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80 原初、再会……?

 その後も生死を繰り返し、男はまた村を率いる存在となっていました。

 それでも、男の生活は大きな変化はありません。


 男の日課の一つに、島と大陸を繋ぐ大橋の周りに獣が近づかないように排除することでした。獣の駆除、とは言いますが、本音としては島から離れられるぎりぎりの距離で彼女を待ちたいからでした。

 島の周りには、男が気づかないうちに彼女が通り過ぎることがないように特殊な霧を発生させていました。男の意志で霧を払い、通行人の確認と称して彼女を探していました。

 今日も霧を払い、男は大陸の方に移動します。獣が現れるのは滅多にないのですが、今日は狼が三匹現れたのです。道具を使い狼の情報を読むと、なかなかに強い個体であると知ることができました。

 プレニル神とノヴィル神が渡した小さな女神の力も借りて狼に攻撃を繰り返しますが、なかなか倒すことができません。

 疲労により男の動きも鈍ってきた時でした。


「スキル:付喪神!!」


 耳元で声が聞こえました。

 そして突然、男の目の前に少女が現れたのです。

 藍色のロングヘアに薄灰色の垂れ目の少女でした。その少女の面影は、男が探していた彼女と似ていました。いえ、彼女の子供時代があればこうなのだろうと確信しました。そして、少女は何ひとつ身に纏っていませんでした。

 男は突然の少女の登場に動けませんでした。そんな男を気にせず、少女は男の後ろに視線を向けて叫びます。


「スキル:光源!」


 その声と同時に、男の背後に強い光源が発生しました。そしてキャインという狼の声も聞こえました。

 そこでやっと男を背後から狼が襲おうとしていたのだと男は理解しました。

 狼たちと同じように視界を塞がれた少女の腰を掴み、男は小さな女神の風の力を使います。風の刃で狼を切り裂き、ついでに遠くに吹き飛ばしました。その攻撃で狼たちは事切れたようで、地面に倒れてから動く様子はなありませんでした。

 それにほっと息をつき、男は吹き飛ばされないように掴んだ少女の顔を見ます。眩しさに目をやられていたらしい少女はゆっくりと目を開きました

 確かに、彼女にそっくりでした。

 少女が何者なのか、どうして突然現れたのか、どうして何も着てないのか。色々と気になることはありました。

 男が何か言う前に、少女は突然掌を合わせました。どこか満足そうな表情に見えます。

 何を意味しているか男にはわかりませんが、ひとまず男は慌てて少女を地面に降ろし、自分の上着を少女の肩にかけます。子供の裸をずっと見ている趣味はありません。 


「どこのどなたかは存じ上げませんが、何も纏わないのは寒いかと思います。大きいと思いますが、私の上着を使ってください」


 男の言葉に気づいたのか、少女は慌てて上着で身体を隠します。

 彼女に伝えたいことは沢山ありましたが、男の口からその言葉は出てきませんでした。それよりも彼女に似た少女は本当に彼女なのだろうかと、どうやって確かめようかと困っていました。

 口ごもっている男に少女は口を開きます。


「ご無事なようでご安心しましたナハティガル。先ほどは危ない所でしたね」


 見た目に合わない口調。そして、彼女とは違う口調でした。

 彼女ではない。そのことに男は絶望を覚えました。

 しかし、生まれ変わっていて記憶がないかもしれないと、希望を捨てきれずにいました。


「貴女が助けてくださったのですね。あの光のおかげで難を逃れました」

「私に出来る事はあの程度しかありません。貴方の力があってこそ危機を逃れただけであり、全ては貴方の力でございます」

「恐れ入りますが、貴女は一体どなたなのでしょうか。私の事を知っているようですが」


 緊張で心臓が飛び出そうだ。そう思いながら男が質問すると、少女は嘘をついている様子もなく、言い淀むこともなく答えました。


「私は貴方の眼鏡です。眼鏡の姿が本来の姿であり、ずっと貴方を見守っておりました」

「……メガネ、ですか」


 聞いたことがない名前でした。

 そもそも、メガネとはなんなのかわからないのです。彼女がメガネだと主張しているという事は、メガネは種族名か、名前なのでしょう。

 それか、言葉を間違えているのかもしれない。そう思って男は似た言葉で聞き返します。


「……女神、様ですか?」

「え、いえ。眼鏡です」

「女神様ではなく?」

「眼鏡です。貴方がさっきまでかけていた眼鏡です」


 しきりに自分がメガネだと言う少女の姿に男は思いました。きっとメガネと女神を言い間違えているだけなのだろうと。また誤りであったと気づいても、今更直すのは恥ずかしいのかもしれない。

 そう思いながらも、「さっきまでかけていた眼鏡」という言葉に首を傾げます。そして、毎日装着していた道具が無くなっていることに気付きました。


「あれは、祖父からステータスグラスと言う物だと聞かされていたのですが」


 道具を親族に説明する時に適当につけた名前でした。男の言葉に少女は何度か頷きます。


「そうなのですか。ですが私達は眼鏡と呼んでおります。眼鏡の方が言いやすいでしょう?」


 確かに単語数は少ないが、言い慣れるのには少し時間がかかりそうです。

 とりあえず、少女が言うには、自分の力をこめた道具は「メガネ」という名前の道具で、少女はその「メガネ」だということだ。

 信じられないことではあるが、そういうことにすれば何故少女が自分の目の前に現れたのかが納得できる。


 それから、男は少女を逃さないためにと少女と契約をしました。神との契約が実行されたので少女は確かに神なのでしょう。

 契約を終えると、少女は幸せそうな笑顔で倒れました。男の肝が冷えましたが、ただ気絶しているだけだと気づき、男は一先ず少女を島の中に連れて行きました。

 男が連れてきた少女を見た島に住む老人たちは、女神様だと喜んでいました。普段近付かない男にわざわざ近づいて、少女の顔を窺ってくる人もいました。そんな島民に男は驚きつつも、急いで少女を自分の住む屋敷に連れて行きました。


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