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73 メガネ、一つの神と対面

 やあやあ、そろそろネタが思いつかなくなってきたメガネだよ!

 そもそもそんな眼鏡ネタを言えるような状況ではないんだけどね。


 私はてっきり、やって来るのはプレニル神だろうと思っていた。でも、実際やって来たのはミーティの身体を借りたノヴィル神だ。見た目はミーティのままなのに、その身体から放たれる威圧感が人ではないのだと教えてくれる。ともすれば、膝を折って神へ忠誠の言葉を伝えたくもなるけれど、掌に爪を食いこませてなんとか耐えた。

 私はノヴィル神と同じ神になるのだから、そんな下手に出るわけにはいかない。平等である為にも、負けてなんかいられない。

 スタスタとこちらに真っ直ぐにノヴィル神が歩いてくる。「よくもやったな」と殴られる覚悟は出来ている。殴ってくる手を押えられればカッコいいけれど、私にそんな戦闘スキルは無い。むしろ頭を両手で庇うなんて情けないことになりそうなので動かないように努めた。


「よくやったじゃないか」


 私の目の前で止まったノヴィル神からの最初の言葉は、それだった。

 聞き間違いだろうかとノヴィル神を見上げるけど、ノヴィル神は面白そうに私を見降ろすだけだった。


「……その、怒らないのですか?」


 私の言葉にノヴィル神は不思議そうに首を傾げる。


「怒る?自分の信者たちに手を出したから怒るということか?自分はそんなことぐらいで怒るものではない」

「じゃあ、わざわざこちらに来てくれたのは……」

「褒めるためだ。ただの不思議な物がとうとう神のように力を得たのだ。なんという下剋上。自分が大好きなタイプだ。怒るはずがないだろう」


 褒めるためにわざわざここまで来るのかと少し驚いた。ノヴィル神は力で威圧はしているけれど、言葉はそれほどまでに立場を感じるものではない。まだ話しやすいようにも思える。


「……恐れながら、ノヴィルの神様。あなた様が借りているその身体に負担があるのでは」


 私の後ろにいるアンちゃんがそう告げる。恐怖を感じているのかその言葉が少し震えていた。それでもミーティの身を案じる言葉はもっともだった。


「安心しろ。最近の巫女はスキルを使わず、魔力を溜め込んでいるからな。自分が身体を借りても危険になることはない」

「身体を借りる時は、巫女の魔力を使っているのですか?」


 疑問に思ってそう聞くと、ノヴィル神は快く教えてくれる。


「ああ。自分らの力も多少は使うが、ほとんどは巫女の魔力を使わせてもらっている。自分の巫女は凡人よりも魔力量が多いからな。そのまま溜め込んでいてもその身体には毒になる故、こうして魔力消費をするのはむしろ身体にいいことだ。前の巫女は今の巫女とは違い、魔力を発散できるスキルを持っていなかったから、自分がよくその身を借りて魔力を発散していたな」

「そう、なんですか」


 ミーティの身体に負担がないのであればそれだけで安心だ。背後からも安堵したように息をつく音が聞こえた。そしてふと、私はエレオスには魔力が無いことを思い出す。


「では、プレニル神は自身の力を使って巫女であるエレオスの身に降りているのですか?」

「ああ、そういえばあちらの巫女には魔力が全く無かったな。確かにあちらの巫女に降りる時はプレニルが力を使っているようだ。まぁ、それなりの力を使うし、プレニルはあの巫女をこちらの世界に連れてくる時、そして巫女が過ごしやすくなるためにと短い期間で力を使い過ぎていたからな。こちらに来ることはないだろう」


