67 メガネ、前世覚えてる会
メガニアにプレニルとノヴィルの巫女達が集合する。そのことを知った者達は皆驚愕していた。
プレニルとノヴィルは神同士の違いにより仲は良くない。その為に国としてもお互いを良く思ってはいなかった。
だというのに、その二国の間にあった島で、最近国となった、まだ詳しい情報を知らない国で、神にとって特別と言われる巫女二人が対面するのだ。
それを聞いた者達は我も我もとメガニアに向かい、ある者はその対面を感動の目で見守り、ある者は心配そうに見守り、一部はメガニアから離れようともしていた。
だがメガニアの巫女の元、プレニルの巫女もノヴィルの巫女も笑顔で挨拶を交わしてみせたのだ。
そのことは二国に衝撃を生ませ、メガニアに興味を持たなかった者達も、自分たちも見ようとメガニアに押し寄せる。情報が行き渡るのが遅い世界のはずなのに、メガニアには沢山の人が訪れていたのだ。
そんな状態になっていたなんて、私、メガネは知らず、私は私がやりたかったことをすることを優先した。後々話を聞いて、警護についていたフォルモさん達に何度も何度も頭を下げることになった。
そんな状況の中、私たちは対面を済ませ、私とアンちゃん、ルデル、ミーティ、エレオスを連れて一つの部屋に通した。
「と、いうことで。前世を覚えている転生者の会を開こうと思います!!拍手!!」
私の声に応えるように四人は拍手をし、それからアンちゃんが眉を寄せる。
「いや、なんだよその会」
「だって、こうやって前世の世界を覚えている面子が揃うなんてめったにないじゃん?同じ境遇の者同士、親交を深めて、協力していくのもいいと思うんだよ。できるなら、あの便利だったものとか美味しかったものとか再現したいじゃん。その為にはそれを覚えているメンバーで集まった方がいいと思ってさ」
皆で楽しく会話ができるように、フォルモさんに美味しい和菓子やお茶を用意してもらった。あえて椅子とテーブルではなく、床に置いた座布団に腰を下ろしてリラックスして話せるように準備したのだ。
折角エレオスとミーティが揃ったのだから、こうして集まるのも楽しいだろう。
「私はいいですけど、エレオス猊下はいいのですか?お付きの者もいないのに……。」
「それはそちらも同じだろう。ミーティア姫。余がメガネ達と手を取ってそちらを害しようとしているかもしれないぞ」
「その時は、私自身が戦えますし、メーちゃん……メガネ様たちを信用していますから」
「余も同じだ。だから問題はないだろう。それに、クデルは歌姫との再会に喜んでいたし、護衛の犬であるウェコはメガニアに常駐しているシバの元に行った。余が一人でも大丈夫だと判断してくれたのだろう」
「気にしていなかったのなら、よかったです。……それにしても、エレオス猊下も転生者だったんですか」
「厳密に言えば、転生者、ではないような気もするが、あちらの世界を少しは覚えている。あと、今は巫女として来ているから猊下はつけなくてもよい」
二人の会話を聞いていた私は、ちょっと思いついて手を軽く叩く。
「そうだ。あえて皆、敬語とか無く、前世の喋り方にするのもいいんじゃないかな?今のままだと堅苦しいでしょ?」
「ほう……。余は、いや、僕はそれだと有り難いな。ただ、喋るのはこちらの世界に来てからの方が多いから、口調は許してくれ」
「う……うん。出来る限り警護無しで頑張ってみるよ」
エレオスとミーティが頷いてくれて安心した。私の隣に座っているアンちゃんはルデルを見る。
「ルデルはクデルに会いたいのかと思ったが、こっちにいていいのか?」
「エレオスが言った通り、今はセレナードとの再会に喜んでるし、その間に入る度胸はないっす。後でたくさん話すっすから大丈夫っすよ」
「無理に参加してるわけじゃないならいいか……。それで?どうするんだ、メガネ」
