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68 メガネ、もう一人のメガネ

 さてさて、前世を覚えている会はまだまだ続くよ。

 お互いの前世のことを知れたので、皆も少しずつお互いに対する壁が消えてきたかな?そうだと嬉しいメガネだよ。


「で?お互いの経歴知って、それからどうするんすか?」


 ルデルの言葉に私は頷いて見せる。


「いいことを聞いたね、ルデル。ここからは皆が思う、この世界に欲しい前世の物を挙げていこうと思うよ。メガニアなら、素敵な料理人のフォルモさんがいるから、料理関係はもしかしたら再現できるかもしれないし、ノヴィルは技術面が強いから何かしら作れそうだしね。だよね、ミーティ」

「はい。まぁ、私としては食べ物を特に再現したいです」


 ミーティの言葉にエレオスが眉を寄せる。


「ノヴィルも食べ物はあまり良くないのか?プレニルは皆平等にということで味気も何もない料理が並ぶんだが」

「味は、開発班に頑張ってもらってついたんですが、全部化学調味料の味なんですよ。しかも味が濃くて濃くて。私は水をがぶ飲みしながら食べてます。……白米が恋しい」


 ノヴィルで美味しいカレーライスをご馳走になったけれど、あれもライスまでしっかり味付けされてたもんな。あれが毎日続くのは確かに辛いかも。他のご飯もほとんど味が濃いか味が全く無いかだった。

 大してプレニルは素材の味そのままだった。

 美味しい料理を作ってくれるフォルモさんがいて本当に助かった。


「メガニアでは肉食は馴染まれてないから、俺は肉系を何か入れたいな。大体魚だし」

「そうだね。美味しいんだけど、たまに洋食ってのを食べたい」


 ちなみに、フォルモさんに説明してカレーを作ってもらおうとしたことがあったけれど、美味しい肉じゃがになりました。……日本の魔改造がこんなところにまで現れるなんて。

 肉の言葉にミーティが反応した。


「ノヴィルではお肉をよく食べるけれど、大体焼くか煮るかだからなぁ。お肉を持って来ればフォルモ隊長が美味しく料理してくれるかな?」

「頼めば何かしらやってくれそうっすけど、全部和食になるっすよ。ってか、この中に料理できる奴いれば洋食とか作れるんじゃないすか?」


 ルデルの言葉に誰も反応しなかった。


「え、五人もいて皆料理できないんすか?俺は調理実習では切る担当っすから無理っす」

「俺は盛り付け派だったから、味付けとかは無理」

「僕ができるはずはないだろう」

「わ、私もその、料理はそんなに」


 そう言ってから皆が私を見る。まぁ、皆と違って社会人だった私に期待するよね。確かに私は一人暮らしで自炊もしていた。だから自身を持って言える。


「電子レンジとめんつゆがあればできるよ!」

「今のこの世界じゃ無理だってことだな」


 前世の世界が便利すぎるのが悪い。あと、仕事が忙しいのとお金がないので大体カップラーメン生活だったよ。そんな私が料理できるはずがないだろう!見た目がどうなってもいいなら作れるかも知れないけどね!

 やっぱりフォルモさんに頼むしかないのかと皆で頭を抱えていると、ミーティはエレオスの方を見る。


「エレオスさんは好きな料理とかはありましたか?こっちの生活が長いエレオスさんの方が食べたい料理があるかと思うんですが」

「あー、それは確かに」


 ずっと食べたかったものが彼にはあるかもしれない。和食洋食、再現できるかできないかは置いといて、とりあえずエレオスがずっと求めているものを再現してあげたほうがいいかもしれない。

