72 メガネ、最初から決まってた
メガニア神はメガニアの教皇の視力を奪ったプレニル神とノヴィル神に激怒し、彼らに向かって力を放った。
しかし、その力は神の元にいる国民達にも影響を与えてしまった。それをメガニア神は悔やみ、視力を奪ってしまった国民達に謝罪を込めて、視力を元に戻せる眼鏡を配ることにした。
そう、これが私が考えたシナリオだ。
ただ眼鏡を配るだけではメガニアに信仰なんて持たないだろう。
ならば、メガニア神が怒っているのは他の神にだけ。そして間違えて視力を奪ってしまった人には謝罪とお詫びのものを用意する。信仰に繋がる程ではないかもしれないが、メガニア神の力を恐怖し、信じる人は増えるだろう。
信仰でなくてもいい。恐怖してもいい。メガニア神の存在をしっかり知ってもらえれば今はそれでいい。
簡単に人からの信仰心を貰えるものではないとわかっている。前世の世界でも、神とかを信じない人もいたはずだ。だから、今回は信じてもらえたらそれだけでいい。その後の行動で、信仰心を強めていく予定だ。
そして、エレオスとミーティが帰っていき、三日後に二人が国に無事に着いたのを確認した翌日、私は計画を実行した。
メガニアから力を使っても全世界には届かないのはわかっていた。だから、私は分身を沢山創り出した。
まぁ、力があまりないから、創り出した子たちは私の幼女バージョンの姿だったけれど、特に支障はないだろう。
100に近い数ほどの眼鏡を創り出して、皆を幼女の姿にして世界に送り出す。そして、彼女達を通して私のスキルを世界に届かせた。使うスキルは新しく覚えた、人の視界を奪う《暗闇》というスキルだ。本来ならこのスキルは少しの間にしか使えないけれど、私も力が増えたからか自在に使えるようになった。
皆が朝に目が覚めるような時間帯に、そのスキルを使った。メガニアには影響がないから、メガニアにいる人たちには何が起きたかはわからないだろう。私は、あちこちに配置した眼鏡たちと感覚を共有して世界の様子を見てみると、やはり視界を失った人たちは混乱に陥っていた。その中でも事故や怪我に繋がりそうな行動をしている人には、眼鏡たちに指示を出して、その人たちに優先的に用意した眼鏡を渡すようにした。
世界の人たちに渡す眼鏡は、植物や動物の情報しか分からないようにした眼鏡だ。人のステータスを見れるようにするのは悪用されても困るので避けた。
眼鏡たちには「メガニア様からの加護を受けた眼鏡という道具です。これをつけてメガニア様への感謝を忘れなければ、視界が元通りになりますよ」と言わせた。大人から渡されるよりも、幼い子供に渡される方が神秘的で信頼される結果になった。
そうして昼になる前にはほぼ全員に眼鏡を渡すことができた。そうして昼になったころに、エレオスとミーティができるだけ多くの人に聞こえるように話してもらった。
「我らが神がメガニアの女神が愛するメガニア教皇猊下に害をなした。それに激怒したメガニア神が神に力を放ったのだが、その力は強大なもので、我等にも影響を与えてしまったと後悔と謝罪をメガニアの巫女様を経由して聞いた。他国である私たちを助けてくれたメガニア神に感謝を捧げましょう」と。
それを確認した私はメガニアの入り口である橋の上に、アンちゃんと一緒にいた。
私の作戦を聞き終わったアンちゃんは怪訝そうに私を見る。
「それで、なんでお前はこんなところにいるんだ?」
「いやぁ、もしかしたら怒ったどっちかの神がやってきちゃうかなーって思って。特にプレニル神」
「まぁ、自国の民に害を与えたから怒るか」
「それが原因ってわけじゃなくてね……」
私は、プレニルで見たエレオスの演説内容をアンちゃんに教えた。
エレオスはプレニルの民たちに私がお願いした台詞の他にこう言ったのだ。
