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81 原初、推しを知る

 彼女そっくりな少女が男の前に現れてからというもの、男の生活は変わりました。

 少女は人懐っこく、男が気づいた時には少女は島民に囲まれていました。新しく島にやって来た者とも仲良くする少女の姿は、彼女を思わせるものでした。

 そんな中で、少女が前世を覚えている転生者であることを知りました。

 男を作った神も人間を創る為に他の世界の魂を使っていたことを知っていたので、特に驚くことはありませんでした。ただ、少女の前世が彼女なのではないかと思っていたので、そうではなかったことに頭を抱えるくらいにはショックを受けていました。


 そして、そんな少女から「推し」という言葉を教えてもらいました。

 推しとは、自分の好きな人。その人の為にお金も欠けられるし、推しがいれば仕事も頑張れる。推しがいるから生きようと思える。神のような存在。

 そう教えられて、男は真っ先に彼女のことを思いました。確かに自分が今生きていようと思えるのは彼女に会えるかもしれないからです。だからこそ、彼女は男にとっての推しだと思っていました。

 しかし、少女との生活が始まってからというもの、彼女以外の誰も愛さない、愛もいらないと思っていた男の心境に変化が起きていました。

 彼女とよく似た少女を気づけば目で追っていました。彼女と似ているからだと思っていましたが、少女の行動が彼女と似ていると思っていたのに、その記憶はどんどん少女のもので塗り替えられていました。だんだん彼女は少女と違ってどんな行動をしていたのか分からなくなっていたのです。

 彼女はとても会いたい人であったのに、少女の言葉でいうところの推しであったのに、その気持ちが薄れていく感覚に、男は焦りました。

 そして、推しについて知っている少女に聞くことにしたのです。


「え?違う人を推しになったりしないかって?」


 よく動く少女とのんびり話ができるのは大体食事の時と寝る前だけでした。大陸の方に行ったりと忙しい少女に聞くのは憚られはしましたが、この気持ちを知っているのは少女だけだと男は思ったのです。


「はい。別の人を好きになったとか、恋愛でもありますよね?推しもそういうものなのかと疑問に思いまして」

「そうだね。よくあるし、なんだったら特定の一人じゃなくて複数人まとめて推しってのもあるよ」


 少女の言葉に男は驚きました。複数人に同じ感情を持つ。それはいいのだろうか。恋愛でいうところの二股というものではないのか。そう伝えると、少女は笑います。


「まぁ、恋愛だと悪いことだけどね。でも推しは別に恋愛ではないから。たくさんの推しがいる人もいるよ。私はナハティガル君のみだけどね!」

「そう、なのですか……。じゃあ、元々の推しと似た人が推しになることも?」

「あると思うよ。一つの共通点があったりとかね。推しが全員年上、年下。やんちゃな性格、クール、あと眼鏡とかヒゲとか。まったく違う推しがいる友達も前世ではいたよ。むしろ人間じゃなかったりするし」

「い、いいのでしょうか?自分の愛とかを他の推しに渡すのは。恋愛と違うとはいっても、割り切りができるのかと……」

「いいんだよ。だって、恋愛じゃないもん」


 そう言って少女は男がかけていた眼鏡を手に取る。


「恋愛だとほら、愛が一方通行になるよりお互いを認識して、お互いがお互いを愛するのがいいことじゃん?でも、推しって大体愛は一方通行だと私は思うんだ。好きだー!活動頑張ってー!って推しに伝えても、推しが私を認識して活動を愛を見せてくれるんじゃなくて、不特定多数に対して愛を渡してくれてるだけなんだ。そこが恋愛との違いだと思うよ」

「……不特定多数に、ですか」

「そう。だから同じ推しを持つ同士を増やしたいと思えるよ。……中には同担拒否っていう他の人許さない勢力もいるけど、芸能人やキャラクター……、普段滅多に会えない推しに対してはそういうのが多いと思う。だから、推しが変わるのもよくあるし、推しが何人もいてもいいんだよ。こっちが勝手に推してる状態だからね」


 男ははっきりとは理解できていなかった。それでも、ああそうか。と納得はできた。

 彼女の面差しを追って少女を推しにしてもいいのだ。だって勝手にこちらがそう思っているのだから。ずっとずっと彼女の存在を粘着していたのに、簡単に変わってしまってもいいのだ。恋愛の感情ではないのだから。

 彼女と過ごしていた時は恋愛の感情だったのかもしれない。けれど、今の男には彼女と恋をし、愛し、子を育むつもりはない。

 彼女に対する感情は「推し」だ。彼女に、推しに似ているから、少女にも惹かれている。それは別に悪いことではない。

 彼女も少女も、男にとっての推しだ。そうだと理解した。そして、今の男にとっては一番と言えるのが少女の方だった。


「恐れ入りますが、できかねます」


 だからこそ、世界に残された二人の神に否定の言葉を投げる事が出来た。

 二人が少女に対して、メガネ様に対して文句を言うのも許せないが、メガネ様から離れろだと?何を偉そうに言っている。

 神からの言葉だからって、そんな要求を飲むと思うな。そもそも、私よりも生きた日数は少ないくせに。

 お前たちはメガネ様を知らないから簡単に言えるんだ。推しを簡単に離せると思うな。


「プレニル神よ、ノヴィル神よ。私はメガニア様を大切に思っています。初めてあの方の人の姿を見た時から、そして共に過ごしていく内に、彼女と共に生きることを、彼女が繋いでくれた仲間たちと過ごすことを楽しめているのです。このような生活を、私に思い出させてくれたメガニア様は、私の人生に大切な、私の『推し』なのです」


