近いのにまだ結婚していない。クデルと年の差婚するかなと思っていたけれど、そんな様子もない。まぁ、フォルモさんが幸せならいいのだけれどね。
そんなクデルはプレニルの教皇になっている。
……そう、教皇である。私も初めて聞いた時は驚いた。どういうことかと本人に聞きに行った。
曰く、エレオスが教皇の位を譲ったようだ。
クデルはプレニルをいい方向に導いてくれている。エレオスより民からの信頼を得ているし、民からクデルを教皇にと言う声もあった。エレオスもいい加減自分が巫女と教皇を兼任するのも嫌なのでクデルに任せたい、ということだった。
最初はエレオスとクデルが結婚したのかと驚いたけれど、ただエレオスが教皇を押し付けただけだった。ちなみに、エレオスは巫女もやめようかとも思っていたけれど、プレニル神にそれは止められたらしい。
ということで、エレオスはのんびりと過ごしているらしい。巫女としての仕事もそんなにないようだ。
ルデルは基本はメガニアで過ごしているけれど、外交と称してプレニルに行ってもらっている。クデルに会える時間がないのもかわいそうだしね。
そして驚いたことに、ルデルは最近結婚した。
まぁ、24歳になったようだし、結婚しても良い年齢だ。相手はメガニアで医師をやってもらっているヨナキウだ。そんなに仲良くなっていたのかと意外に思っていると、ルデルがフォルモさんに戦闘の指導をしてもらって、その時に負った怪我を治してもらっているうちに仲良くなったようだ。
プレニルの犬の皆も元気にやっているらしい。シバはまだメガニアで過ごしている。ウェコがたまには帰らないか、交代するぞ?とやって来た時は帰りたくないと駄々をこねていた。気に入ってもらえたのは嬉しいけれど、それでいいのか。
ノヴィルはというと、エトワレとリングアが結婚した。エトワレ教皇としては結婚するつもりはなかったけれど、そうなるとミーティが大変だと感じて結婚を決めたらしい。夫婦仲は悪いわけではなく、リングアも複雑な表情を最初は見せていたけれど今は受け入れているらしい。
ミーティは、まだ軍隊長と巫女の役を兼任している。アンちゃんと結婚するような様子も全くない。アンちゃんに聞いても話を濁らせるだけだ。最近は独り言も増えてるし、何かあるのなら言ってもらいたいものだ。
10年も経てば変わるものは多いものだ。むしろ変わらないものはそんなにないだろう。
そう、私も他にも変化はあった。
まず、ちょっと怒られそうなことを言おう。
……私、ナハティガル君と結婚しました。
いや、私も別に結婚までいくつもりはなかったんですよ?なかったんですよ?
その、ナハティガル君もそろそろ結婚考えてもいい時期だよなって思ってまして。国民のお婆ちゃんたちもそう言っていて、ナハティガル君が悩ませていたんですよ。
ナハティガル君が人を愛せなかった過去も知っていたし、私は言ったんですよ。「ナハティガル君が本当に好きな人とだけ結婚すればいいよ。無理に結婚しようとしなくても私はいいと思う」って。
その言葉にふむ、とナハティガル君が黙り込んで、そして手を握られた。
「メガネ様、結婚しましょう」
と、言われた。
……うん。あんなキラキラした目で言われたら、断れないじゃん。推しからのプロポーズ嬉しいじゃん。
いつの間にか頷いていたらしい私はあれよあれよと結婚式が行われていた。
推しへの思いは恋愛感情とは違うって言った私が推しと結婚するって一部から怒られそうだよ……。
とにかく、私とナハティガル君は晴れて家族となった。そして、もう一つの変化として、子供ができた。
いや、別に二人の間に生まれた子ってわけではないよ。この子は私が神になって神様の世界に行った時に私の代わりを勤めさせようとしていた眼鏡だ。子供はまだかとか言われそうだし、この眼鏡を擬人化させて、二人の子供として過ごさせようとナハティガル君と決めたのだ。特別な名前とかは決めておらず、皆からは「姫巫女」と呼ばれている。
私のコピーのはずだから、人格はおなじはずだけど、私よりも礼儀正しい子に育っている。おかしいな。
人間関係の変化はこのぐらいで、世界としての変化は他にもある。
この数年、地震が増えているのだ。
「前々から地が揺れることはあったのじゃが、大きな揺れがこう何度も来るのは珍しいものじゃ」
「そうだな。それでも不思議なもんで、地割れとかはすぐに直ってしまう。母神の加護かもしれんな」
そう言ってカップを傾ける二人の神に挟まれながら、私は息を吐き出す。
「プレニル神もノヴィル神も地震についてはわからないのか……」
度重なる大きな地震で、対策も何もなかった建物が崩壊している。それに巻き込まれたり、慌てて動いて転んで怪我をする人が増えていて困っているのだが、地震の原因はわからない。