「最初は自己紹介から始めようか。この世界に来る前の話とか、私は知ってるけど皆が知らないことが多いだろうし。……あ、言いたくないなら言える範囲でいいよ?」
無理に話させないためにも慌ててそう言ったけど、皆はそこまで気にした様子はなかった。
先に手を挙げたのはエレオスだった。
「では、恐らく一番長くこの世界にいる僕から話させてもらおうかな。
僕はこの世界には転生ではなく、言うなれば転移されてやって来たんだ。
前の世界では怜弦という名だった。ママと暮らしていたんだが、最近クデルと話していて、僕はママに虐待されていたのだと知ったよ。あの頃はママに死ねと言われて、死ねばママが喜んでくれると思って死のうとしてたんだが、プレニルの女神が勝手に僕を救おうとして、僕をこの世界に連れてきたんだ。その時は確か五歳だったかな。
この世界に来た僕はプレニルの巫女だとして扱われて、当時の教皇夫妻に優しくしてもらっていた。当時は死ねなかったことに絶望して何も考えられなかったけれどな。勝手に神が僕の身体を使って、いつの間にか教皇にされて。それでもずっと死にたかったんだが、ある日クデルが僕を殺しに来てくれてね。結局殺してはもらえなかったが、僕がしばらく生きてから殺してくれると約束してくれた。クデルのおかげで僕は大分暮らしやすくなったよ。
この世界に来て29年ぐらいそんなことがあったな。ただ、前の世界のことは詳しくは覚えてない。だが、同じ世界から来たということで仲良くしてほしい」
そう言い終わってから、エレオスは周りを見て首を傾げた。
「どうしたんだ?三人共」
私とエレオス以外の三人が俯いたり顔を両手で覆っていたりしている。
まぁ、うん。エレオスってなかなかすごい生涯送ってるよな。他の皆も大変な思いをしていたけれど、前世から続いてたのだから、言葉が無くなっても仕方がないよね。
「ど、どうしよう。そんな話を聞いたら、私なんか大したことないんだなって、十分苦労したつもりだったけど、全然だったんだなって思えてしまう」
「ミーティもなかなかの人生だったと私は思うよ。そんなにしょげないで皆」
お茶やお菓子を勧めて、みんながそれなりに堪能してから、ミーティが咳払いをする。
「えっと、それじゃあ次は私が自己紹介しますね。
私は転生者で、前世の名前は伊織華です。大学生で、アンの前世が先輩に当たります。
ファタリテート ノヴィルをプレイしていて、ミーティアとアンブラのカップルが好きでした。
色々あって自分から命を絶って、気づいたらミーティアに転生していました。ミーティアが五歳の時で、かつミーティアの父親に監禁された頃でした。私の目的は、ゲームでは敵に立つアンブラを味方に、ミーティアとアンブラが仲良く手を取り合う未来を手に入れることで、今はこうして叶ったし、メーちゃんっていう友達ができて満足してます。」
そこまで喋ってから、ミーティは再び両手で顔を覆う。
「やっぱり、エレオスさんの後だとなんだか申し訳ない気持ちと言うか、なんというか」
もっと詳しく言えることはあるはずだけど、ミーティも隠したいのだろう。エレオスみたいに隠さずに話せばミーティもなかなかの人生なのにな、と思いつつ、慰めるようにミーティの背中を撫でてあげた。
「そいじゃ、次は俺が言いますね。
俺も転生者で佐倉貴一って言うっす。前世では高校生だったっすね。花の男子高校生っす。俺はファタリテート プレニルをプレイしていて、クデルが推しだったっす。クデルに出会ってから生活も変わったんすけど、俺が油断してたばかりにトラックに轢かれてしまったっすよ。
転生したと気づいたのはクデルとプレニルからメガニアに行く時っすね。そん時は身体は犬で、この身体は別の場所にあったんっす。まぁ、なんだかんだでこの身体に戻って、クデルと再会して、俺は世話になったメガネの力になるためにもメガニアに残ったっす。あ、図体でかいっすけど、これでもクデルと双子なんで今は14歳っすよ」
