66 メガネ、変化
やあやあ、どうしたんだい?
新しいヘッドフォン買ったけどヘッドフォンと眼鏡の弦に挟まれて耳が痛いみたいな顔をして。
私だよ、私。メガネだよ!
さてさて、私は今、アンちゃんの着せ替え人形となっている。
アンちゃんには私が収穫祭で踊るときの衣装をお願いしたので、真剣に作ってくれてるのはすごく嬉しいんだけど、何着も作って着させるのでこちらは少しウンザリしてきた。
物によってはこれで踊れないでしょ、という装飾があるものもあって、もうアンちゃんがただただ楽しんでいる。
「……アン、作りすぎじゃないか?」
私たちがいる部屋にやってきたフォルモさんが、部屋に広がる衣装を見て開口一番にそう呟いた。それを聞いたアンは首を傾げる。
「そうか?晴着を選ぶんだからこんなもんだろ」
「そうは言うが、布地だって無限にあるわけじゃないんだぞ」
「選ばれなかった奴は普段着ように直すから。それに、メガネが何でも似合うから着させたいじゃん」
「………………まぁ」
フォルモさんが言いくるめられてしまった。負けないでフォルモさん。
「とりあえず、昼食はどうするか聞きに来たんだ。猊下は忙しいから簡単なものをと頼まれたが」
「私はしっかり食べたいです。そろそろ休憩しようよアンちゃん」
「……仕方ねぇな。ならそれ着替えろよ。汚されたら困るし」
「はーい」
私は着替え用に用意された衝立の裏に移動して着替える。恐らくアンちゃんとフォルモさんはこちらに背を向けているだろう。
「ナティそんなに忙しかったのか」
「国の人たちが大分色んな職につくようになっただろ?もともと農民ばかりだったのに。今は食料の備蓄があるが、今回の収穫で来年はどうするかとか、畑仕事の人が減るかとか考えてるみたいだった」
「あー、そっか。このままだと農民足りないから大変になるのか。でも狩猟専門にやってる人もいたよな?」
「肉だけは足りないだろう。メガニアでは肉食はまだ浸透してないし、野菜は必要だ」
「あー……。働き手を増やさないといけないか」
「まぁ、いざって時は警備兵たちで農作業するのは提案しておいたし、とりあえず猊下の考え待ちになるだろ」
二人の会話が終わったころに、私の着替えが終わったので二人の元に移動する。普段着に戻った私にフォルモさんは嬉しそうに視線を向けているのに気づいた。
「どうしましたか、フォルモさん?」
「いや、メガネ様が来てから猊下も変わられたなぁと思ってな。ちゃんとこちらのことを考えてくれて、こちらの意見を聞いてくれている」
「え?前はそうじゃなかったの?」
私が驚いて聞くと、フォルモさんは頷いた。
「こちらと過度の干渉はしない人だった。家族仲もいいわけではなかったみたいで、笑った顔も見たことがない人だった。俺より年下だが、あの人の子供時代を俺は覚えてないんだよな。一時期は一緒にこの島に住んでいたはずなんだが……」
「謎が多い子供だったってことか?」
「ああ。だから、メガネ様がここに来てからか、だいぶ変わったから皆驚いたよ。それこそ、神様みたいな人ではない存在が人になった感覚だな。今の方が俺たちとしてはいいが」
そう話してから、フォルモさんは昼食の準備をしてくると部屋から出て行った。
残ったアンちゃんと私はとりあえず衣装を片付けることにした。
「で、メガネの知ってるナティはフォルモさんが言ってたのとおんなじか?」
「いや、全然」
ゲームでのナハティガル君は今と同じように人と関わっている人だった。だからこそ主人公とも交流して、一時期一緒に旅をすることができた。フォルモさんが言っていたナハティガル君ならそんなことしないだろう。
まぁ、そもそも私がこの眼鏡になった時も、原作のナハティガル君とは違っていた。
「私が来た事がフラグになって、ナハティガル君も原作と変わったのか、それとも原作通りになったのかな?」
「まぁ、原作通りになったって言えばいいかもな。お前がいなかったら俺も原作通りに進んでたかもしれないし。お前の存在って大分重要だったんじゃないか?」
「…………まさかぁ」
「だって、お前の知ってる原作では、メガネの存在はいなかったんだろ?お前がいなければクデルはエレオスを殺してただろうし、ミーティと俺は戦い合っていた。だからナティも」
「いや、でもさ。他の皆が原作と変わっても、ナハティガル君は私と出会ったことで原作通りになったじゃん。そこは皆と違うよね」
「……原作のナティはお前の存在を隠してたとか?」
アンちゃんの言葉に、あるのだろうか、と少し悩んだ。
私が擬人化スキルを取ったのはナハティガル君を守るためだった。あの時は周りに他の人がいたわけじゃなかったし、私が眼鏡の姿に戻れば隠して連れてこれただろう。それをしなかったナハティガル君の行動がきっかけになったのかもしれない。
「………まぁ、今はもう気にする必要はないよね」
「そうだな。俺たちとしても今のナティで十分だしな」
そう言って締めて、私たちは昼食を取りに部屋を出た。