 私の推しは教えてくれた。全部全部どうでもいいと思っていた私を、変えてくれた。そんな推しの素晴らしさが伝わらなくてもいい。

 ただ、推しに手を出したら、私は絶対に許さない。

 推しを守る為なら、私もなんだってしてやろう。




 長い長いナハティガル君の話は、衝撃が多かった。ずれた眼鏡を直すのを忘れているかのように、私は動くことができず、ただただその話を聞いていた。

 そんな私の様子を見てナハティガル君はいつもの微笑を向けてくれる。


「以上が、長いこと推しに粘着していた男の話でした。その男こそが私で、メガネ様が彼女にそっくりな少女だったんです。だからこそ、貴女をここに閉じ込めませんし、閉じ込める理由もないでしょう。彼女とは関係がない、私の元に現れた神様なんですから」


 そう言ってからナハティガル君はプレニル神とノヴィル神の方に視線を向けた。


「そういうわけなので、メガニア様は連れて帰ります。異論があるなら、神といえど刃を向ける覚悟はできています。そして負けるつもりもないです。何度死んでも人に迷惑かけながら生まれて、またあなた方の前に出てきますので」

「ははっ、別に自分らもそんなことをするつもりはない。プレニルと会わせるには此処に来てもらうしかないから来てもらっただけで、自分らと同じように此処に住ませるつもりはなかった。だから安心しろ」


 そう言って一度区切ってから、ノヴィル神はナハティガル君を見て苦笑を見せた。


「しかし、長い時間で忘れていたが、お前が母神の大切な者だったな。本来なら自分らよりも高い身分にいてもいいのに、自分らも立場を弁えない行動をした。メガニアには謝ったが、お前に直接謝っていなかったな。許してくれ」

「私は別に気にしてませんので。それに、身体は普通の人間ですから、高い身分もないでしょう。ただ安らかに眠れない魂ってだけです」


 ナハティガル君の言葉に肩をすくめてから、ノヴィル神は隣にいるプレニル神の背中を叩いた。顔を青ざめていたプレニル神は身体を震わせ、一度私の方を見てからナハティガル君に視線を移して頭を下げた。


「わ、わらわも悪かった。すまぬ。ゆ、許してくれ」


 傲慢な態度が一転した彼女に驚いていると、ノヴィル神は笑いを堪えながらプレニル神の頭に手を乗せた。


「すまないな、メガニア。プレニルは母神に一番懐いて、そして一番怒られていたからな。母神にそっくりなお前が怒っているのを見てその記憶が戻ったんだろう」

「う、うるさいぞノヴィル!余計なことをいうのではない!」

「はいはい」


 顔を赤くして怒っているプレニル神とそれを宥めるノヴィル神の姿は兄弟のやり取りのようにも見えた。

 まあ、一先ずナハティガル君に謝ってくれたし良しとしよう。


「そ、それでじゃが、ナハティガル。今ある力を使えばおぬしの目を元に近い状態に戻せるが、よいか?」


 プレニル神の提案はとても嬉しいものだ。これでナハティガル君の前の綺麗な瞳が戻るなら願ってもいない!

 でも、私が応える前に、ナハティガル君の腕が私の肩に回された。


「それはお断りします。この目なら、眼鏡を一生手放せない良い理由になりますからね。お気持ちだけ、いただきますよ」


 それでは、と言ってナハティガル君が片手を振ると、私たちは白い空間ではなく、ナハティガル君の屋敷のすぐ近くに戻っていた。

 別れの挨拶も何もなしに戻ってしまった。とか、そういうことを考える余裕は私にはなかった。

 ナハティガル君、先ほどなんと言った?え、一生、一生って聞こえて。あ、いや。私じゃなくて眼鏡のほうなんだろうけれど。


「メガネ様」

「ひゃいっ!?」


 驚いて裏返った声にナハティガル君は何も言わず、いつもの笑顔で言葉を紡ぐ。


「そういうことなので、一生私の傍にいてくださいね。眼鏡、ではなく、メガニア様も」


 ナハティガル君の告白は私を卒倒させるには十分だった。それでも必死に意識を保って、私はとにかく赤くなる顔を両手で覆った。そんな私に、いつもは静かに微笑むナハティガル君が声を上げて笑い出す。


「な、ナハティガル君!わ、笑いますかここで!?」

「いや、だってメガネ様可愛らしくて……ははっ!」

「わ、笑う顔も可愛いなぁ推しは!」

「恥ずかしくて耳まで真っ赤になるメガネ様も可愛いですよ」


 今まで一緒にいた中でもとても嬉しそうなナハティガル君に、嬉しく思うけれど恥ずかしさが私の中で強く感じている。だって、だってそんな推しにそんなこと言われるなんて思わないじゃないか。

 熱い顔を冷やすように手で仰いでから、私はいつもの少女の姿に変わった。あのままでもいいと思ったけれど、皆を驚かせるのも嫌だと思ったのだ。

 少女になった私の身体はナハティガル君によって抱え上げられる。顔が近くなって、ますます私の顔が熱くなるけれど、ナハティガル君が嬉しそうに、幸せそうに笑うもんだから何も言えなくなる。

 とりあえず皆の元に戻って、アンちゃんを安心させよう。それから、今後のことを考えよう。神様としてどう動くか、皆との接し方も変えるかどうかもまだ考えてないのだから。

 でもわかっていることはある。

 私は推しの眼鏡に転生して、結果推しの推しになった。

 推しを完璧に守ることはできなかったけれど、推しが幸せに生きることができるようになった。

 そして私は、これからも推しを、そして周りの仲間たちも、皆まとめて守れるような神様を目指すのだ。それが今の私の目標なのだ。

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