 ミーティに聞かれたエレオスは、顎に手を当ててしばらく黙ってから言う。


「プリン、だろうか」

「意外に可愛いの出すっすね」

「でも、いいよね。プリン。確かに食べた――」

「前世で覚えている美味しいものはプリンぐらいしか覚えていなくてな。他にもあったとは思うが、美味しくはなかったなと」


 ……そういえばと、エトワレの前の世界での生活を思い出す。そうか、プリントいうか、美味しいものを食べられるだけでエトワレにとっては嬉しいのかもしれない。

 そう考えると、洋食食べたいとか我儘言っている自分たちが贅沢だと思えてくる。

 黙り込んでしまった私たちを見てか、ルデルは立ち上がってエトワレの襟首をつかんだ。


「エトワレ、ちょっとクデルのとこに行こうぜ」

「何故だ。僕はまだお前たちと交友を深めたいが」

「お前がいると贅沢言うのが辛くなるんだよ。悪い、メガネ。俺ら抜けるから」


 そう言ってルデルはエトワレを引っ張って部屋から出ていった。……プレニルの猊下に対してあんな対応でいいのだろうか。

 でも、二人が出て行ったのは丁度いい。私は先程感じたことをミーティに聞いてみることにした。


「ミーティ、私の本体が眼鏡だって言った時、何か言いたげにしてたけど何か気になることがあったの?アンちゃんがいると喋れないならアンちゃんも追い払うけど」

「え、いや……。アンはいても大丈夫。えっとね」


 ミーティは少し考えてから口を開いた。


「私がスキルで望んでいる未来に辿り着くようにしてた時、メーちゃんが今と違うことがあったの」

「私が?」

「うん。あの未来では、メガニアの歌姫様がプレニルの手によって亡くなって、私はあの未来のメガネ様とは仲良くなくて、交流は無かった。でも、ノヴィルとプレニルに眼鏡をかける人が増えていたの。そして、メガネ様は、ノヴィルの軍を使ってプレニルの教皇を殺すことができたみたいで……。そして、メガネ様は私たちの情報も持っていた。情報戦で、メガネ様は優位に立っていて、私たち側もいつ攻撃されるかわからなかった。……眼鏡を通してメガネ様が情報を見たり聞いたりしていたのかと思ってたけど、眼鏡が本体なら、メガネ様が色んな所に現れて動くこともできたんだと思うと……」


 ミーティの言葉に私はなるほど、と頷いた。

 今はメガニアの警備の人たちやクデルやミーティみたいに仲良くなった人にしか眼鏡を渡していないけれど、世界中の人に配れば情報集めには便利だ。そして私が至る所に行けるということでもある。情報さえあれば人を操ることもできるだろう。それらしい嘘をつけばいい。相手を撹乱させることもできる。力が無くても情報があればそれなりの戦いはできるのだ。


「でも、私がそういうことするかなぁ……」


 私が一番に見ているのはナハティガル君だ。セレナードがいなくなることでナハティガル君に危険が迫っているならそういうこともするのかもしれない。でも、なんだか想像ができない。プレニルに行っても、ノヴィルに行っても、あくまで私は見るだけしかできなかった。仲間が亡くなって、そんなことをするだろうか。


「いや、お前なら絶対やる」


 私の呟きに答えたのはアンちゃんだった。


「メガネはナティが一番みたいにしてるが、案外仲間想いなところあるぞ。じゃなきゃナティから離れて他国になんて行かないだろ」

「……それは、そうなの、かな?」


 確かにナハティガル君とずっといたいはずなのに皆と一緒に色々出歩いている。でも、それはナハティガル君が怪我をするフラグを折るためだったし、あとは仲良くしたいミーティに呼ばれたからだし。仲間のためというよりは自分のためにしか思えない。

 ミーティの言った違う未来の私は、私本人だとは全然思えなかった。

 

「その様子だと、メーちゃんは情報集めしているわけではなさそうだね……。味方なら頼もしいけれど、敵に立たれた時は怖かったよ。今後はそういう予定もないのかな」

「今のところはないよ。こっちの敵になりそうな存在はもういないし、平和に暮らせるなら今のままで十分。ね、アンちゃん」

「まぁ、そうだけど。でもいざって時に情報集めるのもいいんじゃないか?」

「プライバシーの侵害は私やりたくないよ。もうナハティガル君が怪我をするフラグは無くなってるし、プレニルとノヴィルと仲良くなってるし、誰か個人で問題が起きてもそこまで大層なことはないだろうから大丈夫だよ」


 少し心配そうにする二人に私は笑って見せた。

 必要がないと思うからやらなくていい。必要があることは起きないだろう。その時の私は、そう思っていた。

 だから、この後起きたことに、私は自分に腹が立ち、無力さに絶望することになったのだ。

おまけ

 前世覚えている会メンバーの身長


ルデル>エレオス>ミーティア>アン>メガネ


メガネ「え、え、アンちゃん……ミーティより小さい!」

アン 「いいだろ。前世では背が高かったんだ。背が高くていいことなんてそんなになかったし小さくていいんだよ」

ミーテ「まぁ、先輩は体格よくて威圧感はありましたね」

エトワ「クデルよりも小さいのでは?」

ルデル「同じくらい……か?高い高いしてやろうか」

アン 「気にしてないからいいんだよ!抱き上げようとするな!」

メガネ「でも、ノヴィルから帰って来てから小魚とかカルシウム取れそうなものを食べてたから、もしかしたらミーティより低いことは気にしてるかもね」

ミーテ「私は確かに成長が早かったし、アンはまだ成長期だろうから気にしなくてもいいだろうに」

アン (プライド的なものがあるとか、絶対言えねぇ……)

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