表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/96

79 原初、置いてけぼり

 島に縛られていると知った男は、それからも死んでは再び生きるのを繰り返しました。

 いつかきっと彼女が会いに来てくれると信じることしか男にはできなかったのです。

 男は不必要に他人と交流せずに生きていましたが、島の人たちには結婚と子供を作ることを勧められ、一度は滅ぼしたものの再び自分の血を継ぐ一族を作ることになりました。

 ちなみに、一人の男によって一族が皆殺しされた事は、島では大きな事件となっていました。事件を起こした男が「生まれ変わり」と時折言っていたこと、そしてまだ学んでいないはずの知識を持っていたことを島民は知っていたので、そういう者は殺人を犯すものだと言い伝えられていました。そのことから、男は自分が生まれ変わりである事は口に出さなくなりました。出来る限り目立たないように、そう生きてきました。


 そんな男には不思議な力がありました。

 この世界の人は生まれながらに「スキル」と呼ばれる力を使えるのですが、男の力はそれとは違うように思えます。その力は、彼女に生き返らせてもらってから、別の存在に生まれ変わっても、移り変わっても、その力は消えずに残ります。

 その力は、人の情報を見ることができる力でした。

 その人間の名前、性別、生年月日、持っているスキル、経歴、そして前世について。それが文章となって頭に入ってくる力でした。

 この力のおかげで、危険な人物は見るだけで把握できますし、最低限に人と関わるのにも役立てていました。

 しかし、何度目かの生まれ変わりか覚えていませんが、ある時にその力が弱まっていたのです。

 男の目には確かにその人の情報が映るのですが、今まで見えていたその人間の前世が見えなくなっていたのです。

 自分の変化に少し嬉しく思いつつも、男は困りました。このまま力が無くなってしまうのは少し不便に思ったのです。

 もしかしたらこの力が無くなれば自分は死ねるのかもしれません。だからと言ってこの力を手放すのは惜しい。

 どうしようかと悩んでいる男に、話しかける人物がいました。


「おーい、〇〇〇」


 その頃の男の名前は憶えていません。しかし、その人は親し気に当時の男の名前を呼びます。

 人と不必要に関わらない男と仲良くしようとする人はそんなにいませんでした。しかし時たま、物好きにもこうして友人のように接してくる者もいました。

 男は不機嫌そうに名前を呼んだ人物を見ます。


「……なんだ」

「なーんか悩んでるようだったから声かけたんだよ。どうしたんだ?めちゃくちゃ眉間の皺作って。そのうち取れなくなるぞ?」

「お前には関係ない。仕事の途中だろ。とっとと行け」

「どうだ?そんな悩み抱えてないで俺に言ってくれていいんだぞ?いいアドバイスを俺がしてやろう。なにせ友達……いや、親友だからな」

「何時、私とお前が友達になった。」

「初めて会った時、そう、俺がお前の家に泥団子投げちまった時。呆れた目で俺を見ていたお前と仲良くなったじゃないか!忘れたのか友よ!」

「お前が暇つぶしにぶん投げやがった泥団子が、私の気に入って干してた布団に直撃した時か。あの布団の弁償代もらってないぞ。友人だと言うんなら金のごたごたはとっとと無くしたほうがいいんじゃないか?」

「それは…………あー、出世払いで」


 な?と手を合わせてみせる自称友達に男はため息をつきました。

 こうして仲良くしようとしてくる者はいましたが、自分が「生まれ変わり」だと言えば全員が自分から離れていくのが普通でした。その後、他の人間からも避けられるようになってしまいますが、男としては自分に関わってくる者がいない方がありがたく思っていたのです

 なのですが、この自称友達は「生まれ変わり」のことを知っても変わりませんでした。

 他に吹聴することもなく、むしろ「俺たちの秘密だ」と言ったのです。

 自分から離れるように言ったというのに、自称友達にとっては仲良くなる為のいい材料となってしまったわけです。

 このまま話さないとこの自称友達は動かないだろう。それで怒った自称友達の親が来て騒がしくなるほうが嫌だと思い、男は力のことを話しました。

 自称友達は頷きながらそれを聞いて、ふむ、と腕を組みました。


「確かに、便利な力だな。手放しちまうのは俺も嫌だってなるわ」

「そうではあるが、どうしようにも方法が思いつかない。……何かに力を移動させれたりすれば便利だろうが」

「ふぅん……。何かに移動できるとしても、邪魔にならない方がいいよな。簡単に使えるようなものとか」

「まぁ、そうだな。無理な話だろうが」

「そっかそっか。じゃあ、少し待ってくれ」


 そう言って自称友達は右手を出しました。目を閉じてしばらく黙っていると、彼の右手の上に少しずつ何かが現れます。

 しばらくそうして、自称友達は目を開けた。彼の右手には見たことがないものが乗っています。

 二枚の透明な薄い板が特徴的でした。板は横に並んでおり、板を沿うように細い棒が囲っています。自称友達が慣れたようにそれを摘み、透明な板の後ろにあった細い棒を曲げるとコの字のような形に変わりました。