前の世界だと、プレートが動くんだったっけ?海底火山の影響でも起きるんだっけ?地震の詳しい原理は知らないなぁ。地震が起きやすい国で生まれ少しの揺れには慣れているとはいえ、もう少し知識を得てもよかったかもしれない。
「……メガニアよ。違うであろう」
「え?」
「姉様っと呼ばんか。プレニル姉様と。忘れてしまったのか」
「あ、すみません……。姉様」
私がそう言うと、プレニル神……プレニル姉様は満足そうに頷いてクッキーを一口食べた。
初対面は悪い印象だけだったけど、母神にそっくりな私にプレニル姉様は気に入ったようだ。多い頻度で二人だけの世界に呼ばれて、こうしてお茶会が開かれている。
美味しいものが用意されてるからいいけど、ここまで対応が変わるとは思わなかった。
「また穴が開いて見知らぬ物が落ちてる事も増えたからな。何か嫌なことが起きる前兆とかでなければいいのだが」
「……ノヴィル兄様、その見知らぬ物は前からも落ちていたんですよね?」
「ああ。地震は最近ほどではないが穴が開くことはあったからな。穴に巻き込まれて落ちてきたのは、自分の巫女の周りにいる5人の女だけだ」
「え、というと、オクルス達のこと?」
「そういう名前がつけられていたか。気になるのであれば今度話を聞いてみたらいい。覚えているかは知らんがな」
ノヴィル兄様の言う見知らぬ物というのは、前世で見たことがある物だ。まぁ、違う部分も多いけれど、一度ミーティから見せてもらったが、アンちゃんもルデルも覚えがある物だった。オクルス達がその物と同じように落ちてきたのであれば、何か聞いてみるのもいいだろう。
そしてふと、二人の神を見る。
「二人は、その穴のこととか、オクルス達が来た事とかわからないのですか?前世の記憶がある私たちも、神様のなんらかの力でここに来たものだと思っていたから、穴とかも神様の仕業かなーぐらいに思っていました」
「わらわ達はそんな力はない。ここから出れたらそれだけの力が使えるかもしれぬが……」
「母神に閉じ込められたことで、巫女を伝って行動するしかできんからな。だから、穴のこととかは母神が残した力が原因か、もしくはナハティガルが言っていた原初の神が原因だろう」
原初の神。ナハティガル君と最初の女性を作った神様。そして最初の女性とナハティガル君をこの世界に捨てた神様、か。
そんな人なら今起きてる不思議なことも起こせるのかもしれない。そして落ちてきている物が、その原初の神様がいる世界の物の可能性もあるんじゃないだろうか。理由はわからないけれど。
「そういえば、ノヴィルよ。わらわとそちらの国が近づいてもおるよな」
私が考え込んでいると、プレニル姉様が思い出したように言った。
「え、どういうことですか?お二人の国の間にはメガニアの島がありますよね?」
「ああ。そうなんだが、お前のとことは真逆の方向がな。元々は何もなく、水も全てが落ちる崖があるだけだったのだが、その崖の向こうにプレニルの大地が見えてきたのだ。まるで大地が輪のようにくっつこうとしているのだ」
「違うであろう。球になろうとしておるのだ」
全く気にしてなかったけれど、この世界ではどうやら大地は平らだと思われているようだ。いや、神様もそうだと言っているなら元々平らだったのかな?今まで何もなかったのに大地が見えるようになったということは、平らから丸くなっていくということだろうか。となると、それが原因で地震が起きている、なんてこともあるかもしれない。
他の変化がなかっただろうかと二人に聞こうとしたけれど、二人は険しい顔で黙り込んでいる。なんだろうかと二人の様子を窺っていると、数分してノヴィル兄様が口を開いた。
「かなり大きな地震だったな。被害が増えている」
「こちらもじゃ。そっちも大きな地震じゃったということは、全世界で大変なことになっておるようじゃ」
「え、お二人は感じることが出来るんですか?」
「まあ、自分たちの国のことだしな」
「メガニアはまだ神になりたてじゃから感じられないのかもしれぬな」
「いや、私神様10年やってますし……。って、そうじゃなくて。メガニア国内でも被害出てるかもしれないってことじゃないですか」
アンちゃんの眼鏡の視界を見てみると、人が倒れていたり、建物が崩れているものもある。プレニルやノヴィルよりも地震に強い建物の作りをしているようだけれど、それだけ地震が大きかったのだろう。
「私、そろそろ戻ります。国内で怪我人もいるようですし、私の姿が無くて不安がっているかもしれないので」
「仕方がない。またお茶会をしような、わらわの妹よ」
プレニル姉様の言葉にお辞儀で返してから、私は神様の空間から出た。