「余は、激怒したメガニア神が力を使うのは仕方ないと思う。その力が不可抗力であれど平等に余らの元に届き、そして平等に余らに眼鏡を渡して視力を戻してくれたかの神の方が平等を愛しているようにも見える。だとすれば、メガニア教皇にだけ害を与えた我らがプレニル神は、本当に平等を愛する神なのだろうか?我らの神は、本当に我らが信仰すべき神なのだろうか?余はそうは思えない!プレニル神は邪神に落ちたのだ!そんなプレニル神をメガニア神が殺すと言ったとしても、余はそれを協力するつもりでもいる。余はプレニル神が変わらぬ限り、メガニア神を信仰しよう。皆にもそれを強要するつもりはない。それでもプレニル神を信仰するのならば止めぬ。だが、メガニア神から与えられた眼鏡をそのまま持っていられるとは思うでないぞ」
私からその言葉を聞いたアンちゃんはしばらく黙ってから口を開いた。
「大丈夫かそれ。プレニル国内で反乱起きないか?」
「今のところ大丈夫。むしろ、今まで大人しかったエレオス猊下が熱い演説をしたから、プレニルの民が結構メガニアを信仰してる。おかげで私に力が結構溜まってる」
「……その分プレニル神への信仰が減ってるから、恐らくプレニル神の力が弱まっていて怒るかもしれないと」
「そういうこと」
神様の力は信仰心によるという私の考えが合っているなら、プレニル神は大分弱体化しているだろうと思える程にメガニア神への信仰が強くなっている。思った以上の効果で嬉しい反面、エレオスは私が本当に神を殺すつもりはまったくないと言ったのを忘れていないかと心配になる。必死に言い聞かせたんだけどなぁ。
そう私が肩をすくませていると、アンちゃんは先程よりも声のトーンを落とした。
「……ごめんな、メガネ」
「え?急に何?」
アンちゃんに目を向けると、アンちゃんは冗談ではなく、本当に反省しているように頭を下げていた。
「俺が国を作ろうって言って、お前を神にすればいいとか言って、それが原因でこんなことになった。俺は何にもできないのに、全部お前とナティに押し付けてる形になって、本当に申し訳ないって」
確かに、アンちゃんの言葉でメガニアという国を作り、その国の神が私になった。でも、それが始まりじゃない。
「違うよアンちゃん。私は、その時にはもう、神様だったんだ」
私の右手の甲には、花のような紋様がある。それは、ナハティガル君とこの姿で初めて出会った時に、契約してから現れたものだ。あの時にナハティガル君は契約神として契約と言っていた。あの契約の時には既に、ナハティガル君にとって私は神様となっていたのだ。それなのに、ずっと私は自分が神様になった自覚も何もなかった。それが、ナハティガル君が視力を失ってしまった原因になっただろう。
もっと神様として自覚して動いていれば、プレニル神とノヴィル神からナハティガル君を守ることができたはずだ。
こうして大好きだった推しがいる世界に来たというのに、私は前世と同じように見てばかりで、自分から動こうとしなかった。
「これからはもう、一つしか見るだけなんてしない。全部を見て、聞いて、知って、私の力で皆を守る。ナハティガル君だけじゃない。アンちゃんも、フォルモさんも、私の大切な人皆を守るよ」
私の言葉に、アンちゃんは泣きそうな顔を向けてくる。そんなに悲しまなくてもいいのにと笑いかけてもその顔は緩まなかった。
どうしようかと困っていると、ノヴィル側から何かの気配を感じた。動物や人じゃない。感じたことがない、酷く強大な、存在のように思えた。
視線を向けると、そこにはミーティがいた。ミーティの周りには護衛の姿は全くない。急いでここに来ただろうけれど、その表情は別に焦ったものではない。まるで面白いものを見るように、目を細めていた。
「……ミーティ?」
アンちゃんもミーティに気づいたようだ。近づこうとするアンちゃんを腕を掴んで引き留めて、私はミーティに声をかけた。
「初めまして、で合っていますでしょうか?ノヴィル神」
私の言葉に、ミーティは満足そうに口端を上げた。




