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65 メガネ、愛し子

 やあやあ、どうしたんだい?

 最近眼鏡を新調したのに、好きなキャラのデザインの眼鏡が発売されたみたいな顔をして。

 私だよ、私。メガネだよ!


 さて、プレニルに行った数日後、私はノヴィルのミーティのところにやってきていた。そしてプレニル側ばかりが知っていても、と思い、エレオスも収穫祭に来ることをミーティに伝えた。


「え、エレオス猊下が?来る?」

「うん。教皇として、というより巫女として来るみたい。ミーティが来るって話してたらそれを聞いたエレオス猊下が行きたいって」

「まぁ、私が行くならそっちの巫女もってなるか。特に問題はないよね?ナースス」

「はい。あちらと戦争中でもありませんし、深く関わることがなければ大丈夫でしょ」


 私たちにお茶を淹れていたナーススも頷いた。

 この様子なら、エレオスとミーティが仲悪くギスギスするみたいなことはないみたいだ。少し心配していたけれど、これで安心だ。


「あちらの教皇が行くなら、私も行くべきだな」


 そう言ったのは、当たり前のように私たちと一緒にお茶を飲むエトワレ猊下だった。

 ミーティは頭痛を耐えるように額を抑えながら言う。


「お兄ちゃん……、あっちは巫女として来るみたいだし、今のノヴィルで教皇不在はダメだから留守番ね」

「なんでだミーティ!私もメガニアには訪問してみたいんだ!車を使えば一瞬、一日もかからずに往復できるじゃないか!」

「軍が少し安定したとはいえ、教皇不在で何かしようとする輩がいないとも言えないし、仕事がまだ溜まってるでしょ。お兄ちゃんが提案した国全体に電気通す計画もあるし」


 ノヴィルでは発電技術があり、首都ではほとんど電気を生活で使うことができる。それをノヴィル中に、国民全員が使えるようにしたいと考えているらしい。今はまだ明かりにしか使われていないけれど、電化製品なんかも増やしていくのだろう。発電技術はメガニアにも欲しいから、もう少し落ち着いたら相談してみよう。


「あ、そうだ。ミーティは神様を身に降ろすことってどれぐらいある?」


 エレオスのことを思い出して、ミーティはどうなのだろうかと聞いてみると、ミーティは記憶を探っているのか腕を組んで唸った。


「……そんなに数はなかったような?大体私が寝てる時にあるらしいからなぁ。お兄ちゃんはわかる?」

「ああ。私がノヴィル神と会話をしているからな。ノヴィル神はそこまでこちらに干渉してこないから、ミーティの身に降りたのは多くても五回くらいじゃないか?五回もなかったような気もする。先代の巫女は訳があったからよく降りていたが」

「そんなに、少ないんですか」

「大体、たまにはあれが食べたいとか、最近強そうなヤツいるか?とか、ちょっとしたことを聞きたくて降りてくるぐらいだ。まぁ、ミーティの身体に負担もないし、こちらもそれなりに緊張するし、今ぐらいの干渉で有り難いな」


 プレニル神とノヴィル神で大分違うのだろうか。まぁ、プレニルは平等、ノヴィルは不平等を謳っていて真逆だから違いはあるのは当たり前か。

 神様同士が会う事はなさそうだし、だいぶ仲が悪いのかもしれない。それぞれで国があるぐらいだし。


「正反対のプレニル神とノヴィル神が愛するナハティガル猊下に会うためにもメガニアに行きたかったが、まぁ、別の機会にするか……。」


 エトワレ猊下の言葉は私には聞き逃すわけにはいかないことだった。


「え、ナハティガル君……猊下が?二神から愛されてる?」

「ん?メガネ様は知らなかったか。そもそも、メガニアが建国される前からあの島が二神と人を繋ぐ場所だと言われていてな。そこに生まれた者の中で一人、二神から愛される人間が現れるんだ。現在はナハティガル猊下というわけだ」

「プレニル神とノヴィル神から……。それは、知らなかったです」

「知っているのは一部だろうからな。だから、メガニアという新たな神が現れ、その国の教皇にナハティガル猊下が選ばれたと聞いて少し驚いたよ。」


 確かに、愛していたナハティガル君が新しく現れた神に、独占されてるようなものだろう。今のところ何も言われていないようだけれど、プレニル神やノヴィル神が何か言ってくる可能性もありそうだ。

 まぁ……ナハティガル君が危険になるようなことはないとは思うけど、メガニア国内の人たちに何か起きないように気をつけておかないと。


「私の身体を通してメーちゃんに何か言ってくる様子もないみたいだし、ノヴィル神は気にしてはいないんじゃないかな。それに、愛されてるっていっても、何かされてるものなの?」

「力を貸している、としか聞いたことはないな。だからこそ、本人に会ってはみたいところはあったよ」

「建国の時に会ったけど、特に特別な人って感じではなかったけどなぁ。メーちゃんは何か他とは違うなって思うところはある?」

「え?カッコよくて優しくて落ち着いてて穏やかで笑顔が可愛い」

「あ、うん……ごめん」


 私が思うところを伝えたけれど、何故かミーティに謝られた。おかしいな。


「まぁ、ミーティが行くなら、ナハティガル猊下の様子も見てほしい。……メガニアの巫女様の前で言うことではないだろうが」

「是非ナハティガル猊下を見て、あの方の良さをわかってもらいたいです」

「う、うん。頑張るよ」


 まぁ、ミーティはアンちゃん推しだろうし、ナハティガル君推しにならないだろうな。それでも推しの良さを知ってほしいのはオタクの性だ。


「あ、そうだそうだ。ここに来た本命忘れてた。はい、ミーティ」


 別に話をするためだけにノヴィルに来たのではなく、ミーティにアンちゃんからの手紙を届けに来たのだ。

 ノヴィルで別れてから、二人は文通をしている。週に一度くらいに私が手紙を預かって届けるためにミーティの眼鏡に移動しているのだ。生き物と移動はできなくても、こういう手紙ぐらいなら私が持って移動することができるようで、だいぶ便利だ。

 手紙を受け取ったミーティは嬉しそうに顔を綻ばせて、そんなミーティの姿に嬉しそうに、でも敵からの手紙に悔しそうにエトワレは百面相している。

 その様子を見ながら、私はお茶を楽しむのだった。 

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