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78 原初、狂い縛られる。

 男はまた、死んで生まれました。

 今度は自分のひ孫として生まれました。

 また彼女を探さないとと思っている間にも男は成長しました。

 前の自分が亡くなってから一族をまとめていた自分の長男に、自分が生まれ変わったのだと伝えました。

 その言葉を、長男は信じてくれませんでした。

 証拠にと、今の自分が知るはずがない事実を伝えると、長男は恐怖を含んだ目で男を見ていました。

 思えば、長男と前の自分はそんなに仲が良くなかったのです。恐らく妻とも子とも深く関わらず彼女を探していた男を、ダメな父親だと思っていたのかもしれません。

 生まれ変わったことを伝えてから、長男は男を部屋に閉じ込めるようになりました。食事はもらえますし、外が見える格子窓もあったので不自由することはありませんでした。ただ、彼女を探すことができないことが、男にとっては耐え難いことでした。

 必死に男は叫びますが、その声は誰にも届く様子はありませんでした。食事を持ってくる者に言っても、その人は何も言わず食事を置いていくだけでした。

 そのうち、食事を持ってくる者もいなくなり、男はその部屋で飢えて亡くなりました。




 そしてまた生まれました。

 また一族の子供に生まれ、そして前の自分を閉じ込めていた長男は存命でした。

 生まれ変わっていることを長男に言ったらまた閉じ込められてしまうだろう。そう思って、男は事実を伏せていました。

 男が大分成長した時、長男は男を呼び出して告げました。

 一族の中に、出来の悪い者がいたことを。彼は閉じ込めて、今は恐らく死んでいるだろうが、閉じ込めている場所には近づかないようにと。奴の言葉に耳を傾けるなと。

 それを聞いた男は、長男を殺しました。衝動的でした。

 恐らく、自分をないがしろにした長男に怒りを感じたのかもしれません。今となっては、どうしてそんなことをしたのかなんて覚えていませんが。きっと酷い暴言を吐いたかもしれません。

 長男を殺した自分は罪を被ったことで一族から追放されると思いましたが、長男がそもそも嫌われていたらしく、むしろ感謝を言われることが多かったです。そして何故か男がまた一族を率いる者として選ばれました。

 男としては追放されて自由に彼女を探したかったのですが、仕方なく一族をまとめ、その間に彼女を探しました。

 それでも、彼女は見つかりませんでした。




 そうして、男は何度も死に、何度も生まれました。

 その中でふと、男は思いました。

 生まれ変わりは自分の血をひく一族の新たに生まれる子が対象になっている。もし次に自分が死んだ時に、近々生まれてくる子がいなければどうなるのだろう。

 そう考えた男は、一族の者がまだ子を宿していないタイミングで自らの手で命を絶ちました。

 そして、男は生まれました。

 新たな子、ではなく、一族の一番年が若い子供になっていたのです。

 この事実に男は驚きました。そして、気づいてしまいました。

 いままで新たに生まれていたと考えていましたが、他人の身体を乗っ取り、他人の魂を押しのけて自分が生まれていたのではないかと。

 今まで自分が生まれ変わってきてから、どれだけの魂が生まれることができなかったのでしょうか。

 どれだけの魂が、身体を奪われてきたのでしょうか。

 そしてその頃から男は、身体を返すように自ら命を絶つようになりました。

 それでも、一族の中から若い者の身体に魂を移すばかりでした。

 男が何度も死んでいく内に、一族は「自ら命を絶つ病が流行っている」と考えて恐怖するようになっていました。それでも、男は気にせず自死するのを止めませんでした。

 そして、男は思いました。

 一族の者がいなくなれば、自分は解放されるのではないか、と。

 男は彼女に会うことを何よりも優先していました。彼女を探す為にもこの一族から解放されることを考えていました。

 そして、男は一族の者を皆、殺しました。誰一人残らないように、確実に息の根を止める為に、全ての者の首を落として回りました。

 返り血を浴びた男の姿に、同じ村の者が悲鳴を上げた時、男は自らの首も斬り落としました。

 そうして、男は死にました。




 そうして、男は生まれました。

 周囲には誰もいない。男は赤子の姿で、地面に寝かされていました。

 自分を産んだ母親に捨てられたのだろうかとも考えましたが、そうだとしても何ひとつ身に纏わせずに捨てていくでしょうか。赤子が見つからないように隠して捨てるものではないでしょうか。赤子になった男がいるのは、木も何もない開けた場所です。誰かに見つけてほしいなら、そう思う愛情があるなら、適当な布に包ませてもいいのではないでしょうか。

 そうして男は気付きました。一族がいなくても、母親がいなくても、自分はどういうわけか生まれてしまったのだと。この世界に縛りつけられているのだと。

 このまま死ぬかと思いましたが、偶然にもやってきた老婆に拾われ、男はまた新しい人生を生きることになりました。




 男の一族はかなりの人数がいました。その全てが殺されたという事件は大きな問題になったようで、成長した男は二人の神に呼ばれました。

 突然真っ白な空間に連れてこられた男は驚きましたが、目の前に現れた二人を見て、ここが彼女が用意した二人の神のための場所だと把握しました。


「自分たちは母よりこの世界を守るように言われている。お前は母にとって特別な人間だとわかっているが、此度のことは流石に無視できない」

「沢山の人間を殺したことで、その出来事がわらわ達の国でも伝わって騒がしくなっておる。お主がこれ以上何かしないように、わらわ達の監視を置かせてもらおう」

「自分達の力で生まれた娘をお前の監視として遣わす。監視であるが、契約してお前の力にするのもいいだろう。母が特別にしていたお前だ。自分たちもお前を愛してやろう」

「わらわ達の力を借りれるのだ。喜べ」


 感情がこもっていない声でそう言い、小さな女神たちを男に渡しました。それは男の自由が許されないということではありますが、男の行動を制限されるわけではありませんでした。

 走れるほどに、自分を守る力を手に入れるほどに成長した男はすぐに島を出ようとしました。

 これまでずっと島にいても彼女に会えなかったのです。もしかしたら、島の外に彼女がいるかもしれません。

 大陸を繋ぐ橋を渡り、しばらく走ってから男は止まりました。進めませんでした。どういうことか、男の身体が前に進めなかったのです。何かが自分の身体を掴んで動きを止めてるかのような、そんな感覚がありました。

 橋は渡り終えているのに、大陸の地に踏み出しているのに、人が住む場所に向かいたいのに、男はそれ以上島を離れることが出来なかったのです。

 男は、島に縛りつけられていたのです。

今年の更新はこれで最後になります。

来年には恐らく完結に至れると思ってますので、来年もよければ読んでくださると嬉しいです。

良いお年を。

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