77 原初、始まりを探す。
とある神様がこの世界を創りました。
闇しかないその場所に光を灯し、大地と海を創り、空を創り、そして苦労して生物を生みました。
神様は世界を良くするためにと、人間を創りました。
男と女の番を創り、神様は言いました。
「この世界の文明を、自然を増やすために手伝ってください。あなたがたの子孫を作りなさい」
二人しかいない人間だからでしょうか、番として創り出されたからでしょうか。その二人はとても仲睦まじく、最初の子が生まれるのに時間はかかりませんでした。
二人の間の子供たちは、神様の力によって別の世界で亡くなった魂を宿し、その記憶を保持していたので、前世の記憶を頼りにこの世界を発展させるのに苦労はしませんでした。
最初の二人は子孫に囲まれ、とても幸せに過ごしていました。ですが、その幸せは長くは続かなかったのです。
最初の男が、突然死んでしまったのです。
寿命だったのでしょうか。病気だったのでしょうか。今この世界にある知識ではそれを確認する術はありませんでした。
最初の女は男の亡骸を抱いて泣き叫びました。その様子に子孫たちも心を痛めました。
三日間泣いた最初の女は、男の亡骸を抱いたまま神のもとに行きました。
「どうか、この人を生き返らせてください。私はまだ、この人と生きていたのです。神様であればできますよね?」
別の世界から魂を持ってくる神様ですから、生き返らせることは簡単だろうと最初の女は思っていました。神様であれば造作もないと。
しかし、神様は首を横に振ります。
「死んだ者は生き返らせることはできないのです。別の世界から魂を持ってきているとはいえ、この世界で生まれた貴女たちにも同じことはできないのです」
最初の女がどう頼んでも、神様は頷いてくれません。
最初の女は泣き、諦めて亡骸を連れて家に帰ります。
その帰路でとある大樹を見ました。
その大樹は、神様が初めて創り出した植物でした。天に届く程に伸びて枝を伸ばし、真っ赤な木の実を実らせています。神様は大樹を大切にしており、触れてはいけないと言っていました。その実には強い力が宿っているから、あなたたちは触れてはいけないと。
最初の女はその真っ赤な実を見て思いました。その実を食べてその力を得れば、最初の男を生き返らせることができるのではないかと。
気づいたら最初の女はその実を全て平らげていました。そして、自分の身体に宿った力を感じていました。
大樹から得られた力を使い、最初の女は最初の男を生き返らせることができました。
止まっていた心臓が動き出し、呼吸をし出す彼の姿に、最初の女は泣いて喜びました。
しかし、それを神様に見つかってしまいました。
大樹の木の実を残すことなく平らげ、そして最初の男を生き返らせた最初の女に、神様は怒り、そして最初の女と最初の男を地の底に落としました。
地の底に落ちた最初の女と最初の男は辺りを見回して驚きました。
そこは神様が作った世界とは違い、光が無い世界でした。
海や大地はあれど、生き物は神様が作った世界程存在していません。
力を得た最初の女は、最初にその世界に光を創り出しました。
神様がやっていたように、最初の女は手探りで生き物を創り出していきます。生き返った男はそれを手伝っていきます。
自分達以外の人間も作ろうとしましたが、最初の女は気付いてしまいました。自分にはもう、子を宿す力が無くなっていたのです。
考えて考えて、最初の女は土塊から人間を創りました。人間と呼ぶには感情が乏しい存在でしたが、少しずつ少しずつ人間を増やしていきました。しかし、神様のように別の世界の魂を持ってくることはできましたが、前世の記憶を持ったまま転生させるのは酷く難しかったのです。
神様のように世界をすぐに発展させることは難しかったですが、それなりに幸せに暮らせていました。
最初の二人が降り立った島だけでは狭くなってきたので、最初の女は人間達を二つの大陸で暮らすように指示をしました。その大陸で人間が安全に暮らせるようにと、最初の女は二人の神様を創りました。
一人は女神。平等に人を愛せる神を。
一人は男神。力で人を守れる神を。
最初は人間達と神を一緒に暮らすようにしていましたが、最初の女は突然、二人の神様を新たに作った神の空間に入れ、そこから出れないように、入るにも二人の許可がないといけないようにしました。
生き返った男がどうしてそんなことをしたのかと聞くと、「神様に手を出されないように」と最初の女は答えました。
それぞれの大陸でそれぞれの文化が、それぞれの考え方が生まれる中、最初の女と生き返った男は島で幸せに暮らしていました。
しかし、とうとう最初の女の寿命が来てしまいました。
泣いている生き返った男に、床に伏せながら最初の女はその涙を拭ってやります。
「泣かないで。貴方と過ごせて私は幸せだったよ。もし、生まれ変わることがあったら、また貴方に会いたいわ。……いえ、会いに行くわ。絶対に」
「……僕には君みたいな力はないから、きっとすぐに君の元に向かうよ。僕を生き返らせてくれてありがとう。また絶対、君に会いに行くよ」
「ありがとう……。どうか、私がいなくても幸せに生きて」
それが、最後の会話でした。最初の女の、最後の言葉でした。
女の身体を埋葬し、生き返った男は残りの人生を生きました。周りの人間達と協力し、指導し、そうして生きて、生き返った男も寿命を迎えました。
「これでまた彼女に会える」。そう男は嬉しく思いながら、その命を終えました。
終えた、はずでした。
気づくと男は目を開けていました。見たことがある天井に手を伸ばすとその手が覚えているものと違いました。肉が落ち骨ばった掌が、小さな掌になっていました。
男の身体は死にました。
しかし、その魂は別の身体に移っていたのです。
自分が転生したのだと、男は気付きました。どうやら自分が世話をしていた家族の元に生まれたようです。自分を嬉しそうに抱き上げる者に見覚えがあります。
転生したことに驚きながらも、男は嬉しく思いました。人に転生したのなら、彼女を探すことも造作もないだろうと。きっと彼女も同じ様に転生しているはずだと。
成長した男は、正直に家族に転生したのだと伝えました。家族は驚きはしましたが、知るはずがない知識を持つ子供に、それが真実なのだとすぐに信じました。そうして転生した男がすぐにその知識を使ってその一族をまとめる立場に就きます。小さな子供を頼ることに申し訳なさそうにする者も多かったですが、子供から大人に成長していくにつれてその考えをする者も減っていきました。
一族を引っ張りながらも、男は女を探していました。自分と同じ年に生まれただろうか。それとも少し年上だろうか。同性だったりするだろうか。最初になんて言おうか。
色々考えたことは結局役立つことはありませんでした。男は、最初の女を見つけることができなかったのです。
大人になっても妻を持たない男に一族は説得し、男は妻を持ちました。自分は探している女性がいるということを受け入れてくれる女でした。
男は最初の女に申し訳なさを感じながらも子を作りました。子供たちを育てながらも、最初の女を探しました。
それでも、男が死ぬその時まで、彼女を見つけることはできなかったのです。