 ノヴィル神からプレニル神の情報を貰えるとは思わなかった。来る可能性が低いなら、私もここで待ち構える必要もないだろう。


「ただ、あいつはかなり腹を立てている。動けるようになればまっすぐにお前のところに来るだろうな」

「それは覚悟しています。しかし、ナハティガル君に対して行ったこと、私も腹を立てているのです。プレニル神にも、そしてあなたにも」


 私がそう言ってノヴィル神を睨めば、ノヴィル神はすぐに頭を下げた。


「それに関しては謝罪しよう。自分はプレニルに乗っかったわけだが、あやつの視力を奪ったのに違いないしな」

「……そ、そんな簡単に謝罪してくれるんですか」

「ああ。神と呼べるほどの力を得る事が出来たお前だからな。頭を下げる価値があると感じた」


 ノヴィル神は頭を上げてから腕を組む。


「自分としては、神の力を持たないものが神として崇められているのが気に食わなかったのだ。お前が気に入っているあやつに何かすれば神として動くだろうと期待した。まぁ、言ってしまえば、お前を試す為に視力を奪ったのだ。まさか、こんな短期間に力を得るとは思わなかったがな」


 あまり嬉しくない褒め言葉だ。自分も悪いが、神と受け入れなかった私も悪いと言われているようなものだ。

 言い訳を言おうにもその通りなので、私は何も応えられなかった。


「お前としては、プレニル神からも謝罪が欲しいのだろう?それであれば、神だけがいける空間にお前を連れて行くこともできるが、どうだろう?」

「……申し訳ないですが、まだ神としてやりたいことがあるんです。それが全て終わってからプレニル神に会いたいと思ってます」


 プレニル神がすぐに来るのではないのなら、私もやりたいことがある。思ったよりも力がついたので、後々にやろうと思っていたこともすぐにできるだろう。

 それを聞いたノヴィル神は特に気を害した様子もなく、それならばと私の額に指を当てた。その指が触れた場所から熱を感じたけれど、その熱はすぐに消えた。


「これで自分がいなくてもお前が望むなら神のいる場に移動できるようにした。自分もプレニルも大体はそこにいる故、好きに来るがいい」

「……あ、ありがとうございます」

「それと、その丁寧な言葉は止めるといい。自分はその言葉は嫌いだが、自分たちは同じ神だから平等だろう?偉そうにしていないと、プレニルに舐められるぞ」

「……うん。じゃあ気を付けるよ、ノヴィル」

「ふむ、それでいい。楽しみにしているぞ、メガニア」


 そう言うと、ノヴィル神の身体ががくんと力が抜けた。アンちゃんが慌ててその身体を支えようとするけれど、その前にその身体は足に力を込めて、倒れそうになるのを踏ん張った。


「……だから、抜ける時は言ってくださいっていつも言ってるのに」


 先程までの威圧もなく、違和感のない口調だ。どうやらノヴィル神はいなくなり、ミーティに戻ったようだ。


「ミーティ、大丈夫?」

「うん。メーちゃんごめんね急に。最近はなかったから私も驚いたけど、溜まってた魔力を使ってもらえたから少し身体が軽いや」


 ミーティは自分を支えようとしたアンちゃんに礼を言ってから肩を回す。


「話は私にも聞こえてたけど、作戦は上手くいったのかな?」

「うん。ノヴィル神に認められるなんて予想外なことだったけど、これであとはプレニル神への対応だけだってなったからよかったよ」

「メガネ、ノヴィル神に謝罪よりもナティの視力を戻してもらえばよかったんじゃないか?」


 アンちゃんの言葉に私は首を振った。


「多分、できるならしてくれてるはずだし、できないんじゃないかな。神だって万能じゃないしね。それに、ナハティガル君の視力に関しては、私に思うところがあるから大丈夫だよ」


 私は自分のステータスを確認する。神様としての力は十分にある。少し使ってもプレニル神に対峙する分は残りそうだ。


「メガニアの神様として、やっておきたいことをこれから始めるよ。アンちゃんにも多少は手伝ってもらうから覚悟してね」


 そう言って笑ってみせれば、アンちゃんは苦笑を見せながらも頷いてくれた。

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