「……なんだ、それは」

「わからん。でも、俺の中のよくわからない記憶の中にこんな道具があったんだ」


 自称友達も、前世の記憶を少しだけ持っていました。はっきりとは覚えていませんが、この世界とは違う世界の景色をなんとなく覚えているというだけでした。だからこそ、男の「生まれ変わり」も簡単に信じることができたのでしょう。

 そして、自称友達のスキルは、彼が頭に描いたものを作り出すスキルでした。そのスキルを使い、前世のちょっとした記憶だけを頼りに作ったのです。


「この長く伸びた部分の、先の方を耳に引っ掛けるみたいに使うもの、らしい。詳しい使い方は知らないが、使ってる人は見た。いた。うん、確かにいた」

「仕方ないが、不確定すぎないか」

「いいからいいから。かけて見ろって。文句はそれから聞く」


 自称友達に差し出され、男は仕方なく言われたとおりにそれを耳にかけます。すると透明な板は丁度男の視界にはまり、板に沿っている棒が少し邪魔ですが、慣れてしまえば気にせずに生活もできそうです。


「……固定されるものだな。これなら両手も塞がれないし」

「鼻に当たる部分の棒も曲がって鼻に沿ってるから安定するのか?うん。俺が作っただけあって良いものじゃないか。これに力が移動できれば、この透明な板に文字が浮かぶんじゃないか?」

「……道具を作ってくれたことには礼を言うが、力が簡単に移動できるとは思えないぞ。私もやったことがないし」

「やったことがないだけで、やってみればいけるかもだろ。ほらほら、やってみろって。移動しろ―移動しろ―って念じてればできるかもだろ?」


 簡単に言う自称友達に眉を寄せつつ、男はその道具を顔から外して目を閉じます。どうすればいいかなんてわからないので、自称友達の言う通りに念じるしかありません。

 しばらく念じてから男は目を開けました。隣で期待した目を向けている自称友達を見て力を使いますが、いつもなら見れる情報が見れませんでした。

 試しに道具を目にかけてみると、念じると自称友達の情報が見る事が出来ました。


「……できた」

「お、マジで?俺も見れる?」


 そう言って自称友達は男の顔から道具を取り、自分の顔にかけます。


「うわ、俺も見れる。お前の情報見れる!え、お前夏生まれなのか!一緒じゃん!」

「勝手に見るな」

「お前だって見たくせに!ズルイ!俺も見る!」


 男の手から逃げながらも、自称友達は透明な板越しに男を見ます。文章を追うようにしばらく目が動いてから、自称友達は道具を顔から外して男に差し出します。


「うーん、うんうん。なかなか大変な生き方してたんだな……。」

「前世まで見れたのか?」

「前世じゃなくて、お前の性格。誰も愛そうとしないとか、生まれ変わりで何かあったんだろうなって思うじゃん?」

「……ああ、それか」


 男は道具を顔にかけて改めて自称友達の情報を見ます。自称友達の前世の情報は見れませんでしたが、他の情報は道具に力を移す前と同じように見ることができました。


「私は、一人の女性を探してる。誰よりも愛しい人なんだ。その人がいないのに、その人を愛せていないのに、別の奴を愛せるはずないだろう」

「んー?……あぁ、愛するのはその人だけなんだってことか。一途なんだな」

「…………そう、だな。だからこそ、人と接したくない。お前とも」

「うんうん。まぁ、お前がどう思おうが俺はお前の友達だ。親友だ」

「おい。私は人と接したくないと言っただろ」

「人と接することは、他人を愛さないと一緒じゃないだろ。全人類愛せって言ってるわけじゃないし。お前は話しかけたヤツ全員を愛さなきゃいけないとか思ってるわけか?」


 自称友達の言葉に男は言い淀みます。それを見て自称友達はにっと笑いました。


「愛さなくてもいいんだよ。愛さない程度にはもっと人と関わるのはお前には必要だろ。急に全員と関われだなんて言わないから、せめて俺ともう少し話そうぜ。な、〇〇〇」


 そう言って自分の仕事に戻っていく自称友達に、男は何も言えませんでした。




「どんなに仲良くしても、結局はこうして別れることになるじゃないか」


 自称友達より先に死んだ男は、新たな身体で一つの墓石の前にいました。その墓石には自称友達の名前が彫られています。


「お前はわかってない。愛せないから関わらないでいたんじゃない。……こうして、置いてかれて、もう会えなくなるのがわかってるから、関わりたくないんだ」


 そう言って、男は自称友達が作った道具をぎゅっと握りました。

 今ではもう、その自称友達の名前は、憶えていません。

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