「え、同い年?」
ミーティが驚いたようにルデルを見ている。まぁ、うん。成人男性ですと言われても信じれるぐらいに体格いいからな、ルデルは。
「じゃあ、俺が。
俺も転生者で、長本剛って名前の大学生だった。
背後から押されて電車に轢かれて死んで、気づいたらアンブラに転生していた。
ノヴィルで育てられて、プレニルの教皇の暗殺を頼まれていたんだが、前世を思い出した俺としては面倒なことだし、前世で可愛いものが好きで、この小柄な身体なら可愛いものを楽しめると思って、一時は女装させてもらっていた。アンブラだということを隠してメガニアに行って、メガネとナティと仲良くなってからはメガニアに住んでいる。
アンブラに関しては、プレニル前教皇の息子だったらしいが、俺としてはもう関係ないことだ。あ、ゲームは遊んでなかったから、ゲームの情報は知らない」
そう言ってから、アンちゃんは私の方を見た。
「俺としては何よりもメガネの過去とかが気になる。お前、そんなに自分のこと喋らないし。大体ナティのことばっかりだろ」
「そうだっけ?まぁ、前世でこうだったみたいな話はしてないか。じゃあ、最後に私が話すね」
アンちゃんの言う通り、皆の前世や過去は知ってるのに私のことを知ってる人はほとんどいないのだと言われて気づいた。特に隠したいことは多くないので、ちゃんと話そうと決めた。
「私の前世での名前は後藤杏華。ファタリテートのゲームをプレイして、ナハティガル君の素晴らしさを知り、次回作でナハティガル君が出ることを、ナハティガル君のグッズが出ることを祈りながら働いていた社会人だったよ。詳しい年齢は秘密で。
友達にも恵まれて、いい人生だったと思うんだけど、……はっきり覚えてないけど、会社帰りに多分男に、後ろから刺された。倒れた私を滅多刺しにしてきた、と思う。その後どうなったかなんてわからないし、私を狙ったのか、無差別だったのかもわからない。でも、そうして私は死んで、気づいたら、ナハティガル君の眼鏡になっていた。ナハティガル君の眼鏡になりたいと常日頃から思ってたから舞い上がって踊りたい気分だったよ。眼鏡だから実際はできないけど。最初は眼鏡だからナハティガル君を見守ることができなくて。でも人のステータスを見ることができたから飽きることはなかったよ。
ナハティガル君が狼みたいなのに襲われた時に助けようと思って、この姿になることができるようになったんだ。それから私は、ゲームでナハティガル君が重傷を負うのを知っていたから、それを避けるために、ナハティガル君を守るために動いてきたってこと」
こうして思い返せば、転生したと気づいてから色々あったなぁとしみじみする。とはいえ、今は皆と仲良くしようという会なので、意識を戻すと、皆が黙り込んでいた。
「あれ、どうしたの?」
「いや、案外お前も大変だったんだなと」
「私はメーちゃんの本体が眼鏡だったのかと驚いて……」
「あ、そっか。ミーティには内緒にしてたもんね。ごめんね?」
あの時は言わない方がいいかと思ったけれど、今となっては困ることはないだろう。でも、ミーティが何か言いたげに私を見ていた。今言わないってことは皆の前では言いづらいことなのだろう。後で聞いてみよう。
おまけ
アン「そういえば、巫女って呼んでるけどさ、巫女って女性のことじゃないのか?エレオスは……」
エレオス「うむ。今までの巫女は全て女性だった。だが、神が気まぐれに連れてきた俺を巫女にしたからな。正確な呼び名ではないが、他の呼び方も決まっていないし、余が唯一の男性の巫女になるかもしれんから、そのまま巫女と使わせてもらっている」
ルデル「そういうの聞くと、プレニルの神って案外自由なんだな」




